『ありがとう』をキミに   作:ナイルダ

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お付き合いいただきありがとうございました。
今回で本編終了となります。


エピローグ さよなら希望学園

ーー???視点ーー

 

 

 

 

 

私立希望ヶ峰学園 特別科。

世界にその名を轟かす、天才達が集う場所。

歴史の中に燦然と輝く、英雄達の古巣。

 

そんな……

 

都会のど真ん中に悠然と佇むその学園を……

 

 

 

 

 

ボク達〝78期生〟は今日……卒業する。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー???視点ーー → ーー苗木視点ーー

 

若干の肌寒さが残る3月上旬の早朝。

ボクは緊張からか、太陽が水平線から顔を出すのと同時に目を覚ましてしまった。卒業式当日に二度寝するのも憚られ、ボクは軽く顔を洗い、早めの朝食をとる為に食堂へと赴いた。

 

普段よりも1時間程早いが、食堂はすでに稼働していたようだ。ボクはいつもと変わらない朝食セットを頼み、普段と同じ席でそれを食べる。

 

学園最後の朝食を誰かと食べなくて良かったのかって?

 

確かに、そんな選択肢もあっただろう。

しかし、昨日の夜から妙に感傷的だったボクは、なんとなく独りで食べることを選んでしまった。

まあ…3年も一緒に学園生活をしていながら、朝に食堂で全員が顔を合わせることなんてなかったのだから、特段問題はないだろう。

 

ぼーっとした頭は、咀嚼と共に少しずつ覚醒していき……そんなこんなで朝食を終えたボクは、食器を戻し、自室へと足を向けた。

 

部屋に戻ったボクは歯を磨き、卒業式の為に身支度を整える。普段は着ることのない希望ヶ峰学園の正式な制服に袖を通し、髪型を少し整える。着慣れぬ胡桃色の制服は、ボクに程よい緊張感を与えてくれた。アンテナは……どうしようもないかな…。

 

そして全ての準備を整え、ドア近くの壁に掛けてある鏡の前に立つ。姿見鏡は〝あの映画撮影〟から幾分か成長したボクの全身を映し出していた。

 

 

***

 

 

約3年前、ボクは〝超高校級の幸運〟としてこの学園に入学した。

約2年前、世界各地で同時多発的にテロ行為があった。そして、人はそれを〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟と呼んだ。

約1年と半年前、学園を巻き込んだ〝あの映画撮影〟が行われた。

他にも色々あったけど……ボク達は、16人全員で今日という日を迎えることが出来た。

 

そんな…様々な思い出をフラッシュバックさせながら、ボクは目的地へと歩を進める。生い茂る万緑は薄い桃色へと変化を遂げており、旅立つ若人を祝福するかのようにヒラヒラと舞っている。

 

新校舎を横目に、ボクは尚も北へと進む。映画撮影でお世話になった…旧校舎へと。

 

道沿いに植えられている桜の木々を見ていると、次第に目的地が近づいてくる。

あの映画撮影の終了に伴い改装工事が行われたが、外観はなるべく旧校舎の面影を残すようにデザインされている。

 

旧校舎ーー今となっては1階と2階が記念館、それよりも上の階が在校生の研究教室となっている。ボク達とは入れ違いで入学してくる79期生達の研究教室も、すでにいくつかできている。

ピアニスト、マジシャン、宇宙飛行士、昆虫博士…などなど。専用のスレッドも覗いたりしたけど、78期生同様、話題に上がらない生徒も数名いるそうだ。

しかし、結局ボク達の在学中に後輩ができることはなかったな…。なんだか寂しいような、特別な学園らしいような…複雑な感じだ。

 

と、まだ見ぬ未来の後輩達に想いを馳せいてると…ボクはようやく目的地へと辿り着いた。

 

そして思い出すーー期待や不安を胸に希望ヶ峰学園の門をくぐったあの日のことを。全員で乗り越えた、あの映画撮影(絶望)のことを。

 

色々なことを思い出しながら…ボクは玄関ホールへと足を踏み入れ、堂々と飾られている年表へと目を向けた。

そこには希望ヶ峰学園が辿った華々しい歴史、超高校級の生徒達が残した偉大な記録など…多くの功績が連なっている。

そして、その最も新しい記録には……

 

