書き直しとはいえ、前回の分が殆どなので話し自体の進展はなし。
次の話は、ちょろっとセシリアを出して、学園祭までは以前と同じになりますね。
来月からは暫く連日更新になるかもしれません(フラグ)
2-1
馬車馬の如く働かされる潤。
色々ありすぎて目が回りそうだが、気が滅入るような案件が無いので精神的に充実している。
会長からの頼みごとである一夏の地力向上。
生徒副会長としての仕事。
学園祭に対する諸問題の対応。
一組の出し物への協力。
カレワラの調整と報告書の提出。
簪の専用機『打鉄弐式』のテスト飛行の付き添い。
この忙しさを前に、セシリアとの和解なんて些細なイベントなど一瞬で通り過ぎてしまった。
セシリアは恐縮したり、珍しく頭を下げたり、どうにかして決闘での敗北への代償を支払おうと骨を折っていたが、相手は昨日の敵が今日の戦友といった動乱の時代を生きていた潤。
そこは、呆れるほど簡単にイザコザを洗い流した。
敵味方が移り変わる時代に生きた、そういう類の人間ならではの寛容さだった。
味方が敵になったときは執拗に追い詰めたが。
今日の予定はジョギングを一旦休みにして、早朝から昨夜の内に申請していたカレワラの射撃演習をアリーナで実施。
放課後には一夏の訓練、本音の協力を経て精密機動実験を行うことになっている。
会長と一旦合流し、箒と一夏を同時に訓練させ、潤は簪の飛行テストにも付き合う。
とりあえず目下しなければならないことはカレワラのレポート作成。
なんでも三年が使いたくてウズウズしているとかいないとかで、方々から急かされている。
朝取った射撃データを吸い出しておいて、休み時間と昼休みを利用してレポートを作成していく。
同時間を利用し、一夏には白式の関連データを表示させ、出力の高すぎるデータを改めさせるのを忘れない。
本当ならさくっと潤がやってしまえばいいのだが、白式は一夏の専用機。
コレばっかりは個人の好みの問題もあるので、潤が全て決めるわけにはいかない。
妙に高出力過ぎる物を適度なエネルギー配分にし、エネルギー効率を向上させるのだ。
マニュアルに沿って変更していくだけだったりするが、潤の機体も色々エネルギー兵器を用いているのでアドバイスは絶妙な物だった。
今日だけで白式はエネルギー効率が十五%程向上し、一夏にとって有意義な休み時間となった。
そして放課後、週末を挟んでようやく一夏に対して本格的なトレーニングが開始される。
「よし、始めるか」
「宜しく頼む……のはいいけど、なんで教室?」
「ん? まあ、本当に強くなるためには身体以外も鍛える必要があるって事さ」
「そりゃそうだ」
何故か一緒に参加している専用機持ち達の怨嗟が聞こえてくるようだが、本当に勘弁してほしい。
クラスメイトが大半残っているけど、どういうことなのか理解できない。
一夏にISにおけるレッスンを行うと言ったら、自発的に参加したいと言い出した。
勉強熱心なのはいい事なので放置させてもらう。
勿論一夏に対して行うものなので、役に立つかは保証しないと前もって言わせてもらった。
「さて、と。 まず、ISとはイメージによって、その性能が上下するのは知っているな?」
「ええっと、もう少し具体的に……」
「一学期、白式より性能が下回っているブルー・ティアーズに速度で劣っていたな? あれだ」
基本的な飛行操縦の実践を行った授業の事である。
セシリアが神妙な面持ちになった。
一夏がアリーナに巨大なクレーターを作ったのも、今では笑いながら話せる。
その時にセシリアが一夏に話したが、ISで飛行する時には『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』をするらしいが、そのイメージをすぐさま持てる人は少ない。
「なるほど、確かにそうだった」
「俺もちょっとしたイザコザ以来、博士に対するイメージの悪化から、博士の手が入っているヒュペリオンに対するイメージ悪化で、ヒュペリオンも性能がかなりダウンしている。 稼働率は二、三割って所だな」
「先日の決闘の際もそうでしたの?」
「可変装甲が開く前がその位、開いた後は九割。 ちょっとしたコツを掴んだし、今後は少しマシになるだろうさ」
「俺は、性能ダウンしている状態の潤に負けたのかよ……」
「そう気を落とすな。 調子の悪いときには悪いなりの戦い方がある。 知っているか、いないかが重要なんだ。 座学を行うのはそういう必要性があるからでもある」
「それを知れば上級生にも勝てるの?」
「言うは易く行うは難し、だ。 知っているからといって勝てるほどISは甘くない。 ただ、性能が高ければ勝利の女神が微笑んでくれるとは言いたくないだけだ。 もし性能が全てならば、専用機持ち達で模擬戦を行った場合箒が勝率一位でなければおかしいし、シャルロットは箒やお前には勝てない筈なんだ」
