一応閲覧注意と書いておきます。
そこまで酷い内容ではないですが。
それでは本編です。
ーー江ノ島視点ーー
現在chapter4の撮影が終わり、江ノ島と戦刃は学園の占拠に成功していた。
江ノ島は、校内に設置された監視カメラから〝ある少年〟のことを見やる。
その少年はいつだって彼女の邪魔をしてきた。
有象無象を〝絶望〟させることは、赤子の手をひねるかの様に簡単であった。
だが、その少年はどうしたって〝絶望〟させることができなかった。
彼女は〝二度の敗北と失敗〟を味わわされた。
彼女は自分の中に在る〝絶望〟と、少年の中に在る〝希望〟……
……どちらがこの世界の〝真実〟なのかを確かめたくなった。
彼女は〝最後の計画〟を前に昔を思い出す。
〝絶望〟に身を堕としたその時を。
初めて世界に〝希望〟を見たあの時をーーーーー
*****
ーー???視点ーー
ある所に、二人の男女がいた。
その男は非常に軽薄だった。
女もまた、思慮の浅い人間であった。
そしてある時、その女は〝双子の赤ちゃん〟をその身に授かった。
本来喜ばれる生命の誕生に、その男は……
『堕ろせ』
……そう、女に言った。
しかし、女はそれを拒み双子を産んだ。
男は世間体を気にし、仕方なく女と共に居た。
だが、男は外に他の女を作っており、常に遊んでいた。
女はそれに激怒する。
『子供達がいるのよ!』
『オメーが勝手に産んだんだろうがッ!!』
男は酒に溺れ、女に暴力を振るう。
彼等の関係は、とっくに終わりを迎えていた。
そこには〝暖かさ〟など無かった。
***
生まれた双子は姉妹であった。
姉は愛想こそなかったが、行動力に溢れた女の子であった。
一方妹は、そんな姉の後ろをチョコチョコと付いていくような、か弱い女の子であった。
そんな双子の姉妹の幼少期は、とても酷いモノであった。
家に帰れば父親とも呼ぶに値しない男に暴力を振るわれ、女は常にヒステリックで罵詈雑言を浴びせた。
姉は、男の暴力から妹を守り、女の暴言に怯える妹の手を強く握りしめた。
姉妹が生きるその世界には〝希望〟なんてなかった。
そんな世界で、姉妹の心が病んでいくのは時間の問題であった。
だが、姉はその〝絶望〟に屈しなかった。
〝妹を守る〟
その〝強い意志〟が、彼女に正気を保たせた。
一方のか弱き妹は、その〝絶望〟に身を委ねてしまう。
この〝冷たい世界〟に抗うには、とても勇気が必要だった。
姉にはその勇気があった。
しかし、妹には無かった。
故に彼女は…自身の心を守る為に……〝心を閉ざした〟。
〝絶望〟に浸食され始めた妹の、最後の心の拠り所は〝姉の存在〟であった。
ーー〝姉はいつも自分を守ってくれる〟ーー
ーー〝姉が居てくれれば、アタシは大丈夫〟ーー
だが〝この世界〟は、彼女に対してあまりにも無慈悲であった。
***
極寒の家庭はついに終わりを迎える。
当然、一人で姉妹を養うことができない男と女は、お互いが一人ずつを連れ離れていった。
妹は〝最後の希望〟であった〝姉の存在〟までも、〝この世界〟に奪われた。
この時、彼女の中で〝ナニカ〟が音を立てて崩れ去った。
彼女は世界に〝絶望〟した。
そして、彼女は知ったーーーーー
ーー『この世界に〝希望〟なんてない』ーー
ーー『この世界には〝絶望〟しかない…それが〝真実〟だ』ーー
*****
ーー???視点ーー → ーー江ノ島視点ーー
姉と離ればなれになった後、江ノ島は女に連れられどこかのマンションへと引っ越した。
そして、地獄のような日々が…始まった。
女がどこからか男を連れてくる。
父親だった男と同じように、軽薄そうな男を。
男は金をバラ撒き、女に暴力を振るい、犯す。
己の欲望を満たすかのように。
そして男は帰り、女が言う。
『アンタも、もっと尻尾を振りなさいよ…。
そうすれば、今よりもずっとお金が貰えるわ…。』
『何よ…その目は…。何なのよッ!!