第78期生を中心として制作されたーー

ーー映画『ダンガンロンパ』公開

 

……と、書かれていた。

 

結局、自主制作と言っておきながら、希望ヶ峰学園の全力のバックアップがあった映画だったので、それらに掛かった費用の回収の為に一般公開されたのだ。

舞園さんや江ノ島さんが所属する事務所、大神さんや朝日奈さんについているスポンサー達の間で色々な問題があったそうなのだが……流石は希望ヶ峰学園といったところか、一般公開にまで至ったそうだ。

 

そんなこんなで公開された映画は、ボクの予想を遥かに超える観客動員数と興行収入を記録した。ーー妹と買い物をしている時に声をかけられたのは記憶に新しい。

そう、ボク達78期生は一躍有名人になってしまった。最も…舞園さんをはじめ、元々有名だったクラスメイト達だが、ボクまでもその仲間に入ってしまったのだ。

あの映画の主人公だったことから、世間でも〝超高校級の希望〟と呼ばれる始末……

 

そんなボク達の卒業式。多くのメディアが取材や撮影に来るはずだった。

しかし78期生全員が静かに執り行うことを望んだ為に、希望ヶ峰学園はその力を使い、ボク達は普通の卒業式を迎えることができたのだ。

 

 

***

 

 

ボクと江ノ島さんの因縁に区切りをつけたあの映画撮影ーー〝希望〟と〝絶望〟が雌雄を決した最後の戦いーー

ボクの人生史上、最も記憶に残るイベントと言っても過言ではない。今後、こんなに壮大だったイベントを上回る出来事は…そうそう起きないだろう。

 

気絶するほど驚いたり、

死にかけたり、

江ノ島さんと本気でぶつかり合ったり、

クラスメイトと本当の絆を手に入れたり、

 

一ヶ月にも満たない期間だったけど、あらゆる思い出がそこに集約されている。そしてそれらの思い出を胸に…全員が〝希望〟を持って、前に進み始めた。

 

ボク達は入学当時…それぞれが、何かしらの問題を抱えていた。

 

自身の才能に悩んだり、

自分を偽り続けることに苦しんだり、

誰かと繋がることを恐れたり、

その内に〝絶望〟を抱いていたり……

 

兎に角、お互いがバラバラだった。

でも、少しずつ歩み寄ったり…映画撮影(絶望)を乗り越えたりして……そうやって、ボク達の心は1つになれた。全員で…〝絶望〟の先に在る〝希望〟を、手に入れることが出来た。

 

 

***

 

 

ボクは、一連の出来事を思い返している内に自然と笑みがこぼれていたようだ。掛けられた声に、ハッと我に返る。

 

「なにニヤニヤしてんのよ」

 

それは、あの映画撮影に最も影響を受けた人物ーー

ある意味で、78期生の中心にいる少女ーー

 

「なーに…あぁ、年表見てたのね。そんで、有名人になった気分を懲りずに噛み締めてたわけだ」

 

「ボクはそんなこと思ってないよ」

 

彼女が冗談で言ったことは分かっているけど、一応否定しておく。

 

「それにしてもアンタ、ココに来るの早すぎでしょ。まだ集合時間の50分前よ?」

 

「キミも大概早いでしょ」と、言いそうになったが…それが言葉になることはなかった。

 

「ま、なんとなく分かってたけど……。だからアタシも、お姉ちゃんを撒いてまでココに来たんだし……」

 

消え入りそうなその声を、ボクは聞き取ることが出来なかった。……いや、聞き取ることは出来ていた。

しかし、その裏に隠れる彼女の想いを、ボクは理解しようとはしなかった。

 

「アタシが早くココに来たのは、アンタにお礼を言う為よ…。どうせ今日以降、滅多に会わなくなるんだしさ。それに…こんな機会でもないと、小っ恥ずかしいコトなんて言えないし……」

 

年表を見ていたボクの隣に現れた彼女は、クルリと綺麗にターンを決め、背中合わせに…尚も独り言を続ける。背後に暖かい気配を感じるが、その表情を窺い知ることはできない。

 

「ありがとね…ホント。どんな因果の元に生まれ落ちたのか分からないけど、アンタと出会えたことは…アタシにとっては〝幸運〟だった。〝絶望〟に塗れた世界で尚、アタシは〝希望〟を見いだすことが出来た。」

 

