高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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この話で終わらそうと思っていたのだが、文字数が一万を超えそうだったので区切りました。

申し訳ない。

しかし次の話は二部前半終了のエピローグ。
たいした内容にはなりません。(フラグ1)
来週日曜にまた更新できればと思います。(フラグ2)

次の4-1からは投稿期間が開くため、進行状況はTwitterを利用して告知を行います。
毎回活動報告を作ってもアレですし、進行情報のみ更新し続けても気付かない方もいると思われますので。

以下、アカウントになります。
@gurinti_



3-12

WEAPON STATUS

 

1 BEAM RIFLE

ENERGY / SIGNAL - 【 RED 】 / STATUS - STANDBY.

/ SIGNAL EXACT - LIMIT OVER

 

GENERATOR / SIGNAL - 【 RED 】 / STATUS - CORRUPTION

 

2 MISSILE LAUNCHERS

OUT OF AMMO

 

3 GEKITETU

OUT OF AMMO

 

4 EEG - ARA

SWAN - A / SIGNAL - 【 RED 】 / STATUS - ACTIV

/ SIGNAL EXACT - LIMIT OVER

 

SWAN - B - G SAME AS ABOVE

 

SWAN - H / SIGNAL - 【 GREEN 】 / STATUS - STANDBY. ENERGY LIMIT 100 %

SWAN - I / SIGNAL - 【 GREEN 】 / STATUS - STANDBY. ENERGY LIMIT 100 %

SWAN - J / SIGNAL - 【 GREEN 】 / STATUS - STANDBY. ENERGY LIMIT 100 %

SWAN - K / SIGNAL - 【 GREEN 】 / STATUS - STANDBY. ENERGY LIMIT 100 %

SWAN - L / SIGNAL - 【 GREEN 】 / STATUS - STANDBY. ENERGY LIMIT 100 %

 

FIF-P01X STATUS

VETRONICS ONLINE

ACTUATOR ONLINE

SHIELD ENERGY / 084

ARMOR DAMAGE / FATAL - LEVEL 1

SKIN BARRIER / ERROR

 

- a fatal error has occured this connection is terminated

 

 

――スキンバリアーが落ちた?

 

脳派コントロールシステムを全身に張り巡らせた影響で、何かしら不備が発生していたのかもしれない。

此処まで盛大に損傷したのが初めてだったので、こんな状態になるのは予想外だった。

次、攻撃に当たったら、俺、死ぬじゃね? と脳の片隅で思考するが、別に当たらずとも急激な反転を繰り返すだけで、曲がってはいけない方向に間接が曲がりかねない。

操縦者の危険を知らせるアラートが画面を埋め尽くすが、邪魔でしかないためシステムを再起動してアラートを強引に非表示にする。

頭部と胴体以外の皮膚装甲に対してエネルギー供給をカットする。

脳派コントロールと機体のバイラテラルを微調整。

 

 

僅か五分で基本的なシステムが崩壊してしまうほど、シックザールの攻勢がヤバイ。

 

 

どう凄いのか、映像としてこの光景を見ることの出来ない人間には伝えにくい。

それが非常に残念だ。

簪をこの豪雨に取り残せば一秒後には遭難して、その一秒後には水死体になっていることだろう。

ヒュペリオンと打鉄弐式はお互いを支えあうように逃走していた。

その位の砲撃、――……一時間換算で千二百ミリくらいの雨が降っている。

もう水蒸気すら砲撃で隠れてしまい、今や砲撃七割、水蒸気二割五分、空五分、といった具合だ。

 

「あああぁぁアアぁ!! うぎぃぃいいいぐぅぅ! あああああぁぁぁ!」

「くっそ、どうなってやがる? マッドマックスなんてレベルじゃないぞ?」

 

マッドマックだって空とビームの割合は八対二だった。

空は見えていたし、回避は可能だったのだ。

今では厚い装甲を簡単に貫く高威力のビームが、それこそ隙間に入り込むことすら不可能なほど降り注いでいる。

 

「ディー、抑えろ。 私の言うことが分からないのか!」

 