アンタの為にやってやってるんでしょうがッ!!
……、そうよ…、仕方ないのよ…。
ガキを育てるために…私は好き勝手弄ばれてるのよ…。
…………。
そう…、ガキなんかいるから……。
…………。
アンタのせいで…私がこんなふうになったのよッ!!』
『次から……アンタもかわいがって貰いなさい…。
……いい、出来るだけ金を巻き上げるのよ…。
アンタは私の道具。
今まで私がアンタを養ってあげてたの…。
今度はアンタが私を養うのよ……。
……いいわね…。』
『……ッ!!
返事をしなさいッ!!糞ガキッ!!
……ハァ…ハァ…。
手間かけさせるんじゃないわよ……。
…………。
ふ、ふふ……。あはは……。
あはははははははははははははッ!!』
***
そしてその欲望は、江ノ島へと向かった。
男は彼女の身体を弄り、
服を乱雑に剥ぎ取り、
身体中を舐め回し、
最後の一線を越えようとする。
彼女は最早無感情であった。
畜生以下の男の顔越しに、下卑た女の顔が見える。
そして、男のゲロ以下の吐息を無視し耳を澄ませば…とても小さな声が聞こえてくる。
「誠ちゃ~ん、誕生日おめでと~!」
「おにぃちゃん!おめでとぉ!」
『壁の向こうから聞こえてくる、家族団らんの会話』
この瞬間、江ノ島に感情が芽生えた。
死んだはずの心が、激情が、爆発する。
何故アタシがこんな目に?
何故アタシだけがこんなに不幸なの?
隣のヤツ等の声色はなんだ。
己の欲を満たせて幸せか?
家族との時間は幸せか?
アタシがこんな世界に生きてて、オマエラは幸せか?
***
この時、江ノ島は〝不思議なオーラ〟を纏っていた。
そして男に言い放つ。
「この世界に〝絶望〟しながら……死ね。」
男が江ノ島を犯そうとしたその時、彼女の言葉を聞いた男は動きを止めた。
すると次の瞬間、男は服を着るまもなく発狂しながら部屋を出て行った。
そしてもう二度と、江ノ島の目の前に現れることはなかった。
江ノ島は次に、女へ視線を向ける。
女は〝異様なオーラ〟を纏う江ノ島を前に怖じ気づく。
言葉も発せずにいると、江ノ島の方から語りかけた。
「窮地に陥るとさ…人ってヤツはどうやら〝本気〟をだせるらしい…。
心なんて死んでたはずなのに……アタシも、潔癖でいたかったのかな…。
ま、そんなことはどうでもいいや。
大事なのは結果……。
男は何故か、狂ったように出て行った…〝アタシの言葉〟を受けて…。
……ちょっとさ、実験に付き合ってよ。
そんな怯えた顔しないで…、お母さん。
うぷぷ……、怖がる必要なんてないんだよ。
ただ身を委ねるだけで良いの……
〝絶望〟に……。」
*****
江ノ島はいつものようにランドセルを背負い、家を出る。
〝江ノ島〟〝苗木〟の表札を横目に、学校へ向かう。
教室に入れば、大勢のバカどもに囲まれる。
貼り付けた笑顔で、心底下らない会話をする。
心の底から絶望的だと思うこの世界で、それでも彼女は生きる。
*****
ーー???視点ーー
ここは〝白の世界〟。
見渡す限りの白。
そこにはアタシ一人だけ。
誰もいない。
そして、アタシの足下からは影が伸びている。
アタシと全く同じ形をした…影。
ふと、考える。
影があるということは、光が当たっているということ。
光があるからこそ、影が生まれる。
そんな、どうでもいいことをぼんやりと考える。
すると、声が聞こえてくる。
『痛いだろ?辛いだろ?』
ずっとずっと、聞こえてくる。
『逃げて良いんだよ…。』
ココにはアタシ一人だけのはずなのに。
『限界は近い。急がなければ…。』
声は止まない。
そしてアタシは理解する…その声の主を。
