是非活動報告のところを読んで欲しい。
よろしくお願いします。
活動報告の意見を参考にして、微調整した結果。
ここに小話を追加。
知っている人が読めば何が起こったのかわかる程度のお話で、ようやくあの天災(誤字にあらず)が絡んでいるフラグが経ちました。
大会二日目――
宣伝目的のために訓練機の使用を禁じられていた潤は、機体と触れ合う時間を少しでも取るために早々に格納庫に向かった。
昼食は十一時に取って、戦闘中は空腹になる程度に調節する。
武装の確認を行うため、午後には簪に来てくれと前もって言っておいたので時間通りに来てくれた。
潤に宛がわれる機体は、フィンランド製第三世代量産機、カレワラ。
この事は学園側も承知しており、今大会を宣伝代わりにすることの代価として、カレワラを安価で購入できる取引があるらしい。
IS学園でも、高性能ISを訓練用で仕入れてみようと考えているのだろう。
カレワラの武装はなるべく実弾兵装を採用することで継戦性の向上を図った。
十四時を回ると潤は早々にカレワラのコックピットに入り、設定を見直しては直し、やっぱりと設定を戻しては再び手を加え始める。
横に並んだ簪からIS活動記録を取得、直前まで確認事項を聞いて連携のイメージを沸かす。
格納庫に電子音が鳴り響く。
前試合が終わったことで、潤と簪の出番が回ってきた。
「小栗だ、【カレワラ】出るぞ!」
毎度のことながら、この戦闘直前の高鳴りは抗いがたい魅力がある。
これから野蛮な殺し合いをすると知っていた頃でも、戦闘直前には独特な興奮を得られた。
それが、強化人間として作り変えられた自分の負の部分であったとしても、この高鳴りで自分が生きている実感が持てる事の方が嬉しいと思う。
戦いの舞台となるアリーナ。
空から見える三六〇度の景色、空の青さは壮観で、座席が人で埋め尽くされているのも今となっては気分がいい。
一夏は別のアリーナで、同時間一回戦を行わなかったAリーグのペアと戦っているだろう。
潤のあずかり知らぬところで一回戦敗退した本音とペアの相川、ナギと癒子が手を振っていた。
本音はラウラと一回戦を行い惨敗。
見に行けてやれなかったことが少し悔やまれる。
「なんか、随分人がいる」
「映像ならともかく、カレワラの実戦公開は初めてだからな」
潤の専用機から、大部分をダウングレードして出来た機体、カレワラ。
量産機機体と侮ることなかれ。
その機動性はダウングレードしてかなり落ち込んでいるもののラファール・リヴァイブや打鉄とは比べ物にならない。
何度か行った模擬戦と打ち合わせから、潤が戦闘中に指揮を取ることとなった。
引っ込み思案でよく喋らない簪も、代表候補生として冷静な判断が出来るが、潤の方が安定していると判断したのだろう。
一秒の遅れが命を失う要因となりうる場所で生き抜いていくには、そういう力もまた必要だった。
平和な世界で競技用の為の戦いをする人間と、命を削って殺し合う人間では培われる経験値が違う。
潤も状況を鑑みて指揮することに関しては、優れている自負があったので了承した。
『Cブロックの最終試合を始めます。 カウントダウン終了時点で試合を始めてください』
カウントがゼロになると同時に潤は、緊張しているのが手に取るように分かる相手を見て、ISの操縦に慣れていない事を察する。
焔備とレッドパレットを量子状態から実体化させると、簪との通信を開く。