マドカはその光景を見て、必死にドリーを静止しようとしていた。

これが狂犬の全力だったのか、前回は一般生徒に攻撃したくなかったのだろうか、と潤は推量しているが実際はそうではない。

彼女は自分の限界を振り切っている。

薬によるものだ。

コレだけの攻撃、後のフィードバックも相当なものだろう。

この状態で『それでも』と言い切れるほど、助けたいと願ったリヴァイブのパイロットを盾代わりにされた行動は、潤の予想以上に彼女の琴線に触れていたのだ。

その無茶を潤は確信しながらも、限界が何処なのか計りきれないため逃げに徹している。

 

「……潤、あの、ごめんなさい」

「今はいい。 生き残るのが先決だ。 ……俺は現場指揮官としての責任を全うする。 俺が堕ちたら一目散に逃げろ」

 

今にも泣きそうな顔を簪はするが、もう二進も三進も行かない。

こんな殲滅上等の狂犬を市街地にあげるわけにはいかない。

一分もしないうちに万単位の人が犠牲になり、核攻撃された直後の広島・長崎の如き光景が出来上がるだろう。

そんな状態でも第四世代機を使用している潤が海に落ちれば、攻撃を止めて回収するだろう。

二度目の命令無視は許さない。

強い意志を持った瞳、えも言われぬ迫力、――責任なら自分が、簪にはその台詞がどうしても言えなかった。

 

簪を帰還させる方法はある。

無事のまま残る五機のフィン・ファンネル。

アルミューレ・リュミエールで自分を守り、シックザールに特攻をかける。

自分を見失った輩は、取り敢えず全力でぶん殴れば一度冷静になるものだ。

尤も、あれに特攻をかければ、自分が逃げる余裕が無くなる。

 

 

――せめて、蝶型ISをシックザールから引き放せれば、特攻後の離脱が可能になるかもしれんのだが……

 

 

チャンスを伺うが、サイレント・ゼフィルスがシックザールから離れる様子は無い。

頑丈な盾、強力なカウンター、単純ではあるが、単純だからこそはまれば強力な戦法となる。

彼女は動く必要が無いのだ。

このままでは山田先生の援軍まで持たない。

堕ちる前提の特攻が現実味を帯びてきた――そのタイミングで、最後まで諦めなかった潤に勝利の女神は微笑んだ。

 

 

「あれは……サイレント・ゼフィルス!」

 

 

その天使は、濃い空色の服を着た、キレイな金色の髪。

挨拶代わりにサイレント・ゼフィルスにスターライトmkⅢで狙撃を行う。

奇跡的にシックザールは混乱中で、セシリアのことなど気にもかけていない。

ビームの乱射をしすぎたせいでセンサーは完全に役立たずと化しており、サイレント・ゼフィルスはその奇襲攻撃をなすすべなく受けるしかなかった。

 

「潤さん? ヒュペリオン、壊れていますわよ? ここは私に――」

「め、女神か? セシリアは勝利の女神だったのか?」

「ええっと、……んんっ。 主役ですもの。 当然ですわ」

 

感情むき出しでセシリアの参戦を歓迎する潤。

普段でも滅多に見られない褒め殺し、来ただけで女神扱いされ、若干羞恥で顔が赤くなる。

 

「セシリア、サイレント・ゼフィルスを抑えろ。 五分でいい」

「承りましたわ」

「簪、セシリアの盾になれ」

「うん」

 

潤の中で戦略のピースが埋まっていく。

これで負け方を選べるようになった。

 

「BT二号機『サイレント・ゼフィルス』……! 今度こそ!」

 

セシリアは真っ直ぐサイレント・ゼフィルスに向かっていく。

潤は簪の迂回路を確保するため若干前に出た。

接近する潤を落とすべくビームをの雨を局地的にしたため、最早その光景は竜巻と化していた。

その間に、自分の失点を償うべく気を張りながら簪がセシリアとの合流を果たそうと動く。

 

「っち、……今更前座が出てくるな」

「何かおっしゃって!?」

 