ナギからの質問に対する返答を聞き、箒がぐぬぬといった表情を浮かべて、シャルロットが嬉しそうに笑う。
専用機持ち達の勝率は順番に、潤、ラウラ、シャルロット、鈴、箒、一夏、セシリアとなっている。
純粋に試作品として機体性能が低く、攻撃用途も限られているセシリアは勝率が低いが、やり方次第ではもっと勝率を高められるはずだ。
「今日は銃撃戦に対する基礎知識と、戦略構築の為に操縦技術を学ぶためのを試みようと思う。 それでは――まず射撃の基礎知識から」
「質問!」
「なんで癒子が質問してくんだよ……」
「織斑くんのISって接近戦特化なのになんで射撃知識が必要なの? 斬れれば勝ちなんてチートな機体なんだから、剣だけ鍛えればいいんじゃないの?」
「……まあいい、短期的に考えればそれでいいんだが、長期的に考えれば銃撃戦の知識も必要になる時が来る。 ……俺が見る限り、一夏の剣の技術は一流に手が届くか届かないかのレベル。 剣だけでは必ず頭打ちが来る」
「俺って二流止まりが限界なのか?」
「二流の頂点を極めて、一流とサシで戦えるレベルになるのは保障してやる。 俺と同レベルになれる保障を俺がしているんだから胸を張ったらどうだ?」
二流だの何だの好き勝手に言われて憮然としていた一夏だったが、潤と同レベルと聞いて一転嬉しそうな顔になった。
同時に自分が二流だと断言した潤に、驚く生徒が沸き返る。
「あれで二流だと!? 本気で言っているのか!? 沖田総司が残した三段突きなんて伝説を再現できてそう言うか!?」
「箒、世の中にはちょっと速く突き技が出せる程度ではどうしようもない奴がいるんだ」
「例えば?」
「――四呼吸の間、起こりが無いまま剣戟を繰り出せる奴とか」
「ば、馬鹿な事を言うな!」
「そいつ人間じゃないだろ!?」
「うるさい! 俺だって信じたくねぇよ! でも実際いたんだし、何度計測しようと見えなかったものはしょうがないだろ!?」
「ゴメン、起こりって何?」
すまなそうに聞くシャルロットの声に、若干熱くなっていた箒と一夏、ついでに潤も押し黙った。
「起こりって言うのは、まあ準備動作みたいなもんだ。 振りかぶったり、筋肉の弛緩などだったりだと思ってくれていい」
「力を要れずに、振りかぶらずに攻撃する? 何だそれは?」
「ラウラ、それが一流の世界なんだ。 俺だって何度も見間違いだと思ったし、何度も見直したさ。 でも、実際俺の目には起こりが無いように写ったし、しかも、どう計測しても剣速が……いや、誰も信じないからいい。 まあ、ああいうのを見ると、俺の剣はやっぱり二流でしかないと思うんだよ」
「興味本位で聞きますけど、他には?」
「脳から筋肉への電気信号の伝達所要時間が人間にとっては極限を超えた零コンマ一秒の奴とか」
「……人間?」
「……わからん。 人間のはずなんだ、あいつらは。 なのに、奴らと比べられる俺はどうして人間の範囲内の能力しかないんだ? 不公平だろうが」
愚痴りだした潤を差し置いて、一夏と箒が腕を組んで考え込む。
起こりの無い剣、理論上の限界を超えた伝達所要時間。
うん、一流のレベルが変体の領域だ。
「あいつらの話は止めよう、止めだ止め。 話は逸れたが剣で勝てない相手ってのは間違いなくいる。 織斑先生並になれればいいが、あの人は間違いなく例外だ。 銃を学ぶ必要があるだろう」
「そうだな、千冬姉みたいになるのは不可能に近いからな」
「分かってくれて何より。 銃撃戦を学ぶに当たって一夏が使える武装は大出力の荷電粒子砲のみ。 あれは機能的にスナイパーライフルと考えた方が良い。 本当だったら狙いすましての一撃がセオリーだが」
「悪かったな、下手糞で」
「悪く無い。 しかし、持ち味を生かすのが、どれほど戦闘に好影響を及ぼすかは、シャルロットを見れば一目瞭然だ。 狙撃に適性が無いのであれば、近距離で叩き込むしかない。 その為には、相手の遠距離攻撃を掻い潜る必要性がある。 彼を知り己を知れば百戦殆うからず、といった故事にもあるように相手が使う技術を知ることは必要なことだ」
言い終わると一夏にプリントを手渡す。
縦射、ダブルタップ、バースト射撃、セミオート射撃などの用語と使用例。
現在ISで用いられている代表的な銃器のスペックと、銃器の得手不得手の紹介。
良くない撃ち方、悪い癖として矯正の対象になる撃ち方の代表例――これには先日ナンセンスと感じた片目を閉じての狙撃も含まれている。
ラウラと実際に戦闘しつつ撮影した映像を表示させる。
二人とも最初は紹介用に作った事を意識して動いていたが、徐々に撃ち合いにヒートアップし始め、最終的にガチの戦闘に発展した。
ひたすら激しい銃撃戦のみが続き、あまりに実戦的な映像に、何人かが頬を引きつらせていた。
「この映像、後で貰っていいか?」
