(・ワ・)ことしもいろいろとたのしいこともりだくさんだといいな
(・ワ・)でもにんげんさんてきにはおしょうがつやすみのほうがたのしい?
(・ワ・)そういうわけですから、ことしもよろしくよろしく
先ほど変わらない表情で、あたしの目を見抜くような視線
カップを持つ手が震えそうなのをどうにか抑える
――ここに呼ばれたときから覚悟はしていたつもりだ
昨夜の段階ではまだ大丈夫だと楽観していた
だが、あの手紙が届いてあたしだけがここにいる
その時点で
「……質問の意味が、よく分からないな」
その言葉ににやりと口を歪めるマクダウェル
「自覚があるのかないのか知らんが、お前はだいぶ目立つぞ…特にあのクラスではな」
「目立つ…?あたしがか…?」
「ああ、その様子だと気が付いていなかったようだが、な」
そんなあたしの様子が面白いのかより深く笑う
「あのクラスは少々…いやかなり特殊でな、面白いほどに騒がしいんだが――」
カップの紅茶を一口すすって心を落ち着かせる
そうだ、あのクラスはかなり特殊だ
クラスメートも他のクラスに比べて特徴的すぎる
そしてとどめに2年の3学期から来た
そう――あからさまにおかしいのに
「
誰もあの状況に違和感を感じない
いや、もしかしたら感じていて口に出していないだけかもしれない
最初のころはそう考えることもあったが、クラスを観察しているとそんな考えは吹き飛んだ
あのクラスでそんなことを考えている人間は、いない
――たった一人を除いて
「だがお前は違うな?長谷川千雨…お前は、あのクラスに違和感を覚えている――違うか?」
…もう紅茶を飲む余裕すらない
今まで考えないようにしてきた
あたしの認識のほうが、むしろおかしいと考えることもあった
だが、それを許容してしまえば
あたしは――
『嘘つき!』
「っ!」
思わず歯ぎしりをしてしまう
隠してきたつもりの本心が、目の前の同級生に暴かれそうになっている
そんなあたしの状況を、面白いおもちゃを見つけた子供のような表情で見つめるマクダウェル
「まぁ、そちらにも興味はあるが…私が興味を持っているのは、お前の秘密だ」
「…秘密?」
「お前の隠し事は、もう一つある…違うか?」
あたしの、もう一つの秘密…
まさか…
まさか、それも知られているのか…?
「……」
「回答は沈黙、か…心当たりがあると認識していいのか?」
…いや、まだだ
今の発言から、『何かを隠しているがそれが何かは判断できていない』ということだ
「…生憎と、何のことか分かんねぇな」
「ふん、案の定否定するか。賢明とは思えんが、まあいい」
楽しいお茶会とは程遠い空気になりながら、マクダウェルは紅茶をすする
「昨夜のことを坊やに話していないところを見るに、厄介ごとを避ける以外にもっと大事な隠し事があるのは分かるさ」
「…昨夜のこと、ね」
隠そうともしない言い方に、やはり昨夜のあれは――
「それほどまでして隠し通そうとする秘密…なるほど、あいつの言う通りお前は確かに『怪しい』な」
「あいつ…?」
「ああ、お前の違和感を教えてくれた、親切な人間さ」
絶対嘘だ、断言してもいい
目の前のクラスメートに他人の隠し事をそれとなく伝えるとか、間違いなく善人のすることではない
(絶対だれか突き止めてやる…)
さっきまでの負の感情を怨念に変えてでも探し出してやる
「……」
ちらりとマクダウェルを見ると、視線をあたしからずらしていた
視線の先には、おそらくだがあたしの後ろに立っている絡繰に向いている
「…ふん」
すると面白くないといった感じで鼻を鳴らす
なんなんだ一体
「クラスにいた時もそうだが、お前は『面白くない』な」
「わざわざ来てやったのにその言い草はどうなんだ、おい」
失礼極まりないなこいつ
「だが俄然興味がわいた、お前のもう1つの秘密も見てみたくなった」
なんだこの天上天下唯我独尊の塊みたいな思考回路は
「なに、神楽坂にも言ったが次の満月までは何もせんさ」
「…そうか」
誰が信じるかそんな言葉
というかなんでそこで神楽坂が出てくるんだ…
「今日はごちそうさんでした、じゃあそろそろ帰るからな」
「なんだ、もっといてもいいんだぞ?」
じゃあそのニヤ付いた顔をどうにかしろ
「お邪魔しました…」
「お気をつけてお帰りください長谷川さん」
玄関口まで見送りに来た絡繰に軽く会釈をして、あたしはログハウスを後にした
