常識人は衰退しました   作:makky

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(・ワ・)きがついたら『にっかんらんきんぐ』とやらにのっていたのです

(・ワ・)れんさいなんほんかかかえていますが、のんびりとこうしんするらいしです

(・ワ・)これからもよろしく、ということでひとつてをうちましょう

(・ワ・)かんしゃかんげきこんぺいとうです


だいよんわだったらしいです

 ついにやってきた終業式

 波乱万丈だった2年生も今日で終わりと考えると、少し寂しい気がしないこともない

 

「おはようございまーす、えーっと…長谷川さん!」

 

 ここ最近よく聞くようになった声が、後ろから聞こえてくる

 それ以外にも2-A(うちのクラス)の騒がしい何人かの声も聞こえる

 

「…おはようございます先生」

 

 そんな朝のテンションについていけないあたしは軽く会釈をして、通り過ぎていく副担任を横目で見る

 

「んー♡2-Aでも特に目立たない方の千雨ちゃんまで覚えているなんて、教師の鑑っ!」

 

 ラクロス部兼まほらチアリーディング部の椎名桜子が去り際にそう言っていく

 

「…悪かったな目立たなくて」

 

 悪気がないのは分かっているし、自分でも目立つ方じゃないのは重々承知しているつもりだ

 

 その方が楽でいい

 

 誰にも近寄らず、誰にも近寄らせない

 

 自分のからの中に閉じこもってしまえば

 

 私は平穏に暮らせる

 

 あたし1人が我慢すれば…

 

「…だーっ!暗いこと考えんじゃねー!」

 

 頭をぶんぶんと振って一度思考を吹き飛ばす

 

 もう全部終わったことだ、今更ぐちぐち言ったって意味がない

 

「とにかく明日から春休みなんだ、新しいお菓子に挑戦するって決めたばっかりだろ」

 

 ネガティブな考えはお菓子で吹き飛ばす

 今までそうやってきたんだ、これからもそれでいい

 

「…つーかあいつらえらく急いでいたな、遅刻する時間でもねーのに」

 

 すでに視界から消えていた2-Aメンバーを思い返し、あたしも中等部へと向かうのだった

 

――――――――――――――――――――

 

「フォフォフォフォ、皆にも一応紹介しておこう――新年度から正式に本校の英語科教員となるネギ・スプリングフィールド先生じゃ」

 

 3学期修了式の壇上で近衛近衛門学園長がそう言った時、あたしは軽く眩暈を覚えた

 いや、想定してしかるべきだっただろうと言われれば、まったくもってその通りでしかない

 

「ネギ先生には4月から『3-A』を担任してもらう予定じゃ」

 

 その言葉に生徒たちは割れんばかりの拍手で答えた

 

(…こりゃ本当に腹決めるべきか)

 

 若干グロッキーになりながら、あたしは壇上の新担任に目をやり世界を呪った

 

――――――――――――――――――――

 

「というわけで2-Aの皆さん、3年になってもよろしくおねがいしまーす!」

 

 教卓に立つネギ先生がそう言うと、クラスメイト達は次々に祝福の言葉をかけていく

 

 しかしいまだに万年ビリの2-Aが、学年トップになってトロフィー貰えたなんて信じられない

 

(あの『地下図書室』とやらでなんかあったんだろうが…それだけであのメンツが高得点取れるのか?)

 

 大概失礼な考えではあるが、あの5人組が(1人を除いて)そんなすぐに成績が伸びるとも思えなかった

 

(単純に『ネギ先生』の教え方がうまかったから、で説明がつけばいいんだがなぁ)

 

 そんなことを思っていると

 

「ハイッ、先生ちょっと意見が!」

 

「はい鳴滝さん」

 

 双子の姉の方の鳴滝風香が、珍しくネギ先生に質問する

 

「先生は10歳なのに先生だなんてやっぱり普通じゃないと思います!」

 

 その言葉に教室がざわっとする

 

(うん、そうだな。先生と並んでいると「小学校のお友達同士かな?」って間違われるやつが言うと説得力あるな)

 

 内心で毒を吐く、ずいぶんまがった性格だと実感はしている

 

「えーと」

「それで史伽と考えたんですけど――」

 

 と双子の妹の風見史伽も立ち上がって

 

「今日、これから全員で『学年トップおめでとうパーティー』やりませんか!?」

 

 そう言った

 

「おーそりゃいいねぇ!」

「やろーやろー♡」

「じゃ、ヒマな人寮の芝生に集合!」

 

 …………

 

(前振り、関係ねーじゃねーかよッ!)

