波乱万丈な吸血鬼事件は無事に幕を閉じた
新学期早々大惨事一歩手前だったが問題なかったから良しとしよう
そして麻帆良学園女子中等部3年生は目の前に迫った一大イベントで盛り上がっていた
それが――
「来週から僕たち3-Aは京都・奈良へ修学旅行へ行くそーで…もー準備は済みましたかー!?」
「「「「はーーい♡」」」」
――といった感じで修学旅行を一週間後に控えていた
この学園の修学旅行はとにかく早い
新学期始まって一か月も経たないうちから行く
5月の連休や夏休み期間、秋の行楽シーズンを避けてのことらしく、京都・奈良の他にハワイなども候補地に挙がっている
このクラスはネギ先生が外国出身ということもあり、委員長こと雪広がクラスを取りまとめて決定した
まあクラスのほとんどがネギ先生支持である上に、京都・奈良の方が安心といった意見が多かったので意外とすんなり決まりはしたが
とにかく、来週の火曜日から4泊5日の日程であたしたちのクラスは京都・奈良への修学旅行が決定した
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この修学旅行は何かが起きる
直感に近いそれをひしひしと感じながら約一週間を過ごし、気が付けばあっという間に修学旅行当日となっていた
初日は大宮駅に直接集合しそこから新幹線で京都へ向かうスケジュールだ
というわけで早くもなく遅くもなく大宮駅に着いて、そのまま新幹線に乗り込んだ
旅行につきものの『マイ枕持参組』はまだいいんだが、セイロに肉まん詰めて車内販売ってそれいいのか?
特に何か言われていない様だからいいとして、商売根性逞しいなぁ
今回の修学旅行であたしは3班に振り分けられた
同じ班に朝倉・那波・雪広・村上と若干2名に不安しか感じない構成となった
(雪広はともかくとして朝倉が厄介だなこりゃ)
あいつのことだ、修学旅行中も碌でもないことやるに決まっている
(いやーはじめてのりょこうですなー)
(きょうととやらにはなにかおいしいものあるです?)
(そうだな…宇治抹茶のお菓子なんかは旨いって聞くが、それと八つ橋だな)
(きいただけでおいしそうなおかしもりだくさんのよかん…)
(これはきたいをふくらませるべきでしょう)
そういえばこいつら連れての外出初めてだな
いやな予感はするが人生初の新幹線、のんびり堪能するとしよう
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…分かっていた、あぁ分かってはいたさ
何事もなく京都に着きますようになんて願ったところで、それが必ずかなう訳はないって事ぐらい
「だからってこれはないだろう…」
周りを見渡すとあちらこちらからゲコゲコゲコゲコ…
お菓子の箱を開ければゲコゲコ
弁当箱を開ければゲコゲコ
水筒を開ければゲコゲコ
そこら中ゲコゲコ鳴くカエルまみれになっていた
これがもう見た目以上の大惨事
引率の源しずな先生と保健委員の和泉は失神するわ、古菲はビニール袋にカエル108匹詰め込むわでてんてこ舞い
ネギ先生は突然前方車両に向けて走り出す始末で収拾がつかない
とりあえずあたしは近くに来たカエルを通路にポイポイッと放り投げて事を凌ぐ
とんでもない出だしになった修学旅行に、あぁ京都についてもこんな感じなのかとさっそくあたしの心に暗雲が立ち込め始めた
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『京都(きょうと、みやこ、きょうのみやこ、英: Kyōto)は、日本の都市の1つである
都、もしくは京ともいい、歴史的には794年に日本の首都に定められた都城・平安京で、当時は日本の政治・文化の中心地であった』(by Wikipedia)
…とあるようにこの街の歴史は1200年以上にわたっている
その長い歴史の中で失われた文化財は数知れず、いまだに形を残している物たちだけが過去を紡ぐ
