ーー戦刃視点ーー
私達は〝超高校級の幸運〟の力のおかげで、扉を突破することに成功した。しかし扉の先に待ち受けていたのは、先程と同じ大量のモノクマだった。
それを見た途端、私の足が重くなる。
モノクマがいるということは、処刑場へ続いている可能性が高いということ。喜ばしいことではあるが、目的地までの時間が掛かってしまう。
やるしかないと、私が再び足に力を込めた直後……一匹のモノクマが壁や天井を跳躍しながら接近し、刀を振り下ろしてきた。
しかし……
「ぬんッッ!!」
私だけをターゲットにしていた為か、横から飛来した大神さんの攻撃をもろに受け活動を停止した。どうやら〝元超高校級の操縦士〟が操るモノクマは、どちらにも現れうるらしい。
それにしても、さっきから私ばかり狙われているような……
兎に角、私達は先を急いだ。
そして先に進んでいる内に、大量のモノクマがいたのはあの扉付近だけだったということが分かった。さっきの通路よりも格段に早く進めるし、処刑場までの距離も近い。
間に合う……
私の〝希望〟が強くなると同時に、前方より大量のモノクマが波のように押し寄せる。
「邪魔だぁぁあああッ!!」
切り裂いては撃ち、撃っては切り裂く。
私は進む。
確かな〝希望〟を持って。
切り裂いては撃ち、撃っては……
「……ッ!」
殺気。
自律プログラムに従い、大和田君に狙いを定めていたはずの個体が…急に方向転換し私に襲いかかる。
……油断した。
しかし、同じく殺気を察知した大神さんによって…その攻撃は防がれた。
「…………。
……戦刃よ、こやつの狙いはどうやらお主のようだが、我が請け負っても構わぬか?」
大神さんは、若干怒気を放ちながらも聞いてきた。
勿論、相手をしてくれるのであればありがたい。
「……そうか。
こういったことは好かぬが、仕方あるまい」
そう言うと彼女はモノクマ、というよりも〝元超高校級の操縦士〟に向かい挑発を始めた。
「貴様、聞こえているのであろう?
我とて、まだまだ未熟……
何度も存在を無視されただけで、まるで我が構うほどの者ではないとでも言われているようでな……
格闘家としてのプライドが、少々傷付いたぞ」
大神さんは、言い終わるや否や殴打を繰り出し、モノクマを粉砕した。
そして……
「それに、〝超高校級の格闘家〟を屠ったという実績。
貴様等が好む〝絶望〟とやらに、利用できるのではないか?」
大神さんは挑発を終えた。
〝絶望〟と言うワードが、どうやら相手の琴線に引っ掛かったようだ。群衆の中から、一匹のモノクマが踊り出て来る。
そして、そのターゲットは大神さんだった。
「征けッッ!!戦刃ッッ!!」
「後から追いつくッ!ゼッテー誰も死なすんじゃねーぞッ!!」
***
私は進む。
モノクマの頭を蹴り飛ばし、跳躍する。
モノクマを足場にし、前進する。
前へ。
前へ。
前へ。
ひたすら前へ。
みんながくれた〝希望〟を届けるために…
私は進み続ける。
そしてついに、開けた場所に出た。
しかし…それと同時に私は見た。
盾子ちゃんの姿を……
大量のモノクマが、盾子ちゃんににじり寄っている光景を。
私は問う。自分自身に。
何の為に強くなった?
何の為に腕を磨いた?
何の為に血反吐を吐いた?
一体何の為に、この残酷な世界で生き抜いてきたッ!?
「今、ここで……」
覚悟はいいな?
「この場所で……」
誓いを、忘れてはいないな?
「この世界で……」
踏み出すんだッ!
進むんだッ!
征くんだッ!
「唯一無二の大切な妹をッ!」
2人で生きるんだッッ!!
「守る為だぁぁあああッッッ!!!」
戦刃は吼える。
何処までも高く、強く。
それはまるで、神をも殺す魔狼の如く…気高き咆哮であった。
「盾子ちゃんは、絶対に死なせないッッ!!」
*****
ーー舞園視点ーー
私達探索A班は、日向さんの指示により〝普通科生徒用学生寮〟の208号室にたどり着きました。そして無線で聞いた通り、隠し通路がありました。
この時、桑田君が日和ったようなことを言っていましたが…彼の名誉のために割愛します。
結局桑田君、田中さんが先陣を切り…私とソニアさん、小泉さん、西園寺さんが後に続きました。
で、現在の私達なんですけど……
「うわぁぁぁああああんッ!!