「相手は随分緊張しているように見える。 接近戦に持ち込んで乱戦にするより、銃撃戦主体でいこう」
『わかった』
様子見に徹していた潤と簪に、及び腰になりながらも一回戦を勝っただけあって見事な連携射撃を加えてくる。
当然牽制射撃に当たることはなく、固まっていた二人の両サイドに移動する。
二機だけの円状制御飛翔、サークル・ロンドと呼ばれる円軌道を描きながら射撃を行い、それを不定期な加速をすることで回避行動を学ぶ訓練方式の技術である。
「まずい、これじゃあ十字砲火を受ける!」
「同タイミングで動けないか、これなら――簪!」
先に円から離脱した敵機が放った焔備の弾を避け、空中で逆さになった体勢から円に残った片割れに円周を描きつつ砲火を加える。
潤と簪は、相手を戦闘不能にさせる前に一旦円周運動を中止、今度は上空へ移動する。
これで先に円から離脱した相手に背後に簪が、円に取り残された相手の目の前に潤が付いた形になった。
『そのまま……そのまま、ここ』
翻弄される形になった相手に向かって、ではなく簪は円に残された相手をミサイルで狙い打つ。
「あ、味方がやられた!? ちょっと、つよ――」
目の前でマシンガン二丁を構えている相手に気をとられ、集中砲火を浴びた1機が沈黙。
ミサイルの爆風に飲み込まれた僚機に気をとられた片割れだったが、ブレードを展開すると近くの簪に斬りかかった。
と、背後からブレードを持って大振りになっていたマニピュレータを狙撃された。
「超長距離射撃パッケージ『撃鉄』、いい銃じゃないか。 簪、合わせろ!」
『そこっ』
カレワラからの狙撃を躱すことも出来ず、今度は簪のミサイル射撃も頂戴する。
精密射撃の合間を理解して、その隙間にミサイルを置いたという形だ。
墜落後向けられる、潤と簪の焔備二丁。
勝敗をはっきりさせるための至近距離フルオート射撃。
あっという間にシールドエネルギーは空になった。
『試合終了! 勝者、小栗潤、更識簪ペア』
「初戦なんてこんなもんだろう」
「代表候補生だから搭乗時間が長いだけ。 私たちは他の人よりアドバンテージがあるから当然」
勝って兜の緒を締めよ。
慢心程勝利を揺るがす恐れがあるものはない。
対戦相手と握手をして互いの健闘をたたえ、パフォーマンスとして本音たちがいる方に拳を突き上げたものの、意識は次の試合に向けられていた。
しかし、代表候補生にして自分の専用機を作ろうと勉強している生徒と、専用機作成のために何十時間もISに触れていた元軍人。
確かにアドバンテージは絶大であり、そのまま予選リーグ通過まで潤と簪を止められるペアは存在せず、お互いに一度もシールドエネルギーをきらす事のも無いまま決勝リーグ、週末までコマを進めた。
残るは一夏とシャルルのペア、元二組クラス代表と三組クラス代表ペア、ラウラと篠ノ之のペアだけだ。
決戦前夜。
激励パーティー等と言い分を立てて、隣室から癒子とナギが来襲。
本音も待っていましたと言わんばかりに大量のお菓子を展開し、1030号室は甘ったるい匂いに包まれた。
騒ぎたいだけだろお前ら。
「はい、紅茶でございます。 お嬢様方」
Use good quality tea.
Warm the tea pot.
Measure your tea.
Use freshly boiling water.
Allow time to brew.
