『ありがとう』をキミに   作:ナイルダ

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chapter6(裏) ゼツボウを用い、キボウを証明せよⅢ

ーー戦刃視点ーー

 

『生きたい』

 

盾子ちゃんの声が、聞こえる。

私は周囲のモノクマを警戒しつつ、盾子ちゃんを縛る拘束具を破壊する。

 

やっと届いた私の想い。

やっと聞こえた妹の声。

力が、〝希望〟が、湧き上がってくる。

疲れなんか忘れたように、身体が軽くなる。

 

盾子ちゃんは立ち上がり、近づいてきたモノクマめがけて椅子を投げ捨てた。

そして私達は、背中合わせに臨戦態勢を整える。

 

「お姉ちゃん、まだやれる?」

 

勿論だよ。

むしろ、負ける気がしない。

どんな〝絶望〟だって、はねのけられる。

どんな未来も、掴み取れる。

私は一層、足に力を込める。

 

 

***

 

 

それから、どれ程の時間を戦っていたのかは分からない。

ただひたすらに、屠り続けた。

盾子ちゃんの分析力が、どの個体が飛びかかってくるのかを教えてくれる。

盾子ちゃんの観察力が、効率の良い倒し方を示してくれる。

 

「ジャンプッ!」

 

かけ声と共に、私は身体を捻りながら飛び上がる。

そして、視界に収めたモノクマを蹴り飛ばす。

盾子ちゃんは既にしゃがんで回避しており、蹴り飛ばされたモノクマが持っていた剣を掴み取ると、別の個体へと投げ放つ。

 

無駄な言葉は必要ない。

私達は阿吽の呼吸でモノクマの猛攻を捌き続ける。

どこまでだって、走っていられる。

どんな結末にだって、辿り着ける。

〝希望〟が、私の背中を押してくれる。

そう思った次の瞬間……

 

 

ーーーガシャンッ!!ーーー

 

 

処刑場の天井が閉まり、モノクマの排出が止まった。

戦闘の最中に無線が外れてしまい状況の確認が出来なかったけど、不二咲君達がやってくれたみたいだ。

 

しかし、極限の集中状態にあった私にとって…その情報はノイズでしかなかった。

モノクマ達の挙動と盾子ちゃんの声だけを認識し、他の情報を遮断していた私の脳に割り込んだノイズ……

 

「スイッチッ!」

 

「……ッ!」

 

 

動作が遅れたッ!

修正しないとッ!

…………。

でも、モノクマの排出は止まった。

ここにいる奴等さえ無力化すれば……

 

 

ノイズは、別のノイズを生み出していく。

そして動作の遅れは、明確なミスへと変貌する。

 

「……くッ!!」

 

「お姉ちゃんッ!?」

 

私のミスは、盾子ちゃんにも波及してしまう。

今の盾子ちゃんだからこそ、その影響は大きい。

自分の為だけに生き、私を見捨てる判断などしない。

だからこそ、盾子ちゃんは私の心配をしてしまった。

私の方へ、意識をそらしてしまった。

 

そして私の視界に、モノクマが映り込む。

盾子ちゃんの回避は間に合わない。

 

「させないッ!!」

 

自然と、体が動いていた。

私は盾子ちゃんを押しのけ、モノクマの凶器を弾き飛ばし…その眉間に弾丸をぶち込み無力化する。

が、その場しのぎでしかなかった。

思考も連携も、途切れてしまった。

ただ一時の、〝守ることが出来た〟という安心感に包まれてしまった。

 

 

 

 

 

ハッと我に返るも、別のモノクマの凶器が眼前に迫っていた。

 

 

 

 

 

間に合わない。

 

 

 

 

 

私は〝死〟を覚悟した。

 

 

 

 

 

あと少しだったのに……

 

 

 

 

 

〝絶望〟が、浸食してくる。

 

 

 

 

 

それを認識した途端、ドッと疲労感が襲いかかる。

腕も足も思考も、全てが鈍くなる。

諦めちゃダメだと、自分を鼓舞する。

でも、動いてくれない。

肝心なところで、踏ん張りきれない。

本当に残念なヤツだな、私って……

 

