ーー日向視点ーー
ついに学級裁判が始まってしまった。
急がなければ、処刑が行われてしまう。
俺はグラウンドに設置された対策本部で裁判の様子を伺っていた。
そして、時々無線で聞こえてくる探索班の情報を整理しつつ…絶望側の2人が潜んでいそうな場所を潰していく。隣を見やると、懸命にシステムの奪還を試みる七海と不二咲が目に入る。グラウンドの端では、左右田を中心として〝あのマシン〟の製作が急ピッチで進んでいた。
そして江ノ島がモニタールームを離れたことにより、ミライ機関の職員による爆弾の処理も行われている。
悔いの残らないように、最善の行動を。
しかしそう思えば思うほど、プレッシャーが重くのしかかる。
「くそッ!!」
思わず口から漏れてしまう。
もし絶望側の2人を見つけられなかったらどうする?
学園のシステムを奪還できなかったらどうする?
最悪、苗木が江ノ島を倒せばいい?
〝超高校級の絶望〟が死ぬのなら構わない?
……ダメだ。
〝超高校級の絶望〟だからって、見殺しになんか出来ない。
全員無事に、この映画撮影を終わらせる。
それが、俺に出来る江ノ島への仕返しだッ!
***
ーー戦刃視点ーー
盾子ちゃんの確保を目的とする私達6名は、地下処刑場へ続く通路にて激しい戦闘を繰り広げていた。
私達が通路に入るとそこは既に、大量のモノクマによって道が塞がれていた。
そして私達が敵意を向けた途端、モノクマの軍団は凶器を取りだし襲いかかる。
「おいッ!コイツ等マジだぞッ!?」
「むぅ……大した強さではないが、狭い通路でこの量となると…」
「おらおらぁぁあああッッ!!手応えが足りねーーぞッ!!」
「この程度じゃあ、準備運動にもならんぜよッ!!」
戦闘に特化した人選であるため、モノクマは次々と数を減らしていく。
しかしほぼ同じ量のモノクマが投入され続けるため、私達は少しずつしか前に進めずにいた。
「戦刃、どうかしたか?」
「いや、露骨に時間稼ぎされてるなって…」
今、どれくらい経った……
日向創の情報によると、既に学級裁判は始まっている。
このままじゃ、間に合わない。
……どうする。
思考に沈みかけたとき、中衛を務める大和田君の声が…私を現実に引き戻した。
「ワリィッ!一匹漏らしたッ!」
そのモノクマは、プログラムに沿った機械的な動きではなかった。まるで生きているようにヌルヌルと、しかし目にも止まらない早さで接近してくる。
「クッ!なんだッ!?この動きはッ!!」
私と同じく後衛を務める辺古山さんの刃を…一瞬の隙を突き、右腕を切り落とされながらも躱した。
「……ッ!!」
私は反射的にモノクマのかぎ爪をナイフで受け止めていた。
数瞬の鍔迫り合いの後、背後からの辺古山さんの一太刀によりそのモノクマは動きを止めた。
「何なのだ、今のモノクマは…」
それはまるで、盾子ちゃんが動かしているような……
いや、或いはもっとレベルの高い動き……
そして、私達が蠢くモノクマ達に一層の警戒を高めた…その時。無線から日向創の声が聞こえた。
「戦闘班聞こえるかッ!?
〝元超高校級の操縦士〟も絶望側かも知れねぇッ!お前達が戦ってるモノクマの中に紛れてる可能性があるッ!!」
たった今、それらしき個体と遭遇したよ。
……最悪だ。
私達を排除するというプログラムに沿った動きをするモノクマ。そして、〝元超高校級の操縦士〟が操作する変態的な動きをするモノクマ。
一瞬たりとも気を抜けない。
雑な戦い方も出来ない。
常に強い個体を意識しながら大量のモノクマと戦わなければならない。
〝絶望〟がジワジワと浸食してくる。
後出し後出しで、嫌な情報が開示されていく。
しかし、全員の顔色が悪くなったその時…無線は別の情報を私達にもたらした。
「それと半分、実験棟前の広場まで至急向かってくれッ!
なんか分かんねぇけど、地下へ続く道が見つかったッ!」
実験棟の近くにそんな通路あったか?
ふと湧いた疑問を、私は瞬時に〝ない〟と判断した。
私も知らない秘密の通路。
行ってみる価値はある。
でも、もし何の関係もない場所だったら……
もう、盾子ちゃんの元へは間に合わなくなる。
どうする……ッ!
即断できない自分が憎たらしい。
そんな私をよそに、大和田君が声を張り上げる。
「そっちの通路が江ノ島んとこに繋がってる根拠はあんのかッ!?」
「こっちも確かめてる時間はなかったんだッ!