ボクは動くことなく、その言葉に耳を傾ける。すると、彼女の細く、綺麗な手が…ボクの指を絡め取る。

 

「このクソみたいな世界にも、確かに〝希望〟はあった。でもソレは、酷く見えづらいモノで……ともすれば、見逃してしまいそうなモノで……。だけど、ソレを一緒に捜してくれる人がいた。手を引きながら、教えてくれる人がいた」

 

彼女の右手がボクの左手を……左手が右手を握った状態で、彼女はボクの背中に体を預ける。

 

「アンタもそうだけど…お姉ちゃんもそう……今、ココにいるアタシは、色んな人のおかげでこの景色を見てる。モノクロだった世界は、極彩色のキャンバスのようにカラフルに彩られている。明暗、寒暖……そこには沢山の情報が散らばっている……」

 

手や背中を通じ、彼女の体温がボクの中に入ってくる。

 

「時にそのキャンバスは…黒く塗りつぶされることがある。でも、そのインクが乾いちゃえば…新しい色に塗り直すことだって出来る。要するに、何度だって…やり直せるのよ……。キャンバスが壊れてしまったら変えればいいし、変えるのが大変だったら手伝って貰えばいい。インクの乗りが悪ければ、諦めずに挑戦し続ければいい。……そう…アタシ達はやり直せる」

 

彼女の手が、強く握られる。ボクは汗ばんでいないかと気が気でないが、彼女はそんなことに構う気配をみせない。

 

「アタシ達はこれからも間違い続けて……その度にやり直し続ける。そんな、絶望的に面倒な生き方を繰り返す。でも、その絶望的な人生も…悪くないと思える。そう……思えるようになったの。そしてそれは……間違いなくアンタのおかげよ……苗木」

 

 

 

〝それ〟は、一瞬の出来事だった。

 

 

 

彼女はセリフに一区切り付けると同時にボクの右手を解放し、自身の右手をボクの左手と共に高く振り上げた。気付けばボクは、左足を軸に180°回転していた。

 

 

 

そう…彼女ーー江ノ島盾子の、絶望的なまでに整った顔が……そこに、あった。

 

 

 

雑誌で見るよりも可憐なその瞳に、全てを奪われるーー音も、意識も、何もかも。

 

 

 

ドアから吹き込んだ風が桜の花びらを運び、一層彼女を彩っていく。

 

 

 

見たこともない、満面の笑みで…彼女は微笑む。

 

 

 

それは、ボクがずっと見たかった…本当の笑顔。

 

 

 

そして、視界の端で綺麗な唇が動く。

 

 

 

何を言っているのか、分からなかった。

 

 

 

恐らく、音として発せられていなかったから。

 

 

 

でもボクは、彼女が何を言ったのか…理解出来た。

 

 

 

心を通じて、その言弾(ことば)はボクに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを理解した瞬間、ボクの呼吸が止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボクの唇はーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー舞園視点ーー

 

「ラブコメの波動を感じますーーッ!!」

 

寄宿舎の個室と食堂に苗木君の姿を確認できなかった私は朝食を掻き込み、身支度を調え、集合場所である旧旧校舎(今では記念館や超高校級の研究教室棟と呼ばれている)へと大至急向かいます。

 

しかし、そこで私は無情な光景を目の当たりにしますーー

 

耳を真っ赤にし、蹲る苗木君と…休憩用の椅子でご満悦といった表情で彼を観察する江ノ島さんの姿を……

 

今この瞬間に限って、自分のエスパー能力が憎いッ!この場所で何が起こったのか理解出来てしまう自分の能力(ちから)がッ!!

 

私は膝から崩れ落ちました……

 

 

***

 

 

どれくらいの時間が経ったのか分かりませんが…私が涙を流しうなだれていると、新しい声が聞こえてきました。

 

「もー…盾子ちゃん。朝ご飯は自分が食べられる分だけ取らないとダメだよ?盾子ちゃんが山盛りにしたご飯を食べきるのに時間掛かっちゃったよ……」

 

声の主は戦刃さんでした。そういえば、食堂で大量の朝食と格闘している彼女の姿を見かけたような……

私が入り口から現れた戦刃さんの方を向くと、更なる人影を確認できました。

 

「む…もうこんなに集まっていたかッ!」

 

石丸君でした。

 

 

…………。

 

 

いや、ちょっと待ってください。

おかしいですよね?

