ぶっころりーとめぐみんに連れられ里を治める族長の家へと案内された時にはもう辺りは暗くなりかけていた。戸口にはいかにも族長らしい威厳のある男とどこか緊張した様子の少女が待っていた。案内してくれた2人に別れを告げ3人は居間へと移動した。
「我が名はアンジェルモ!天に導かれ里に来たりし渡り鳥!お初にお目にかかります」
最初より羞恥心も消え、里流の挨拶を2人にするアンジェルモ。タムリエル風には『女神によってこの里に飛ばされた宿無しのアンジェルモです』となるが聞くだけならそれなりに聞こえは良い言葉である。言葉のマジックは偉大なのだ。
「おおお! 里の者に劣らない見事な名乗りだな! さぁ、ゆんゆんも挨拶を」
「はっ、初めましてゆんゆんで……お父さん何?」
自己紹介の途中で族長に肩をトントンと叩かれ耳元で何事かを囁かれる。
おとなしく聞いていたゆんゆんの顔がみるみる真っ赤になっていき胸に手を当て深呼吸を始めた。何度か行った後、意を決したようにポーズを決め口を開く。
「わ、我が名はゆんゆん! 紅魔族の長の娘にしてやがて里を治める……うう」
最後の方は恥ずかしさから涙目になってゆんゆんは自分の部屋へと駆けて行ってしまった。気まずい沈黙が部屋を包み込む。
「す、すまない、娘はあの通り挨拶が苦手でね・・」
「いえ、苦手でも精一杯名乗ってくれて嬉しかったですよ」
「そう言ってもらえるとありがたい。 もし良かったら里にいる間だけでも娘と遊んでやってくれないか? あの通り変わり者だから中々友人ができないのが親としても心配でな」
「……お嬢さんを大切に思われていますね」
心底娘が心配なのであろう族長の様子を見て思わず亡き父を思い出し苦笑する。
(そういえば父上もよく
アンジェルモは暫し過去に思いを馳せた後、表情を改め族長に望みを伝える。
「さて、族長にお願いしたいことがございます。……私をこの里の学校に通わせていただけますでしょうか?」
「はて、里の学校に? 聞いたところによると君は既に魔法を使っていたと聞いたぞ?」
里の学校は子供たちが魔法を使えるようにするのが目的の機関である。逆に言えば魔法が使える者がわざわざ入学するメリットはない。族長の眼が探るようにを見つめる。
(……まぁ、疑って当然だな。 私も斥候の可能性を疑う)
空気が変わったことに嘆息つつも、自分の素直な気持ちをアンジェルモはぶつけることにした。
「実は、我が一族も魔法に優れた種族です。私自身も幼い頃から戦闘訓練を積み成果を上げてきました。しかし、今日会ったあのモンスターには歯が立たたなかった……!」
全盛期では無かったとはいえ、歯が立たなかった敵がいた。その敵を圧倒的な力で一蹴した者がいて、しかもそれが自分たちより劣っていると思っていた人間種族だった。サルモールのウィザードだった身としては悔しいがそれ以上に……。
「……うらやましかったですよ。私も紅魔族のような力があればと思うほどに。 お願いです! 魔法を扱う者として、あなた方の持つ知識!技術!力!それが今の私には必要なのです!」
この世界特有の対モンスターに発達していった魔法の破壊力。モンスターの特性に応じた戦闘技術。何よりこの世界全般の知識が学校に通うことで習得できる。そのチャンスを逃すまいと真剣な眼差しで族長を見据えた。
こちらを探るように見つめていた族長の眼は何時しか閉じられていた。深く考え込むように沈黙する事数秒。眉間に寄っていた皺が緩み、ため息とともに言葉が絞り出される。
「うむ……何というか、その……重い」
「……は?」
「重い! 理由が重すぎる! てっきり『面白そうだから』とか!『紅魔族のスタイリッシュさに憧れた!』とかそういうものが来ると思っていたのに……真面目か!!」
「軽すぎる!? いや、一族の強さの秘密とかはかなり重要じゃないですか! そんなに軽いノリで頼んでいいのですか!?」