――――――――――――――――――――
「…茶々丸」
「残念ですがマスターと長谷川さんの会話中に、ノイズは検出されませんでした」
「この程度脅威ととらえていないか、何かされてもどうにかできると判断したのか…」
先ほどのニヤ付いた表情から一変して、不機嫌になった少女は顔を歪ませる
「――忌々しい」
吐き捨てるようにそう呟いた
「目下の重要事項は坊やだ――が」
カップに残っていた紅茶を一気に煽る
――こんな感情になるのは15年振りか
「まさか久しぶりに人間相手に『苛立ち』を覚えるとは思わなかったぞ…長谷川千雨」
その閉じ切った心の奥底に、お前はどんな秘密を隠している
すべてに諦めを覚えたその顔の下に、何を隠している
苛立ちと同じほどに、1人の人間に『惹かれている』
それは見下されたことに腹を立てたからなのか
それとも――
「――らしくもない」
普段の自分なら唾棄すべき思考
目の前の最も重要な目的と並べるまでもないはずの、小さな目的
「それも含めて、見せてもらおうか…」
――お前のとっておきの秘密とやらを
紅茶の香りが仄かに残るリビング
幼さを残して少女は小さく嗤った
――――――――――――――――――――
色々と思い出したくないお茶会から一夜明け、いつものようにあたしは中等部に登校した
ネギ先生もだいぶ落ち着いたのか、今日は真面目に授業をした
そして今日も今日とてマクダウェルは休みだった
一日がおわり、昨夜のお茶会を思い返しながら寮に向かう
(結局昨夜のあれは、あたしに釘を刺したかったのか?)
秘密を暴く、とは言っていたがただの好奇心でそういうことをするようなやつとは考えられなかった
おそらく別に目的がある
「あたしはそのついでってか」
まったくもってはた迷惑な話だ
「どうしたもんか…」
部屋に入りベッドに座り込む
次の満月の夜まで行動は起こさないと言ったが、全く信用できない
そもそも信じる要素が皆無なのに信じれるわけがない
「目的が不明瞭のため判断できませーん」
ばたりとベッドに倒れ込む
このまま成り行きに任せるのは避けたい
だがあまり率先して動けば余計な関りを増やしてしまう
「…あれ使うしかねぇか」
ずいぶん昔に一度使ったきりでお蔵入りしていた遺留物を思い浮かべて引っ張り出す
「後片付けが面倒だから使いたくねぇんだよなこいつ…」
真っ白いA4サイズの紙を一枚引きながら、インク瓶のようなそれの蓋を取る
「スポイトかなんかつけてくれよまったく…よし」
インク瓶を傾けて紙の上に落としていく
赤いシミが紙の上に模様を作っていき――
「…うげ、よりによってその日かよ…」
ある日付を表した
『厄インク』
紙の上に垂らすと垂らした本人の一番近い厄日を教えてくれる
必ず垂らさないと効果がなく、万年筆等で書いても何も現れない
以前使おうとしたときに誤って床に落としてしまい、その結果床一面に赤々とあたしの厄日が…
それ以来万が一を考えるとなかなか使う気が起きなかった遺留物だ
「一週間切ってんじゃねーかよ、ったく何が『次の満月までは何もせん』だ、完全に嘘じゃねーか」
次の満月まで半月以上ある、あの言葉を信じていたら油断していたに違いない
その示した日付が――
「大停電の日、面倒だな」
5日後に迫った麻帆良大停電の日であった
――――――――――――――――――――
翌日登校するとネギ先生が白い小動物と一緒にやってきていた
昨日一昨日と自分のことにかかりっきりだったのでよく分からないが、なんでも先生のペットだそうで
「学校に連れてきていいのか…?」
寮の方は許可を取ればペットも可なのだが、流石に学校に連れてくるのは…
「…ま、いっか」
なんかあってもあたしには関係ないだろうし
週末のおかし作りの買い出しに行かなくてはいけないんだ
――――――――――――――――――――
「……」
「……」
だがまさか買い出しの途中にこいつと出会うとは思わなかったよ
「…2日ぶりだな、絡繰」
「はい、先日のお茶会以来ですね長谷川さん」
なぜか知らないが服が濡れて汚れている絡繰と遭遇
猫缶が入ったビニール袋を持っているようだ
「…お前なんでそんなに濡れてんだ?」
「先ほど川で流れていた猫を」
「オーケー大体わかった」
どうやら目の前のロボ子さんは、川流れしていた猫を助けるためにびしょ濡れになったらしい
