常識人は衰退しました   作:makky

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(・ワ・)にっかんらんきんぐ1いからずいぶんとおそいとうこうですな

(・ワ・)これではさきがおもいやられるというものです

(・ワ・)おもったいじょうになんざんだったとのこと

(・ワ・)こんごにきたいするです


だいろくわですから

「――っは!出来のいい『幸運』だなまったく!」

 

 躍り出てきたのは、普段から持ち歩いている長い杖を構えたあたしたちの担任――ネギ・スプリングフィールド

 

 杖の先から光の矢のようなものが噴き出し、黒ローブに向かっていく

 しかしそれはすべて黒ローブの直前で跳ね返された

 

「僕の呪文を全部跳ね返した!?」

 

 先生の驚きの声が聞こえてくる

 

「…クソッ!」

 

 先生はあたし達から距離を取っているが、いつこっちに()()が飛んでくるか分かったもんじゃねぇ!

 

「宮崎、立てるか?」

「は、長谷川さん…何とか…」

 

 若干震えているが、何とか移動できそうだ

 

「ここから逃げるぞ、寮までまっすぐ止まるなよ」

「えぇ?!で、でもネギせんせーが…」

「先生なら大丈夫だ、あの変質者をとっ捕まえてくれるさ」

 

 とにかく今はここから離れることだけを考えなければ

 

「いくぞ宮崎!早くここから…!」

 

 そう言って寮への道を見ると

 身に覚えのあるシルエットがこちらを見ていた

 

「…勘弁してくれよ」

 

 頭に2本のアンテナを付け

 まるで人形のような関節をした

 黒ローブとよく一緒にいるクラスメイト

 

「幸運とかけ離れてるな…!」

「こんばんは長谷川さん、宮崎さんもご一緒で」

 

 普段と変わらない無表情で、そいつ――絡繰茶々丸は言った

 

――――――――――――――――――――

 

 前門の鬼、後門の人形

 どちらに行っても逃げ道はない

 最悪の状況からは、まだ脱していなかったのだ

 

「え…?か、絡繰さん?!」

 

 黒ローブと対峙していた先生が、意外な来訪者に驚く

 

「ネギ先生もこんばんは」

 

 そんな様子の先生に欠片も動揺せず、絡繰はぺこりとお辞儀をした

 

「――不意打ちとはいえ、驚いた」

 

 被っていた黒の帽子を外しながら、黒ローブは先生に称賛の声を掛ける

 

「凄まじい魔力だな…」

 

 長い金髪、赤い唇、覗くとがった犬歯

 よく見かける彼女とどこか違いながら

 よく見る彼女と大差ない姿

 

「えっ…き、君はウチのクラスの…」

 

 にやりと口を歪ませ、先ほどの攻撃で傷ついた指から滴り落ちる血を舐め取る

 どこか魅了されそうになる面妖な面持ちでそこに立つ彼女の名は――

 

「エ、エヴァンジェリンさん?!」

 

 夜の帳は、静かに降りていった

 

――――――――――――――――――――

 

「……」

「…通してくれそうにねぇな」

 

 後ろの方で話を始めたネギ先生とマクダウェル

 逃げ出すなら今のうち、なのに――

 

 未だに無表情でこちらを見つめる絡繰

 

(どうする…後ろの二人がドンパチ始めたら、今度こそ終わりだ…)

 

 流れ弾一発で命に関わる

 ネギ先生が来ても、形勢は変わらずか…

 

(にんげんさんにんげんさん)

(ん?どうした一体?)

 

 突然話しかけてくる、また何か遺留物でも見つけたのか?

 

「…ノイズ検知…極微弱…誤差範囲と認める…記録継続…」

 

 ……

 

 な、なんかぶつぶつ言いだしたが…無視だ無視

 

(で?なんだ?なるべく手短に頼むぞ)

(さきほどのおみくじのせつめいがまだおわってなかったです)

(しようじょうのちゅういをよくよみ、ようほうようりょうをまもってただしくごしようください)

(わかったわかった…んで、説明の続きは?)

