・原作において白銀つむぎはノンフィクションの存在にコスプレできない設定でしたが、当二次小説内では『78期生のみはコスプレ可能』としております。
理由としましては、『映画ダンガンロンパ』に対し創作物であるという強い認識を持っている為です。それ故、登場人物たちへもフィクションであるという認識を持っております。
ーー???視点ーーー
「お願いだから、ママを困らせないで」
これが、母親の口癖だった。
ガキの頃からずっと、いつだってオレは誰かを困らせてた。
でも、ソレに特段の罪悪感はなかった。
だって楽しかったから。
親に怒られようと、先生に叱られようと、お巡りさんに説教されようと、
だって気持ちよかったから。
仲間と連んでやりたいことをやって、怒られて……
それでもみんな──笑ってた。
最高だった。
でも、長くは続かなかった。
一人、また一人とオレの元を去っていった。
「もう中学生だぞ?」
「えぇーっと……俺、受験あるから」
「いい加減、大人になれ」
きっとソレは正論なのだろう。
きっとソレは正常で、オレが異常なのだろう。
「お前と連むと内申点下がるんだよ。もう話しかけるのやめてくんね?」
『手のつけられない不良生徒』──いつしかオレは、そう呼ばれていた。
つまんないな──漠然と、そんなことを思っていた。
学校に行っても、誰にも相手にされない。
悪戯も、鬱陶しがられるばっかり──笑えない。
こうしてオレは学校に行かなくなった。
そして、ネットの世界にのめり込んでいったんだ。
***
ネットにも詳しくなった頃合いに、オレはとあるサイトを立ち上げた。正常な世界から溢れ出た、オレと同じ様な人間が集まる場所を。
そこそこの人数が集まって、「こんなことをしてやった」とか「あんなことをしてやった」とか、くだらないことで盛り上がった。
懐かしさとか、楽しさとか……ソコには、オレが求めていたモノがあった。
その内、リアルで会おうという話になった。所謂、オフ会ってやつだ。
正直悩んだけど、オレは行くことにした。
だって…部屋に閉じこもっていたって……結局、オレが本当に欲していたモノは手に入らないと知っていたから。
だからオレは、ソコに行くことにしたんだ。
ありのままのオレを受け入れてくれる──『本物の仲間』と出会いたかったから。
***
あの頃は楽しかった。
オフ会で出会ったヤツらとは本当に気があって、馬鹿なことをたくさんした。
迷惑駐車してるヤツとか、不法投棄するヤツとか、公共の場所で横柄な行動をするヤツとか……そういうヤツらに、オレたちは悪戯を仕掛けて回ったんだ。
いつか夢見た秘密結社のように……オレたちは、オレたちの世界を生きていた。
本当に夢のようだった。
だからこそ目覚めなければならなかった。夢はいつか…終わってしまうから。
誰かに起こされる前に、自分で起きなければならなかったんだ。
でも、それは叶わなかった。
銃声と共に、オレたちの夢は覚めた。
仲間の一人が殺された。
悪戯を仕掛けた相手が、裏社会で生きる人間だったのだ。
なあ……、オレはこんな喪失感を味わう為に生きていたのか?
なあ……、密売とか密輸とか、そういう事をやってるヤツよりオレたちの方が悪いのかよ?
なあ……、こんなこと、許せるのか?
オレはその時──初めて泣いた。
親に怒られても、ぶたれても、学校で一人でも、嫌味を言われても、一度だって泣いたことのなかったオレが……初めて泣いたんだ。
そう、オレは泣けた。『仲間』の為であれば泣けたんだ。
身体の奥から、沸々とナニカが湧き上がる。悲しさとか怒りとか、何もかもがゴチャゴチャになって湧き上がる。
そしてソレが、オレを狂気へと駆り立てた。
仲間を殺した犯人を吊し上げ、ソイツの後ろにいた組織の実態さえも白日の下に晒してやった。
もう二度とお天道様の下を歩けないほど徹底的に、完膚なきまでに、ソイツらを糾弾するように世論を操ってやった。
そして、オレが吊し上げた犯人は自殺した。
警察に捕まる前に──追い詰められて、死んだんだ。
オレが……殺したんだ。
オレがやったことは間違いだったのか。
敵討ちという、正義の名の下での行動だったはずだ。間違ってなどいないはずだ。
なのに……なんだ、この感覚は。
手の震えが止まらない。
人を殺した。殺した殺した殺した殺した殺した──
知らない感情がオレを追い詰める。叫んで、掻きむしって、暴れ回って、得体の知れないナニカを振り払おうをする。
でも、ソイツはオレに付き纏う。
「オレは悪くないッッ!!」
オレの世界は、急速に閉じていく。終わっていく。
オレは間違った。
仲間を殺されたのは本当に苦しかった。復讐してやりたかった。
でも、決して踏み外してはいけないモノがあったのだ。
どんな不条理に見舞われようとも、犯してはならないモノがあったのだ。