「…妙なところで人間らしいっつーか、抜けているっつーか…」
「?」
若干首をかしげるな
「まぁ、風邪とかは引かねーだろうけど早めに帰って着替えておけよ」
「ご厚意感謝します」
妙にかたっ苦しい挨拶をして、絡繰は歩いていく
「…絡繰!」
そこそこの距離が開いたところで、絡繰を呼び止めるとこちらを振り向いた
「お前、結局マクダウェルとはどういう関係なんだ?」
同じ家に住み、メイド服で身の回りの世話をする
ロボットであることを加味しても、凡そ同級生同士とは思えない関係性
あの日からどうしてもそれが気になっていた
…まあ大体の予測はつくのだが
「…私とマスターの関係は、誤解のない最も正確な言葉で表すと”主従関係”になるかと」
案の定想定していた通りの回答が返ってくる
そうだよなぁ、同級生っつったってロボットだし――
「
……
いきなり専門用語を言われても詳しくないから分かんないなぁ
どうすんだよこれ聞き返すわけにもいかねーぞ
――かくなる上は仕方がない
「あー、そうなのか…色々と込み入ってるんだな」
あたしは誤魔化すことにした
「悪いな引き留めて」
「問題ありません」
そういって再び歩き出す絡繰
猫缶持っているということはどこかで猫に餌でもやるつもりなのだろう
「…ずいぶんと人間味のあふれることで」
相変わらずの非日常を噛み締めながら、残りのお菓子の材料購入に向かうことにした
――――――――――――――――――――
「…ねぇ、聞こえた?」
「な、なんとか…」
「うーむこいつは…」
長谷川千雨と絡繰茶々丸が立ち話をしていた場所から少し離れた建物の影に、2人と1匹が小声で話をしている
「千雨ちゃんって茶々丸さんと仲良かったのかしら?」
「でもこの前はエヴァンジェリンさんに襲われていましたし…」
先日の襲撃の際、長谷川千雨は宮崎のどかと一緒にあの場にいた
襲われる直前でどうにか間に合ったが、次の日以降特に何も言われなかったためそのままにしていたが――
「よくわかんないわね、普通襲われた相手と仲良く話なんてする?」
「少なくとも魔法の気はねーようだが、どうにも勘ぐっちまうぜ兄貴」
襲ってきた相手を気遣うような声かけ
数日前襲われたとは思えない関わり合い
もしかしたら、長谷川千雨はあちら側の――
『いやダメってわけじゃないですけど…』
そんな思考をしていた彼――ネギ・スプリングフィールドの脳内に、あの時の彼女の少し困ったような表情が浮かんでくる
楽しそうにお菓子を作り、自分の無茶なお願いも聞いてくれた
そんな彼女を思い浮かべていた
「…ううん、千雨さんは無関係だと思う」
首を横に振り、目の前の1人と1匹――神楽坂明日菜とアルベール・カモミールの言葉を否定する
「どうしてそう言えるのよ?」
「…勘、ですかね」
「勘ってあんたねぇ…」
「ま、まぁまぁ姐さん、確かに兄貴の言う通り何か打ち合わせをしていたわけでもねーし、とりあえず今はあいつを追いかけねーと!」
気が付いたらだいぶ先に進んでいた絡繰茶々丸に意識を向ける
「そ、そうね…とりあえず今は茶々丸さんの後を追うわよ」
「や、やっぱり追わないとダメですか?なんかさっきから凄い罪悪感が…」
「あーもういいっすから後を追うっすよ兄貴!」
カモミールの声で慌てて絡繰の後を追う2人
どうにも浮かない顔をして行くのであった
――――――――――――――――――――
週末をはさんで訪れた月曜日
なぜか元気になったネギ先生だったが、マクダウェルが風邪で休むと聞いたらすぐに出ていってしまった
気になるのは分かるが、せめて朝のホームルームまではしていってくれよ…あとその手に持ってる『果たし状』ってなんだ一体
結局あの後ホームルームなしで1日が始まった
いくら今日英語の授業がなかったからって、それでいいのか新任教師
そして、ついにこの日がやってきた
珍しく朝から居るマクダウェル
それにあたふたしながらも、安心した様子で授業を始めるネギ先生
そう――
今日は、大停電当日だ
『厄インク』
どこにでも売っていそうな赤インク瓶型の遺留物
紙の上と作中では説明したがインクが存在できる所ならどこででも使える
普通のインクとおなじなので拭き取れば一応は落ちる
使用者の一番厄い日、すなわち『厄日』を教えてくれる
なお2番目以降の厄日は教えてくれない