サルモール魔道士の異世界滞在記   作:半日本人

17 / 36
意外とすんなり書けましたので投稿させていただきます。
日常編を書くに当たり、やはり紅魔の里は魔王軍との戦いを含めて日常だと思いましたので今回のお話になりました。
主人公の呼び名がカタカナとひらがなで分かれていますが、より彼に心を許している人物がひらがなです。無意識に里のみんなと同じ扱いをしていると思っていただければ・・


10話 魔王軍と戦う簡単なお仕事です

数カ月も経てば異世界での生活にも慣れが生じて日常へと変わって行く。

朝起きての鍛錬から始まり、学校で友人達と触れ合いながら知識とスキルポイントを稼ぐ。

放課後の補習が終われば、バイトに行くか魔道具店で学ぶ。

 

そんな日々のサイクルが時折、招かれざる者によって乱される事がある。

それが里に攻めて来る魔王軍の存在である。

 

 

紅魔の里 男子教室にて

 

ホームルーム。

いつもなら魔法で鎮静化させられるほど騒がしい生徒さえも真剣な表情で入って来た担任を前にこの時ばかりは静かだ。

 

「みんな聞いてくれ!たった今、里の外れで魔王軍を見かけたとニー・・巡回していた若者から報告があった。念のために僕も加勢しに行くから今日の授業は中止する!皆は安全が確保されるまで自宅で待機してくれ。必ず集団で下校するように!アンジェも今日の補習は無いからこの課題をやっておいてくれ!発表は以上だ」

 

課題のプリント束を渡し終えると慌ただしく教室を出て行った。

残された生徒たちもそそくさと荷物をまとめ帰宅準備に取り掛かる。

 

「おのれ魔王軍・・!私がスキルポイントを稼ぐチャンスを・・」

 

「まぁまぁ機嫌を直してよあんじぇ、さっさと帰って今日はのんびりしよう」

 

「愚弟のいう通りだ。こういう時にしっかり休んでこそ一流だ。普段忙しいのだからこんな時こそゆっくり休め」

 

「あんかの、それにえすとる・・前々から思っていたが、仮にも敵が侵攻しているのにゆっくり休めっておかしいからな?・・・どうして私が住む所は非常識な連中が多いのだ」

 

こみあげて来る頭痛を忘れるかのようにアンジェルモはかぶりを振る。

 

かくいう彼自身も初めて魔王軍が侵攻して来た時こそ慌てたものの、里の大人たちが一方的に蹂躙し、高笑いしながら敵を追い回している様を何度も見させられて当初よりは危機感も薄れて来ている。呑気に授業の中止に怒りを覚えているのがその証拠だ。

 

ドラゴンや吸血鬼を相手に素手で殴りかかって行く連中がいたスカイリムではハラハラしながら加勢していたが、大人全員がアークウィザードであるこの里ではその心配もない。

とはいえどちらも強敵を相手に嬉々として向かっていくのには変わらないのでアンジェルモ目線ではどちらも非常識な連中だ。

もちろん里ではごく一般的な思考を持つ目の前の兄弟は心外だという顔をしてるが。

 

「ふむ、どうやら我らの同胞となるにはまだ時が必要だな。あんじぇよ、精進するが良い」

 

「兄さん・・あんじぇは普段真面目だけどたまに面白い事をするのがいいんじゃないか!大丈夫、クラスのみんなも君の行動を微笑ましく見ているよ!なんせ成長日記をつけてるぐらいだしね」

 

「こ、この私が面白いだと・・いや!それより聞き捨てならないことを言われた気がする!みんなが何をつけているって!?」

 

「おや、僕たち以外はみんな下校したみたいだね!それじゃあ、兄さんそろそろ帰ろうか」

 

「帰る前に1つ忠告させてもらう。どうでもいい事を気にしていると頭部が光を反射するようになるぞ」

 

「なるか!そもそもこの年で禿げる訳が・・ おい!お前たち逃げるなぁあ!」

 

 

 

15分後 里の道にて

 

アルトマーはタムリエル最速の足を持っている。だがその足を持ってしてもギャグのように土煙を上げて逃げる2人を捕まえることはできなかった。

これはある転生者が伝えた『ぶっ飛んだギャグはシリアスを凌駕する』という法則を利用した高度な作戦の結果である。

事実、彼の世界では某宇宙の帝王がギャグ補正が掛かった警察官に駐車違反で逮捕されたという伝説が語り継がれている。

 

