一撃男の異世界旅行記   作:鉋なんか

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壊滅

XVIII

 

 

 

 

帝都から北に10㎞にあるその場所は切り立った崖と山が多く点在し、緑豊かな山林に囲まれている。山から溢れ出る水は滝を形成し、小さな河原や池がのどかな風景を作り上げていた。一部箇所には温泉が湧き出ており、知る人ぞ少ない名湯がある。

 

 

そんな場所に帝都を震え上がらせている殺し屋集団、ナイトレイドのアジトはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

過去形である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の発端は数日前、ナイトレイドのメンバーが一人増えた日の夜、ナイトレイドのメンバーが外でどんちゃん騒ぎをしていた時だった。

 

 

 

 

 

 

『⁈また、侵入者だ!』

 

『ラバ人数は?』

 

『人数は1人、場所は南に少しある岩山』

 

『なによそれ、1人って事は迷い込んだ旅人とかじゃないの?』

 

『最初はそうかと思ったんだけど、糸に反応があると直ぐに反応がなくなっちゃうんだよ』

 

『つまり、どういう事なのでしょう?』

 

『ちょっとシェーレ、あんたしっかりしなさいよ!』

 

『つまり、ラバの帝具の糸で作った結界を切り裂くほどの強者って事だよな』

 

『兄貴、昼に来た連中のボスって事?』

 

『そうとは限らないが、違うとも限らないな』

 

『とりあえずマイン様子を見t『ドッガーーン』なッ⁉︎』

 

『嘘だろ⁈あの岩場からここまで全部の糸を引きちぎった⁉︎』

 

『一刻の猶予もないな、全員出動だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在ナイトレイドのメンバーは北からアジトからさらに北にあるログハウス風の臨時アジトに身を潜めていた。

 

 

 

 

「で?これからどうするわけ?」

 

 

 

誰一人として口を開かない状況に嫌気がさしたのかマインが苛立ちを隠せないまま口を開いた。

 

 

「どうしようもないよ、マインちゃん。ナジェンダさんの帰りを待つしかない」

 

「なによ、その言い方!第一あんたがもっと早く結界のことを言っていればこんな事にはならなかったんでしょうが‼︎」

 

「ま、マイン、おちついて…」

 

ラバはマインを落ち着かせようとするが、普段のおちゃらけた雰囲気が全く感じられず、その事が逆にマインの気に触れてしまい火に油を注ぐ形となった。

 

シェーレはマインを止めようとするがあまりの啖呵にただおろおろしていた。

 

 

マインは更に声を荒げてラバを責め立てようとするがブラートに注意される。

 

 

 

「マインやめろ、タツミとレオーネが起きちまう」

 

「うっ、」

 

 

マインは苛立ちが残ってはいるものの自分たちが気絶している間、寝る間も惜しんで看病し続けていたタツミに負い目を感じてか何も言えなくなる。

 

 

「とりあえず互いの情報を共有しておこう」

 

 

そう言ってブラートは今いるメンバー、マイン、ラバ、シェーレそして眠っているレオーネとタツミの顔を見渡す。起きている三人は無言で肯定の意思を告げた。

 

「まずは俺からだ、俺はいの一番に飛び出したから後の事はあんま覚えてないが敵は人間であってるよな?」

 

その当たり前の質問に対しても三人は無言だ。先程の意味とはまた別の意味ではあるが。

 

 

「俺がインクルシオを身に纏おうとしていた時、インクルシオが怯えてた」

 

「それってどういうことなのでしょう?」

 

 

「うまく説明できねぇけど、自分が絶対に勝てない天敵に遭遇した、って感じだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都上空を突如として厚い暗雲が包んだ。暗雲はゴロゴロと音を鳴らし今にも落雷が発生しそうだが、この暗雲を制御しているブドー大将軍はそれをよしとしなかった。

 

 

ブドーの持つ帝具雷神憤怒(らいじんふんぬ)アドラメレクは雷を操る帝具ということもあり帝具の中でも上位に入る殺傷能力を持っている。雷雲を呼び天候を変える、磁場を操り空を飛ぶなどという戦いにおいて幅広い用途で使うことの出来る応用力がある。

大将軍の家系であるものしか使えないという弱点もあるがその力は破格なものだ。

 

 

 

 

