◇昼食終了後 里の道中にて
昼食を終え、めぐみんの家へと向かうアンジェルモとゆんゆん。その道中でゆんゆんがお土産を買って行きたいと言い出した。
「今回は助けてくれた謝礼を渡しに行くだけからゆんゆんは用意する必要ないと思うぞ?家主が留守だから家に上がらず帰るつもりだし」
「うん、そうなんだけどめぐみん家がどれくらい貧乏か知っているでしょ? だから食べ物を持って行ってあげたらきっと喜ぶと思って……」
ゆんゆんに言われめぐみんと出会った時の様子を思い出す。あの食べっぷりを見る限り相当お腹を空かせていたのだろう。昨日持ち帰った分だけではもう食料は空になっているしれない。アンジェルモはゆんゆんの提案に乗ることに決めた。
「確かにそうだな。では私も食べ物を持って行くことにするよ。随分と友達想いなのだな?」
「とと、友達?! か、勘違いしないでね!? めぐみんは私のライバルだからこんな事で参って欲しくないだけで―――」
「では、この先の農家で野菜を分けてもらうとしよう。 確か地図によると……」
「スルー!?ねぇ、お願いだから話を聞いてよ!?」
顔を赤くして必死に言い繕うゆんゆんを生暖かい目で見ながらアンジェルモは先へと進む。族長も友人ができないのを心配していたが、少なくとも彼女なりに心が許せる相手がいる事に安堵を覚えて。
◇15分後 里の農家への道中にて
しばらく進んでいくと遠目に一軒の家と広い畑が見えてきていた。のどかな風景に心を癒されながら家へと近づいていく。
しかし、段々と次第に聞き覚えあるような悲鳴と知らない男性の雄叫びが聞こえ、何かがぶつかる鈍い音が聞こえてくる。
嫌な予感がして冷や汗をかくアンジェルモが畑に到着すると、彼の常識を根本から破壊する光景が広がっていた。
「ゆんゆん大変だ! どうやら私の目か頭がおかしくなったらしい! 向こうでめぐみんが野菜に追い回されているのが見えるぞ!?」
2人の視界の先では地中から飛び出してきたじゃがいもみたいなものに次々と体当たりを仕掛られ、めぐみんが必死に逃げ回っている。後ろの方では農夫と思われる男が暴れるにんじん(のようなもの)を無理やり袋に押し込めているのが見えた。余りの光景に自分の正気を疑ったアンジェルモは思わず叫ぶ。
「だ、大丈夫よ、私も同じものが見えているから……うん、体育の授業をサボっているめぐみんが畑仕事なんて目を疑いたくなる光景だよね」
「いや! めぐみんではなくあの野菜モドキが―――」
「え?あの野菜はどこか変なの?」
心から不思議そうにこちらの見つめてくるゆんゆん。
色々と特殊な異世界人とは違い比較的自分たちと似た感性を持つ彼女が目の前の異常事態を見て平然としている。その様子から今目の前で起こっていることはこの世界でいう『ありふれた日常』の一部なのだと推測ができた。
まな板の上で野菜たちがビクンビクンと暴れる光景を想像し、アンジェルモは目眩がして来た。
「ちょっと顔色悪そうだけど大丈夫?」
「……何でもない。見たくない現実を受け入れるのに時間がかかってな。ちょっと援護してくるからここで待っててくれ」
こちらの心中を知らずに疑問符を浮かべるゆんゆんに断りを入れ、暴れる野菜を止めるべく魔力を練り上げながら駆け出して行く。
走りながら≪氷のマント≫と≪ストーンフレッシュ≫を発動、全身に魔法の鎧と冷気の風を纏いながら野菜たちにぶつかって行く。
こちらに体当たりを仕掛けて来たのは鎧でダメージを吸収され、逆に冷気のダメージで動きが鈍くされ落ちていく。次々と野菜が落ちていく事態に農夫とめぐみんの視線がこちらに向けられた。
「誰か知らんがいいぞ! そこのエルフの子! そのまま野菜を無力化してくれ!ほら、めぐみんも今の内にどんどん袋に詰めていくぞ!」
「分かっています! あっ!? そこで見ているぼっちも手伝ってください! さもないと恥ずかしい秘密を1つ2つ里中に言いふらしますよ!」
「や、やめて!? そんなことされたらもう外を歩けなくなっちゃうから!?」
アンジェルモが冷気系の魔法でどんどん野菜の動きを鈍らせそれを2人(と涙目のゆんゆん)が片っ端から袋へと詰めていく。日も傾いてきた頃には暴れまわっていた野菜は全て袋の中へと入れることができた。
◇2時間後 農家~めぐみん家への道中にて
収穫が終わり、子供3人はめぐみんの家へと向かう。今回はいつも以上に野菜を逃がさず捕まえることができたようで袋一杯の収穫物を分けてもらうことができた。