〝もうまともに動けない。〟

〝現状では足手まといになるだけだ。〟

 

そう判断するのに、時間は掛からなかった。

そして私が考えたことはただ一つ。

 

〝盾子ちゃんを生きて返すこと〟

 

ただそれだけ。

だからこそ、私は死力を振り絞り足に力を入れる。

懐に忍ばせた手榴弾に、手を掛けながら。

 

もうモノクマが増えることはない。

数さえ減らすことが出来れば、盾子ちゃんだけでも対処できるかもしれない。

その筋道だけが、今の私の〝希望〟。

 

覚悟を決め踏み出そうとした、その時……

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん……ッッ!!」

 

 

 

 

 

盾子ちゃんが、私を押し倒すように抱きしめる。

 

 

 

 

 

モノクマが、容赦なく凶器を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の視界は、赤で覆われた。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー江ノ島視点ーー

 

処刑場の天井が閉じ、モノクマの排出が止まった。

終わりが見えた安堵感が〝希望〟に変わり、アタシは四肢に一層の力を込める。

しかし、次の瞬間……

 

「……ッ!」

 

お姉ちゃんが、足に深い傷を負った。

目に見えて動きが鈍くなる。

しかし、アタシはそれを考慮しながらも指示を出し続ける。

姉の分を、自分が負担すればいいだけのことだ。

 

けれど、それは思い上がりだった。

身体能力には自信がある。

でも、姉に迫れるほどではない。

だからこそ、限界はすぐに訪れた。

 

 

 

「……くッ!!」

 

お姉ちゃんが、更なる傷を負う。

 

「お姉ちゃんッ!?」

 

非合理的。

この息つく間もない戦闘状態の中で、アタシはお姉ちゃんの方を振り向いてしまった。

モノクマが迫っていたにもかかわらず。

反射的に。

心の赴くままに。

 

それはつまり、自分の命よりも姉の命を優先したということ。

アタシの中で、姉という存在がどれ程大きかったのかを実感する。

 

でも、もう終わってしまう。

そう、アタシの分析力が告げる。

アタシに、迫るモノクマを対処する術はない。

 

 

江ノ島盾子(アタシ)は、〝希望〟をくれた全員に感謝と謝罪を。

絶望(アタシ)は、最愛の姉と共に逝くことに喜びを。

 

 

ごちゃ混ぜな感情を抱きながら、姉に手を伸ばす。

しかし、手が握られることはなかった。

そしてアタシは、全てを理解する。

 

 

姉が自爆特攻を試み、アタシが生きる可能性に懸ける事をーー

 

 

その瞬間、アタシの体はまたしても勝手に動き出していた。

アタシに迫っていたモノクマを無力化した姉。

更に迫るモノクマ。

アタシはただ願った……

 

 

〝姉を死なせたくない〟

 

 

……と。

そして、気が付けば姉に覆い被さるように倒れていた。背中に鋭い痛みを感じながらも、得も言われぬ心地よさに身を委ねる。

 

 

「うぷぷ……」

「うぷぷぷぷ……」

 

「「「「「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷッ!!」」」」」

 

 

大量のモノクマの、無機質な笑い声が聞こえる。

そう言えば、そうだっけ……

ターゲットに一定のダメージを与えたら、攻撃を一旦中止するようにしてたんだ…。我ながら、嫌らしいAIを搭載したものだな……

 

 

 

 

 

あー……、ダメだ。

 

 

 

めっちゃ痛い。

 

 

 

何コレ、マジで……

 

 

 

感覚が麻痺してきた。

 

 

 

手も、足も……

 

 

 

末端の方から寒くなっていく。

 

 

 

て、言うか……

 

 

 

お姉ちゃん、すごい顔。

 

 

 

かわいいのに、それじゃあ台無しだよ。

 

 

 

何言ってるのかよく聞こえないけど……

 

 

 

アタシのお姉ちゃんを泣かせるなんて、不届きなヤツがいたもんだ。ぶっ殺してやる……

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

…………。

 

 

 

……死ぬのかな。

 

 

 