小泉おねぇぇッッ!!」
「西園寺さんが人質に取られました、どうぞ。」
「いや、どうぞじゃねーよッ!!
あれ程用心しろって言っただろッ!!」
日向さんが無線で文句を言ってきます。そんなに五月蝿いと私も言っちゃいますよ、あの台詞。
いやー、実は一度言ってみたかったんですよ。年齢が年齢ですからね…出演のオファーが来ないんですよ。
じゃあ言いますよ?言っちゃいますよ?
「事件は現場で起きてるんですよッ!!
日向さんッ!わざわざ言わせないでくださいッ!」
私はきっと、したり顔だったと思います。だってこんな機会、多分もう二度とないですから。
と、そんなことを考えていると…隣でソニアさんがどこからともなく拡声器を取り出しました。
そして……
「犯人に告ぎますッ!
きっと田舎のお母様が泣いておられますわッ!
今すぐ投降なさいッ!」
情に訴え出しました。
「お前等ずいぶん余裕そうだなッ!?」
まあ強いて言えば、余裕はありますね。
戦刃さんが江ノ島さんの元までたどり着いたようですし。
ですから今一度、状況を整理しましょうか。
***
まずこの部屋ーー地下に相当するようですが、そこそこの広さがあります。
そして七海さんの予想通り、大量の機器が設置されています。私は詳しくないので何に使うのかよく分かりませんが。
兎に角…沢山の機械があり、そこに3人の人物がいました。
〝元超高校級のハッカー〟
〝元超高校級のシステムエンジニア〟
〝元超高校級の操縦士〟
それぞれの人となりは聞いていましたが、〝絶望の言弾〟の影響でどのような行動をとるかは不明でした。
私達が入っても、江ノ島さんの命令に夢中で気に留めないのか。或いは襲いかかってくるのか。
いくつかのパターンを想定し、対策を練りました。
……が、正直肩透かしでしたね。
私達が部屋に突入すると同時に〝元超高校級のハッカー〟は『ご、ごめんなさぁぁあああいッ!』と、泣き叫びながら〝非常口〟と書かれた通路へ逃げて行き。
〝元超高校級のシステムエンジニア〟は『仕方なかったんだ。俺は悪くない……』と、泣き入りそうな声を発しながら蹲り。
〝元超高校級の操縦士〟だけがまったく動じず、凄まじい速度でモノクマを操作していました。
勘でしかありませんが〝元超高校級のハッカー〟と〝元超高校級のシステムエンジニア〟の2人は〝絶望サイド〟ではなかったんだと思います。
多少は影響を受けているとは思いますが、〝元超高校級の操縦士〟の人程ではないかと。
話を戻しますが…一人は逃げ、もう一人は画面に食いついたまま。そしてもう一人は蹲っている。
そんな状況でした。
彼等の行為の妨害は、私達の目的の8割と言っても過言ではありません。つまり、私達はこの部屋に入った時点でほとんどの目的を達成していました。
思い返すと、かなりの衝撃でしたね。
予想していた展開とまるで違ったんですから。
では、西園寺さんが人質に取られた経緯に移りましょうか。
部屋に入った直後…一人は逃げ、一人は座ったまま、そしてもう一人は蹲りました。
私達は蹲った人物、〝元超高校級のシステムエンジニア〟の捕縛を決行します。
〝元超高校級の操縦士〟を放っておいたのは、私達に一切の関心を示さなかったからですね。
で、捕縛をしようとした際…彼が急に暴れ出したんです。
その拍子にソニアさんが転び、彼女の懐から落ちたナイフを彼が拾います。そして、体格が小さかった西園寺さんを標的にし…人質とした。
……といった感じです。
では何故、私達が落ち着いているかというと……
ソニアさんがナイフを落とした際、『わたくしのジャパニーズグッズがッ!』と言い放ったからです。
私達全員が理解しました……あれは〝オモチャのナイフ〟だと。刃が柄の部分に出たり入ったりするアレなんだと……
何故持ってきているのかはさておき、凶器による傷害の線は消えました。
***
そして現在に至る…と言った具合です。
では、そろそろ西園寺さん解放作戦に入りますか。
え?どうするのかって?