他ならぬ、自分の影から発せられていることを。
〝影〟は囁く。
『これは正当な自己防衛…。』
〝白の世界〟にいたアタシの足下の影が、形を変え広がっていく。
しかし、依然として声は聞こえてくる。
『ただ受け入れるだけでいい…。』
足下に正方形の形を成しながら広がった影は、アタシを覆うように尚も広がっていく。
『オマエはもう…分かっているんだろ?』
アタシの世界は正面の〝白〟だけを残し、〝黒〟に染まる。
〝影〟を生み出した〝光〟は遮られ、肌を心地良い寒さが伝う。
そして尚も、声は聞こえる。
『アタシの正体を…。』
アタシの正面の〝白〟は、次第と〝黒〟に浸食される。
そして〝白〟が窓くらいの大きさになったとき、アタシは見た。
窓の外に、〝光〟射すその空間に…〝
〝
『〝
『安心しなさい…、安心して……アンタはそこにいなさい…。』
『光射すこの世界でも、〝
『だから…、全て〝
そして〝白〟は〝黒〟に呑み込まれた。
アタシの世界は〝白〟から一転し、〝黒〟へと変わった。
真っ暗で、何も感じない。
冷たくて、きもちいい。
そんな…心地良い世界。
アタシはただ…この心地よさに身を委ねた。
*****
ーー江ノ島視点ーー
小学5年生になった時、江ノ島は苗木と同じクラスになった。
この歳にもなれば、子供であっても自我をハッキリと持つようになる。
自分と気が合う人間とそうで無い人間の識別。
好きな異性の存在。
多くの感情を理解出来るようになってくる。
しかし江ノ島は、そんな周りの人間を冷めた目で見ていた。
『ホント…実にくだらない…。〝世界〟はもっと単純だ…。』
『〝絶望〟…ただそれだけ…。』
『〝絶望〟だけがこの世界の〝真実〟だと言うのに…。』
『無意味な〝希望〟なんか抱いちゃって…。』
彼女に親しい人間はいなかった。
しかし、その容姿も相まって、誰もが知る程に人気であった。
彼女の周りには、男女問わずに人だかりが出来ていた。
江ノ島は笑顔の仮面を貼り付け、その下では酷く蔑んだ視線を送っていた。
そして、彼女はそんな彼等を見透かしていた。
男子は下心、女子はスクールカーストを気にしての行動であると。
学校で絶大な人気を誇っていた江ノ島の発言力はとても大きかった。
江ノ島に逆らうことは、集団から孤立することに他ならなかった。
最も、そうなるように江ノ島が心理操作を行ったのだが…。
***
そんな下らない日常で、江ノ島はふと思った。
『無意味な〝希望〟を抱いている奴等に〝世界の真実〟を教えてやろう』
『〝希望〟なんて抱くから〝絶望〟が生まれるんだ』
『〝絶望〟に身を委ねれば、これ以上の〝絶望〟を味わわなくて済む』
『辛いことも、哀しいことも、何もかもなくなる』
『これは、魂の解放』
狂気を湛え、江ノ島は嗤う。
彼女は〝絶望〟を教えてやるための計画を練った。
そして、そのターゲットを〝苗木誠〟へと定めた。
苗木をターゲットに選んだのは、彼が〝家族〟と〝幸せ〟そうに暮らしているのを知っていたから。
目に見えて世界に〝希望〟を抱いている苗木のことを、江ノ島は忌み嫌っていた。
そして、江ノ島に媚びを売らない数少ない人間であったからだ。
江ノ島はマンションでの出来事もあり、苗木を観察していた。
すると、苗木と仲の良い人間は自分に対して媚びを売ってこないことに気付いた。
どこか不思議な雰囲気を持っていた苗木は、クラスでも割と人気があった。
苗木の、心からの善意を嫌う人間は居なかった。
だが、江ノ島はそれが大層気に入らなかった。
〝自分の為にならないことを平気でするなんて〟
〝そんなのは所詮偽善だ〟
〝いずれボロが出る〟
〝そうに決まっている〟