高速機動パッケージを装備しているセシリアには通常時と違い、ティアーズによるビット攻撃が行えない。

取り回しの悪い大型ライフルと、セシリアの力量ではサイレント・ゼフィルスには効果の無い近接ブレードだけが、『安全に』使用できる兵器だ。

そのため簪と組み合わせる。

勝率は少しでも高くしておきたい。

回避スペースを多く確保したいサイレント・ゼフィルスは、制御不能の砲撃マシーンとかしたシックザールから離れる。

セシリアと簪、二人が協力してもマドカが不利になることは無い。

簪は対複合装甲用の超振動薙刀の夢現しか攻撃手段が無く、また接近も出来ない。

セシリアの撃つBTライフルは狙い澄ましたかのように、シールドビットと射撃によって潰されていく。

ISの常識では考えられないほどの運動性能を誇るヒュペリオンが相手では間合い管理など不可能に近かったが、高機動パッケージであろうとセシリアが相手では間合い管理は容易だった。

彼女がセシリアを前座扱いしたのは、その実力差を考えても正しい認識だった。

 

「くっ! やはり、強い――!」

「焦らないで」

 

簪はセシリアの護衛を全うしている。

もう自分がメインになることはないと察している。

潤は竜巻に巻き込まれないようサークル・ロンドを続けている。

この状況をどうにかするには、マドカをどうにかするしかない。

しかし、潤と比べて遜色ない精密射撃、連射速度、何よりBTのフレキシブルによって苦しめられる。

相手が二機いるため格闘戦を徹底的に避けるサイレント・ゼフィルスに、なすすべなく消耗を重ねる。

簪は何度かセシリアの盾となり、連戦に継ぐ連戦も合わさって、限界ギリギリの有様。

 

「もう二人とも堕ちろ。 茶番はここまでだ」

「まだ……まだですわ! 切り札は、ここに!」

 

ブルー・ティアーズの高機動パッケージは少々特殊で、普段ビット兵器として使用しているティアーズを推進力として利用している。

この状態ではビット兵器を攻撃代わりにすることは出来ない。

攻撃すれば推力とエネルギーが反発し合い、最悪空中分解と相成る。

急速接近しての禁じられた全砲門一斉射撃。

大型BTライフル以上の高火力だったが、無駄な足掻きとせせら笑いながらマドカは高速回転してその攻撃を避ける。

 

「――お願い。 ブルー・ティアーズ」

 

回避されることは、なんとなく想像が付いていた。

だからこそ、『まだ切り札は、ある』そう言ってこの禁止されている攻撃を敢行した。

 

今、出来なければならない。

 

潤は言った。

 

 

 

考えるものではない、感じるものだ。

かくあれかしと思い、結び、溶け込み、混ざれば、案外簡単にものは成る。 ――と。

 

 

 

かくあれかしと思うのはいい。

結んで、

溶け込んで、

混ざるとはどういう状況か。

 

まるで分からない。

だけど――、今なら出来る気がした。

ISを動かす時の様な、極めて理論的なものでなく、心を蒼の雫に、ブルー・ティアーズを水面に捉え、落ちたときの波紋を心の目で捉える。

理を捨てた向こう側、見えるものが確かにあった。

 

「バーン」

 

嬉しくって、楽しくって、子供の様に手をピストルの形にしてサイレント・ゼフィルスに向けた。

勿論何も出ない。

マドカは一瞬虚を突かれ回避行動に入ろうとした。

その行動を取ろうとした自分が余りにも滑稽で、子供だまし同然の悪ふざけをしたセシリアに初めて怒りの感情を向けた。

スターブレイカーを構え、照準はセシリアの頭部。

そのまま射撃し、瞬時加速からスターブレイカーで一気に落とす算段――だったのだが、不意に四本のビームが背中に突き刺さった。

BT兵器の稼働率が理論上の最高位に達した場合にのみ使用できるフレキシブル。

土壇場でセシリアはその力を自分のものにした。

 

しかし、最悪空中分解するとされていた禁じ手を使った機体は、その姿を維持できず崩壊を始める。

追撃を覚悟するセシリアだったが、体勢を整えたサイレント・ゼフィルスは明後日の方向にすっ飛んでいった。

その先にはシックザールと潤。

 

だが、様子がおかしい。

可変装甲を閉じながら、潤が二人の位置まで後退してくる。

サイレント・ゼフィルスとは、すれ違いざまに何かあるかと警戒したが、示し合わせたかのように両者が逃げを選択したため、互いに通過しただけ。

 