その道を外れてしまえば、正常な者も異常な者も関係ない。等しく〝悪〟だ。
「馬鹿なこと、しちゃったな」
オレの肌をなでていく心地いい風──
眼下に広がる人の群れ──
走る鉄屑の騒音──
もうお別れだ。この世界とも──
オレはこの罪悪感に耐えられそうにない──
──さよなら。
***
オレは無様にも生き恥を晒している。
『仲間』に止められ──この世界に踏みとどまった。
「生きてほしい」、「生きていてもいいんだよ」──そう、言ってくれた。オレを肯定してくれた。
そしてオレは決めたんだ。
この罪悪を背負っていくと。
決して、『人殺し』などしないと。
誰もが笑えるように、面白おかしく生きていくと。
そう……絶対に──
──オレの手の届く範囲で、『コロシ』は許さない。絶対に。
*****
ーー江ノ島視点ーー
「……は?」
意味がわからなかった。
全てを仕組んだのは──
〝クロ〟の正体は──
──宗方京助のはずだ。
そういう流れだっただろ。
なのになんで、アタシが……
「やれやれ、僕じゃなきゃこの事件は解決できなかったね! だって、みんな宗方京助が〝クロ〟だと思ってたでしょ!? でも違うんだよね、これが。スーパースパイの僕だからこそ、〝真のクロ〟の野望は潰えたんだよ!」
その不意打ちは、アタシの思考を停止させるには十分だった。
「ここで、全てを覆す〝決定的な証拠〟を提示するよ!」
頭が回らない。
耳から入ってくる情報は、一向に処理されない。
「この〝写真〟を見て。……コレは、この会議室で撮られた写真だよ」
その写真には、〝
「この写真は、この場所の準備をしている〝クロ〟その人を捉えているんだ」
確かに、コマ撮りで撮られたその写真は……この場にある〝証言台〟を設置する人物を捉えていた。
「言っておくけど、捏造したモノじゃないからね! 〝元超高校級の諜報員〟の名に懸けて、コレは無修正モノだよ!」
アタシだ。
その写真に写っているのはアタシだ。
「ねぇみんな、この人物が誰に見える?」
何人もの視線が、アタシに突き刺さるのが分かる。
いや、なんなの……この状況。
「ちなみにこの
アタシは……
「まったく、間抜けだよね。僕がその場にいたにも関わらず、シコシコと会場の準備をするなんてさ」
アタシは──
「おい、どうなんだ……江ノ島盾子。黙ってないで、お前の言葉で説明してみろ」
それは、意外な声だった。
「お前が〝クロ〟なのかどうか……話してみたらどうだ」
村雨早春──ヤツの声が、アタシの思考を再稼働させた。その声色は糾弾するモノではなくただ真実を欲しているかのようだった。だからこそアタシの思考は、スムーズに動き始めた。
「アタシは……アタシはやってない。ココには今日、初めて来た。本当よ。……アンタなら証明できるんじゃない? 天願和夫」
そうだ。アタシは〝クロ〟ではない。
アタシを〝クロ〟として
「ミライ機関はアタシを二十四時間体制で監視している。だから、アタシがココに来ていないことを証明できるはず」
そうだ…落ち着け。
一つずつ紐解いていけばいい。
そうすればきっと、真実に辿り着ける。
「うーーむ。それは確かにそうなんじゃが……」
なんだ? なぜ言い淀む。
「神代くん、その写真はいつ撮ったのかね? 9日前であれば……」
「正解だよ、会長さん。この写真を撮ったのは9日前。確か、
「そうか。……江ノ島くん、残念ながら9日前の君の所在を…我々は証明できん。君に言うことでもないが、新メンバーとの業務の引き継ぎがうまくいかなくてのぉ」
なんというご都合展開。
いや、どれもこれも〝クロ〟の差し金か。
「あっそ。ちょうどその日だけアタシのアリバイが無いわけだ。ま、偶然なら仕方ないわね」
まだだ。大丈夫、落ち着け、まだ糸口はある。
なぜ9日前なのか。
そしてなぜ──
「一つ、質問に答えて欲しいんだけどさ……、どうして神代は9日前からこの場所に目星を付けることができたの? アンタがさっき言ったように、招待状が送られてきたのはおよそ一週間前。それぞれ多少のタイムラグがあって6日前だったり8日前だったりするけど、少なくとも9日前から行動することなんてできない。それを理由にアタシを〝クロ〟だと言うのなら、アンタも怪しいわよね?」
アタシの質問に、神代は余裕の笑みで答える。
「なるほどねぇ……でも残念。
コイツも招待状を受け取っていた──てかそれ、アタシに黙ってただろ。
いや、そうか。そもそも神代は──
「アンタ……わざとアタシに雇われたってことね。雇われたフリをして、アタシのことを探っていた……そういうことだったのね」
「正解だよ。まあ、僕が張り付いてからは怪しい行動を取らなかったけど。でも大胆だよね! 〝クロ〟である君が、僕に『招待状の送り主を調査して欲しい』って依頼するなんて!」