 

 内心盛大に突っ込むが、このクラスでは多々あることなのでもう驚きもしない

 

(あーダメだもう2年同じクラスだが、このノリにだけはついていけねー…)

 

 額を抑えてうんうん唸る、万年こんなノリなんだついていけないのも仕方がない

 

「――ん?」

 

 しかしパーティーねぇ…

 ただでさえ羽目を外しがちなこのクラスが、そんなことしたら大騒ぎどころじゃねーぞ…

 

「どーしたんですか長谷川さん、どこか痛むんですか…?」

 

 1人で考え事をしているといつの間にかネギ先生が立っていた

 

「(やっべ考え事に没頭しすぎて気が付かなかった…)あーいえ別に…」

 

 そう誤魔化しはしたがこの先生のことだ、色々と気にして聞いてくるのは想像に難くない

 

「すいません先生、今日はちょっと気分が優れないので帰宅します」

 

 そういってさっさと鞄をからうと教室を後にする

 

 後ろから「え…あ…ちょっ」なんて先生の声が聞こえるが無視する

 

 後でこっそり抜け出せばいいものを、どうしてこう目立つような真似すんだか…

 

 女子中等部を出て寮へ向かう途中、自分の行動にうんざりしていた

 目立ちたくないとか言って、もう少し上手な生き方もできるだろうに

 

「不器用なんだか生き方が下手くそなんだか…」

 

 …あのクラスでそもそも目立たないようにするというのが、間違ってはいる気がするが

 

「はぁ…気が重いなぁ…」

 

 なんて弱音を吐いていたら

 

「は…長谷川さーん!!」

 

 後ろから聞こえてきた新担任の声に、思わず「うげっ」と唸る

 女子中等部を出てだいぶ時間がたっているが、よく追いつけたな先生

 

「…何か用でしょうか?」

「ハァ…ハァ…あ、あの…さっき体調が優れないって言ってたので」

 

 そういって先生は懐から何か取り出した

 

「これ、おじいちゃんからもらった超効くま…サプリです。おひとついかがですか?」

 

 効きますよーなんて無邪気に言うな

 つーか一瞬何を言いかけた何を

 

「…ありがたく1つ戴きますね」

 

 断ると面倒なので一錠だけ貰う

 

「あ、あの…パーティーには来ないんですか…?」

 

 ポケットに錠剤を入れると、不安そうな声で先生が聞いてくる

 

「ええ、まぁ…私パーティーとか人が多いところは苦手なので…それに」

「そ、それに?」

「…非常に個人的な理由ですが、あのクラスになじめていませんので」

 

 いいクラスなのは分かるんですがね、と心にもないことを言って寮のほうに歩きだす

 

「あ…じゃ、じゃあこれを機に皆さんと仲良く…」

「すいません、今のところそういうつもりはないので、失礼しますネギ先生」

 

 妙にぐいぐい来る(考えれば自分の担当生徒がボッチだから当たり前だが)先生を無視する

 

 がその程度で諦めるような先生ではなく、女子寮の私の部屋の前までついてきて説得を続けていた

 

「――それでは先生、パーティー楽しんでください。さようなら」

 

 そう言って扉を閉める

 

 部屋に入るとドッと疲れが出てくる

 先生は何も間違っていない

 私がただ決心をつけられていないだけなのだ

 この街を受け入れるという決心が

 

 だが――

 