「潤、状況は?」

「アルミューレ・リュミエールと可変装甲を展開し、特攻をかけたんたが、……様子がおかしい」

「何かありまして?」

 

連続して放たれる砲撃、その放出の量を見極め、僅かでも少ない一瞬を見極めて突入した。

アルミューレ・リュミエールと可変装甲を展開し、見事顔を殴ったまでは良かった。

PS装甲越しでダメージなどない筈の一撃。

相手は予想外なことに、大量の血を吐き出して逃げ始めた。

当然砲撃は止み、思いのほか安全に離脱が出来たのだが……。

 

「……どうして?」

「分からん、だが、後方の会場から山田先生と、援護二人の姿を確認した。 今なら撤退出来る。 後は全て山田先生に託す」

 

ドリーが行動不能になったことを確認し、追撃の可能性は低いと判断した二人は素直に潤の指示に従う。

セシリアのブルー・ティアーズは分解寸前。

簪の打鉄弐式は過度な酷使のため全身がボロボロ。

メイン回路部分すら損傷しているため、全身オーバーホール確定となり、一月近く行動不能になるだろう。

潤のヒュペリオンは、アンロックユニットがオーバーホール確定で、胴体部分は要修理となるため、最低二日は使えないだろう。

今回のことから明らかであるように、ヒュペリオンにしろ、カレワラにしろ、立派なスペックに隠れて欠陥が多いため、スペアが多く用意してある。

故にヒュペリオンは修理期間が短いのだ。

潤が良く壊すから、――これもスペアが作られる要因にあったのだが。

システム再構成であっても三日もあれば動かせるようになるだろう。

 

真耶と教師二人がサイレント・ゼフィルスに仕掛けるのを見届けるよりも、何よりも撤退こそ重視した。

戦闘を見る余裕はない。

その姿はただの敗残兵のようだった。

 

 

 

---

 

 

 

「作戦遂行ご苦労――といって労ってやりたい所だが……まずは正座だ。 このリアル『ドン・キホーテ』共め」

 

戦士たちの帰還に対する声は、それはそれは冷たいものだった。

 

潤は作戦立案の際に、知っていた事を敢えて説明せずに勝手な行動を取ったとして。

ただし本人は気付かなかっただけのミスだ、と断言したためこれ以上の追及は、作戦立案の責任者である千冬も原因となる。

千冬も重々承知しているため軽い説教のみで終わった。

大人は卑怯ではないのです

もしもの際に保険を用意しているだけなのです。

 

セシリアはレースを放棄したための公開説教。

しかし、セシリアの援軍到着により生還できたようなもののため、潤の援護もあり、セシリアに対する説教は潤よりも短かった。

正座が苦手なセシリアの顔色が、赤から青に変わる前に終わったため、フォローした潤にさっと頭を下げて引き下がっていった。

 

そして――今回、生還した安堵をかき消すほど長時間きつく言われたのは簪。

撤退命令の自分勝手な拒否。

それによる全滅の危機を生み出し、捕虜の確保に失敗し、大局的に見れば敗北したに等しい状況にチームを追い込んだ。

 

「あ、あの、織斑先生。 もうそろそろそのへんで……。 更識さんも怪我していますし、小栗君も先ほどから意識を保つために太もも抓っていますし、ね?」

 

サイレント・ゼフィルスはシックザールが行動不能になり、攻撃三倍となったためあっさり撤退したらしい。

撤退援護に入ったのは金ピカ装甲の、何処となく龍を思わせるフォルムをした新しいIS。

相当な腕を持った相手だったようで、教師達を纏めて相手取った上で、殿の役目を果たして逃げおおせたとか。

そのお陰といってはアレだが、真耶は僅か数分戦っただけで帰還してきた。

 

「まあいい。 ……よくやった。 無事に戻ってきてくれて私も嬉しい。 まずは身体を休めろ」

 

褒めることに慣れていないのか、若干頬を染めて無事の生還を称えたが、当の潤はそんな賞賛すら『どうでも良い』な状態だった模様。

今は熱めのシャワーと湯上り後のマッサージチェアこそ最高の友と信じて疑わなかった。

 