しかし、ブドーは敗北した

そして身をもって知った。

 

 

人間、生物、危険種も雷を一撃でも当てれば殲滅できる、しかしそれは己の力を過信した慢心に過ぎないという事

 

日々の訓練を欠かさない、そんな事一般兵でもやっている、当たり前のことだ

 

 

 

前回の敗北からブドーは学んだ。

 

 

自分の能力を過信しない、常に相手が自分より実力が高いものであると想定する、どんな手を使ってでも皇帝を守る。

 

 

 

 

 

 

「1つ聞こう、貴様はなぜこの帝国の宮殿に2度も足を運んだ」

 

雷鳴が轟く中ブドーはその言葉を発した

 

 

 

 

 

大方の予想はついてはいるが、どうしてもそれだけは聞かずにはいられなかった。

 

しかし、目の前の男は答えない

ただ黙ってこちらに歩みを進めるだけ。

 

 

 

そうか、それほどまでに意思は固いか

 

 

 

 

ブドーはまぶたを閉じ、息を深く吸い込む。

 

 

 

 

 

ブドーは大将軍の家系に生まれ代々の教えである『武官は政治に口を出すべからず』それを守り帝国が腐っていく姿を見て見ぬ振りをしてきた。それを間違った事だとも思ってはいない。

 

 

 

 

身体の至る所に電流を流し込み筋肉を刺激し無理矢理にも活性化させる。ただでさえガタイの良いブドーの体は膨張し電流をほとばしらせる。身体の至る所が悲鳴をあげているがブドーはそれを一切表情に出さない。

 

 

 

たとえ目の前の男がどんな酷い境遇で育ち、帝国にどんな怨みがあり、それをバネに強大な力を手に入れようと、それは仕方の無い事だ。私のなすべきことは帝国を滅ぼそうとするもの全てを叩き潰すのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待った」

 

ブドーはまぶたを開き、声のした方に目を向ける。

そこには先程マントをかけて寝かせておいたはずの少年が苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がる所だった。

 

 

 

少年 ウェイブは持っていた剣を地面に深く突き刺し、腹の底から声を出す。

 

「グランシャリオーーー」

 

声と同時に真っ黒な龍の形をした鎧が地面の中から現れウェイブの身体を覆う。

 

 

 

 

漆黒の龍を象った鎧を身に纏いウェイブはブドーに向けて言った。

 

 

「俺はまだ戦える」

 

 

それを見ていたブドーは「足手纏いになるなよ」と呟き、話が終わるのを待っていた男に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

その時のブドーは少しの笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに情報を交換し終えたナイトレイドのメンバーを待っていたのは絶望だった。

 

 

ブラートの帝具インクルシオは使えることには使えるが変身時間に1分以上の時間を要するという致命的な欠点が誕生し。

 

この世の全てを必ず切断できる、刃渡り1メートルを優に超える大型鋏の帝具“万物両断”エクスタスはシェーレが防御の時に要ネジの部分が壊れてしまい鋏としてはもう使えなくなり、二本の刀となった。

 

 

ラバックの“千変万化”クローステイルは糸がほとんどが千切れて今までの10分の1ほどしか結界を維持できなくなった。奥の手である絶対に断ち切ることの出来ない(筈の)界断糸が二本になった事は不幸中の幸いだったが。

 

 

持ち主の精神エネルギーを衝撃波として打ち出すマインの銃の帝具“浪漫砲台”パンプキンはピンチになるほどその破壊力は増していくのだが、その全てがことごとく回避され、最後に打った高火力の攻撃時にオーバーヒートを起こしてしまった。

分解して直ぐに修理に当たれば被害は少なかったのだがマインが使った精神エネルギーがあまりにも多かったためマインは数日の間植物状態に陥り修理が出来なかった、そのため被害が深刻化しマインが見た結果、修理に数年かかるかもしれないという結果となった。

 

 

そして食糧を確保しに行っているアカメの帝具も…

 

 

先程の沈黙が更に酷くなった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ナジェンダは臨時のアジトから東に12キロほど離れた岩山にある坑道で革命軍の密偵と情報を交換していた。

 

 

 

 

「な⁉︎エスデスが帝都に戻ってきている⁉︎」

 

「エスデスだけではありません、帝国の各地に配属されていた帝具使い全てが帝都へと招集を受けているようです」

 