 

私は、いつの間にか止まっていた頭を稼働させ始めます。

 

誰が玄関ホールに来たかなんてどうでもいいんですよッ!なにちゃっかり苗木君のハジメテ奪っちゃってるんですかッ!!こんなの神や仏が許しても、私が許しませんよッ!!

 

「苗木君ッ!今すぐ口をゆすぎに行きますよッ!」

 

「ちょ、それアタシに失礼すぎ」

 

「やっぱりッ!シたんですねッ!そういうことッ!シたんですねッ!?」

 

「うーん…アタシの口からはちょっと……」

 

「苗木君ッ!どうなんですかッ!?……いえッ!やっぱりいいですッ!真実は闇の中ッ!!そういうことにしておきましょうッ!!」

 

「苗木の唇……柔らかかったなー…」

 

「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああああああああああッッッッッ!!!!!!!」

 

「ソレは…甘酸っぱい青春の味でした……」

 

「ノォォォォォォォォオオォオオオオオオオォォォォオオオオオォォォオオオオオォォォオォオオオォォオォォオォォォオオッッッッッッ!!!!!!!」

 

「うぷぷ…超ウケる」

 

「舞園くんッ!静かにしたまえッ!!」

 

 

 

 

 

私は後から来た霧切さんの肩を借り、化粧室でメイクを整え直しましたとさ……。めでたしめでたし。大団円。ハッピーエンド万歳。

 

 

 

 

 

いや、めでたくなんかありませんよッ!ましてや大団円でもハッピーエンドでもありませんッ!!

 

許せねェ……マジで許せねェ……

 

この際、キャラ崩壊なんて大した問題ではありません。

 

必ず、かの邪知暴虐のビッチギャルを除かなければ……

 

…………。

 

…………。

 

…………。

 

…………。

 

…………。

 

……はぁ…やめです、やめ。

 

過ぎ去った時間は戻りませんから。

 

それに〝あの人達〟が何というかは分かりませんが、私自身…彼女には資格があると思っていますし……

 

と、いうわけで…気を取り直しましょうッ!

 

 

 

 

 

「苗木君の第二ボタンは、私が頂戴しますッ!!」

 

 

 

 

 

いつの間にか揃っていたクラスメイト達は、体育館へと移動を始める。私は霧切さんの手を取り、彼等の背中を追いかけたーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー江ノ島視点ーー

 

卒業式後にひとしきりはしゃいだアタシ達78期生16人は、学園の正門前に横一列で並んでいた。誰かが言い出したわけでもなく…自然と。

 

あと一歩踏み出せば、本当にお別れだ。3年間で築いた絆が消えるわけではないが、約束でもしない限り…顔を合わせることはないだろう。

 

全員が、学園の外を真っ直ぐに見つめる。

 

それは無限に広がる未来であり、可能性。

 

時には〝絶望〟が立ちはだかるかもしれない。

 

しかし、アタシ達は〝希望〟を持って…前に進む。

 

どんな未来が待ち受けていようと……

 

 

***

 

 

アタシが感傷に浸っていると、苗木が口を開くーー

 

 

「これでボク達、卒業なんだね……」

 

 

その言葉を受け、言葉が次々と紡がれるーー

 

 

「そうですね…学園生活の終わり。そして、新しい未来の始りです」

 

「ふん…やっとこの煩わしい日常から解放されるわけか」

 

「白夜様と会えなくなるなんてッ!そ、そんなの……うぅぅ……」

 

「あらあら…。どなたか介抱して差し上げては?」

 

「どうせもう片方が目を覚ますべ」

 

「ジャジャジャジャーン!笑顔が素敵な殺人鬼ですッ」

 

「言わんこっちゃないべ」

 

「そんなことより諸君!僕がいなくなっても人生設計はちゃんとするようにッ!」

 

「スルースキル高すぎんべ」

 

「そうだねぇ…ボクはお父さんと一緒にお仕事したいなぁ」

 

「俺は取り敢えず、死ぬ気で大工を目指すッ!」

 

「私はオリンピックに向けて調整しないとなー。しばらくドーナツは我慢だよぉ……」

 

「我は精進し続けるのみ……」

 

