10周年を機に再び書き始めました。
一応エピローグ以外を書き終わりましたので、順次投稿していきます。
ーー苗木視点ーー
江ノ島による学園占拠から既に、2日が経過していた。
江ノ島は宣言通り、苗木を除く5人に記憶の操作を試みた。
本来ならば1日で刷り込みが終わることを予定していたが、腐川のもう1人の人格であるジェノサイダー翔の記憶の書き換えに手間取っていたのだ。
しかしその作業も終わりを告げ、ついに〝計画〟が動き出した…。
***
苗木は現在、5階の探索を行っていた。
chapter4からの続きであるため、新たな階層が解放されていたのだ。
しかし、苗木の心中は探索どころではなかった。
5人の記憶を上書きしている内に、江ノ島はモノクマ伝いに現在の状況とこれからのことを苗木に伝えていたのだ。
故に……
(探索前に食堂でみんなと会ったとき、明らかに話が噛み合わなかった…。
まさか…、本当に記憶が無くなってるなんて…。)
江ノ島の話が本当であったと知り、苗木の心は不安に支配されてしまう。
しかし苗木に出来ることは、江ノ島のシナリオに身を任せることだけだった…。
(記憶を失ってる状態じゃ、何を言ってもついに頭がおかしくなったのかって言われるだけだ…。
爆弾も設置されてるみたいだし、今は江ノ島さんの言うことを聞くしかない…、か…。)
一寸先は闇。
しかし「兎に角やるしかない」と、苗木は自らを鼓舞し、探索に集中するのであった。
***
時刻は夜時間の少し前。
6人は探索の報告をするために食堂に会していた。
この時、苗木は結局流れに身を任せることしか出来なかった。
多くの仲間を失った記憶を持つ5人。
本当は誰も死んでいないのだと伝えたかった。しかし、彼等にとってあまりにも突拍子のないことを、言い出せる雰囲気ではなかった。
そんな、若干上の空の苗木を放置し報告は次々に終わっていく。
そして、議論は霧切の正体へと移っていった。
「記憶が無いのよ。」
霧切は表情を変えずに言い放った。
彼女は記憶操作の際、学園生活の記憶だけでなく自身の才能や学園に来た目的さえも奪われていたようだ。
そんな発言に、一同は騒がしくなる。
「信じて貰えるとは思ってなかったわ。…だから言いたくなかったのよ。」
その後、十神が霧切の行動を制限すべく彼女の個室の鍵を要求する。
対する霧切は、自らの部屋の鍵をあっさりと十神に渡した後、食堂を去っていった。
そして入れ替わるようにモノクマが現れ〝宝物〟が盗まれたと激高していたが、またすぐにいなくなってしまった。
このまま集合している雰囲気でもなくなり、残された5人は夜時間を告げるアナウンスと共に解散するのだった。
***
(このナイフ、どうしようか…。)
苗木は先程の報告の際、腐川が見つけたサバイバルナイフを預かることになっていた。
そして、それを机の中に入れ、苗木は再び今日起こったことを思い出す。
(みんなの記憶…、江ノ島さんのシナリオ…、ボクとの決着…。
学園の外は、いったいどんな状況になっているんだろう…。
そしてボクは、これからどうすればいいんだ…。)
決して結論の出ない思考に飲まれていると、不意にインターホンがなった。
重い身体を動かしドアを開け、苗木が相手を確認すると、その相手は霧切であった。
***
苗木の部屋へとやってきた霧切は、彼を脱衣所へと呼び出した。
そして大神の裁判後、学園長室の扉が壊されておりそこから"モノクマのデザインが施された鍵"を盗み出したこと、その鍵が何処の鍵なのかを探る為にモノクマを引き付けて欲しいことを苗木に伝える。
さらに『私に万が一のことがあったら開けて欲しい』と苗木に言い残し、小さな封筒を預け去っていった。
そんな彼女の瞳には、未来へ向かう為の強い意志が宿っていた。
***
苗木は、ただただ呆気にとられていた。
記憶をなくし、絶望的な状況にいてなお不適に笑って見せた霧切。
そんな彼女が去っていった方をぼぅっと見ていると、最早聴き慣れた声が鼓膜を揺さぶる。
「やあやあ苗木クン!2人っきりでナニをしてたの〜?