大丈夫ですよ。
私が状況を整理している間に、無線で日向さんが作戦を伝えてくれていましたから。
次の瞬間、絶妙なタイミングで小泉さんがカメラのフラッシュを焚きます。
その結果、反射的に〝元超高校級のシステムエンジニア〟は目を瞑ります。
更に次の瞬間、桑田君がノーモーションで一定の重量を持つゴムボールを放ちます。
その結果、西園寺さんは彼の腕から解放されます。
更に更に次の瞬間、西園寺さんがトドメの金的をお見舞いします。
その結果、彼は内股になりながらその場にへたり込みました。
更に更に更に次の瞬間、田中さんの指示により行動していたハムスターさん達が、部屋にあった配線で彼の身体をグルグル巻きにします。
そしてラストに…〝非常口〟から武装したミライ機関の職員方がなだれ込んできました。
その結果、〝元超高校級のシステムエンジニア〟並びに〝元超高校級の操縦士〟は身柄を拘束されました。
え、何もしていないヤツがいる?…失敬な。
私も不測の事態に備えて臨戦態勢を整えていましたよ……本当ですからねッ!
兎に角、めでたしめでたし。
ついでに〝元超高校級のハッカー〟は探索B班の皆さんによって捕縛されたそうです。
ハッカーから地下の部屋へ続く道を聞き出し、ミライ機関の職員方が突入してくるに至った、というわけですね。
内心ほっとしながらも、江ノ島さんに味方していた2人が連れ出されるのを見守ります。
そんな私の耳に、次々と情報が流れ込んできました。
不二咲君と七海さんが学園のシステムを奪還し、モノクマの排出を停止させたと。
左右田さんを中心に作られていた〝あのマシン〟が、稼働中だったモノクマを停止させていると。
江ノ島さんと戦刃さんの状況だけ分かりませんが…きっと大丈夫でしょう。
戦刃さんならきっと…〝希望〟を掴み取ることが出来ます。
私は〝非常口〟から外へと出ました。
そしてそこには、雲一つない一面の蒼が……
ひりついた雰囲気から解放された学園で、何処までも続く空を見上げて想いを馳せます。
「どんな困難も、どんな窮地も、そしてどんな〝絶望〟も……誰かと一緒なら突破できる、打ち破ることが出来る。
〝希望〟は、前に進む。
……証明終了、ですね」
私達は作戦本部へと歩き出す。
未来へと踏み出すかのように。
*****
ーー江ノ島視点ーー
銃声。
金属同士がぶつかり合う衝撃音。
疲れを隠せぬ荒い息遣い。
アタシの姉は懸命に戦う。
アタシを守る為に。
アタシの姉は諦めない。
アタシを生かす為に。
苦しそうな声が、鼓膜を揺さぶる。
数多の戦場を駆けて尚、傷付くことのなかった身体が傷を負う。
椅子に座るアタシを守りながら、彼女は戦う。
モノクマとーーなにより、自分自身と。
アタシは問う。姉に。
どうして戦うの?
どうして見捨てないの?
どうして来てしまったの?
アタシは拒絶し、裏切った。
それなのに何故、手を差し伸べてくれるの?
「……やめて」
もういい。
もういいよ。
戦わなくていい。
傷付く必要なんかない。
アタシはそれだけのことをやってきた。
報いを受けなければならない。
「……もうやめて」
やめて。
やめてよ。
もうやめてよッ!
これはアタシ自身が選んだ未来ッ!
アタシが選んだ結末ッ!
アタシが死んで幕引きなのッ!
これ以上……聞かせないでよッ!
アンタの声を聞いてると、決意が鈍るッ!
「もうやめてッ!!」
生きたいと、
生きていたいと、
望んでしまう。
ダメなのに、
死にたいのに、
死にたくないと…思ってしまう。
「もうほっといてよッ!」
「……」
「さっさとアタシの前から消えてッ!」
「……」
「アンタの事なんて大っ嫌いッ!」
「……」
「絶望的に臭くてッ!汚くてッ!気持ち悪いッ!」
「……」
「アンタの顔なんて見たくなかったッ!」
「……」
「声なんか聞きたくなかったッ!」
「……」
「一人で良かったのッ!」
「……」
「こんな〝希望〟に満ちた世界はもうたくさんッ!」
「……」
「死という〝絶望〟に、身を委ねるだけなのッ!」
「……」
「だからもう、邪魔しないでよッ!!」
嘘だ。
全部嘘。
全部逆。
生きたい。
大好き。
臭くなんかない。
汚くなんかない。
気持ち悪くなんかない。
画面越しじゃない顔を見たかった。
直接声を聞きたかった。
一人は嫌だ。
やっと〝希望〟を見つけたんだ。
死にたくなんかない。
でも…赦されるのだろうか。
アタシは犠牲にし過ぎた。
取り返しなんて…つくはずがない。
それでも尚、願っていいの……?