「――そう簡単に、受け入れられるかよ」

 

 逃げに逃げ、耳も目も塞いできた

 

 この街のおかしさを感じながら

 

 あたしは自分に嘘をつき続けてきた

 

 あいつらに出会って、色々な遺留物を手にしてきてもそれは変わらなかった

 

「…やーめだやめだ、お菓子でも作ろう」

 

 できたお菓子はあいつらに食べてもらえばいい

 冷蔵庫の中には今まで作って余った材料がある

 消費期限が近付いているものも多い

 

「バターと牛乳に板チョコ…あー小麦粉も結構あるな…よし、あれでも作るか」

 

 とりあえず20個ほどを目安に作っていく

 

 小麦粉、ベーキングパウダー、バターを混ぜていく

 

「『rub in』…だったか確か」

 

 すり合わせるようにバターと小麦粉を混ぜていくことを、イギリスではこういうらしい

 これの出来次第でこいつのできばえが変わるとか

 

 パン粉のようになった生地に砂糖と刻んだチョコレートを加え

 さらに牛乳を入れて混ぜ、まとめ上げていく

 

 粉っぽさがなくなったら生地を2cmの厚さに広げて型抜きをしていく

 

 本当はオーブンを使うのだが、流石に麻帆良学園の寮とはいえオーブンはないのでトースターで代用する

 

 20分ほどで焼きあがるので2回に分けて焼き上げていく

 

「んーやっぱりオーブン無いとレパートリーに限界があるな…寮監に掛け合ってみるか?」

 

 さすがに個室には置かれないだろうが、共用のリビング辺りになら置いてくれはしないだろうか

 

「新学期に合わせて、には遅すぎるか…うーんしかし来年になると――」

「あ、このボウルはどうしますか?」

「ん?あーそれは洗いますね、生地はもうこっちに、移し、て……」

「?」

 

 渡されたボウルを何の気なしに受け取り、違和感が

 ちらりとボウルがやってきた方を見てやれば――

 

「…あえて聞きますが、どうしているんですか『先生』?」

「あ…すいませんドア開いていたので」

 

 …鍵のかけ忘れには気をつけよう、そう強く決心した瞬間だった

 

「はぁぁ…パーティーに参加されるんじゃなかったんですか?」

「えっと、ここに来る前に皆さんから『準備の時間があるから』と言われていまして」

 

 なるほど、だからあたしの後を追ってきたんですね

 

「…一応生徒の部屋ですので、入る際には声をかけてくださいね先生」

「す、すいません。ただ――」

 

 ――長谷川さんがとても楽しそうで、声を掛け辛かったんです

 

「…理由になってませんよそれ」

 

 まったくと言って本棚から本を取り出す

 

「時間になったら出ていってくださいね先生」

「あ、ハイ…」

 

 先生をガン無視して読書を始める

 呼んでもいないのだから客でもなんでもない

 居たければいてもいいが、あたしは関わらないぞ

 

「…あ、あの長谷川さん?」

「…なんですか?」

「今作っているのは…?」

「『スコーン』です、チョコ入りの」

「へー…え?ス、スコーンですか?」

「ええ…トースターで焼いていますが」

 

 そういうと意外そうな顔をする

 なんだ、あたしがお菓子作ってるのがそんなに意外か?

 

「…今焼いているもの以外に、この生地の分も焼くんですよね?」

「もちろんですが」

「…見た感じ後10個くらい作れそうなんですが?」

「まぁ、作れますね」

「…あの――」

「一人では食べませんよ流石に」

「……」

 

 …なんだよその『ちょっと信じられない』みたいな顔は

 

「余りはしないです、一応あてはありますので…だから大丈夫ですよ」

「そう、ですか」

 

 そんな話をしているとチンっとキッチンの方から聞こえてくる

 どうやらお目当てのものはできたようだ

 

「できたみたいなので、ちょっと見てきますね」

「あ、はい」

 

 そういって席を立ち、キッチンに向かう

 