モノクマがいて確認できなかったらしいッ!
ただの勘だッ!
だが通路は処刑場の方角へ伸びているッ!
可能性がないわけじゃないッ!!」
……決めた。
「わかった。向かうよッ!」
私は、直感を信じることにした。
恐らく、発見されることを想定していない通路だ。
モノクマがいたと言うけれど、こちらより少ないかもしれない。仮に向こうにモノクマが湧き出したとしても、一カ所に集中されるより多少はましだろう。
それにこの狭い通路で6人の隊だと、思ったように動けないっていうデメリットもある。
「メンバーはッ!?」
「現場に任せるッ!!」
リーダーにする人間違えたんじゃないかな…
まあ、今は気にしてる場合じゃない。
前衛と中衛の4人が、瞬間的に私を見つめる。
私が決めろって事か…
「77期生の3人はここでッ!そのまま突き進んでッ!
78期生の2人は私に付いてきてッ!!」
「おっしゃぁぁあああッッッ!!!」
「任せんかいッッ!!」
「承知した。」
「さっさと行くぞッ!戦刃ッ!!」
「……ふっ」
私達は急いで通路を戻る。
そして目指すは実験棟。
待っててね、盾子ちゃん。
必ずたどり着いてみせるからね……ッ!
*****
ーー日向視点ーー
「お、お待たせしましたで御座いーッ!」
〝元超高校級の建築士〟が、穴という穴から液体を垂れ流しながら作戦本部へと入ってきた。
「い、急いでくれとは言いましたけど……大丈夫ですか?」
「ぜはーっ、ぜはーっ……。
た、頼まれた品で御座いッ!」
彼女はそう言うと、とある建築物の図面を差し出した。
日向はそれを受け取り、七海にも声を掛ける。
「七海、改築後に提出された図面のデータはどうだ?」
「はいこれ」
七海はハッキング中の画面から目を離すことなくタブレット端末を差し出す。
日向はそれも受け取り、二つの品を見比べる。
「言われて気が付いたけど…今回の映画撮影の為に、学園のいろんな場所で改築工事が行われていた…。本校舎は勿論だが、隠し通路が見つかった実験棟周りもそうだ……
そして、不自然に工事期間が延びた建物が実験棟周り以外にもう一つ……」
日向は〝普通科生徒用学生寮〟の図面を見ていた。
「あの-…アタイが計測した学生寮の間取りで、何を調べているんで御座い?」
「建築に絶望サイドの連中が関わっている可能性があるんです…。俺達が捜している連中を匿う場所を作っていたかもしれない。
貴方に頼んだ正確な寮の図面と、改築に関わった業者が提出した図面に差異があれば……
そこに絶望サイドの人間が潜んでいるはずだッ!」
業界を代表する建築士である小柄な女性は…ほへぇ、と感心したように声を漏らす。
そして、素直な疑問を口にした。
「あのー、また聞いてもいいで御座い?」
「何ですか?」
日向は図面から目を離さずに返事を返す。
「アタイが〝絶望サイド〟でないっていう根拠はなんで御座い?」
「それですか。
俺も見落としてたんですけど、単純なことなんです。
貴方は江ノ島の〝絶望の言弾〟を受け、多少なりとも錯乱していました。
そして、78期生の介抱を受けて復調した…。既に〝絶望〟であったなら、あの時錯乱しなかったでしょうね」
「ほへぇ……」
小柄な女性はまたしても感心したように声を漏らす。
「最近の高校生は頭がいいで御座い…。
ん?この2階の間取り、おかしい……で御座い」
「え、2階?」
「ええ、ここでご……」
「…ああッ!
地下に繋がってるはずだから、1階ばかりを見てたけど……まさか2階に入り口があるとは…」
日向は急いで探索班に無線を繋ぐ。
「探索A班は〝普通科生徒用学生寮〟の208号室に向かってくれッ!備え付けられてるタンスの奥に地下へ繋がる階段があるはずだッ!くれぐれも気を付けてくれよッ!
次に探索B班だが、同じく〝普通科生徒用学生寮〟まで来てくれ。緊急用の脱出口があるかもしれないことを考慮に入れて、外で待機。
それと罪木、やはり万が一のことを考えてお前に頼みたいことがある。至急作戦本部まで戻ってきてくれッ!