なお、アンジェルモの世界は「ふざける=死」の所なのでそんな法則など存在しない。

ふざけるのはデイドラやドラゴンボーンのような規格外の者達の特権なのだ。

 

「くそ!あいつら・・逃げる時だけはいつも速い・・ん?」

 

自宅へと歩いて行くと何やら遠くの方に人だかりが見えて来た。

どうやらは里の若者たちが家の前で何やら相談しているようだ。

その若者たちの中に知り合いの姿を見つけ話しかける。

 

「おや、ぶっころりーさん?こんな大勢で何をしているのですか?」

 

「うっ・・あんじぇ君か」

 

「・・何ですかその嫌そうな顔は。ぶっころりーさんが覗きなんかするから悪いのですよ。こちらから師匠に知らせてないだけ感謝してください」

 

「い、いやその事じゃないよ!・・実は最近親父が俺と君を比べるようになってさ」

 

「店主さんが? 何故私とぶっころりーさんを?」

 

「うん。『あんな若い子が1人で立派にやっているのにいい年したお前は1日中ぐーたらしているつもりか!』って最近靴作りを手伝わされるようになってね。君の顔を見るとその事を思い出すというか・・まぁ、君の首飾りのおかげで俺のそけっとを見に行く元気はあるけどね」

 

「貴方って人は本当にもう・・。話が逸れてすみません、先程の答えをお聞きしていいですか?」

 

折角の余った体力を覗きのために使うという彼に物を申したい気分になってきたが、気を取り直して話を戻す。

 

「あぁそうだった。今日魔王軍が攻めて来ただろ?もう片が付いたんだけどこの家に何体か逃げ込んだみたいでね」

 

「あぁ、上級魔法だと家ごと破壊しちゃうから困っている訳ですね」

 

「そうそう!『家には大事な物があるから壊さないで』って言われたからね」

 

こちらの強力な魔法では家を壊してしまう。

反対に弱い魔法を使っても仕留めきれず敵が暴れてしまえば結局は壊れてしまう。

 

「せめて、里の外の人たちみたいに武器で仕留められればいいけど・・ん?」

 

ふと、アンジェルモの顔を見てぶっころりーは数カ月前から見続けたある光景を思い出す。

アークウィザードがほとんどのこの里の中で剣の修行を繰り返していた変わり者たちの姿。

1人は言わずと知れたそけっと。そしてもう1人は・・

 

「アンジェ君、今から簡単な仕事を頼んでいいかい?」

 

「私にできる事でしたら別にいいですよ? 何をすればいいのですか?」

 

「何、お使いみたいなものだよ」

 

そう言って笑った彼の顔はとても眩しかった。

 

 

 

 

 

10分後 紅魔の里 とある民家の中にて

 

 

(そしてその笑顔に騙された結果がこれか・・私も随分甘くなったものだな)

 

ぶっころりーが頼んできた簡単なお仕事とは、逃げ込んだ魔王軍の討伐である。

仮にも世界を追い詰めている勢力をお使い感覚で討伐する。

紅魔族の異常な戦闘力が垣間見える。

 

(隠密行動の基本は力を抜き、同時に神経を指先まで集中。衣擦れや体重移動に注意し―)

 

同じ部隊だったカジートから教わった内容をおさらいしながら慎重に進んでいく。

幸いにも制服のように付呪の指定はされていないので消音効果のあるブーツが自分の足音を完全に消してくれている。

 

(生命探知に2体、死体探知に反応無し。階段を上がった所と2階の部屋の窓際にいるな )

 

『そろそろ仕掛けるか・・≪無音・透明化≫!! 』

 

無音の唱えで幻惑魔法≪透明化≫を使い他者から一時的に認識されなくなる。

その状態で階段を軋ませないように慎重に上へと上がって行く。

 

(上から獣臭がしてきた。消臭のポーションを使わなかったら匂いで感づかれていたな)

 

敵との接触に備え静かに腰の短剣抜き逆手に持つ。

階段の頂上にたどり着くとそこにいたのは狼の頭を持つ人型の魔物だった。

 

「むぐ!?」

 

素早く背後に回り込み標的の口を押え頸動脈を短剣で掻き切る。

傷口から生暖かい血が噴き出し床を徐々に濡らしていく。

 

「・・・」

 