「別に強さの秘密は何もないぞ? 紅魔族は元々強いからな! 知識なら分かるが魔法の強さは純粋に才能で決まるからな? 同じものを学んでも期待通りにはいかないかもしれない。 それでもいいのか?」
「……ええ、覚悟の上です!」
魔法は才能で決まる。アルトマーが他種族に対して使っていた言葉が自分に返ってきただけ。アンジェルモは自分が才能を試される側に立ったこと感じ意志を更に強くした。そしてその決意が伝わったのか族長は
「……そうか。まぁ、別に行くのは構わないが、学費は払ってもらわないといけないぞ?流石に君だけを特別扱いはできないからな。 もし、資金の当てがないならわしが何とかするが?」
「そのことですが、里で私が働けそうな場所を明日探しに―――」
多少予想外のことはあったものの無事に里の学校に通う許可は無事にもらうことができた。そこに行くための学費の稼ぐための相談をした後、疲れていたアンジェルモは早めに就寝し、明日に備えた。
翌日、アンジェルモは、部屋で1人寂しくしていたゆんゆんによる紅魔の里の案内を受けていた。なお、着ていたサルモールのローブは昨日の死闘でボロボロになったため革のチュニックに碧水晶の短剣を下げている。
「お嬢さん、お休みなのに案内ありがとうございます。予定があったのではないですか?」
「い、いえ、『テンちゃん』とのお話はもう終わったので今日はずっと空いてますから!本当に気にしないで下さい!」
「そ、それは安心しました……今日はお願いします(1人なのに誰と話したのだ?)」
休日。勉学から解放された子供が日頃ため込んだ鬱憤を晴らすべく友達と様々な遊びに興じる日である。アンジェルモ自身も孤児院や訓練所で子どもたちと一緒に様々な遊びをしたものである。
(でも、このゆんゆんという子は予定がないと当たり前のように言ったぞ? やはり、族長が言っていたように友達が……せめて私ができることはしてやろうか)
学校に行ったらなるべく関わってあげようと密かにアンジェルモは決意するのであった。
「今日はまず、午前中に鍛冶屋を覗いてみたいと思います。可能ならここで何かを売ってセプティム・・ではなくエリスに換えておきたいですね」
里の地図に回る順番を木炭で書き込んでゆんゆんに手渡す。
「その頃には昼食時になっているので食堂で何か食べましょう。あっ、その前に服屋で新しいローブを買ってからがいいですね。最後は靴屋と魔道具職人の家ですね。めぐみんとぶっころりーさんに昨日のお礼を言いに行きたいので」
「……めぐみん?」
ギギギ……っと軋んだ音を立てながらゆんゆんの動きをが不自然に止まってしまった。
「お嬢さん、どうかされましたか?めぐみんという名に何か思うところでも?」
「い、いえ何でもないです! ただ、随分と親し気に呼んでいるなぁって。 私なんてお嬢さんだし……あっ!? べ、別にそういうの羨ましいなぁとか思ってないですよ!」
呼ばれ方の違いをスルーできるほど図太くはなれないが、呼び方を変えるよう自分から提案するには勇気が足りない。その結果、『もっと親しく呼んで!』と遠回しにアピールをするしかない。ああ、この娘はかなり難儀な性格だとアンジェルモは思わず頭を抱えたくなった。
「……まぁ、お嬢さんは確かに他人行儀でしたね。もし差し支えなければ『ゆんゆんさん』とお呼びしても構いませんか? あぁ、私には敬語は要りませんよ?」
「とと、とんでもない! 私の方こそ敬語はいらないよ! よ、よろしくね? 」
◇1時間後 武器店ゴブリン殺しにて
「それじゃあ、君の持ってきた金貨は400万エリスで買い取るぜ! 金の含有量が高かったからこちらとしても助かる。あと、欲しがっていた『お手軽!お家で鍛冶セット』はその変わった水晶の剣とクジャク石とかいうインゴット3個と交換だな!……いやぁ、お陰で珍しいものが見れて感謝するぜ!」
「いえいえこちらこそ! 私の国では見たことがない金属ばかりで勉強になりました。 ……次こそはその聖剣を引き抜いて見せますよ!」
アンジェルモが持ち込んだセプティム金貨が予想以上に高く取引され、当面の生活費を確保することができた。