何か問題があったら随時連絡を頼むッ!以上だッ!」
「「「了解ッ!!」」」
何重にも重なった声が日向の鼓膜を揺さぶった。
しかし、日向は動じることなく再び図面を調べ始める。
できる限りのことをする為に……
刻一刻と、時間は過ぎていく。
誰もが、最善を尽くす。
最良の結末を迎える為に。
*****
ーー狛枝視点ーー
ボクは景品で手に入れたボールを地面に投げてはキャッチし、投げてはキャッチし……そんなことを繰り返しながらも学園へとたどり着いた。
「さて、今はどういう状況なのかな…」
一瞬、気がそれた。
すると…ボクが投げたボールは足下の小石に当たり、実験棟へ続く道へと転がっていった。
やれやれ、ついてない。
放置しておくわけにはいかず、ボクはボールを追いかける。
やっとの思いでボールの元までたどり着くと、変な凹みの上で止まっていたことに気が付いた。
なにかと思い調査してみると、その凹みは自動ドアのように急に左右に開いた。
そしてその奥に、怪しげなスイッチが現れた。
ボクはそれを押した。
だってさ…あまりにも怪しいんだよ。
それに押したくなるでしょ?
これ見よがしなボタンってさ。
まあそんなことはさておき、ボクが見つけたスイッチを押すと…実験棟前の広場に地下へ続く通路が現れた。
ここまで来て中を確認するわけにもいかず、ボクは足を踏み入れる。
そこは…ひどく無機質だった。
希望ヶ峰学園にしては、あまりにも簡素というか。
だから推測するに、突貫工事で作られたのだろう。
内装に凝る暇もなく、急いで。
しかし、そんな通路に一つだけモノがあった。
というか、モノクマがいた。
そしてボクが近づくと、モノクマは突然動きだした…どこからともなく刀を取り出して。
急な出来事に驚いて、ボクは手に持っていたボールを落としてしまう。
しかし幸運なことに…ボールが地面に接地したちょうどそのタイミングで、後退するボクの足がそのボールを踏んづけた。……つまり、尻餅をつきながら転んだ。
でもそのおかげで、横薙ぎに振るわれた刀を躱すことが出来た。そして刀は壁に突き刺さり、モノクマはそれを引き抜こうとする。
ボクは退くことにした。
ボク如きの才能では…先に進めなさそうだ。
さて、そろそろグラウンドに設置されている作戦本部に向かおうかな。
ボクは小走りで向かった。
***
「……と、言うわけなんだよ」
「はぁッ!?」
日向クンはボクの胸ぐらを掴みながら怒鳴っている。
「本当かッ!?通路が伸びる方角はッ!?」
「本校舎の方角だったよ…。だからまあ、処刑場へ繋がっている可能性はあるかもね」
「中はどうだったッ!?」
「モノクマがいたよ。
武装してたから引き返しちゃったけど」
日向クンの顔には汗が浮かんでいる。
どうするべきか迷っているのだろう。
……いいね…美しいよ。
キミが選んだ選択の先には、どんな〝希望〟が待っているんだろうね。
ここでふと、ボクはあることを思い出した。
ある疑問を…
「そう言えばさ、苗木クンが処刑されそうだった時……つまり江ノ島さんの〝言弾〟とやらが校外を襲った時……
一体誰が、音声を切ったんだい?」
「……そう言えば、誰なんだ?
学園長、誰だったんですか?」
日向クンは、無線にてミライ機関の職員達に指示を出す学園長にそのまま疑問を投げかける。
そしてその答えは、更にボクの疑問を深めることになる。
「そうだね、〝元超高校級の操縦士〟と言えば…君達にも分かるかな?」
「そうだったんですか。ありがとうございます、学園長。
……だそうだ。おい、狛枝?お前聞いてたか?」
日向クンは今の話を聞いて不思議に思わないのだろうか。
それに〝元超高校級の操縦士〟って確か……
「おい、大丈夫か?」
「ボクは大丈夫だよ。
それよりもさ、〝元超高校級の操縦士〟は何故…〝絶望の言弾〟の影響を受けなかったんだい?