やがて魔物の身体が大きく痙攣すると力を失い噴き出す血の勢いも徐々に収まっていく。

静かに横たえられたその体はもう動くことは無い。

 

『≪無音・透明化≫・・』

 

標的を仕留めた興奮を抑えるかのように努めて冷静に魔法を発動する。

再びその姿は認識の外へと消え、ただ血だまりに沈む死体のみが残された。

 

 

 

同刻 紅魔の里 民家2階の1室にて

 

『―いい?何としても時間を稼ぎなさい!もうすぐアンタ達をこちらに転送できるから!』

 

「ありがとうございますシルビア様・・・!ゴルマもきっと喜ぶでしょう!」

 

手に握られた水晶からは彼の上司が必死に部下たちに指示をしているのが見える。

里を攻略すべく準備に当たっていた魔王軍の陣に突如、紅魔族達がテレポートで現れ魔法を雨霰と打ち込んでいったのはつい先ほどの事。

 

不意を突かれた魔物の多くに犠牲が出て命からがら撤退して行った。

そんな中、彼とゴルマは逃げ遅れてしまい、偶然空いていたこの民家へと逃げ込んでいた。

幸いにして紅魔族も建物ごと吹き飛ばすような真似はせず、こうして外部に救援を求める猶予が生まれたのだ。

 

『・・こちらの装置は起動できたわ!後5分、何としても持ちこたえなさい!その水晶は絶対に手放しちゃだめよ?』

 

「はい!承知しております!・・急いでアイツにも知らせてやらないと!」

 

自分たちは助かる!その喜ばしい知らせを一刻も早く仲間に伝えるべくドアを開ける。

その目に飛び込んできたのは血の海に横たわる仲間。

 

「・・・おいゴルマ! 何があった!?・・・くそ!誰が・・」

 

既に手遅れである事を悟り、一気に臨戦態勢に入る。

同時に襲撃者の情報を遺体の様子から模索する。

 

 

傷は鋭利な刃物でつけられ、急所を正確に切り裂いている。

明らかに武器を使い慣れた者の仕業。

強力な魔法を使える紅魔族がわざわざ武器をここまで扱えるようになる必要が無い。

 

「シルビア様、こいつは妙です・・あいつらにしては戦い方が変だ」

 

獣並みの嗅覚を持ち、暗闇でも目が利くゴルマが抵抗した様子が無い。

例えポーションで匂いは消せても彼に気付かれず接近することは不可能に近い。

それこそ姿を消す魔法を使ったとしても。

 

「上級魔法に姿を消せるのがありますが、あれは術者の周囲に外から見えなくなる結界を張る魔法。接近して結界の中に入れば気付かれるはず・・まさか新たな魔法を?」

 

『っ!?後ろよ!!』

 

考え事で気が緩んだ一瞬。

背後から突然現れた剣が背中から胸へと貫通。傷口から眩い光が漏れその体を炎が包む。

 

「ぐぁああああ!? この光・・太陽の・・・!?」

 

魔族である自分の弱点である太陽の力で内部から焼かれる感覚。

水晶を取り落としながらも必死で逃れようとするが、背後から伸びた手が体を引き戻し更に深く剣を突き入れる。

 

『ちょっと何があったの!?応答しなさい!?・・おい!応答しろ!』

 

意識が薄れゆく中、聞こえて来る上司の声。

最期の瞬間、せめて襲撃者の情報を上司に伝えるべく背後に視線をやる。

 

「金・・・色・・のエ・・ル・・・フが俺を・・」

 

彼の目が最期に捉えたのは、光り輝く剣を持ち水晶を踏み砕いている、見たことが無い容姿のエルフであった。

 

 

 

 

5分後、紅魔の里の民家 2階にて

 

「うわぁ・・凄くスプラッタな絵面だぁ・・いや、確かに家は壊れてないけどさぁ・・」

 

床一面は血の跡で一杯。ご丁寧に遺体付き。殺人現場顔負けの光景がそこに広がっていた。

 

「ご心配なく、今から除去しますから・・≪氷雪≫!!」

 

「おお、これが農家の親父さんが言ってた野菜の収穫に最適な魔法か!」

 

「凄い!初級魔法より強く中級魔法より弱いという絶妙な威力!床を傷つけずにみるみる血を凍らせているわ!」

 

部隊で覚えた偽装工作の技術が功を奏し、床を元通りに戻すことができた。

 