……嫌だなぁ。

 

 

 

せっかく見つけたのに。

 

 

 

生きようって、思ったのに。

 

 

 

でも……

 

 

 

最期の最期に、良い思いができた。

 

 

 

お姉ちゃんを巻き込んじゃったけど……

 

 

 

それを嬉しく思う自分がいる。

 

 

 

まったく、この期に及んで自己チュー過ぎ。

 

 

 

一応謝っとくからさ、許してね……

 

 

 

 

 

ごめんね、手の掛かる妹で。

 

 

 

 

 

ごめんね、未来を奪っちゃって。

 

 

 

 

 

ごめんね、お姉ちゃんの想い…無駄にしちゃって。

 

 

 

 

 

ごめんね。

 

 

 

 

 

そして、ありがとう。

 

 

 

 

 

こんなアタシのことを、ずっとずっと……

 

 

 

 

 

ホントに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー戦刃視点ーー

 

「「「「「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷッ!!」」」」」

 

無機質な笑い声を、これほどまでに煩わしいと思ったことはない。

でも、そんな怒りの感情も、すぐに引っ込んでしまう。

 

盾子ちゃんを抱きしめると…ドロドロとした血液の感覚が、否が応でも伝わってくる。

 

「……嘘だ」

 

信じたくない。

 

「……そんなのって」

 

受け入れられない。

 

「……ダメだ」

 

そんなのダメだ。

 

「諦めちゃダメッ!盾子ちゃんッ!」

 

こんな結末、私は認めない。

 

「意志を強く持ってッ!!」

 

こんな結末、あっていいはずがないッ!

 

「盾子ちゃ……ッ!」

 

 

 

 

 

「……ずっ……と、ず……と……」

 

 

 

 

 

「ダメ……ねぇッ!

そんなのッ!盾子ちゃんらしくないよッ!」

 

聞きたくない。

別れの言葉なんて、聞きたくない。

これからだよ……

これからだったじゃん……

 

 

 

2人で一緒に住んで。

 

2人で出かけて。

 

2人で笑って。

 

2人で泣いて。

 

みんなに…囲まれて。

 

 

 

当たり前の生活。

当たり前の幸せ。

当たり前の未来。

 

 

 

そんな当たり前を、

これから捜すんだよ。

ねえ…盾子ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、り……がと……う……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ……

 

 

 

 

 

ああ……

 

 

 

 

 

「あああああああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

コレが、〝絶望〟ってやつなのかな。

 

 

…………。

 

 

…………。

 

 

…………。

 

 

…………。

 

 

…………。

 

 

もう、どうでもいいや。

 

嗤ってたモノクマが動き出している。

 

トドメを刺さんと、凶器を振り上げる。

 

あー……

 

そんなに焦らさないで。

 

早く私を、盾子ちゃんのところまで送ってよ。

 

 

 

 

 

〝絶望〟に支配された世界は、次第に色を失っていく。

赤も、白も黒もない世界。

音も消えていく。

嗤い声も、駆動音も。

何もかも。

ただ一つ。

最愛の妹のぬくもりだけを残して、消えていく。

 

 

 

 

 

大丈夫だよ。

言ったでしょ、もう一人にはさせないって。

だから安心して。

絶対に離さないから。

 

 

 

 

 

私は盾子ちゃんを優しく抱きしめ、目を閉じる。

盾子ちゃんと過ごした短い日々を思い出しながら。

最期の瞬間が来るのを待つ。

 

 

 

 

 

そしてついに……

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

「クソじゃあああああああああああッ!!!!」

 

「あちしはクソじゃないでちゅよぉぉおおおおッ!!」

 

 

 

 

 

唐突な怒声に、私は思わず目を開ける。

すると、そこには意味不明な光景が広がっていた。

 

凶器を振り上げていたモノクマは、ステッキを持った何者かに吹き飛ばされた。ステッキを持った、モノクマに似たウサギに…吹き飛ばされた。

 

そのウサギはしゃべり出す。

 

「あちしは〝魔法少女ミラクル★ウサミ〟……略してウサミでちゅ!