〝絶望的な世界〟で生きている江ノ島には、苗木の〝無償の優しさ〟を理解出来なかった。
そして、江ノ島は学校の生徒を煽動し、苗木に対する〝イジメ〟を始めた。
*****
江ノ島はまず、男子数名に『苗木に酷いことをされた』と言いふらした。
江ノ島の泣きながらの訴えを、疑う人間はいなかった。
勿論、江ノ島の演技であったが…。
学校のアイドルである江ノ島のこととあって、〝噂〟は瞬く間に広がる。
江ノ島に好意を寄せる生徒は数多く居た。
これにより、男子による〝イジメ〟が始まった。
無視や暴力、暴言に陰湿なモノまで、様々なイジメが苗木を襲った。
女子もまた、江ノ島が苗木を嫌っているとあって、苗木に優しくする人間は居なかった。
イジメられている人に手を差し伸べることの出来る人間は少ない。
その人物に関わったら、自分までイジメのターゲットにされてしまうから。
そう言った集団心理も働き、苗木を助ける生徒はいなかった。
〝絶望〟は〝伝染〟し、苗木を取り囲む。
逃げ場など与えないように、徹底的に。
そんな中、江ノ島は全校生徒の目を欺き、〝唯一苗木に優しく接した〟。
***
〝江ノ島の計画〟はこういうものであったーーーーー
まず、生徒達によるイジメを煽動する。
同時に、教師に対しても心理操作を行い、苗木を孤立させる。
苗木がイジメを受ける中、江ノ島だけが優しく接する。
こうして苗木が江ノ島を信じ、依存するように仕向ける。
そして、江ノ島を信じ切ったその時、このイジメの黒幕が自分であると明かす。
最大の裏切りにあった苗木は〝絶望〟する。
ーーーーーこれが大まかな〝江ノ島の計画〟であった。
〝絶望〟からの唯一の逃げ道。
ソレを人は〝希望〟と呼ぶ。
しかし、その先に待ち受けるのは〝真実〟。
どうしようもなく〝絶望〟に塗れた〝真実〟。
江ノ島は、〝真実〟を突き付けるために暗躍する。
嗤いながら、苗木を〝絶望〟へと誘う。
***
〝計画〟は順調に進んでいた。
次第に顔はやつれ、疲弊していく様が見て取れた。
この時江ノ島は苗木が家族に頼る可能性も考えたが、そうはならなかった。
もしそうなっていた場合は、自らの母親と同様に〝パワー〟を使い対処するつもりでいた。
人を狂わせる、〝パワー〟を。
しかし、その必要はなかったようである。
苗木は家族に心配されないように〝イジメ〟のことを隠していた。
江ノ島は念のために、苗木の妹から情報が漏れないようにも心理操作を行った。
彼女の計画は乱れることなく予想通りに進んでいった。
そして、時が満ちたーーーーー
***
江ノ島と苗木は学校の保健室にいた。
「ねぇ苗木…。もう学校来ない方がいいって。
今日だって上級生に殴られてさ…。
ただでさえ小さいんだから…、体が保たないって。」
江ノ島は心にも思っていない言葉を平然と並べていく。
そんな江ノ島に苗木は…、
「ありがとう…江ノ島さん…。
でも、ボクは大丈夫だよ…。」
そう言う苗木の顔は、誰がどう見ても大丈夫ではない。
「はぁ…。アンタ、少し自己犠牲が過ぎると思うよ。
明らかに悪いのはアイツらじゃん。
なのにさ…、なんで文句の1つも言わない訳?」
無表情で問う江ノ島。
江ノ島は、苗木が既に〝絶望〟に染まっていると予測していた。
しかし、その予測は外れていた。
苗木は疲れてこそいたが、〝絶望〟した訳ではなかった。
「だってさ…、みんながボクに対してすることは…。
きっとボクが…何か、みんなをイライラさせるようなことをしてしまっているからだと思うんだ。
だから…、ボクはみんなを責めることが出来ないよ…。」
それを聞いた江ノ島は思わず叫ぶ。
「はぁ!?意味わかんないッ!