「うるさいッ!!バカッッ!!」
……え?
「私、バカだからッ!」
「……」
「さっきから盾子ちゃんが何言ってるのかッ!」
「……」
「全然わかんないよッ!!」
……そうかよ。
だったら何度でも言ってやる。
「アタシはーー」
「私はッ!」
「……ッ!」
「盾子ちゃんと生きていたいッ!」
「……」
「罪を背負うならッ!生きて背負うのッ!」
「……」
「逃げるなッ!弱虫ッ!!」
「……」
「一人じゃ重いだろうから、私も一緒に背負うッ!」
「……」
「だから聞かせてよッ!」
「……」
「本当の言葉ッ!本当の想いをッ!」
「……」
「その為なら、私は何度だって言うよッ!」
「……」
「盾子ちゃんと生きたいッ!
やっと、言葉にして伝えられるッ!
私はただ、盾子ちゃんの笑顔が見たかったんだッ!
ずっとずっと、言い出せなかったッ!
盾子ちゃんに突き放されるのが怖かったッ!
そばにいるだけで良いと思ってたッ!
でも、もう立ち止まらないッ!
もう手放さないッ!
2人ならッ!何処へだっていけるはずだからッ!!
〝希望〟はッ!前に進むんだッ!!」
*****
絶望的に残念で、
絶望的にバカで、
絶望的にポンコツで、
絶望的にどうしようもなく、
どうしようもなく……大好きなお姉ちゃん。
裏切ったにも関わらず、最後の最後まで手を差し伸べてくれた。どうしようもない妹のことを、ずっと守ろうとしてくれた。
生きて欲しいと、言ってくれた。
答えは、出た。
アタシの答え。
2人の結末。
未来はまだ、変えられるはずだから。
だから、今言うよ。
本当の、アタシの想い。
嘘偽りのない、アタシの気持ち……
「生きたいッ!
アタシもお姉ちゃんとッ!
生きていたいッ!」
涙でぼやけた姉を見ながら、アタシは叫んだ。
*****
ーー七海視点ーー
「遅くなっちまってわりィッ!出来たぞッ!」
左右田君が作戦本部へと駆け込んできた。
私は不二咲君に一言告げ、その場を後にする。
探索班の活躍で〝元超高校級達〟の作業が途絶えたし。
それに、設置されていたファイアウォールもかなり突破したからね。後は彼一人で大丈夫だろう。
私は左右田君の後を追ってグランドの端っこへと移動した。そこには77期生の十神君がいて、彼は矢継ぎ早に説明を始めた。
「もう時間がない…戦刃がいつ倒れるかも分からんからな。まったく…数日間まともな睡眠を取らずに、よくもあそこまで動けるものだな。
そんなことより〝コイツ〟の説明だが……操縦方法はモノクマと同じだ。
手に持ったステッキは、モノクマに組み込まれているAIにバグを生じさせる機能を持つ。ただし、接触させる必要がある」
「つまり、このステッキでモノクマを叩けば良いってことだね」
「ああ、その通りだ」
「任せて。アクションゲームは得意だから」
私は左右田君達が完成させたマシンを操作し、処刑場を目指す。
みんなが、それぞれの成すべき事をなしたんだ。
だから私も頑張るよ……
みんなの未来の為に。
以下ウサミファイルより抜粋
・戦刃達が進んでいた隠し通路は処刑場へと続いていた模様。
・その道中、大神は〝元超高校級の操縦士〟が操るモノクマと対峙。引きつけ役を買って出る。
・戦刃は単身通路を進み、処刑場へと到達する。
・探索班の活躍により江ノ島に味方していた〝元超高校級〟3名を捕縛。内2名は〝絶望の言弾〟の影響をさほど受けていない模様。彼女に協力するまでの経緯は現在調査中。追って報告することをココに明記しておく。
・左右田達により製作されていた〝マシン〟が完成。現在詳細は非公開
・江ノ島盾子が『生きる』ことを望む。