あちしが来た以上、血生臭い展開は厳禁でちゅよぉぉぉおおおおおおッ!!??」

 

そして言い終わるや否や、ものすごいスピードでモノクマをステッキで殴りつけていく。

 

「ち、千秋ちゃんッ!?

操作が荒ら過ぎまちゅよぉぉぉおおおおッ!?

ミナサン見てはダメでちゅッ!

本当のあちしは暴力なんて振るわないんでちゅッ!!」

 

やっていることと言っていることが決定的に食い違ってる。でも、その殲滅速度には目を見張るものがある。

 

私は尚も呆気にとられていると、別の声が聞こえてくる。

 

「遅れてすみませぇーん!

はわわぁ!す、すごい出血ですぅーッ!

い、急いで止血しないとぉッ!」

 

多くの足音が聞こえる。

多くの声が聞こえる。

 

「輸血の準備、終わったぞ」

 

「うりゃぁああッ!最後に大暴れだぁぁあああッ!!」

 

「戦刃よ、よくぞ耐え抜いた…」

 

「根性見せやがれェッ!江ノ島ァッ!!戦刃ァッ!!」

 

みんな、来てくれたんだ。

助けに、来てくれたんだ。

 

 

 

 

 

これは……

 

 

 

 

 

これは……。

 

 

 

 

 

間違いない。

 

 

 

 

 

〝希望〟だ。

 

 

 

 

 

「江ノ島さんッ!!戦刃さんッ!!」

 

 

 

 

 

みんな……

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

苗木君……

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

私、やりきったよ。

 

 

 

 

 

掴み取ったんだーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー私達だけの未来を。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ラストダンスは、ついに終わりを迎える。

 

狂乱の演者は地に伏し、終わりを迎える。

 

〝絶望〟の果てに〝希望〟を掴み、舞台は幕を引く。

 

 

 

 

 

キーン、コーン……、カーン、コーン……。

 

 

 

 

 

正常に戻った学園は時を刻み始める。

 

それは終幕の合図。

 

狂気の舞台が幕を閉じ、日常の幕が開く。

 

演者は征く。

 

それぞれの道を。

 

演者は生きる。

 

それぞれの未来を。

 

どれ程の〝絶望〟が襲いかかろうとも、

 

手を取り合い、

 

助け合い、

 

支え合って進んでいく。

 

その内に、確かな〝希望〟を持って。

 

全てを乗り越え、進む。

 

 

 

 

 

〝希望〟は、前に進む。

 

 

 

 

 




以下ウサミファイルより抜粋

・七海、不二咲の活躍により、学園のシステムの奪還に成功する。それと同時にモノクマの生産、排出が停止する。

・江ノ島、戦刃は処刑場にて全方位より襲来するモノクマと交戦。絶妙な連携により猛攻を捌き続ける。

・戦刃の負傷により連携が崩壊。結果として江ノ島が背中に深い切り傷を負い、戦闘不能に。

・江ノ島の意識が途絶え、戦刃が戦意を喪失。

・モノクマが両名にトドメを刺そうと動き出す。しかし、この行動は弐大の投擲により飛来した〝ウサミ〟によって阻止される。

・上記した〝ウサミ〟とは、左右田達によって作られていたマシンである。構造のほとんどはモノクマと同様であり、その手に持つステッキは機械類にバグを生じさせる機能を持つ。

・ウサミは〝希望プログラム〟を基盤にしたAIを搭載しており、〝プログラム NANAMI〟の前身として作られた。ウサミに搭載されている〝プログラム USAMI〟と、七海に搭載されている〝プログラム NANAMI〟は姉妹の関係にあたる。

・ウサミは自律AIによって自身で動くことも可能である。ただしモノクマ同様、人による操縦も可能。本作戦では七海により操縦された。

・ウサミ(七海)がモノクマとの戦闘を開始する。

・戦闘班と苗木が処刑場に到着。

・日向の指示により探索班から離脱した罪木も同じくして到着。負傷した江ノ島に応急処置を施す。大量に失血しており、生死は不明。現在詳細は非公開

・江ノ島の計画の阻止、並びにその他全ての作戦が終了する。
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