ホント、どこまでも手が込んでいやがる。
だが、9日前のアタシの行動さえ証明できれば──
「アタシは9日前、確かに仕事をしてたわ。お姉ちゃんに聞け──…」
「まさか、忘れたわけじゃないよな」
アタシの発言に割り込んできた声の主は、久しく口を閉ざしていた宗方だった。
「モノクマは言っていたはずだ……外部との連絡はできないと。それに、貴様と戦刃むくろには強い相互関係がある。そんな人物の証言を受け入れられるとでも言うのか?」
チッ……お姉ちゃんに聞かずとも、社員の子たちや関係各所に聞けば証明できるのに……いや、どうせ聞き入れられないか。
アタシと少しでも接点を持っていた人物の証言は、「絶望に侵食されている可能性がある」とか言って無効化されるに違いない。
モノクマが設定したルールは、アタシの言動を封じる為だったわけだ……
〝クロ〟、あるいは主犯格の定義をこの場にいる人間に委ねたルールは、例え選んだ人物が正しい〝クロ〟でなかった場合でも処刑を可能にする為のモノ。この場の過半数を味方につけることさえできれば、誰であっても〝クロ〟になり得る。
証拠を提示し、半数以上が〝クロ〟だと思ったのなら…ソイツは〝クロ〟になってしまう。ソレが捏ち上げられた証拠だったとしても、信じ込ませることができた時点で〝真のクロ〟の勝ちというわけか。
モノクマと〝真のクロ〟が共謀している以上、間違った人物が処刑されたところでどうとでも誤魔化せる……か。
つまり、もう何もかも──
──アタシを殺すための罠だった。
この場所が立ち入り禁止だったのも、
監視カメラがないのも、
〝真のクロ〟に有利な人選も、
9日前のアタシのアリバイだけが証明できないのも、
モノクマのルールも、
アタシや白銀にヘイトを向けたのも、
神代が宗方にヘイトを向けた後…一転してアタシを糾弾するよう仕向けたのも、
『プレゼント』も、
何もかも──
──罠だった。
ムカつく……本当にムカつくけど、どうやらアタシは〝クロ〟の掌の上らしい。
詰将棋のように、最初から駒が決められていたのだ。決められた動きをして、決められた結末へと向かっていくのだ。このアタシが……ただの駒へと成り下がっていたのだ。
でも、そういうことなら…そういうことでいいわ。
アタシが死んで、〝絶望〟が消えると言うのなら……それでいい。
ただ最期に、どうしても確認しなければならない。
「ねえ……〝クロ〟が用意したっていう『プレゼント』ってさ、本当に大丈夫なの? アタシはそれさえ確認できれば……それでいい。この結末を受け入れるわ」
「ソレは、
宗方はそう答えた。
ま、そうよね。
アタシが〝クロ〟みたいだし。……身に覚えがないけど。
「うぷぷ……そろそろ頃合いみたいだね。じゃあ、お待ちかねの投票タイムといきましょうか! あぁでも、あの映画みたいにスイッチとかはないからさ、指を刺す感じでよろしくね!」
神経を逆撫でするようなテンションで、モノクマが喋り出す。
「それじゃあいってみよう!」
物語が終わる。
宗方がアタシを指差し、ちらほらとそれに続く者が現れる。
「うぷぷ…うぷぷぷぷ……」
宗方、松田、白銀、モナカ、神代──5人の指先が、アタシへと向かっている。
本当に終わる。何もかもが──終わる。
後味が良くないけれど……してきたことを鑑みれば、こんな終わり方をするのも当たり前か。
天願和夫が、アタシに向かって指を差す。
「すまんのぉ」とか言うんじゃねーよ。アタシがこの結末を受け入れるってんだから、アンタも自分の答えに自信持ちなさいよね。
「うぷぷ……それじゃあ、ドッキドキの結果発表といこうか!」
アタシを指差したのは6人。
過半数を超え、アタシは〝クロ〟になった。
「今回、全てを仕組んだ”クロ”は……」
次の瞬間……モニターのモノクマが消え、あの映画を彷彿とさせるスロットマシンが映り込む。
ガチャリガチャリと、アタシ顔が二つ横並びになる。
後一つ……。三つ横並びになった時、これは終わる。
そして最後のリールが……ゆっくりと動きを止める。
映し出されたのは当然──アタシだ。
「うぷぷ……大正解!! 今回、全てを仕組んだ〝クロ〟は──」
「江ノ島盾子さんでした!」という声は、聞こえてこなかった。
代わりに聞こえたのは、耳を擘く銃声。モノクマが写っていたモニターに小さな穴が開く。内部でショートを起こしたのか、そのモニターは暗転した。
そして小柄な少年が、銃口から煙を吐き出すピストルを適当に投げ捨てる。
そう──
──〝王馬小吉〟が、終わりかけた物語を紡ぎ出す。
「オレ、まだみんなに言ってないことがあるんだ」
空気も、脈絡も……何も関係ない。
そんなモノ、ヤツにとっては関係ないのだ。
それこそが──〝超高校級の総統〟たり得る証。
「〝クロ〟ってさ、オレなんだよね」