 トースターの中から完成したスコーンを取り出す

 中に入れていたチョコの香りが漂ってきて、とてもおいしそうに出来上がった

 

「『スコーンは冷めたほうがおいしい』か…これはしばらく冷まして――」

「長谷川さん」

 

 取り出したスコーンをテーブルの上に置くと、リビングの方にいたネギ先生が話しかけてくる

 というかいつの間にキッチンに入ってきたんだよ…

 

「なんでしょうか先生?」

「このスコーン…いただけないでしょうか?」

「…はぁ?」

 

 何を言い出すんだこのちびっこ先生は

 

「こんなにおいしそうなスコーン、クラスの皆さんにも食べてほしいと思って…」

「……えぇ?」

 

 食べる?何を?あたしのスコーンを?誰が?うちのクラスメイトが?

 

「い、いやいやいやいや!!うちのクラスメイトにって、マジで言ってますかそれ?」

「はい…ダメ、でしょうか?」

「いやダメってわけじゃないですけど…」

 

 もともとあいつら以外に食べさせるつもりはなかったからいいが、()りに()ってうちのクラスメイトかよ…

 

「う、うーん…」

「……」

「……はぁ、わかりました、ただしこの10個だけですよ?それでいいですね?」

「――はい!ありがとうございます!」

 

 そういうとスコーンの入ったお皿ごと持って部屋から出ていってしまった

 

「…あー押し切られた感がヤバい…」

 

 キッチンの椅子にドサッと座り込む

 悪手を打ったか、いやお菓子位大丈夫と見るべきか

 

「…あ、しまった」

 

 部屋に帰ってきてから『フラワーアンテナ』を起動させるのを忘れていた

 

「スイッチオンっと」

 

 そういって起動させると、あいつらがぞろぞろと出てくる

 

「ようやくでられますな」

「きょうはおかしつくるよていでしたか?」

「いいえあしたからだったはずです?」

「きょうはらっきーでしたな」

「でもはんぶんなくなったです」

「うれしさもはんぶん」

「たのしさもはんぶん」

「でもはんぶんある」

「それはかならずいただくです」

 

 今日も今日とて騒がしいが、相変わらずお菓子のことに話題がいってる

 

「オーケーオーケー、あと20分待て。おいしいスコーンが出来上がるからな」

 

「すこーん!」

「なつかしのあじ」

「にんげんさんがつくってくれたはじめてのおかし」

「とくべつなそんざいです?」

「きゃんでぃーではなくすこーんですから」

 

 ――懐かしいこと覚えてるなこいつら

 

 見様見真似で初めてこいつらに作ったお菓子

 最初は写真通りに膨らまなくて、おまけに砂糖の分量が少なくて全然甘くなかった

 初めてとはいえこいつらは甘くなく

 

『こんごにきたいするです』

 

 とばっさりと切り捨てられた

 

 その後は何とか汚名を返上したが、今となってはあれもいい思い出になっていた

 

「ま、なるようになるってね」

 

 そういって型抜きし終えた生地を新しくトースターに入れ、残りのスコーンを焼き始める

 

 焼き終わるまで読書を再開――と思ってふと外を見てみる

 天気は快晴、絶好の外出日和だ

 

 すると下から声がする

 下の方を見てみると――

 

「げっ」

 

 そこにいたのは2-Aメンバー

 どうやらそこでパーティーを行うようだ

 

 そこに主役のネギ先生があたしの作ったスコーンと一緒に現れた

 クラスの連中にいい感じに冷めたスコーンを配っている

 半分ずつに分けてその場にいた全員が食べている

 声は聞こえない、だがその表情はどうやらそこまで悪くない評価をもらったようだ

 

 くるりとネギ先生がこちらを向き、大きく手を振る

 

 それにあたしは――柄にもなく――手を振り返した

 

「まぁ、こういうのもいいかな」

 

 ――ほんの少しだけ、来年度からの新学年に希望が持てた日になった




(・ワ・)きょうは『いりゅうぶつこーなー』はおやすみなのです
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