健全な撮影を心がけているボクとしては、そういうのは困っちゃうんだよな〜。」
「…モノクマッ!」
霧切との約束を守る為に呼ぶつもりでいたモノクマが、自ら現れる。
「うぷぷ。大方、ボクを引き付けておくように言われたんでしょ?」
「……ッ!?」
「ちょっとは隠す努力をしたらどうなの?うぷぷ!」
モノクマーー江ノ島盾子は、全てを分かっていると言わんばかりに余裕を醸し出す。
そんな江ノ島に対し、若干の不信感を抱きながらも苗木は会話を試みる。
「全部分かってるの?江ノ島さんは…。」
「勿論だよ。霧切さんが〝特別な鍵〟と〝戦刃むくろのプロフィール〟を学園長室から盗み出したこととかね…。」
「戦刃さんのプロフィール?」
「そ、この撮影は私様もお姉ちゃんも参加してるんだよ!」
「え…?でも、江ノ島さんの出演はミライ機関の人達に止められてたんじゃ…?」
「何を今更…。もうそんな事言ってる場合じゃないでしょ?
それに、今の情報は黒幕の謎を解く為の大ヒントだよ!出血大サービスッ!」
***
霧切の目論みを見透かし、あえて泳がせている様子を見せる江ノ島。
そんな江ノ島に対し苗木は、目の前の存在をモノクマではなく江ノ島盾子と認識して接することを選んだ。
そしてその後、2人はまるで友人同士のように語らっていた。
昔の事、クラスメイトと過ごした、騒がしくも暖かい日々の事。
「ねえ…、今日はよく喋るね。」
「……。」
苗木の質問に、モノクマは数秒の間沈黙する。
そして、
「ま、これが最後になるかもしれないしね…。」
江ノ島の感情を、苗木は読み取ることができない。
唐突な言葉に、今度は苗木が沈黙していると……
「苗木クン、この学園は世界の縮図なんだよ。」
モノクマーー江ノ島盾子は、独り言のようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「理想の場所、自分の在るべき立ち位置を探し……」
ーー舞園さやかが縋ったように
「自分と周囲の人間とを比べ、比べられ、葛藤し……」
ーー大和田紋土が苦しんだように
「金が物をいう世界に辟易し……」
ーーセレスティア・ルーデンベルクが求めたように
「誰かを信じようとも、裏切られ……」
ーー大神さくらが掴めなかったように
「いつかは朽ち、壊れていく……」
ーーアルターエゴが散っていったように
「そんな……、そんな虚しい世界そのものなんだよ。」
苗木は、江ノ島の言葉を黙って受け止めた。
そして……
「そうだね…。確かに、ボクたちはちっぽけな存在だ。
怯え、悩み、苦しみ。そんな、辛いことがいっぱいだ。
でもね、それと同じくらい楽しいことだってあるんだよ。
キミが知らないだけで、この世界には沢山の幸せに満ちているんだよ。」
苗木もまた、独り言のように呟いた。
***
しばらくの静寂が、その場を包んだ。
何分たったかわからない。
2人はただ、その場に立ち尽くしていた。
けれど、その距離感が心地いい。
「うぷぷ。相変わらず前向きだね〜。
絶望に満ちたこの学園……世界にいて尚、希望を抱き続ける!
やっぱり〝超高校級の希望〟はそうでなくちゃね!うぷぷ!」
「……?」
「苗木クン!キミはそのまま進み続ければいいと思うよ!
そしてボク……いや!私様の元までたどり着いたのなら!