さらにこの世界にはない金属に興味を持った鍛冶屋が解析のために碧水晶の剣とそのインゴットを予備の鍛冶道具と交換することができた。
鍛冶屋を後にして服屋に向かう道中、幸先のいいスタートが切れたことに頬が緩みそうになる。
(大体1セプティム当たり2万エリス。今回だけはタロスに感謝してやってもいいか……)
「それにしてもアンジェルモ君は珍しい物を持ってるんだね。カバンから剣を取り出した時は驚いちゃった!」
「……ああ、このカバンは知り合いからから貰った物で持ち主の魔力に反応して広い空間を中に作れる魔道具なんだ」
貰ったのは異空間を作り出す能力で今はカバンの中に空間を繋げているだけなのだが、余計な注目を浴びないように道具の能力ということにしておく。買った鍛冶道具もその中に入れて先を急ぐ。
「まさか鍛冶の道具まで手に入るとは思わなかった……これで武器の手入れの心配はしなくていいし、簡単な装身具なら作れるようになった。今日のお礼に何か作っておくよ」
「あ、ありがとう!……でもそういうのはもっとお互いの事をよく知ってからの方が―――」
「いや、その反応は変じゃないか? もしや今まで友人から物をもらう度にいつもそんな感じで……どんな服があるのか今から楽しみだ」
「ねぇ、そうやって露骨に話題を変えたら流石に怪しいと思うわよ。もしかして昨日お父さんが余計な事言ってなかった? ・・お願いだからそんな生暖かい目で見ないでぇ!」
微妙な空気が流れてしまったものの、そこはお互いに里とは違う感性を持つ者同士。ゆんゆんによる『紅魔族の変わった風習』やアンジェルモの『スカイリムのノルドの奇行』などの話題で大いに盛り上がった。いつも1人のゆんゆんが変わったエルフの少年と楽しそうに歩いている姿は里中で目撃され様々な噂が飛び交うのだが当の本人たちが気付くのはしばらく後のこととなる。
◇1時間後 服屋にて
「我が名はアンジェルモ! 外界より来りて里の魔法を学ぶ者! これからよろしくお願いします」
「ほう、その年で1人旅をしているとは感心だね。我が名はちぇけら、里随一の服屋の店主だ。こちらこそよろしく」
「……なんか私よりもここに馴染んでない?」
先程価値観を共有したはずの少年が自分よりも里の流儀に倣っている様子を見てゆんゆんは微妙な気持ちになる。
この切り替えの早さが彼が旅で得た処世術なのかと納得しかけたが、ふと違和感を覚え思考の海に沈んでいく。
(確かアンジェルモ君って旅の途中でここに迷い込んだはずだよね?その割にはさっき水銀や黒檀を金属だって勘違いしていたり、里の外でも割といるモンスターの素材を見たことがないって言ってたっけ・・そんな子が1人で旅なんてできるの・・・)
紅魔族らしい高い知力と紅魔族らしからぬ細かい所が気になってしまう性格。ゆんゆんのその2つの性質が合わさった結果、アンジェルモが言っていた「アクセルへの旅の途中で道に迷った」という言葉に違和感を覚える。
彼の立ち振る舞いこそ確かに旅慣れている感が出ているがその割には世間知らず過ぎるのだ。
しかし、さらに深い思考へと沈もうとしていた彼女の意識は自身の名を呼ぶ少年によって現実へと引き戻された。
「あ、アンジェルモ君!? な、何か用なの?」
「あ、やっと気付いてくれたか。いや私が学校に着てゆくローブを一緒に見て欲しくて。実際に学校へ行っているゆんゆんなら助けになってくれると―――」
「なんでも私に任せて! 絶対に似合うのを探して見せるからね!」
先程抱いていた違和感は頼られた嬉しさによって上書きされオブリビオンの彼方へと投げ捨てられた。
アンジェルモはテンションが上がって一時的にローブ鑑定士(仮)と化したゆんゆんによって店中のローブを着せ替え人形のごとく試着させられ自分の言動を激しく後悔するのだった。
◇1時間半後 喫茶店デッドリーポイズンにて
昼食時を少し過ぎ、客もまばらになって来た店内の一画にアンジェルモとゆんゆんはいた。