(こうかのけいぞくじかんについてです)

(継続時間?)

(そうです、このおみくじのこうかはきっかり「20ふん」です)

(それをすぎるといつもとおなじ)

(へいへいぼんぼんなせいかつがまっているのだ)

 

 …継続時間は20分?

 

「うわっ!」

 

 パキィンという音とともにネギ先生が叫ぶ

 見ると先生の周りに氷のようなものが散らばっている

 

抵抗(レジスト)したか、やはりな…」

 

 不味い…本格的に不味い

 

 だがどうやら、先ほどのおみくじの幸運は想定以上の効果を発揮してくれたようだった

 

「何や今の音!?」

「あっネギ!!」

 

 絡繰の後ろから近衛と神楽坂の声がする

 

 その声に反応してか、絡繰は軽くジャンプするとマクダウェルの横に立った

 

「ではそろそろお暇させてもらおうか、フフ…」

 

 そういって土埃の中に消えていった

 

「はぁ…はぁ…た、助かった…」

 

 思わずそう言って地面に膝をつく

 緊張が切れたせいか力が抜ける

 

「ア、アスナさん!このかさん!宮崎さんと長谷川さんを頼みます!僕はこれから事件の犯人を追いますので、心配ないですから先に帰っててください」

「ハァ?!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!相手は二人組だったでしょ!?一人で行っても――」

 

 神楽坂が制止しようとするが、すでにものすごい速さでネギ先生は走り去っていってしまった

 

「ど、どうしよう…さすがに不味いわよねあれ…」

 

 いつの間にか仲良くなっていたのか先生を心配する神楽坂

 

「…神楽坂、あたしは大丈夫だからネギ先生について行ってくれ」

「え?千雨ちゃん、本当に大丈夫?」

「ああ、転んでケガしたくらいだ、動けるし寮まで余裕だ…今はむしろ先生が心配だろ?」

「…うん、そうね。ごめんね千雨ちゃん!」

 

 そう言って神楽坂もネギ先生の後を追って走り出した

 

「…ふうぅぅぅぅぅぅ」

 

 一度大きく深呼吸をする

 とりあえず山場は越えた

 ネギ先生はちょっと心配だが、神楽坂がいれば多分大丈夫だろう

 

「なーなー千雨ちゃん?」

 

 生きていることを実感していると、近衛が話しかけてくる

 

「ん?どうした近衛?」

「それがなー、本屋ちゃんうちらが来た時安心したんか…」

 

「きゅぅ」

 

「気ぃ失っとるんよ」

 

 ……

 

「…あたしが背負っていくから、近衛は荷物を頼む」

「分かったえ~」

 

 とりあえず寮まで運ぶことにした

 

――――――――――――――――――――

 

 寮まで宮崎を運び、そのまま近衛に任せて部屋に戻る

 

「千雨ちゃんは大丈夫なん?」

 

 と聞かれたがかすり傷程度だからと言っておいた

 

「はあぁぁぁぁぁ…」

 

 盛大な溜息を吐いてベッドに倒れ込む

 

 あー制服着替えないと皺になるなーでも着替える気力がないなーというかもう動きたくないなー

 

「……」

 

 現実逃避して、この現状が変わるわけはないのに

 

「学校…行きたくねぇ…」

 

 クラスメートに目をつけられると言う、考えられる中で最悪の事態

 今まで一度もしたことのない『ズル休み』に携行しても仕方がないだろう

 いやむしろ休む許可をもらってもいいくらいだ、これは正当な理由のある休みに違いない

 

「…さっさと寝よう」

 

 どちらにしろもう動けないほどには疲れた

 明日の朝もこんな感じだったら休むことにしよう、うん

 

――――――――――――――――――――

 

「しっかりみたです?」

 

「もちろんですな」

 

「かぜのうわさにはきいておりました」

 

「あれほどはっきりとははじめてですが」

 

「かくにんかくにん」

 

「われわれきおくりょくがわるいので」

 

「にんげんさんはおつかれのようす」

 

「きょうのところはかくにんだけということで」

 