アンジェルモとゆんゆんの報酬はそのままお土産となりめぐみんは予定の約3倍の報酬を得た事になる。ちなみにその全ては唯一の男手であるアンジェルモが担ぐことになった。
「ふふふ……さっきは私を散々どつき回すという罪を犯しましたけど何か釈明はあります?」
「はぁ……たかが野菜相手にどうしてそう優越感に浸れるのだろうなあの子は?」
「多分、野菜をいっぱいもらえたからテンション上がっているんじゃないの?」
道中めぐみんは機嫌よく鼻歌を歌い、時折今のように野菜を煽っている。その度に袋の中で野菜が暴れるのでアンジェルモが手から冷気を噴射して大人しくさせていた。
「それにしても、アンジェはさっきあれだけ魔法使ったのに全然魔力切れになりませんね? やっぱりその変わった魔法のおかげでしょうか?」
「……アンジェルモだ。そうは言っても魔法は故郷で一般的に使われているものだから別に特別なものはないぞ?強いて言うならこの≪氷雪≫はマジカ……魔力の消費が少ないというぐらいか」
「でもさっきの鎧やマントみたいな魔法は魔力を結構使うんでしょ?それをあれだけ使っていたのに魔力切れしないなんて……」
2人は先程から魔法を連発しても未だに魔力が尽きる様子がない彼に興味を覚えていた。アンジェルモは異世界の事を悟られないように慎重に言葉を選びながら話していく。
「体内の魔力を消耗しても大気中を漂ってる魔力を取り込んで回復しているだけだ。だからもし魔力が尽きたとしても数時間ほどで元に戻るのだが……その様子だと君たちは違うのか?」
「ええ、私たちも魔力は回復しますが流石に数時間で元通りという訳にはいきませんよ。指1本動かせないのがやっと歩ける程度になるくらいです」
「魔力が数時間で元通りになるのは夜寝ている間だけみたいだね。それにしてもアンジェルモ君はお父さんから聞いていたエルフ族と全然違うような……弓が得意で肌は白いって聞いていたんだけど」
「……え、エルフにも色々な種族はいるからな! 我々はアルトマーやハイエルフと呼ばれる種族で魔法の素養が高い種族なのだ。さらに最も由緒正しく高貴で知性が高くてそもそも全ての芸術・文化の起源は―――」
「ああ、もう大体分かりました。……後半はとてもに胡散臭かったですが、少なくとも魔術の素養が高いのは本当のようですね。 最も昨日の様子をみると少なくとも瞬間的な火力は紅魔族が上のようですが」
「あれ程の威力の魔法を使えるのは故郷では少数だぞ。それを大人なら皆が同等に扱えるという君たちがおかしいのだよ……」
お互いの魔法について語り合いながら道中を行く3人。
ふとアンジェルモは自分が通う里の学校が気になり、2人に普段の学校の様子を尋ねることにした。
「え? 普段学校で何をしているのって? えと、冒険者になるために色々な事を勉強しているかな。世界の色んな知識を学んだり、運動で体を鍛えたり……」
「他には紅魔族流のカッコイイ戦い方を覚えたり、魔法を覚えるためにスキルポイントを貯めたりしていますね! 因みにクラスは男女別ですので学園ラブコメするつもりなら諦めてくださいね」
「私を下等な連中と一緒にするな! そもそも故郷でも男女別のクラスだったから今更だぞ……ところで話が変わるがそのスキルポイントについて教えて貰えるか? 魔法の習得にどうしてポイントが必要なのだ? ……それで呪文書でも買うのか?」
「「え?」」
スキルポイントについて質問をすると2人の表情が固まった。今日はよく墓穴を掘る日だと嘆息しつつも、自分の故郷は外との接点が無かったからと誤魔化すと何とか納得してくれた。
「スキルポイントを知らないのによく魔法を使えましたね。 なら冒険者カードも知りませんね? それではまずは冒険者カードの説明から・・と行きたい所でしたが、私の家が見えてきたのでまずはその野菜を置いて行きましょう。水くらいは出しますので続きは中でしませんか?」
◇15分後 めぐみんの家にて
昨日の様子から予想はしていたもののめぐみんの家はやはり貧乏だった。明らかに他の家とは段違いに年季が入った家に3人は上がる。暴れる野菜をめぐみんがしまっている間にアンジェルモはゆんゆんからスキルポイントと冒険者カードの説明を受けた。
まず、この世界ではステータスによって就ける職業に制限があること。
次にそのステータスを確かめるために冒険者カードというものを作成すること。
そして職業によって覚えられるスキルが決まっており、ポイントを使うことで修得できるということである。