「あ、あの…………さっきはごめんなさい! わ、私ずっと誰かと買い物に行くのは夢だったから嬉しくなちゃって」
「…………女の買い物の長さをすっかり忘れていた私も悪い。 気に病まないでくれ…………」
疲れ切ってテーブルに突っ伏していたアンジェルモは何とか身を起こしてメニューを手に取る。
昨日の夜は疲れもあって夜は何も食べなかったし、朝は族長夫妻が会議に出かけて行ったため自分の食糧で軽く済ました。よって今回が初めての異世界料理にである。
期待に胸を躍らせながらしながら品書きに目を通して行くもすぐに困惑の表情を浮かべる。
「ゆんゆん、私の目には暗黒神のシチューとか食溶岩竜のカラシパスタといった凄い名前が見えるんだが・・」
「安心して……私にも同じものが見えるから」
「ああ、目がおかしくなった訳じゃないと分かってホッとした……のか?」
転生者へのサービスにより、異世界の言葉も自動的に自分たちの言葉に翻訳できるようになっている。だからこそ紅魔節全開の名前に翻訳機能の不具合を疑ったのだが、ゆんゆんにも同じものが見えていたらしい。
主人らしき男に暗黒神のシチューを頼み出来上がりを待つ間、暫し雑談に興じる。
「ねぇ、昨日お父さんが言っていたんだけど一撃熊と戦ったって本当?」
「攻撃したのは最初だけで、後はやられないようにひたすら逃げ回っていただけだ。 早く力を付けてリベンジしたいものだ」
「だ、だめだってば!確かに里の大人たちなら楽に倒してるけど……外じゃ腕利きの冒険者でもやられちゃうほど危険な魔物なのよ!」
「ほお……腕利きの冒険者でも?」
「……ねぇ、なんで『いい事聞いた』って顔をしてるの? 大人は大人の、子供は子供のするべきことがあるの。 だから大人たちの真似をして挑んじゃだめだからね?」
「ゆんゆんの言った通りだぞ少年!」
急に話に割り込んできた声に驚いて振り向くとそこには注文の品を持った店主が立っていた。
「一撃熊と何があったかは知らない。 でも人生は長いんだから焦らず自分の成長を待てばいい。 俺たちとしてもせっかくの新顔がいなくなるのは寂しいからな。 ほら、これは店の奢りだよ」
「ミルク……。言外に早くと大きくなれということですか?」
「おお、察しがいいな! よく食べてよく飲み、早く大人になれ。そして大人になった君と酒を飲める日が来るのを楽しみにしているぞ!」
良いことを言ってやったぞという満足げな表情を浮かべながら店主は奥へと引っ込んで行った。
(背を伸ばしても年を取るスピードは変わらないって事には突っ込んじゃだめだよな?)
釈然としないものはあるが店主の好意には素直に感謝しジョッキ一杯に入ったミルクを一気に流し込む。
成人してから久しく飲んでいなかった味は体に染み渡り、先程までの疲労を癒してくれる気がした。
「さぁ、温かいうちに食べよう! ここは名前は変だけど味は保証するよ!」
「ククク……では見せてもらおうか。紅魔の食を担う者の腕前とやらを!」
「なんかどんどん里のみんなと同じになってない? 故郷に帰ったらお父さんやお母さんが悲しまないといいけど…………」
「ああ、うん……確かにそうだな」
もう故郷には帰られないし、既に悲しませていると言えるはずもなく、黙ってシチューを口へと運ぶ。物騒な名前にと全く合わない料理の味に舌鼓を打ちながらこの後、向かう場所へと話題は移っていくのであった。
To be continue…
主人公がやけにテンションが高いのは任務の経験だけではなくニルンの世界にいたからというのもあります。普段は口数少なくて高慢な感じのサルモールも人でさえ高笑いをあげながら戦う世界です。ゲーム中でも割と厨二っぽいセリフもちらほら耳にします。(そういうのが当たり前の世界だというのもありますが)
逆に紅魔族の里のような環境で普通の価値観を持ったままで変わらないでいるゆんゆんは凄く特殊な存在だといえます。ボッチなのはかわいそうですがそうなるのも分かるような気も・・