「じゅうぶんなしゅうかくでしたな」

 

「しかしおかしほどではないです?」

 

「おかしのほうがたのしいです?」

 

「なかなかみきわめがむずかしい」

 

「そうとおくないうちにわかるのでは?」

 

「えたいのしれないけんきゅうするです」

 

「おかしのあいまに」

 

「おかしのあいまに」

 

――――――――――――――――――――

 

 気怠さが残る体を引きずりながら、あたしは中等部へ登校した

 

 あたしが入ってしばらくすると、神楽坂に腕を掴まれたネギ先生が入ってくる

 マクダウェルの席を見てほっとしたり、絡繰に話しかけられて飛び上がるほど驚いていた

 

 その後授業を始めたのだが、全く身に入っていないうえにため息を連発する始末

 気持ちがよく分かるだけに何も言えなかった

 

 だが突然パートナーがどうのと暗い顔して言われるとこのクラスは妙な勘繰りをする

 以前から外国の王子様とかいろいろなうわさが流れていたために、日本に来たのはやっぱりパートナーを探すためだったんだと盛り上がり始める

 

 それに合わせて暗い表情をしていた先生を慰めようと、寮の大浴場で元気づける会を開こうと話が飛躍した

 

 それを聞いたあたしは、そんな活力がなかったのでいつもと同じように自室に引きこもることにした

 そして自室に扉を開けようとしたとき

 扉と床の間に挟まれた一通の手紙に気が付いた

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『親愛なる長谷川千雨様へ

 

 お茶会のお誘いをさせていただきます

 本日夜7時、森の中のログハウスでお待ちしております

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…本人が書いたとは思えない文面だなこれ…」

 

――――――――――――――――――――

 

 現在の時刻は夜7時前

 部屋に送られていた手紙に同封されていた地図を頼りに、あたしは森の中を進む

 日が落ちて若干歩き辛いが、ある程度舗装された道なのでそこまで気にならない

 

 そういう感じでしばらく歩くと、開けた土地にでる

 

 丸太て組み立てられたログハウス

 窓から明かりが零れている

 その玄関先にはメイド服を着た人物が立っており、あたしの到着を待っていたようだ

 

「…こんばんは、絡繰」

「こんばんは長谷川さん、マスターがお待ちです」

 

 『マスター』ねぇ…

 ずいぶんと特殊な呼び名で

 

「じゃあお言葉に甘えて、失礼するよ」

「ではこちらへどうぞ」

 

 絡繰の案内でログハウスに入る

 

 中に入るといたるところにかわいらしいぬいぐるみが並べられている

 人形だけではなく動物のものも並べられているあたり、この家の主の趣味らしい

 

「――来たか」

 

 その家主はリビングのソファの上であたしのことを待っていた

 

「突然の招待、まずは謝ろう」

「あー、いや別に気にしてねーし」

「なに、礼儀の1つだ。そもそも来ないと思っていたからな」

 

 行かなかったら行くまでしつこいことは分かってんだよ

 最悪の状況を想定して、いくつか遺留物を持ってきてはいるがさて…

 

「あまり時間もない…さっそく始めようか」

「あぁ、んじゃお言葉に甘えて」

 

 勧められるがまま家主――マクダウェルの向かい側のソファに座る

 

「今日はダージリンのいい茶葉が手に入ってな」

「ダージリンか…」

 

 そうマクダウェルが言うと、絡繰がポットをもって来る

 ほのかに香る独特の香り

 時折自分で入れて飲むがこの香りは

 

「…春摘の新茶か」

「ああ、本場は夏摘が主流だが私はこちらも好きでな」

 

 一口すすると、なるほど確かに良い茶葉だ

 それに淹れ方なんてあたしの数段は上だ

 

「――さて、本題に入ろうか」

 

 今までの親しみを感じていた声色から一転

 底冷えしそうな冷たい声で、マクダウェルはあたしに話しかけてくる

 

 

 

「お前は()()()()()()()?『長谷川千雨』」 

 

 

 

 




(・ワ・)こんかいもいりゅうぶつこーなーはおやすみです

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