「他にもキュロク付近では羅刹四鬼らしき人物が帝都へ行く姿があったという匿名の情報もあり、大臣の息子が複数の帝具使いを連れて帝都へと戻ったとの情報も…」

 

 

 

 

「い、いったい帝都にはどれくらいの戦力が集まっているんだ、」

 

「数日前に帝都に送った密偵からの報告が無いため確かではありませんが、参謀によると今の帝都には帝具使い、およそ15名。将軍、最低17名。兵士に至っては帝国の3分の2である100万はくだらないそうです」

 

 

 

 

 

その言葉を聞きナジェンダは絶句する。

こちらはエスデス1人倒すのに精兵5万以上と帝具使い10人以上、そしてアカメが必要だというのに。

 

 

 

「帝国が、遂に動き出したか、」

 

 

 

革命軍を叩き潰すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事実はまったくもって異なるが今のナジェンダはそうとしか考えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

XIX

 

 

 

 

帝具

 

 

 

 

それは強力な武器である

 

 

あるものは剣

 

あるものは指輪

 

あるものは仮面

 

あるものは絡繰

 

あるものは血

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強大な力を持った御伽噺に登場する生物の肉と強固で堅牢、それでいて稀少なレアメタルをふんだんに使い作られたそれは、常に安定して力を放つ。がそれは持ち主の体を精神を保護するため

 

 

その剣が持ち主を真に認めた時、さらなる力を引き起こす。

 

 

 

 

 

 

指輪

 

 

 

考えて欲しい、海に住む海龍の事を

なぜ海龍が船人に恐れられ

神と崇められているのか

 

 

 

大海原に船を出す時

海賊と危険種、海龍にきーつけろ

 

 

 

遭難して喉がカラカラになった時

助けてくれるのはいつも海龍

 

 

 

 

 

 

 

仮面

 

 

人間の潜在能力などたかが知れている

言うなればコップに水を入れるという事だ

 

 

潜在能力100%

人間というコップにおいて、これはとてつもなく小さい

 

潜在能力100%

龍というコップにおいて、これは途方もない位に大きい

 

 

 

 

 

絡繰

 

いや正確にはマリオネットと言った方が正しいのかも知れない

 

自分では動かない、いや動けない

 

どんなに国を憂いても、それは彼の体は動かない

 

絡繰の糸は透明

 

引きちぎる力は彼には無い

 

歪に歪んだ絡繰は演じる

 

悲劇 喜劇 歌劇

 

心底下らない物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血とは力の証だ

 

 

戦いで多くの血が流れれば

勝者の力が誇示できる

 

 

王族の血が流れていれば

王族としての力を振るう事ができる

 

 

強者の血を吸えば

強者の力を取り込む事ができる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その話が本当だとすれば、相当やばい状況だな」

 

 

ブラートは先ほどナジェンダが言った事を噛み締めながら呟いた。

 

 

 

帝具使い、最低15人

 

 

 

帝具1つでさえ一騎当千の力を持つというのに帝国はそれを最低でも15個保有しているのだ。

 

 

少し前なら帝具が一箇所に集合しているため集めやすいという無理矢理なプラス思考な考えも思い浮かんだが、今はそんなことは不可能に近い。ナイドレイド側の帝具の能力が大きく低下している中で複数人の帝具使いと戦闘になれば負ける可能性は高い。

 

 

それに

 

ブラートが知っている帝具使い、その中で自分が戦いたくないと考えてしまう人物が2人いるからだ。

 

 

昔の上司であり、現在エスデス軍所属、リヴァ

 

 

盲目でありながらも一夜にして1000匹の危険種を討伐した

恩師 、トラフジ

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴァは右腕を天高く伸ばし、水でできた小さな魚を手のひらに作り上げた。しかしそれだけでは収まらない。

 

帝都の至る所から水が少しずつ宙に浮かび上がり、矢のように鋭い形となって勢いよく空へと飛び始めた。

 

 

空に浮かび上がった水は全てが魚に向かって行った。

迷う事なく真っ直ぐに一直線に魚に向かって。

 

水でできた小さな魚はボチュンという水に石を入れたような音を立て、水でできた矢と自分の体との境界線をなくし、手のひらほどの体を少しずつ大きくしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴァは先ほどの戦いとも呼べない戦いの中で悟った。

