疲れも知らず   作:おゆ

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第百三十四話 490年 7月 託した未来

 

 

 ロイエンタールの乗る装甲車両がフェザーンの大通りを走る。

 むろん、その周りを軽車両が十台ほども取り囲み、警備を成している。

 

 だが、そこへロケット弾が撃ち込まれた!

 

 といっても直接その一団へ向けられたものではない。

 いかに都市とはいえ遮蔽物はそう多くはなく、襲撃者は近くへ隠れ潜むことができないからだ。この場合狙ったのは道路であり、進路予定に撃つことで路面を凸凹にするのが狙いだ。結果、軽車両がそのまま踏破できるようなものではなくなった。これでロイエンタールらの一団はかなりの混乱をきたす。

 

 ご丁寧にそこへ煙幕が投じられる。

 今は夜半ではあるが暗くはない。

 ここはもうフェザーンの軌道エレベーターがすぐ近くに見えるところであり、そのきらめく装飾の光が路上まで及んでいる。それがいったん遮られてしまう。

 

 

「やはり俺を狙ってきたか。まあそうだろうな。だがその思惑に最後まで付き合ってやることはない」

 

 ロイエンタールは素早く装甲車から降りる。そのまま乗っていたらいい的になるだけだと分かっているからだ。

 そして準備がいいことにロイエンタールは装甲服を着てきている。これなら、おそらくブラスター程度で貫通されることはない。

 そして警備兵の混乱を鎮め、更なる襲撃に備えさせる。

 

 むろん次には襲撃してきた側との銃撃戦だ。

 どちらも重火器まで使っているが、その合い間に盛んに小銃で応酬が繰り広げられている。

 

 

 ロイエンタールもまた積極的にその銃撃戦に参加している。確かに射撃の腕は確かであり、その面でも一流であった。

 しかしそういうことではなく、立場を鑑みれば危険に晒すべきではない。それは重々知っているのだが、やはり心のどこかには自身の破滅を望んでいる部分があるのだろうか。

 それがロイエンタールの宿痾の病ともいうべきものだ。

 

「閣下! お下がり下さい! その身に何かあればフェザーンの統治はどうなりますか。害虫どもの思う壺にさせることはありません!」

 

 同じく装甲服を着ている部下のバルトハウザーがフェイスカバーを跳ね上げ、強く言ってくる。

 それでやっとロイエンタールもこの場を後退する気になった。

 

「分かった、バルトハウザー。俺も少しばかり血気に逸っていたようだ。後は任せる」

 

 

 だが少し遅かった。

 襲撃者は何とこの場にゼッフル粒子発生装置を投擲している!

 

 それを目にすると誰しもが慌てて射撃が止める。ゼッフル粒子にもしも引火したら、その威力は凄まじく、一帯を吹き飛ばしてしまうだろう。誰しもそんな自殺志願の真似をしたくない。

 

 そして襲撃者の側は銃撃戦の次を予期して用意周到にも弓矢を準備している。

 雨あられと討ちかけ、それによっていっとき優位を作り出した。人数としては応援が続々と駆け付けつつある警備側よりも少ないのだが、この原始的な弓が奏功しているのだ。

 そして警備側が怯んだ隙に躍り込む。これらの者は皆帝国軍の装甲服の横流し品を着ていて、バルトハウザーら警備側にも少数いた装甲服姿と区別がつかない。

 こうした準備の差により、斃されるのは襲撃者の方ではなく警備側が圧倒的に多い。

 今、さすがにロイエンタールは最も後方に下がっている。この白兵戦には参加せず、一応戦斧は持つものの血を付けてはいない。

 

 

 

 

「ドミニク。では行ってくる。お前は離れた位置で行く末を見ているがいい」

「分かったわ。語り継ぐべき人に言ってあげる。あんたは怖い人だった。でも立派だったってね」

 

 アドリアン・ルビンスキーは軽くドミニクに言い残し、激戦の場へ歩もうとしている。もちろん体力のないルビンスキーは装甲服を着ないし、その必要もない。白兵戦などに自分が参加する気などない。

 

 そしてドミニクはそんなルビンスキーの覚悟を感じ、止めることはない。

 しかもルビンスキーはドミニクに対して安全なところに逃げろと言っているのだ。それに従うのがドミニクのやるべきことだろう。

 

 それよりもルビンスキーを見送り、その最後の姿を見届けることが重要だ。

 

 

 

 だがそんな様子を見ている者がいる。

 エルフリーデがジープのようなものを手に入れ、猛スピードで迫る。

 

「そううまくはさせられないわね。全くの私情だけれど」

 

 そしてエルフリーデがロイエンタールの姿を捉えられる所まで来ると、逆にロイエンタールもそれに気付く。

 

 おまけにロイエンタールが視線を移動させている途中、視界の片隅に見えたものがある。

 アドリアン・ルビンスキーの姿だ!