茶葉は量産品なので無理、と思いきやセシリアに紅茶を差し出した時に、『潤さんの力量に合った茶葉が必要ですわね』と英国貴族ご用達の高級茶葉を分けていただきました。
代価として、学校が休みの時は紅茶を作らされているが。
まさか、ゴールデンルールを完璧に行える人が日本にいようとは、と大変感激されました。
貴族の女の子、その付き人に教わった紅茶のルール。
異世界の公爵家ご令嬢、その女の子の数少ない付き人でしたので、この位出来て当然でございます。 嬉しくないが。
陶磁器製のティーポットとカップまで揃えているのはあれだ、趣味です。
「我ながらうめぇわ」
「セシリアが『量産品のクッキーなんかと一緒に飲むのなんて、これだから日本人というのは!』って怒るのも納得だわ」
「何処でこのいれかた習ったの?」
「…………思い出させないでくれ」
うまうま、と不思議なことに飲みながら声を出す本音を置いといてナギが身を乗り出して尋ねる。
思い出したくない、思い出させないで。
「なんかあったの? 紅茶に関して?」
「……余計な詮索をする娘は雪見だいふくでも頬張ってなさい」
ナギの口の中に突っ込まれる雪見だいふく。
うまうま、とちびちび紅茶を飲む本音の隣に避難し、必死に口の中からあふれ出す、溶けたバニラを吸い込む姿はなんか卑猥だった。
既に仲のいい男女という垣根を越えている気もするが、三ヶ月もの間つるんだ結果である。
そんな中、日本政府から支給された電話しかできない携帯電話が受信中。
コールしてきたのはパトリア・グループで馴染の立平さん。
『ああ、小栗さん、今大丈夫ですか?』
「ええ、大丈夫ですよ」
『まずは、決勝トーナメント出場おめでとうございます』
「これからが本番です。 あまり調子に乗りたくないので、褒め言葉は優勝時にでも下さい」
潤の不遜な物言いにも立平さんは朗らかに笑った。
カレワラの公開宣伝は随分な成果を収めたらしく、かなりご機嫌だ。
『カレワラはいい娘でしょう?』
「正直あれをベースに専用機を作ってほしい位、かなりの安定感がありますよ(なんか『こ』のニュアンスが……)」
『今日の連絡は、実はそのことに関してなのですが……』
何やら大事そうな話をする展開になってきた。
決勝トーナメント出場は前座で、彼らパトリア・グループの社員からすれば最低ラインだったのかもしれない。
『これからPDAファイルを更新します。 機密とかそういうのではなく、……そうですね、単刀直入に言いましょう。 準決勝と決勝、ヒュペリオンで出ませんか?」
「ヒュペリオンで? 立平さんも知っているでしょう。 現状ヒュペリオンは誰かの補佐無しに歩くことすら出来ないと「うまうま」ちょっと本音静かにしてくれ」
『それが、まぁとにかく最初にPDAを見てください』
口頭で促されPDAを最新のものへと更新する。
立平さんすら困ったような声で言った最新のPDA、少しでも見ようとするナギが背中から顔をのぞかせた。
隣には癒子と本音もいるらしく、部屋は広いのに人だけが潤のベッドに集まる。
暫くヒュペリオンの詳細情報を四人で閲覧する。
「このコックピット周りの重量の変化は? 三kgほど減っていますが」
『コックピット周辺に新たな制御モジュールを追加したんです。 それで既存の部分を弄った結果です。 強度は上がっていますから、絶対危険じゃありません』
「――本社で何があったんですか?」
『私たちも本社からこの変な形をした制御モジュールを使えと命令された口でして……。 ですが、試算の結果、以前の八〇〇%以上の安定性向上が見込めると試算される程のものでして』
「……しかし、準決勝でいきなり使う気にはなれませんよ。 申し訳ありませんが見送らせていただきます」
潤もパトリア・グループの脳波コントロールシステム調整に携わっている。
だからこそ、今度ヒュペリオンに搭載された制御モジュールの完成度の高さに、疑念を隠せない。
確かに使ってみたくなるが、そこで本当に使ってみようと言えてしまうのが技術者なのだろう。
『そうですか……。 すいません夜分遅くに』
「いえ、貴重な話を聞けましたよ。 それでは」
「ねぇ、おぐりん、あの制御モジュール……」
紅茶を飲みきった本音が、PDAを覗き込んで話し出す。
潤は、会話の中心となりそうな新制御モジュールを表示させた。
「『束』って漢字に見えない?」
「――確かに、ポップ体太文字だとこうなるか?」
「ほんとだ」
「あんた、よくこんなの気付いたわね」
本音の話はさておき、確かに今のヒュペリオンなら動かせるかもしれない。
データ上はそう見える。
しかし、ヒュペリオンのデータ取得開始から、十日も経ってないのにこれだけ完璧な制御モジュールが作れるだろうか。
いや、無理だ。 時間的にありえない。 ではどうやって……。
嬉しい誤算かもしれないが、しばらくこの疑念はなくならないだろう。
金土日と3日に、4話出来れば5話連続更新を行います。
それでラウラ編は終了予定です。(10/1)