京都と聞いて真っ先に思い浮かぶ観光名所と言ったら清水寺ではなかろうか
巨大なせり出した『舞台』は国宝に指定されており、かつてはここで能や踊りを披露していたそうだ
「有名な『清水の舞台から飛び降りたつもりで…』の言葉どおり、江戸時代実際に234件もの飛び降り事件が記録されていますが生存率は85%と意外に高く…」
すらすらとカンペもなしに清水寺の概要を説明する綾瀬に、周りからは驚きの声が上がる
綾瀬はああいうことは得意なのに何でバカブラックの称号に甘んじてるんだほんと
さて清水寺と言えば『地主神社』と『音羽の滝』も有名だろう
地主神社はかなり有名な縁結びの神社、恋占いの石に階段手前から目をつぶって到達すると恋が成就する
そして音羽の滝は3筋の水が流れる滝でそれぞれ『健康』『学業』『縁結び』が成就するという
なんて話を聞いてうちのクラスが黙っているわけもなく
早速地主神社に移動したのだが
(カエルの次は落とし穴って小学生のいたずらかよ)
恋占いの石目前で落とし穴に落ち引き上げられている雪広と佐々木を見ながらそう思った
何か起こるとは言ったがこんな子供っぽいものとは思わなかったぞ
ちゃっかり後ろでは宮崎が目をつぶったままゴールしてるし
とどめに音羽の滝での大騒動
どこの誰か知らないが滝の上にご丁寧に焼酎の樽を設置していたらしく、縁結び成就の為我先にと飲んだクラスメート全員がダウンする事態に
ネギ先生と神楽坂が必死に誤魔化しているが、これほぼ事故なんだから正直に言ったほうが良くないか?
むしろ再発防止の観点から見ても報告は必須なんじゃ…
とはいっても修学旅行が中止になる可能性も確かにあるのでとやかく言うことはやめた
それとそこで味見している吸血鬼、気が付いてないと思ったら大間違いだからな
お前も呑むかだって?あたしはまだ未成年だ
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――風呂場が騒がしい
部屋でのんびりしているのももったいないからと、消灯時間まで暇つぶしでもと思った矢先にこれである
なんかが切れて水に落ちる音
これ完全に厄介ごとだよな?よし大人しく部屋に戻ろう
「ひゃあああああーーーーっ!」
…悲鳴が聞こえるのはちょっと想定外だな
どうするか…ネギ先生か誰か呼ぶべきか?と思って聞き耳立てていると、女湯から喧噪が消えていった
と思ったら今度は大慌てで誰かが脱衣場に入ってきた
「あ、やっべ」
慌てて近くの自販機の陰に身を隠す
直後に脱衣場から刀を携えた桜咲が、私に気が付くことなくそのまま駆け抜けていった
「…何だったんだ一体、もう部屋に戻るか」
風呂を確認してみたい気持ちもあるが、触らぬ神に祟りなしで部屋に退散することにする
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(…にんげんさんにんげんさん)
(…んだよ、朝にははえーぞ)
(おさるさんにだれかがつれてゆかれまする~)
(…は?)
布団で寝ていたあたしをそう言って起こしてくる
なんとも物騒なこと言っているが
(うぉっちゃーつかえばばっちりまるみえてきな?)
(めっきりしっかりくっきりばっちりてきな~)
(わーったわーった、見りゃいいんだろ見りゃ)
枕元に置いてある小物入れからこっそり『うぉっちゃー』を取り出してのぞき込む
そして見えてきたのは――
(…巨大なサルとクマの着ぐるみ?)
着ぐるみチックな動物が2体、そしてそれぞれに斬り掛かっている身知った顔が2人
(神楽坂と桜咲じゃねーか、つーことは…)
少しずらすと眼鏡をかけた長髪の女が、これまた見知った顔のクラスメートを担ぎ上げているところだった
(あれは、近衛か!連れ去られたのはあいつだったのか!)
そう思ってみていると動きがあった
神楽坂と桜咲の攻撃は着ぐるみ?に受け止められていたが、神楽坂が持っていたハリセンに力を込めると――
(待て待て待て待て?!ハリセン使って攻撃してんのかよあいつ!?)