「あの……潤? あの、その、――」

「……気にするな。 取り敢えず大会は無事遂行された。 目標を達している以上、多くは言わない。 俺たちは失敗なんてしてないさ。 ――ゆっくり休め」

「でも、ごめんなさい」

「――そうだな、また旨い弁当でも作ってくれ。 一緒に食べよう」

「う、うん! 絶対美味しいの造るよ!」

 

軽く微笑んで頷く。

誰が悪かったではなく、皆何かしら後ろめたいことのある戦闘だった。

生真面目な簪には、悪く思う心をそのままにしておくと逆に問題になるかもしれない。

ラウラと同じく、適当な罰がないと駄目な人間だ。

それが、美味しいご飯になって帰ってくるなら、誰も不幸にならない。

若干嬉しそうにする簪を尻目に、潤はシャワールームに入っていった。

 

 

熱いシャワーを浴びたら、スキンバリアーが消滅したことで、身体中に出来た傷が一斉に悲鳴を上げた。

だが、痛む代わりに生き残った実感を得られるこの悲鳴を、潤は昔から歓迎していた。

 

昔を思い返すほど厳しい戦い、それに負けたのだから。

 

戦闘目標は確かに達した。

古今東西のあらゆる戦争論には、『戦争の勝利とは目的を達成すること、目標を実現すること』と似たようなことが書かれており、IS学園側は行事遂行のための防衛戦闘に勝利したと言える。

だが、それはIS学園側から観ただけの、客観性に欠ける認識ではないだろうか。

何せ亡国機業の目的はイベントの妨害ではないのだ。

成功しつつあった捕虜の確保失敗、ヒュペリオンと打鉄弐式の情報収集成功、シックザールとサイレント・ゼフィルスの実戦投入データの取得。

亡国企業側は戦術的に失ったものがほぼ無い上に、戦略的に勝利を手にした。

その事を踏まえ、IS学園側が勝ったと言い張るのは、――いかに過ちなのかは言わずもがな。

誰だって分かる。

ただ、敵性IS六機の連続戦闘、ドリーが生み出した人工的な、嵐、津波、噴火、地獄絵図から生還した二人に、それを言い出せなかっただけだ。

 

「何故、あの狂犬は、吐血した?」

 

それ程立派なダメージではなかったはずだ。

出た量を鑑みても殴ったことが原因でないことは明らか。

薬が原因だと考えても、アレだけの副作用が出るものは記憶にない。

 

「まあいいか。 ヒュペリオンも半壊状態だし、次のイベントも少し先だし、暫く切った張ったをする必要はなさそうだ」

 

シャワー室から出て、頭を切り替えるためレースはどうなったかを、脱衣所の電光掲示板で確認する。

潤の予想では、本命がラウラ、対抗は箒と一夏、大穴でシャルロットか鈴。

なお、セシリアは大穴枠だった。

ラウラは単純な能力で選び、対抗は機体性能に注目した人選だ。

セシリアは機体も本人の資質もレース向きでなく、鈴はレースではコレといった強みが無い。

シャルロットはの大穴は意外かもしれないが、全て無難にこなせる強みがあるとはいえ、結局二位か三位を取るばかりが精一杯だろう。

器用貧乏タイプの悲しいところだ。

 

「さてさて……、――優勝はシャルロット? まーた、賭けは俺の負けかぁ。 癒子に何を毟られるのやら……」

 

潤はラウラ、本音は箒、ナギは一夏、癒子はシャルロットだった。

シャルロットを推していた癒子の一人勝ち。

 

優勝者として表彰されるシャルロットを称えるべく、ゴールした瞬間の画像と共に、レース内容の記事が作られていた。

記事から読み解くに、他の代表候補生を軒並み脱落させゴールしたようだ。

ラウラを容易く落とせる攻撃力を持った、見たことのない機体。

どうやら、こちらの目の届かない場所で色々あったようだ。

暫く切った張ったをする必要はなさそう、と独り言を呟いたが、早速フラグ回収の気配が漂い始めた。

彼女が新型に乗っているという事は、デュノア社に動きがあったということ。

 

 

せっかくの休み期間に、強烈な政治的なイベントの匂い。

また暫く気を張る必要がありそうだった。

 


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