どうやったらそんな考え方になんのッ!?
相手を傷付けないことが優しさだと思っているわけッ!?
自己犠牲が美しいとでも思ってんのッ!?
……気持ち悪い。アンタ、気持ち悪いよ……。
いや……違う…、狂ってるのよ。
アンタは既に、どこか狂ってる。アタシと同じように……。
でも違う。
アンタの〝ソレ〟は〝絶望〟じゃない…。
……。
……。
なんで〝絶望〟しないの?
いい加減に気付よ…。
アンタの自己犠牲の先にあるのは〝破滅〟。
〝この世界〟はアンタが思っているような〝優しい世界〟じゃない…ッ!!」
怒りを露わにし、矢継ぎ早にまくし立てた江ノ島だったが、一呼吸おく。
そしてーーーーー
「もういいや…。ねぇ…苗木。
〝このイジメ〟がどうして起きたか知ってる?」
「えっ…?」
江ノ島の言葉に、苗木は驚く。
そんな苗木に構うことなく、江ノ島は話を続ける
「いい?よく聞けよ…。
アンタのイジメの〝黒幕〟はあたし…。
みんなを煽動してアンタをイジメるように仕向けたの…。
理由を教えてやろうか?
それは……、
ただムカついたから。それだけ。
アンタが思っていたような理由なんてないのッ!
アンタは何もしてないし、何も悪くない…。
それでもアンタは〝イジメ〟を受けた。
いいッ!?〝世界〟なんてこんなもんなのよッ!!
〝この世界〟に救いなんてないッ!!
〝無慈悲〟で〝残酷〟なのッ!
それが〝真実〟なわけッ!!」
『〝この世界〟は〝絶望〟で出来てるんだよォッ!!!』
〝それ〟は江ノ島の心からの叫びであった。
家庭内暴力を受けていた江ノ島。
誰に助けを求めても、手を差し伸べてくれなかった。
どれ程願い、求めても〝希望〟なんてなかった〝この世界〟。
江ノ島は〝それ〟を苗木に突き付ける。
苗木はそれを聞き、俯いたまま黙り込んだ。
江ノ島は勝ちを確信した。
だが、再び上がった苗木の顔は……
……〝優しい笑顔〟であった。
***
「そっか…、よかった…。」
「はぁぁッ!!??」
江ノ島の顔は驚愕に染まる。
「アンタ、ついに頭おかしくなったんじゃねーのッ!?」
「酷いなぁ…。別にそうじゃないよ…。」
「いいや!おかしいねッ!!狂ってるってッ!!」
江ノ島は苗木の反応に理解が追いつかない。
〝江ノ島の知っている世界〟は〝理不尽〟で〝無慈悲〟で〝残酷〟だった。
目の前の苗木も、〝それ〟を知ったはずだ。
なのに、苗木は笑っていたのだ。
江ノ島は最早半狂乱だった。
「どうやったらそんな結論になんのよッ!!」
「どうして笑ってられんのよッ!!」
「なんで…ーーー!」
「どうして…ーーッ!!」
「…ー!」
「…。」
肩を大きく揺らし荒い息づかいの江ノ島に、苗木は話しかける。
「誰も悪い人がいなくてよかったよ…。
江ノ島さんがどうしてボクに対してムカついたのかはわからないけど…、
他人にイライラすることくらい誰にだってあるよ…。
今回はそれが行き過ぎちゃって…、偶々ボクに向いちゃっただけ…。
でもボクで良かったよ…。
誰かが傷つく姿は見たくないから…。」
〝同じ世界〟を見た時、苗木と江ノ島の出した〝答え〟は大きく違っていた。
苗木は、この世界の理不尽さも残酷さも笑い飛ばしたのだ。
苗木の〝強すぎる心〟は〝絶望〟には屈しなかった。
江ノ島は混乱していた。
苗木に〝世界の真実〟を見せたはずだった。