その時は決着を付けようじゃない!」
江ノ島は、矢継ぎ早に言葉を紡いだ。
そして、
「まっ、辿り着けたら…ね。うぷぷぷぷ。」
不気味に笑うと、モノクマは〝ピョン〟という効果音と共にジャンプし、
〝プシュ〟
と、香水のようなナニカを、苗木の顔へと吹きかけた。
「じゃあね!お大事に!」
そう言うと、モノクマはどこかへ去っていった。
「うわっ、何だ…これ。匂いは無いみたいだけど。なんだったんだ?」
唐突に終わりを告げた2人の語らいは、妙な不安を残していった。
そして、取り敢えずの目的を達した苗木は、自分の部屋へと戻っていくのだった。
******
ーー江ノ島視点ーー
苗木と霧切の密会の翌日、黒幕こと江ノ島盾子は覆面に白衣という奇抜な衣装に身を包み、息苦しそうに胸を押さえる小さな少年を見下ろしていた。
昨日のモノクマによる香水が、効果を現し始めた様である。
「苗木……こうして直接会うのは、これが最後かもしれないわね。」
江ノ島は、彼の部屋から回収したナイフを手元で光らせながら、語り出す。
「私様の未来予知にも等しき分析力が、この瞬間が最後である可能性を導き出したわ。」
その声色は形容しがたく、その表情もまた、覆面によりうかがい知ることは出来ない。
「次の学級裁判ではきっと、あんたか霧切のどちらかが死ぬことになるでしょうね。
単純な確率は五分五分と言ったところかしら。
でも……」
江ノ島はここで言葉を切った。
そして、苗木が苦しそうに寝込むベットに腰掛け、彼の顔をそっと撫でる。
「とんでもないお人好しのあんたのことだから、きっと自分を犠牲にするんでしょうね。
例え、全てを知っていたとしても。」
覆面により、様子をうかがい知ることは出来ない。
しかし、江ノ島は満足したように立ち上がる。
「さてと……。そろそろ霧切のヤツが〝死神の足音〟とやらを聞きつけて来る頃かな。」
まるで、これから起きることを知っているかのようにつまらなそうに、しかし、どこか名残惜しそうに、江ノ島は呟く。
すると……
〝ガチャ〟
扉を開く音が聞こえ、江ノ島の予測通り霧切が姿を現す。
そして、苦しそうに横になる苗木と異様な人物を認識した霧切は…驚く様子もなく、覆面を捕縛する為臨戦態勢へと移行した。
しかし、そんな霧切を嘲笑うかのように江ノ島は華麗な身のこなしで彼女を躱し、逃走に成功するのだった。
*****
あーあ……。
いやはやまったく……。
ホント、あーあって感じ……。
こんな時、他の奴等は何を思うんだろうか……。
焦燥? 憎悪? 困惑? 悲観? 諦め? 無関心? 自己の正当化?
うーん……。
やっぱりこうよね……、
〝絶望的〟
うん。
やっぱりコレが、一番しっくりくるわね!
ん?
何が何だか分からないって?
まったく、絶望的に脳味噌の足りない連中ですね……。
仕方ない、説明して差し上げますよ、特別に、私様が。
んじゃ、説明開始ッ!
***
まず始めに、現状のおさらい。
学園に残る生徒は、私様を含め7人。
その内、2人ーー私様と苗木だけは記憶の操作を行っていない。
そして他の5人は、実際に何日もの間コロシアイ学園生活を送ってきたものと思い込んでいる。
しかし、そんな絶望的な状況にも関わらず彼等は、大神さくらの死を切っ掛けにし、ついに!
黒幕を倒すという目的の下、真の意味で団結するということに成功したのですッ!
そして、なんやかんやあって現在、苗木誠クンの〝おしおきタイム〟の真っ最中なのですッ!
……。
……。
……。
……。
……。
え?
ちゃんと説明しろですって?
嫌です。
飽きちゃいました。
だって……
霧切の正体を知るべく十神がモノクマを呼ぼうとすることも、
そこでピクリとも動かないモノクマを見つけることも、
他の連中を集め解体作業を始めることも、
黒幕が活動を停止していると判断することも、
その隙に学園長室に乗り込もうとすることも、
扉を破壊するべく腐川にツルハシを取りに行かせることも、
植物庭園で謎の死体を発見することも、
無理矢理覆面を外そうとし爆発が起きることも、
死体を霧切響子だと判断することも、
それを信じられない苗木が16人目の高校生の正体を話すことも、
死体のそばに落ちている鍵の正体を探ることも、
情報処理室のカギだと分かり調べに行くことも、
コロシアイ学園生活が生中継で全国ネットにより放映されていると知り更に絶望することも、
死体発見アナウンスが流れ学級裁判が開かれるようになることも、
捜査中霧切の部屋で戦刃むくろのプロフィールを発見することも、
コロシアイ学園生活の参加者が15人ではなく16人だと知ることも、
裁判開始時刻ギリギリに霧切が姿を現すことも、
裁判でアリバイのない苗木と霧切が疑われることも、
霧切が苦し紛れの弁論をすることも、
苗木が霧切の論に矛盾があると知りながらあえて見逃すことも、
その結果苗木が犯人となり処刑されることも、
全部、
何もかも、
余さず、
最初から最後まで、
完全に、
てっぺんからつま先まで、
すっかり、
丸ごと、
分析通りなんですもの。
以下ウサミファイルより抜粋
・霧切、十神、朝日奈、腐川、葉隠の5人は記憶操作を施され、コロシアイが行われてきたと思い込んでいる。(状況が原作と一致)
・江ノ島は感傷に浸りながらも計画を実行する。
・chapter5の撮影が行われる。
・学級裁判が行われ、苗木がクロに決まる。現在詳細は非公開
・情報処理室のテレビには細工が施されており、苗木を除く5人は自分たちの現状が〝生中継〟されているものだと思い込んでしまう。