「……という訳でモンスターを倒したりしてレベルを上げたり、スキルポーションを飲んだりして必要なスキルポイントを貯めると魔法が使えるようになるわ。もちろん最初に魔法が使える職業にならないとダメだから気を付けてね?」
「説明ありがとう。学校に行ったらまず冒険者カードの発行も必要だな。学校に行くのが段々と楽しみになって来た」
えらくシステマチックな法則だったことに驚くが、やることがはっきりとしている分、異世界人にも分かりやすい方法である。女神がたくさんの転生者を送るためにもこの世界は都合が良いのではないか。そんな事を考えていると野菜をしまうことができためぐみんが人数分のコップに水を持って戻って来た。
「お茶の葉が切れているのでこれで我慢してください。ところでお土産に何か食べ物とかないのですか? 私的には甘くてカロリーが高い物が欲しい所ですが・・」
「え! 野菜がお土産のつもりだったんだけど・・どうしよう甘いのは流石に無いよ」
「ちっ!」
「舌打ちされた!?」
「ほら、アップルパイやるから2人とも騒ぐな。……そういえばめぐみんは妹がいるのだったな。姿は見えないが今出かけているのか?」
面倒な雰囲気になりそうなのを察し、カバン(に繋がった異空間)からアップルパイを取り出し2人に押し付ける。2人もこちらの意図を察したのかおとなしく座り、パイに手を食べ始めた。
「……こめっこでしたら今、ぶっころりーの所です。あのニートだけだと不安でしたが、今日はぶっころりーのお父さんが休みなので一緒に見てもらっています。これを食べたら迎えに行くつもりですよ」
「不安って……いくらぶっころりーさんでも小さい子のお世話くらいはできるでしょ?ご近所さんだからもっと信用してあげてもいいんじゃない?」
「いや、時々面倒見てくれるのは助かるのですが、よく変な言葉をこめっこが覚えてくるのはちょっと困ってます……」
どうやら、ぶっころりーはこの里でも残念な部類に入る人であるらしい。
そんな人物に命を救われてしまった事に後悔しつつも気を取り直して、本命のお礼をめぐみんへ渡す。それは自分がかつて金策用に作った水中で呼吸できるようになる銀の指輪である。
「これは私の気持ちだ……是非受け取って欲しい!」
「あっ……そ、その、いくら私が美少女だからといっても流石にいきなり過ぎるのでは?せめてお互いにもっと知り合ってからじゃないと……」
「アンジェルモ君がめぐみんに指輪を!?……女としても負けちゃったの私?」
めぐみんは頬を染めながらもやんわりと断ろうとし、ゆんゆんはショックを受けたような顔をしている。予想と違う反応をされたことに首を傾げながら自分の言葉が足りなかった事に気付き『これは昨日命を助けてもらった事への礼だ』と付け加えた。
何とも言えない空気がその場に漂い始める。
「ま、紛らわしいんですよ! 指輪をいきなり渡そうとするからてっきり……ああもう!」
「……ねぇ、アンジェルモ君に一応聞いておきたいだけど……結婚を申し込む時ってそっちではどうしてたの?」
「えーと、確かマーラという神のアミュレットを首にかけて意中の相手に見せれば良かったはずだ。……何だ? 結婚に興味あるのか?」
「あぁ、なるほどね。うん、ちょっと勘違いがあっただけだから気にしないでね?」
「……経緯は良く分からないが不快な気持ちにさせてしまったみたいで悪かった。 申し訳ない……」
「はぁ……もういいですので頭を上げてください。 ちょっと予想外だったので慌ててしまっただけですから。 と、とにかく早く食べてこめっこを迎えに行きますよ!」
何かやらかしてしまった落ち込むアンジェルモを見て2人も段々落ち着きを取り戻す。思えばこの少年は里の外から来たということを差し引いてもかなりの世間知らずな面が多く見られたが、少なくとも自分から積極的に里に馴染もうとしているし、受けた恩を返そうとする律儀な面も見られる。『もし、学校で何か苦労するようなら助けてやってもいいかも』と目の前の少年を見ながら2人は思うのだった。
◇40分後 里の靴屋にて
軽食も終わり、ぶっころりーの家へと3人は向かった。玄関で要件を告げるとこの家の主と見られる男性と小さな少女が玄関へと駆けてきた。
「我が名はアンジェルモ!昨日靴屋のご子息に命を救われし者!お初にお目にかかります御ニ方」
「おお、昨日倅が言っていた子だな! よろしくな少年!」
「我が名はこめっこ! 紅魔随一の魔性の妹! 昨日の串焼きのお兄ちゃんだね!」