だが、それでも苗木は〝この理不尽な世界〟に〝希望〟を抱き続けたのだ。
そんな、呆然としていた江ノ島は苗木の言葉に我に返る。
「ねぇ…、江ノ島さんは〝この世界〟に〝絶望〟しているの?」
「……。」
「ボクさ…、江ノ島さんの笑っているところを見たことが無いんだ…。」
「……ッ!」
苗木は、江ノ島の〝偽りの笑顔〟を見抜いていた。
苗木もまた、江ノ島が自分が住むマンションの隣に住んでいたことを覚えていた。
そんな少女は、いつもつまらなそうに笑っていた。
心優しき苗木が、その少女のことを気にしないはずもなかった。
「ボクじゃ…、江ノ島さんの助けにはなれないかな…?」
「……ッ!!」
江ノ島は、生まれて初めて手を差し伸べられた。
だからこそわからない。
〝冷え切った世界〟へ急に訪れた〝暖かさ〟
〝絶望しかなかった世界〟に初めて射した〝希望の光〟。
暗闇の中に居続けた彼女は、その〝かすかな光〟すら、まばゆく輝く太陽の様に見えた。
苗木の〝言弾〟は確かな〝希望〟を乗せ、江ノ島の〝閉ざされた心〟に小さな穴を開けた。
気付けば、江ノ島は泣いていた。
姉と離ればなれになり心を閉ざしてから、涙を流したことはなかった。
しかし今、自然と溢れだしたのだ。
一度溢れだした感情は、留まるところを知らない。
ずっとため込んできた〝ナニカ〟が江ノ島の中から薄らいでいく。
「な、なんであたし…泣いてんのよ…。
わけわかんない…。
こんな感情…知らないッ!!気持ち悪いッ!!
なんなのッ!!なんなのよォォッッ!!!」
そんな、狼狽する江ノ島を苗木は優しく抱きしめる。
「辛かったね…。哀しかったね…。
江ノ島さんは頑張ったよ…。
出来ることを全部やったんだよ…。
だからさ…、そんな頑張った自分を…そのまま受け入れてよ…。
今までの江ノ島さんも、今の江ノ島さんも…、全部本当の江ノ島さんなんだよ…。」
苗木の〝優しさ〟は少しだけ〝江ノ島の心〟を溶かした。
〝絶望だけが支配した江ノ島の心〟には、小さくではあるが確かに〝希望の光〟が宿ったのだった。
*****
〝一度目の敗北〟を思い出した江ノ島は、再び画面の向こうに居る少年へと目を向ける。
呑気にベットへと横たわっているその少年は、これから起きることをまだ知らない。
江ノ島は自分自身のことを今一度考える。
(アタシの中で今も輝き続けている〝希望の光〟…。
苗木に貰ったこの〝光〟…。
〝この計画〟の先に…あたしは一体何を見るんだろう…?)
江ノ島は目を閉じ、心の整理を付けた。
そして校内放送のスイッチを入れる。
「おい!オマエラッ!
呑気に眠りこけてる場合じゃねーぞッ!
〝絶望の映画撮影〟は今から始まるんだからなァッ!!」
〝超高校級の希望〟と〝超高校の絶望〟の最後の戦いは今、幕を開けるーーーーー
ミナサン!こんにちはでちゅ!
今回は今まで謎だった〝苗木くんと江ノ島さんの過去〟が判明しまちたね!
この世界が江ノ島さんと言う〝絶望〟を作り出してしまったんでちゅね…。
先生は悲しいでちゅ…。
それでは、仕事をしていきまちゅね…。
以下ウサミファイルより抜粋
・上記がchapter2にて判明した苗木誠の秘密である。
・家庭環境と姉との離別により江ノ島は〝絶望〟へと堕ちた模様。
・江ノ島は苗木により〝希望〟を抱くも、依然として〝絶望〟を名乗る。
それではミナサン!また今度も会いに来てくだちゃいね!