 これまで捜索の限りを尽くしても見つからなかったルビンスキーが戦場の喧騒の中にいるではないか。さすがに予想外のことだ。

 

「これは驚いた。奴は裏で糸を引くのが習い性だろうに、なぜテロに自ら参加しているのか。そこは分からんが、これは奴を捕まえるチャンスだろう」

 

 幸運とばかりにロイエンタールはルビンスキーの捕縛を命じようとした。フェザーンの事件のどれも、背後にルビンスキーがいることは明白だ。ここで捕らえれば大きな前進になる。

 

 だが同時に、ルビンスキーの手にブラスターがあるのも分かった。

 なぜブラスター? このゼッフル粒子の濃い中で。

 その意味は分からない。

 ロイエンタールはルビンスキーの病気のことは知らない。だからその覚悟も分かるわけがない。

 しかし、そのブラスターを持つ手が上がってくる事実を認めないわけにはいかなかった。

 

 

 ここで自分をめがけてやってくるエルフリーデから声がかかる。

 

「ロイエンタール提督、早くこの車に!」

 

 この危機的状況、ロイエンタールは瞬時に判断し、車に乗り込むことに決める。

 

 急ぎその場を去っていくロイエンタールへ向け、ルビンスキーはブラスターを撃つ!

 連射しようとしたが、それはただ一発に留まった。どのみち当たるはずもないし、ロイエンタールの装甲服には通らない。

 だが充分に意味がある。

 

 たちまちゼッフル粒子に引火し、暴風と紅蓮に変えていく。辺り一面人が木の葉のように舞う。

 

 

 こうして巨星は墜ちた。

 宇宙の富を集めたフェザーン、その強大な自治領主として名高いアドリアン・ルビンスキーはこうして逝った。

 最後まで己の人生を貫き通した。ルパートやエカテリーナにフェザーンを渡すために命を使い尽くしたのだ。

 

 

 エルフリーデとロイエンタールを乗せたジープは爆風に激しく煽られたが横転することはなく、辛くもその火炎地獄を逃れ切った。

 

「助かった。車に乗せてもらったのは二度目だな。あの嵐の晩の稲妻も大変だったが、ゼッフル粒子の爆発ほどではないだろう」

 

 かつてロイエンタールがオーディンの郊外を馬で駆けていたことがあった。強い嵐の晩のことである。そこでエルフリーデに車に乗るよう勧められ、二人は同乗することになったのだ。それが二人の出会いでもある。

 ロイエンタールはそんな懐かしいことを言いながら、エルフリーデが返事をしてこないことに気付いた。

 

「エルフリーデ、どうした……」

 

 そう、エルフリーデはもはや返事を返せることがない。

 ルビンスキーの放ったブラスターがロイエンタールに当たらず、何とエルフリーデの横腹を貫いていた。

 

 

 

 一方、それら一連を遠くから注視していたのはドミニクである。

 しかしゼッフル粒子の爆発の光は強く、それに目が眩んだためルビンスキーの最期の瞬間は見えていない。

 

「たぶんいつもと変わらない表情だったのでしょうね。心残りもないはずだし。いいえ、最後に水割りを呑めなかったことは残念だったかしら。せめて墓前に置いといてあげるわ」

 

 そして自分もひた走る。

 

「仕事の残りをやってあげるわね。恩返しというわけじゃないけど、それぐらいは付き合いのうちよ」

 

 私も甘くなったわ。ルビンスキー家と関わるようになり、まるで一家の一員のようになってから、少し変わった。そう自嘲せざるを得ない。

 

 そしてこの惨事に右往左往する警備員を横目に、見事軌道エレベーターの制御盤に爆弾を放り込むことに成功する。

 ロイエンタールを斃せたらよし、そうでなければ軌道エレベーターを破壊、そうルビンスキーが語っていたことを実行した。

 軌道エレベーターそのものは無事でも制御装置が破壊されればかなりの間使用不可能になる。

 

 その成功を見届けた後、ドミニクはまた隠れ家に潜伏する。

 

 

 

 




 
 
次回予告 第百三十五話  誤解

思わぬ遭遇戦、ミッターマイヤー対アップルトン
 
 
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