 

『このままでは自分はあの時と同じように何もできない』

 

いや、それはダメだ。

 

なんとしてでも奴を倒さねば

 

瓦礫の中から這い上がる。腕や足がビキビキと音を立てる、体のあちらこちらにへんな負荷がかかったのか筋肉痛に似た痛みが走る。

 

そして立ち上がり、右手の中指にはめてある龍の頭をかたどった指輪に向けて話しかける。

 

 

 

「私の帝具よ、もっと力を寄越せ‼︎」

 

 

 

その時、龍の額にあった宝石がギラリと鈍い光を放った。

 

リヴァはそれを覗き込み、一匹の龍を見た。

 

深い海の底に佇み、巨大な岩にその身を預け、淡い青と深海の蒼を合わせた体を持つ優しくも強い意志を待った龍。

 

龍はリヴァの顔を見るとコクリと頷き、その身を宝石の中の海に溶かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴァは人の頭ほどのサイズになった水をさらに2つ作り上げて背中と頭にそれぞれつけた。背中についた水はまるで背中にあるのが当然のように翼を作りあげた。蝙蝠のようではあるが蝙蝠とは比べものにならないほどの力を持った翼。

 

頭についた水はリヴァに取り付くとグリュグニュと形を変形させ龍の顎を模した形に落ち着いた。

 

 

リヴァは大地を蹴り空へと飛ぶ、そして空中を飛び宮殿へ一直線に向かう。翼はリヴァの意思で自由に空を飛び数秒もしないうちに宮殿へとたどり着いた。

 

 

そしてこちらの様子をぼーっと突っ立ったまま見上げている男へ向かって今の自分が打てるであろう、最大最強の奥義をお見舞いする。

 

 

水龍天砕槍(すいりゅうてんがいそう)

 

 

その言葉と同時に帝都にあった全ての水が小さな龍の形となり空へと浮かび上がった。

 

先ほどの水の量とは桁違いだ。

大河からは鰯の群れのように、噴水では我先にと飛び出し、コップの水はコップを倒し、バケツの水はバケツをひっくり返して。

 

 

一箇所に向かって集まる。

 

 

それらの小さな龍は互いに互いにの体を融合させ少しずつ大きくなる。鰯ほどのサイズのものが渦巻き、蛇ほどの大きさになり、蛇ほどの大きさのものが互いに溶け合い大砲ほどの大蛇になり、大砲ほどの大蛇は互いを喰らい竜となった。

 

 

そして竜は唸りを上げ逆巻き帝都の上空の3分の1を覆うほどの巨大な一匹の龍となった。

 

 

帝都の水全てを飲み込んだ巨大な龍は男めがけて一気に急降下する。しかしそれだけでは済まない。

 

 

龍はその顎門を少し開け、その隙間から水を打ち出す。

 

数百万トンはくだらない水の中には砂や金属の破片が混ざっている、リヴァそれを水圧で無理矢理圧縮し超高圧水でもって音速の速さで打ち出し、敵の肉を確実に削る。

これぞリヴァの水龍天砕槍 一番槍 水斬(みずきり)である。

 

 

 

 

例え水斬りを避けたとしても、顎門を開けた龍はそのまま急降下し標的を飲み込むまで追い続ける。大量の水は地面を侵食し、建物を破壊し一直線に突き進む。 そして水龍天砕槍 二番槍である大砲水(たいほうみず)の前に為すすべも無く飲み込まれる。

 

 

 

そして飲み込まれた奴は 水龍天砕槍 終焉槍 水阿鼻(みずあび)の水圧によりその肉も骨も全て押しつぶされ、唸り逆巻く水のミキサーにより跡形もなくコナゴナにする。

 

 

 

 

三段構えのリヴァの一撃

 

 

 

しかしそれは、あっけない結果を迎える。

 

 

 

 

サイタマ 宮殿 北門入口 戦闘中

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

XX

 

 

 

帝都 宮殿 最上階

 

 

 

「なぁ、大臣」

 

 

「なんでしょう、陛下?」

 

 

「…いや、何でもない」

 

 

歳は10にも満たない皇帝は今、不安と恐怖に見舞われていた。

 

 