――等身大のハリセンに力を込めると、受け止めていたサルが煙のように消えた
そのまま桜咲に近衛を助けるように言い、もう一体のクマの着ぐるみ?に向かう
桜咲は長髪の女に斬り掛かり――突然出てきた別の剣士を弾き飛ばした
『どうも~神鳴流です~おはつに~』
どうにも気の抜けた声で立ち上がる、なんとも剣士っぽくない格好をした少女
名を『月詠』と言うそうだ
その見た目とは裏腹に、桜咲との斬り合いはほぼ互角
このままでは長髪の女に近づけない
(状況が悪いか?このままだと近衛が…!)
クマと戦っていた神楽坂は小さなサルに取り囲まれており抜け出せない
だがこの場にはもう一人、戦える人間がいた
『――テル・マ・スキル・マギステル』
ネギ先生が何やら唱えると光の矢のようなものが長髪の女に飛んでいく
『あひぃっ、お助けー!』
しかしその女は近衛を盾にしたのだ
当然ネギ先生は近衛にけがを負わせるわけにはいかないので、光の矢を別方向に飛ばす
人質がいる限り長髪の女に攻撃を当てるのは至難の業だろう
そのまま立ち去ってしまえばその女の勝利だ
――勝利だったんだけどなぁ
(桜咲はともかく神楽坂がそんな挑発されて我慢できるわけないだろ…)
形勢有利と見るやこの女、近衛の口をきけなくするとか操り人形にするとか言い出し、とどめに近衛でお尻ペンペンなんてするもんだからキレた2人とネギ先生の攻撃であっさり無力化された
人間怒らせると何しでかすか分からない、肝に銘じておこう
ついでにやられていた剣士と一緒に巨大なサルのぬいぐるみで空を飛んでいく女
どうやら今日は手を引くようだ
(一時はどうなるかと思っていたが…)
波乱万丈すぎる修学旅行初日の最後の締めくくりとしては少々荒々しかったが何事もなく終わった――
はずだった
ぞわり、と背筋を何かが通り抜ける
誰かに見られている
布団の中にいる以上、直接あたしを見る方法は限られる
まさか――
そんなわけが――
『うぉっちゃー』を通して見る景色
今しがた飛び去った巨大なサルのぬいぐるみ
そのしっぽにしがみついている剣士
こちらを、寸分違わず見抜いていた
『 』
口元が動き、先ほど戦闘中に見せていたどこか抜けた表情とは似つかない妖しげな表情で
聞こえなかったはずだ、間違いなく聞こえなかった
剣士は何もしゃべらなかった
しゃべらずに口だけ動かしていた
なのに
なのになんで
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今回ウチが引き受けたんは護衛の仕事
なんでも東京の方から来た呪術協会の姫様を攫う手伝いをするらしく、相手方に神鳴流の先輩さんがおる聞いてとても張り切っとりました
ちょっと遅刻してしもうたけど、打ち合ってみて確かにお強い方でしたわ
相性の悪いウチの二刀についていけるだけでも大したもの言うのに、久しぶりにええ方とお手合わせできました
――せやけど、ウチはそれ以上に興味惹かれることに気が付いてしまったんですわ
千草はんは気ぃついてなかったみたいやけど、あの場に着いてからウチは妙な違和感を覚えとりました
誰かにじっと見られているような、そんな違和感を
せやけどあの場にはうちら以外のだーれもおりませんでした
ただの勘違いかとも思いましたが――時間が経つにつれ、それは確信に変わりました
剣士の勘、言うもんでしょうか?理論付けできないですけど、あれは気のせいでもなんでもありませんでした
目通しの場所まではあたりを付けられましたが、誰がどこから見ているのかまでは見つけられませんでしたわ
――先輩との斬り合い以上に、ウチの中の好奇心がうごめきましたわ
せやからそん人に向けて言ってやったんですわ
『高みの見物とはええ御身分ですなぁ?』って
ちょーっと意地悪しましたが、きっとそう遠くない場所からうちらのこと見てはったんでしょうな
「いつかお会いできるとええですな?」
今回の仕事、引き受けて正解だったみたいですわ千草さん
(・ワ・)きょうはいりゅうぶつしょうかいこーなーはおやすみです