「そのために撮ったものだ、問題ない。 プリントには書いてないけど、ISを使用した場合は腰だめで撃ってもサイトを覗いた場合と大差ないから、その辺は臨機応変にな。 それに、書いてあることが全てじゃない。 足りない部分を知りたい場合は自分で調べてみろ。 投げやりに思うかもしれないが、自発的に調べるという行為は、後々役に立つ」
「そうだよな、ありがとな、潤」
この後は、基本的戦略構築講座。
しかし、当初二人でするはずだったのだが、コレだけ人がいるなら別の選択肢もありかと思案する。
「さて、基本的戦略構築なんだが……」
「なんだが?」
「代表候補生がコレだけ揃っているんだ。 一人の視点から戦い方を構築するんじゃ無くて、ディベート形式で話し合ってみたらどうだ?」
「ディベート? なんでまた」
「自分のことは、案外自分が一番良く分かっていないのさ。 で、どうだ?」
潤が専用機持ち達を見渡すと、すかさず全員が頷く。
一夏と腰をすえて話せる機会も欲しい、専用機に対する知識もある。
なんの問題も無い。
「進行役は――ラウラ以外ないな。 脱線しないようにだけ頼む」
「っち。 仕方が無い。 アニキはどうするんだ?」
「あ、アニキぃ? ……まあいいか。 学園に新規配備される量産機のレポート作成だ」
「ほう。 何が入るんだ?」
「カレワラだ。 じゃあ、頼んだぞ」
第三世代の量産機、カレワラ。
潤がタッグトーナメントで使用した機体とあって、一組はディベート前にひと騒ぎ起こる事となった。
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クラスでディベートをしている間、潤は簪の監督の元で、本音にカレワラを用いてデータ取りを手伝ってもらう。
飛行テスト後の整備でも、整備科に進もうとしている本音は頼りになる。
本当ならば射撃データも手伝って貰えるならそちらの方が良かったのだが、本音の射撃スキルがとんでもない事になっているので手伝ってもらっても役に立たない。
時間もないし、射撃系は特に癖もないので問題ないと判断している。
カレワラが第二世代の量産機と大きく違うのは、その機動性の素直さと素早さにあるのだから。
「これは、……凄い。 う~ん、打鉄とは比べ物にならない感じ。 機体が思い通り動く~」
「イメージインターフェースと脳波コントロールが機動制御を補助しているからな。 動かす分には専用機と変わらないさ」
『本音……近い、駄目、近い。 ……なんで、そんなに……二人……仲良くなっているの?』
簪の我が妙に強くなっているのも気になるが、安全面を考慮すれば、念のために本音のすぐ近くを飛行して安全を確保しなければならない。
自分は専用機持ち側なのだからしょうがないんだ、と理解はしても納得してくれないご様子である。
それはそうと、やはりカレワラの完成度はやはり群を抜いている。
ヒュペリオンに登場して本音の傍を飛行している潤にも、その安定性と完成度の高さが分かる。
機動部門の練習タイムにおいて、量産機と機動特化型の違いが如実に表れる急旋回にも、苦しい顔一つしないのがその証だ。
脳波について適性の低い人に使用しても大丈夫なのかという懸念はあったものの、補助に限定して使用されているためデメリットが人体に無害になるまで抑えられているらしい。
ヒュペリオンはフィン・ファンネルを展開して近接戦闘をすると、その後一時間は頭痛が収まらないほど酷いのに。
「簪、頼むから集中して当たってくれ。 今回のカレワラのテストは教師達の注目度も高いんだ。 事故が起これば目も当てられない」
「…………。 ところで、……身体はもう大丈夫なの?」
「まあ、俺はそっちのテストも兼ねている、かな? 今のところ問題ない」
「可変装甲、って……」
「う~ん、あの倦怠感は最後の可変装甲起動後の瞬時加速が問題だったらしい、あれが無ければあそこまで酷くはならない」
「でも、使う必要がある場面になったらおぐりん使うよね」
「――――さ、次の動作に入るぞ」
「ちょっと、潤、否定して」
だって便利なんだもん。 ――小栗潤こころからの本音。
相手が反応出来ないほどの一瞬で間合いを詰められるし。
メリットとデメリット、双方のあり方と影響をしっかり加味して自分が使うべきだと思ったときに使えばいいのだ。
「さあ、雑談はここまでだ、集中しろ! 本音、簪、計器に異常はないな!」
『大丈夫』
「大丈夫だよ~」
「よし、簪、次の演習科目は?」
「イグニッション・ブースト、一零停止、ゼロリアクト・ターン」
「本音、今度はお前が前に出ろ。 危なくなったら拾ってやる」
「はーい」
妙に気の抜ける挨拶だが、本音だって技術的に問題ない生徒である。
操縦技術以外に問題ばっかりあるせいで、そんな印象全く無いが。
結局時間いっぱいまで飛行演習を行い、簪に頼んでそのデータをまとめて表にして貰う。
データの仕上がりで少しばかり変わるとはいえ、今日は徹夜確定か、と少しだけ気分が落ち込んだ潤だった。