大臣が療養中の数日間、何人もの人間が大臣の悪事について語った。

 

 

『陛下、大臣は幼子を嬲り殺すのを良しとするものです、何卒死刑に』『陛下、大臣はこの国を腐らせている元凶です、何卒大臣に罰を』『陛下、大臣は罪のない人間に罪をなすりつける悪魔です、何卒大臣に刑をお与えください』

 

 

 

陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下陛下「陛下?陛下?」

 

「っ、あぁ、すまない大臣、なんだ?」

 

「陛下、ただ今、ブドー大将軍とその他帝具使いの精鋭がこの国を守るため戦っております。しかし敵はとてつもなく強大です、精鋭達でさえ敗北してしまうかもしれません。ですがこの帝具さえあれば今は亡き先帝から陛下が受け継いだこの国を守ることができます」

 

そうだ、大臣はいつも余の側で余を支えてくれた。父上が亡くなった時も、母上が亡くなった時も、いつも大臣が側にいた。

 

 

「なぁ、大臣、余はこの国を、民を守ることができるか?」

 

「はい、陛下ならきっとこの国を民を守ることができます」

 

 

そうだ、大臣が余を裏切る事など無い

 

いつも、いつもいつも、余を支えてくれた大臣が余を裏切る事などあるはずが無い。

 

 

『いざとなればこのスイッチで、陛下諸共あの世行き、というわけですな?』

 

あの言葉は余の聞き間違えだ。

 

 

 

皇帝の心に刺さっていた恐怖と不安は、大臣の言葉でなくなった。皇帝はその手に握った杖をしっかりと握り締め、前へ進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

トラフジの帝具は杖の帝具だ

 

 

いや、杖というのはおこがましい、正確に言えば木の棒だ。

 

ゴツゴツして微妙に太く持ちづらく、少し真ん中の部分が曲がっている。山の中を探せば似たような木の枝がいくつも見つかるだろう。

 

 

しかしそれには訳がある

 

 

装飾は一切施されていないのは、当時の技術をもってしても一切傷をつける事が出来なかったから

 

加工はされていないのは、なぜなら何者の影響も受けないから

 

 

 

では何故装飾も加工も施されていないこれが杖の帝具と呼ばれているのか。

それはこの帝具の持ち主がこの帝具を杖の代わりとして使っているからに他ならない。

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラフジは目が見えないが空間を把握する能力は帝国一を誇る。前もってブドーと決めていた位置に男が来るのを察知すると帝具の能力を発動させる。

 

「超重力」

 

トラフジの持っている杖の帝具“臣民平服”(しんみんへいふく)ユグドラシルは重力を操る帝具である。

 

 

 

 

 

サイタマは膝が地面に着きそうなのをなんとかして堪える。歯を噛み締め一歩前に出る。しかしその都度その都度地面に膝をつきそうになる。頭がぼーっとして体が重い、まるで脳にまで酸素が送られていないのではないかと錯覚してしまうほどだ。

 

 

 

 

「水龍天砕槍」

 

 

フラフラの状態で、後ろからくる何かには察知できた。

すぐさま後ろを振り向き見上げる。

 

 

 

サイタマの顔に大量の水が命中した。

 

上から降ってきた大量の水は子供が大人に水鉄砲をかけるかのように見事にサイタマの顔の中心を捉えていた。しかしその勢いはビシュという音が後から聞こえてくるほどであり、水の色が透明でない事から確実に水ではない硬いものがサイタマの顔にはぶつかっている。

 

 

しかしそれだけでは終わらない、身動き1つ取れないサイタマを大口を開けた水龍は無慈悲にも丸呑みにする。

周囲には水を一切飛ばさない。しかし龍の体内は洗濯機の中のように渦を巻きサイタマの自由を奪う、そして水圧により肺の中の全ての空気は奪われる。

 

 

 

サイタマは何もできないま水龍の体内で死を待つのみ。

 

 

 

 

 

しかし、次の瞬間、水龍は内側から弾け飛んだ

 

サイタマは逆巻き渦巻く水流と大量の水による水圧に耐え水龍を内側から振りほどいた。

 

だが、サイタマの相手は水龍だけではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の審判・黒雷(ジャッジメント・ナイト・オブ・サンダー)

 

 

 

その瞬間帝都は暗黒に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

XXI

 