「それにしてもお手柄だったねあんじぇ君!そけっとと剣の稽古をしていたのは知ってたけど」

 

「いえ、不意を突いたから勝てただけですよ。きっと正面から戦ったらステータスの差であっさり負けていましたから・・あっ、お姉さんスクロールありがとうございました」

 

「いえいえ、どういたしまして。それにしてもそけっとと修行ね。もしかしてそのまま恋に発展したりして?」

 

「は?こいつは族長の所の娘さんと付き合ってるって聞いたぞ?この間も一緒に食事して里をぶらぶら歩いていたし」

 

「俺はめぐみんの親父さんが『うちの娘はやらんぞ!』って怒鳴ってたのを聞いたな」

 

「はぁ・・その、ひょいざぶろーさんにはもう言いましたが、私はたった数十年のために結婚をする気はありません。私達アルトマーの寿命は約1000年ですから寿命は最低500歳はないと割りに合わないですよ」

 

「なぁーんだてっきりリア充だから鉄槌を下そうと思ってたのに・・」

 

少なくとも、アンジェルモは学校生活を満喫し十分な収入もあるリア充であるが、彼女がいないという1点だけでターゲットから外されたようだ。

里のニート達の優先順位が透けて見える。

その中の1人であるぶっころりーが何かに気付いたようだ。

 

「そういえばあんじぇ君の冒険者カード見たことないな。ちょっと見ていいかい?」

 

「ええ、どうぞ。 まだまだ弱いから面白くないですよ?」

 

「どれどれ?・・・・もうレベル11って早!?それにユニークスキルが3つ・・なにこれずるい!?」

 

「おっ、さっきので一つ上がったみたいですね!因みにユニークスキルの1つはデメリットでもう1つは1日1回限定のスキル。結局のところ魔力高速回復しか普段は恩恵が無いですよ」

 

「光輝く聖剣を持ち、自分だけしか使えない魔法があって、自分だけのユニークスキル・・しかも呪いっぽいのと切り札っぽいスキル・・! サインください!」

 

自分の冒険者カードが思わぬ騒ぎを生み、2度と気軽に見せまいと心に誓うのだった。

 

 

 

 

同時刻  ???

 

「金色のエルフねぇ・・」

 

肘掛け椅子に座りながら部下が命を懸けて伝えた情報と水晶を介して自分が見た映像から敵の正体を推測していく。

水晶越しに見た光り輝く剣は太陽の光を纏っていたらしい。

もし事実であるなら魔族やアンデットにとって最悪の武器となる。

そしてそんな武器を持っている存在といえば・・

 

「ニホンジン・・魔王軍(アタシたち)を苦しめた多くの冒険者で勇者候補とも呼ばれてる存在。

人間にしかいないと思っていたけれど実はエルフもいたのかしら?もしそうならー」

 

ただでさえ厄介な場所に更に厄介な存在がいる事になる。

事の次第を早めに確認して魔王様に報告しなければいけない。

 

 

「ならアタシが直接見た方が確実ね。これ以上部下に犠牲を出すわけにはいかないわ」

 

気だるそうなしぐさをしながらもその目は強い使命感を帯びている。

部下に命じて紅魔の里に関する資料を取り出させ彼女は誰にいうのでもなく呟く。

 

「金色のエルフ・・その正体必ずアタシが掴んでやるわ」

 

To be continue…




解説 
このすば!の世界の魔族やアンデットはニルンの同族より太陽光や聖属性に弱いという設定です。上位アンデットのリッチーであるウィズでさえ太陽光でダメージを受けるのに対し、ニルンの吸血鬼は弱体化するだけ。ウルフスカル洞窟前のスケルトンは元気一杯に襲ってきます。
この認識から太陽の力を持つドーンブレイカーがスカイリム本編より退魔の力が強化されています。
なのでより効果のある武器に変えてフィニッシュムーブを決めています。


碧水晶のダガー→狼頭のモンスター(ゴルマ)
ドーンブレイカー→魔族(水晶で通信していた方)

アンデットや魔族以外だとドーンブレイカーはそこそこ切れて絶対に折れたりしないちょっと燃える剣になります。腐ってもアーティファクトという事で…感想でご指摘いただいたように黒檀で研いだりできますがサルモールは使わないんですよね。魂石みたいに代用品を使うしか…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。