「これは…偉大なる航路へ入る前の所信表明的な展開ッ!拙者は、勇敢なる海の戦士になりますぞッ!!」

 

「あなた…泳げますの?まぁ、浮きそうではありますが…」

 

「オレはメジャーで…勝って勝って勝ちまくるッ!」

 

「桑田っちはあの映画のせいで人気でないべ」

 

「うるせーッ!わざわざ掘り返すんじゃねーッ!」

 

「確かにー…あの炎上騒動は凄かったですなー…」

 

「つーかよッ!オレはまだ納得してねーからッ!舞園ちゃんを殺した役ってだけで炎上するとか、意味分かんねーからッ!舞園ちゃんのベッドで寝た苗木の方が炎上すべきだっつーのッ!!」

 

「しかし、SNS上で〝カノンドス〟なる桑田怜恩殿の熱狂的なファンもいたからして……」

 

「……。ブーデー…それ以上…その話はするな」

 

「大変だッ!桑田がこれ以上ないほどの真顔だよッ!」

 

「ファンの皆さんのモラルはそんなに悪くないはずだったんですけどね…。と言うか、私としては霧切さんの方が許せませんよッ!なんで苗木君とカップリングされてるんですかッ!ねえッ!?」

 

「ちょっと…そういう絡み方しないでくれるかしら」

 

「クールぶっちゃってッ!正妻の余裕ってヤツですかッ!?江ノ島さんといい、霧切さんといいッ!!」

 

「舞園さやか殿は喋れば喋るほど…負けヒロイン臭が漂ってきますな……」

 

「話の流れを戻すけど、私は大学で犯罪心理学の研究をするわ。……それで、あなた達は?江ノ島さん、戦刃さん?」

 

「私は盾子ちゃんのマネージャーになる予定だよ」

 

「正確には荷物持ちだけどねー」

 

「え?……そ、そうだったの?」

 

「冗談だってッ!そんな顔しないでよねッ!……ま、アタシは今所属してる事務所との契約が切れ次第自分のブランド立ち上げて、そこで社長でもすっかなー…って感じ」

 

「盾子ちゃん、背中の傷跡のせいでモデルのお仕事出来なくなっちゃったもんね……」

 

「はぁッ!?〝超高校級のギャル〟舐めんなっつーーのッ!あの映画以来、5割増しで仕事こなしてたわッ!絶望的に忙しかったわッ!!」

 

 

アタシが〝傷〟の話をした途端、全員静まりかえってしまった。……いやいや、そんなに気を遣う話でもないっつーの……

 

 

「確かに、この〝傷〟は現代の技術なら跡形もなく治せたわ。でもコレは…アタシの〝罪〟であり、アンタ達との〝絆〟でもあるの……」

 

 

…………。誰も喋らない。

何なの、コレ。絶望的に無言なんですけど……、絶望的にしんみりしてるんですけど……

 

 

 

 

 

……え、アタシのせい?

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

ーー苗木視点ーー

 

あの映画の〝chapter6 テイク1〟にて、江ノ島さんは重傷を負った。背中に大きな3本線の傷を…背負った。

罪木さんの適切な応急処置のおかげで一命を取り留め、およそ3ヶ月の入院、リハビリ期間を経て…日常へと帰ってきた。……その時、憑き物が落ちたように穏やかな表情だったことを…ボクはよく覚えている。

そしてボク達は、そのことに触れようとしなかった。暗黙の了解であるように…その話題を避けていた。彼女の雰囲気から…〝絶望〟に呑まれたわけではないと理解していた。だからこそ、あえて触れなかったんだ……

 

でも、江ノ島さんが〝傷〟のことを…そんなふうに思っていたなんてね。

 

 

「あーーもうッ!やめやめッ!湿っぽいのは絶望的に似合わないわッ!!」

 

 

気恥ずかしそうに大きな声を出し、江ノ島さんは先に、一歩…踏み出した。

 

 

「イッチ抜っけたーーッ!……オマエラッ!今後の人生は、私様と級友だったことを誇りながら生きていくコトねッ!!…行くわよッ、お姉ちゃんッ!!」

 

「あっ…ちょっと待ってよ!……そ、それじゃあね、みんな。また、どこかでッ!」

 

 

江ノ島さんと戦刃さんは、未来へと歩き出すーー

 

 