78期生達のように〝希望の言弾〟の影響を受けていたのかな?」
ボクが疑問を口にすると、学園長が反応した。
「……そう言われると、彼はあまりにも普通だった。
私ですら、不快感でまともに動けなかったのに…」
過去に傷を負っていたけれど、〝希望の言弾〟の影響も受けてたはずのボク達。
そんなボク達ですら、まともに動けなかった。その場にいた〝元超高校級達〟も、例外ではないはず。
それに、彼は……
「となると彼は今、どこにいるんだろうね…」
ボクの言葉を受け、学園長はすぐさま無線を操作する。
しかし……
「……繋がらない…」
やはり、クロと断定してよさそうだ。
だって彼は……
「花村クンと弐大クンがおにぎりを持ってくる少し前にさ、ボクは目撃したんだ…。
工事期間が何故か延期された…〝普通科生徒用学生寮〟に向かう彼の姿をね。」
日向クンが、すぐさま無線めがけて声を上げる。
相対する敵が増えたかもしれないと……
切羽詰まった状況。
突き付けられる選択。
迫る結末。
一体誰が、どんな〝希望〟を手にするのか。
ボクは学級裁判を映し出すモニターを見やる。
〝超高校級の希望〟もまた、更なる〝希望〟を手に入れようとしている。
そして、ボクは江ノ島さんへと想いを馳せる。
ボクは〝希望〟が好きだ。
愛してると言ってもいい。
そして、〝絶望〟は忌むべきモノだ。
しかしこの〝絶望〟に…〝江ノ島盾子〟という存在に…
ボクはある種、羨望すら抱いているんだよ。
〝絶望〟は〝希望〟の為の踏み台。
〝超高校級の絶望〟は〝超高校級の希望〟の為の踏み台。
……そう。
そうなんだよ、江ノ島さん。
キミが……
キミだけが……
苗木クンが更なる〝希望〟を手に入れる為の踏み台になれる。
キミにしか務まらない。
だから……
キミを死なせるわけにはいかないんだよ、江ノ島盾子さん。
*****
ーー戦刃視点ーー
私、大神さん、大和田君の3人が実験棟前の広場にたどり着く。そこには連絡通りに地下へ伸びる階段と、狛枝凪斗の姿があった。
そして、狛枝凪斗はニコニコと私達に手を振っていた。
しかし私達は、そんな彼には目もくれることなく地下通路へと進入した。
すると、壁に刺さった刀を抜こうとするモノクマが目に入る。
先陣を切る私はそのモノクマを蹴り飛ばす。そして起き上がりざまにナイフを脳天を突き立て、トドメを刺す。
そこから更に進むも、モノクマは出てこない。
体感的にも、処刑場へ繋がっているように思える。
正解だったか。
微かな〝希望〟を見いだした直後…。
私の視界に、巨大な壁が立ちはだかった。
物理的にも、精神的にも……
「何なのッ!これッ!!」
「ぬぅ……我の拳でもかすり傷一つ付かぬか」
「壊すのは無理だッ!このダイヤルロックの番号は分かんねぇのかッ!?」
ダイヤル式の鍵で閉ざされた、あまりにも硬い扉。本来のシェルター化計画で用いられるような、特殊な素材でできた扉。
ナイフも、銃も、拳も、まるで意味を成さない。
適当な数字を入力しようにも、桁数が多すぎる。
〝十三桁〟なんて……
当てずっぽうでどうにかなるモノではない。
……不可能だ。
〝希望〟が〝絶望〟に浸食されそうになるのを、どうにか振り払う。
止まっちゃダメだ…諦めちゃダメだ。
考えるんだ…打開する方法をッ!
私が、足りない頭をフル稼働させていると…その声は突然聞こえてきた。
「あれ、扉なんかあったんだ」
〝私立希望ヶ峰学園 特別科〟
そこに籍を置く者は、須く秀でた才を持つ。
〝超高校級〟たり得るナニカを、持っている。
「……お。どうやら開いたみたいだ。
あはは、ボクのゴミみたいな才能が役に立つなんてね。
今思えば、花村クンが作ってくれたおにぎりを食べられなかったのも…不運ってわけではなかったのかな。
まさかハズレたクジの番号が、アタリだったなんてね」
〝超高校級の幸運〟は、事もなげに扉を開けてみせた。
そして、呆然としていた私達に言い放つ。
「さあ、キミ達の〝希望〟を見せてくれ…。
その為なら、ボクは喜んで踏み台になるよ」
私は進む。
ひたすらに。
我武者羅に。
〝絶望〟に塗れたこの世界にも、〝希望〟があることを証明する為に。
以下ウサミファイルより抜粋
・探索A班、探索B班により、江ノ島に味方していると思われる〝元超高校級〟の探索が行われる。
・戦闘班は映画撮影の際に使われていた処刑場へと続く通路より、江ノ島の捕縛を目指す。
・処刑場へと続く通路には大量のモノクマがおり、足止めをくらっている模様。
・狛枝によってもたらされた情報と〝元超高校級〟の協力により得られた情報から、探索班は普通科生徒用学生寮へと向かう。
・上記と同様に、狛枝の情報をもとに戦闘班は二手に分かれ、それぞれ処刑場を目指す。
・戦刃達が進む隠し通路には特殊な素材でできた扉が設置されていた。ダイヤルロック式であり、その桁数は十三桁であった模様。
・狛枝の活躍により戦刃達は扉を突破。依然として処刑場を目指す。