「そういう君はめぐみんの妹だな?これからよろしく。 ところで店主さん、ご子息の姿が見えないようですが今はどちらに?」
「ああ、さっきまでこめっこちゃんの相手をしてたんだが今は疲れてダウン中だ。倅に何か用だったか?」
「いえ、お渡ししようと思っていた物がありましたので……お手数ですが、この首飾りを彼にお渡しいただけますでしょうか? 昨日のお礼にと持参した物です。」
ぶっころりーに用意したスタミナの回復速度が上がる銀の首飾りを父親に渡す。
効果を説明した際に「これで倅をビシバシ鍛えられるな!」という言葉が聞こえたが敢えて聞かなかった事にした。ぶっころりーには少々恨まれるかもしれないがその経験がいつか彼の役に立つのだと自分に言い聞かせながら。
◇10分後 里の靴屋~族長の家の道中
辺りも段々暗くなって来たので挨拶もそこそこに4人は靴屋を後にし、めぐみん姉妹は自分の家へ、ゆんゆんとアンジェルモは族長の家へと帰って行った。
「今日は里の案内をありがとう。 おかげで里の様子も分かったし、当面の資金も当てができた」
「こ、こちらこそ! まるで友達と遊び回れたみたいで楽しかった! も、もし迷惑じゃなければまた誘って欲しいな……」
「わ、分かった……機会があればな」
まるでアンジェルモはまだ友達の内には入っていないとも取れる発言だが、思えば昨日突然来たばかりの余所者を信用しろというのが無理な話だなと考え直す。
寧ろスカイリムで人間に蛆の如く嫌われていた事を考えれば、人間の子供とお互いに気兼ねなく話せている今の関係の方が異常なのだ。例えこちらから歩み寄ろうとしても、里の皆も歩み寄ってくれていなければ今日のような一時を過ごせなかったはずだ。
「さて、ゆんゆんにも今日のお礼だ。 芸が無くてすまないがめぐみんと同じ指輪だ。 効果は違うが……」
「あ、ありがとう! 生まれて初めて親戚以外の人から貰えた……一生の宝にするね! 大丈夫! 失くさないようにきちんと金庫に閉まっておくから安心して! ふふ、めぐみんとお揃いか……」
「喜んでもらえて何よりだが、その指輪には魔力が少し上がる効果があるから身に着けてくれよ?」
予想外の重い言葉に少し引きそうになりながら無事喜んでもらえたことに安堵する。
どうやら贈り物を貰えた喜びだけではなくめぐみんと同じ指輪を持てたことも嬉しかったようだ。
夕食の時間が近づく中、上機嫌な彼女に先導されて村長の家へと向かう。家に着いたら族長に今後の住居、仕事の当てなど話すことはたくさんある。でも、まずは昨夜食べ損ねたこの世界の家庭の味が気になっていた。
どんな料理が出てくるのかを想像し、アンジェルモの足は自然と速くなって行った。
◇夕食終了後 客人用寝室にて
夕食が終わり、自分のために用意された空き部屋にアンジェルモは1人いた。周囲の気配を探り、特典の力で一冊の革製の手帳を異空間から取り出す。
「昨日は流石に色々あって書く暇が無かったからな……最後に書いたのは奴と戦う前か」
手帳のページを捲りながら1人呟く。子供の頃から彼は日記をつけるのを日課としており、最期の戦いの前に野営地で書いてから途切れていた。
ムンダスでの自分の生は終わりを迎えたので、日記を終わらせるべきかとも考えたが、異世界での新たな生は予想を遥かに上回る驚きの連続であった。
正直な所、今までの常識が通用せずに頭が混乱しそうになったので情報を整理しようと考えたのだ。今までの記録の確認を終え、生前に買っておいた真新しい日記を手に取る。羽ペンの先をインクで浸し表紙に自分の名前とタイトルを書きこむ。
『記録者 サルモール所属魔導士 アンジェルモ=ヴェルディ 異世界滞在記 』
To be continue…
次回は タイトルにもある異世界での滞在記録(日記)を主人公がつけます。自分で好きな設定を創作できるスカイリム主人公とは違い、本作の主人公はサルモール所属という設定の都合上かなりのアンチ・ヘイトがあったりします。
(例、タロス教滅びろ。ノルドは脳筋で頭がおかしい、我がアルトマーの魔法はタムリエル1ィィィ!)
その凝り固まった思考が異世界で、しかも人間でありながら自分達が扱えない魔法をポンポン使える種族に会ったとしたどうなるのか? そういうストーリーになればいいなと思っています。
因みにサルモールにも問答無用で襲い掛かってくる多数の者と、相手が優秀で利害が一致さえすれば協力してくれる少数の者がいます。前者だとそもそも物語が崩壊するので主人公は後者です。