 

 

 

 

 

 

ブドーは以前サイタマと戦った際、数千発の雷を十数秒の間、地表へと落下させる技を使った。雷はたしかに数発サイタマに直撃した、しかしサイタマは何事もなかったかのようブドーの元へ行き、殴り飛ばした。

 

 

 

 

だからブドーは負けた

 

 

 

だが今回は違う

 

 

 

身体に電気を纏う事で基礎的な能力を向上させ、帝具による負荷に耐え尚且つ制御を可能とする身体にする。上空の黒雲を更に発達させ形を作り圧縮して威力をあげる。雷一発一発の威力の底を上げ、それを圧縮し落雷として落下させない。

 

ただでさえコントロールの難しい落雷は圧縮されるごとにその威力を格段に上げていた。

 

 

 

数千発もの雷を一つにした

 

 

 

 

 

 

 

それが放たれた瞬間を例えるならば、神話だろう。

 

 

 

闇が世界を支配し、天も地もない常闇の空間が生まれた。

 

 

 

 

全ての光が奪われ、時間の概念が消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは一瞬だった

 

 

一つの閃光がほとばしり、暗闇をのみこみ世界の全てが白く染まった。

 

 

 

 

遅れて爆風が巻き起こる

 

 

巨大な建物はグラグラとゆれ、ガラス窓は割れる。材木や青々と茂っていた木々は、一瞬でその葉を散らした。大量にばら撒かれていた手配書は吹き飛んだ。

 

それだけでは済まない、衣類専門店ではショーウィンドウが割れ高級品、安物関係なく全てが吹き飛ばされた。果物や野菜はぐちゃぐちゃになり、魚や肉は殆どが埃を被った。スラム街の露店の多くは爆風によりいとも容易く吹き飛ばされた。

 

 

 

幸いにも人的被害は少なかった

 

 

帝都の民の多くが警備隊の指示に従い、帝都の中心部からかなり離れた帝都の外周の壁まで避難していたからだ。

 

しかしそれでも避難していた民たちに爆風は襲いかかった。

帝都の中心部から避難していた人々は身を寄せるようにしてその暴風に耐える。母親は子供を守るように抱きかかえ、父親は家族を守ろうと覆い被さり、若い青年は老夫婦をしっかりと抱きしめ、30代の残念美人は近くにいた親のない子に覆いかぶさる。目を開けることさえ困難な風は彼らが避難する際に持ってきた衣服類を吹き飛ばし、書籍や紙類を遥か上空に持っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しの怪我人は出たものの、死者はでなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中に浮いていた水龍のかけらはブドーの放った一撃により全て蒸発し、未だ残る膨大な熱のみがその場を支配していた。

 

 

強大なエネルギーの放射により地面には大蛇を思わせる巨大な地割れが出現し、宮殿敷地内にあった芝生や木々はもはや見る影もなく、荒れた大地と化した。

 

 

 

 

 

ウェイブは目の前の光景に驚愕する。

 

 

突如目の前にあった筈の光景が黒く塗りつぶされたかと思ったら、天空から一筋の光が落ちてきたのだ。視界が黒く塗りつぶされた恐怖もあったがその光の美しさに目を奪われ何も考えられなくなった。そして爆風が巻き起こり自分の体が空中に浮いたと思った瞬間、背中に巨大な衝撃を感じたのだ。

 

 

 

 

一瞬で宮殿の普段の光景が荒れ果てた不毛の土地に変わったのだ。

 

 

 

草木が焦げたような匂いはなく、まるで最初からなかったかのようにそこには巨大な地割れがあった。

 

ありえない、信じられない。そんな言葉ばかりが脳裏をよぎる。自分は夢を見ているのではないかと錯覚してしまうが、肌で感じている乾いた暑さが現実である事を告げる。

 

 

 

 

自分の体が壁にめり込んでいる事に今更ながら気がつく、壁から脱出し先ほどの一撃を放ったせいで地に倒れ伏しているブドーを介抱しに向かう。

 

 

 

 

 

この日ウェイブは帝国、最強と呼ばれし男の強さを身をもって知った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは結構あぶなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国が敵に回した男の強さを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「服が黒焦げになるところだった」

 

 

 

 

 

 

地割れの中のほうから声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰よりも理解する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




約束は守った
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