「うーーしッ…オレも行くとすっかな。じゃあね、舞園ちゃんッ!ついでにオメーらもなッ!!」

 

 

桑田クンは、未来へと歩き出すーー

 

 

「それでは皆さん、またいつか。苗木君には毎日メールしますから、安心してくださいねッ!」

 

 

舞園さんは、未来へと歩き出すーー

 

 

「ボクももう行くね。またみんなで集まるの、楽しみにしてるから!……バイバイッ」

 

 

不二咲クンは、未来へと歩き出すーー

 

 

「じゃあ…俺も行くか。アイツらも待ってることだしよ……。ありがとな、3年間世話になった」

 

 

大和田クンは、未来へと歩き出すーー

 

 

「それでは諸君ッ!生活リズムを崩さずに、健康な暮らしを送るように心がけたまえよッ!」

 

 

石丸クンは、未来へと歩き出すーー

 

 

「では、またいつか月下の淡い光のもとでお会いしましょう……ですぞッ!」

 

 

山田クンは、未来へと歩き出すーー

 

 

「本物のギャンブルを楽しみたいのでしたら、いつでも一報くださいませ。…では、ごきげんよう」

 

 

セレスさんは、未来へと歩き出すーー

 

 

「互いの道は違えど…その心は共にある。……ではな」

 

 

大神さんは、未来へと歩き出すーー

 

 

「じゃあね、みんなッ!3年間楽しかったよッ!また集まって遊ぼうねーッ」

 

 

朝日奈さんは、未来へと歩き出すーー

 

 

「あぁ、ここを出たら…また借金取りに追われる生活だべ。やっぱりダブっておくべきだったべッ!」

 

 

葉隠クンは、早く歩き出しなよーー

 

 

「あんた達には…世話になったわね。……あっ…びゃ、白夜様は特別ですからッ!」

 

 

腐川さんは、未来へと歩き出すーー

 

 

「まぁ…悪くない学園生活だった。何かどうしようもない事があったら…話くらいは聞いてやる」

 

 

十神クンは、未来へと歩き出すーー

 

 

「それじゃあ、私も行くわね。また運命が交わることがあれば……その時はよろしくね」

 

 

霧切さんは、未来へと歩き出すーー

 

 

全員が、未来へと進むーー

 

 

「これで、卒業か……」

 

 

ボク達が辿る道の先には…〝希望〟も〝絶望〟も存在する。

 

 

でもきっと…より多くの〝希望〟が、そこにはあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝希望〟は、広がる……諦めない限りーー

 

〝希望〟があるから、ボク達は進むーー

 

〝希望〟を抱き、世界は動くーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーー THE END ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミナサマ……物語は既に幕を引いております。このままブラウザバックをしていただければ幸いでございます。

 

……え? まだスクロールバーは下に続いている……と?

 

いえいえ。物語は確かに終わったのです。ハッピーエンド主義者が思い描いた物語はもう……終わっているのです。

それでも尚、この続きを望むというのであれば……自己責任である、とだけ申し上げておきましょう。コレより先が〝希望〟であるのか〝絶望〟であるのか……わたくしにも分からないのでございます。

 

 

 

 

 

それでは、わたくしからは以上となります。

 

ミナサマ、くれぐれも期待なさらぬように……

 

例えこの物語が〝絶望〟で終わろうとも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー???視点ーー

 

「以上が、今回…〝江ノ島盾子〟を中心として起きた事件の顛末になります。〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟を始めとし、〝映画撮影〟で一応の幕を閉じた…〝希望ヶ峰学園史上最大最悪の汚点〟の全容……」

 

薄汚れた白いシャツをだらしなく着崩した男は、暗闇の奥にいる人物達に淡々と報告を続けた。

 

「〝江ノ島盾子の能力〟に端を発した同時多発テロ。そして、そのテロに影響を受けたテロが伝染するかのように広まり、多くの死傷者が生まれた。そして〝ソレ〟を…希望ヶ峰学園は隠蔽した」

 

薄暗い部屋ーーその男の表情を…窺い知ることは出来ない。

 

「希望ヶ峰学園は…事件の首謀者を暴くことよりも、江ノ島盾子の〝才能〟を優先した。世間で…〝人類史上最大最悪の絶望的事件〟とまで言われている事件の黒幕を……隠した」

 

語る口調は、次第に険しくなるーーしかし、それがどのような感情に起因するものかは分からない。

 

「……まぁ、あんた達には関係ないか。むしろ……霧切仁を失墜させるにはいい材料だ」

 

男が嘲笑するかのように吐き捨てると……暗闇の奥から錆びついた声が響く。

 

「そんなことはどうでもいいッ!〝例の計画〟はどうなっているッ!」

 

「元はと言えば、貴様が我々を焚き付けたのだぞッ!」

 

「我々は相応のリスクを背負い…貴様に手を貸した」

 

「成果は上がっているのだろうな……?」

 

老人と思われるその怒声に、男は恐れる様子もなく返答を返す。

 

「そんなに焦らないでください。……取り敢えず、先の事件の全容はこの〝ウサミファイル〟に記載されていますので。一応、報告書として受け取っておいてください」

 

男は先程までの話を一段落させ、老人達の質問に答え始めた。

 

「〝ナエギマコトプロジェクト〟……〝超高校級の希望〟が有する〝人の精神に干渉する能力〟を解析、再現することで……意図的に人々を先導、あるいは煽動することを可能とした存在を生み出す計画。圧倒的な支持を得る存在を創り出し、自分達に都合がいいように利用する計画」

 

話の途中で、男は嘲笑するかのように吐息を漏らしたーーそしてそれに対し、老人達は激高する。

 

「なにが可笑しいッ!」

 

「貴様が言い出した〝計画〟だろうッ!」

 

「〝アレ〟を用意するのに…どれ程の危険を冒したと思っているッ!」

 

「最早貴様も…我々と同類なのだ…ッ」

 

しかし、その男は何処吹く風といった様子で続けるーー

 

「何かを守る為に、何かを犠牲にする……。確かに、俺はあんた達と一緒だよ。〝あいつ〟の為に…何だって利用してやるさ……」

 

纏う雰囲気が一変するーー老人達は気圧されるように黙りこくる。〝才能〟を持つ者特有のオーラに…圧倒される。

 

「あんた達は自分の地位を守るために、俺を利用しようとした。そして俺もまた…〝復讐〟の為に、この学園を利用した……」

 

狂気に満ちた顔で、男は続けるーー

 

「感謝してるよ……苗木誠と江ノ島盾子の〝能力〟の解析をするにあたり…俺を主任に任命するよう工作したのも、〝希望プログラム〟の製作に関われるように手配したのも、〝プログラムNANAMI〟の開発に携われたのも、ミライ機関の人間として一定の地位を築けたのも……」

 

己が悲願の為ーー

 

「感謝してもしきれないさ…ッ!」

 

全てを捨ててーー

 

「ありもしない〝計画〟の為に、あんた達は俺が欲していた〝最後のピース〟を用意してくれたッ!」

 

男は進むーー

 

「やっと俺は…〝復讐〟の機会を得ることができた……」

 

そしてーー

 

 

 

 

 

憎悪に満ちたその顔で呟くーー

 

 

 

 

 

「待っていろ……江ノ島盾子」

 

 

 

 

 

そしてーー

 

 

 

 

 

慈愛に満ちたその顔で呟くーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていてくれ……涼子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ーーウサミよりーー

ミナサン、こんにちはでちゅ!
あちしは本編に出ることが出来てらーぶらーぶ…、78期生のミナサンは無事に卒業できてらーぶらーぶ……で幕を閉じるはずなのに、どうなっているんでちゅか!?
……うぅ…こうなっ■しまった以上仕方ないでちゅ!ミナサ■のことはあちしが責任を持って守りま■■からね!
あちしは知っている■■ちゅ!諦めなけ■ば、ど■な〝絶望〟にも…打ち勝つこ■■できるって!
絶対に諦め■■■メでちゅ!
どんな■■が起きても……ど■な結末を突き付け■■■も……〝希■〟を失って■■■ないん■ちゅ!
■■■■■■ッ!■■■ーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー






ーー???よりーー

うぷぷ……





うぷぷぷぷ……





うぷぷぷぷぷ……





物語は終わらないよッ!





〝絶望〟は終わらないんだよッ!





そして『真の解答編』で知ることになるんだ……〝江ノ島盾子〟が生み出した、〝真の絶望〟をねッ!!





アーーーーハッハッハッハッ!!










  ーー To Be Continued ーー

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