こうして学校の話を書くと紅魔族の教師はどういう意図で授業をしているのか色々妄想が膨らみます。
原作のノリを見ていると何も考えてない可能性も否定できないですが・・
中年商人様、誤字報告ありがとうございます!
紅魔の里 森の中にて
今日は男女合同で行う課外授業「養殖」の日。
生徒は木で出来たハリボテの武器を手に木々が色づいた森を歩き回り、教師が魔法で拘束したモンスターを見つけては止めを刺している。
初めは動けないモンスターに攻撃することに抵抗を覚える者もいたが、次第に止めを刺せるようになっていった。
そんな仲間たちの様子をアンジェルモは見回っていた。
(うむ、皆も段々覚悟ができて来たようだな。私の訓練生だった時を思い出す)
サルモールの訓練生だった時を思い出し懐かしい気持ちになる。
一見残酷に思えるが戦場で躊躇することは自分や仲間の死に直結するため、こうして命を奪う事には慣れておく必要があるのだ。
この機に魔王軍と戦う心構えが付くことを願いながら、見回りを再開する。
(しかし、死にかけに止めを刺すだけでレベルが上がるとは・・シルビアと戦った時は経験値すら貰えなかったというのに・・)
この世界では、魂の記憶=経験値は敵を切った回数ではなく止めを刺した事で与えられるものらしい。
例えば、ある冒険者が必死で体力を削ったモンスターを他の冒険者が横から止めを刺しても経験値の全ては止めを刺した側に行き、削った方には一切いかないのだ。
ムンダスとは違うのだと頭では分かっていても幹部相手に必死に食い下がったのに何も得られなかったのは空しい物がある。
考えれば考えるほど気分が下がる一方なので意識を見回りへと戻し周囲に目を配る。
(・・・よし、異常なし!)
この授業では低レベルの子ども達のレベル上げが目的となっている。
そのため既にムンダスの魔法でモンスターを狩ってレベルが上がっているアンジェルモは討伐を控えるように担任から指示が出たので、周囲を見回り、安全の確認や怪我の治療を頼まれた。
その代わりとしてスキルアップポーションが報酬として与えられる事になっている。
しばらく見回りを続けていると、女子クラスの班が集まってざわついているのが見えたので確認のため声をかける。
「こんなに集まってどうした? 何かトラブルか?」
「あ!アンジェ君いい所に!ちょっと転んで膝を擦りむいた子がいてね・・・」
「どれどれ? ・・少し出血しているから消毒するぞ。我慢しろよ?」
幸い少し擦りむいた程度だったため、傷を洗って薬で消毒し回復魔法で傷を塞いでゆく。
彼の周囲から来る好奇の視線を感じながら何とか治療を終える。
「凄い!めぐみんから聞いていたけど本当に治癒の魔法を使えるんだね!一体どう――」
「いや、このぐらいの傷なら何とか・・そういえばめぐみんやゆんゆんは来てないのか?」
自分の魔法に質問が及ぶ前に、逆に自分が気になった事を質問し、話を切り替える。
「ああ、あの子たちは1つ下だから来るのは来年。まぁ、ゆんゆんやあるえを見てると信じられないだろうけど・・」
「いや、むしろめぐみんが私の1つ下なのに驚いた。あれだけ小さ――」
「おっと、それ以上口にすると身の安全は保証できないよ」
驚愕の事実にアンジェルモは頭を抱える。
女子の中でもとびっきり小さく、色気よりも食い気が目立つめぐみんは自分より大分年下だと考えていたからだ。本人が知ればさぞ激怒することだろう。
「なぁ、私が先程口走った事はめぐみんに内密にしてくれ・・ひょいざぶろーさんの所でよく顔合わせるからな・・さて、そろそろ次に行かないと」
「うん、言わないから。治療ありがとうね!」
女子たちに別れを告げ、見回りを再開する。
終了時間も近づき、辺りにはモンスターを追いかけまわす級友たちと彼らにミンチにされたモンスターの姿があちこちに見える。
(モンスターのミンチ・・今日の夕飯はハンバーグにするか?それとも団子にして鍋に・・)
目の前の割と凄惨な光景を見ながらも彼は今夜の献立について思いを馳せるのだった。
3時間後 紅魔の里 職員室にて
今日の授業が終わり生徒たちが下校していく中、アンジェルモは担任からの呼び出しを受けて職員室にいた。
「お疲れ様アンジェ。ほら約束のスキルアップポーションだよ」
「ありがとうございます。先生もお疲れ様でした」
手伝った報酬のポーションを受け取り、ローブのポケットにしまう。
養殖には参加できなかったが、レベルアップしたばかりのアンジェルモが弱いモンスターを狩った所で時間内にレベルを上げられたのかは微妙な所である。
そのため僅か1ポイントとはいえ確実にポイントを稼げるポーションの方が今は嬉しい。
心なしか受け取った時の表情も明るいように思える。
そんな教え子の様子に苦笑しながらもかるせるは次の話題へと移る。
「そうそう、昨日話した補習課題の事を覚えている?アレ、僕の好きにしていいってさ」
一瞬何のことか分からずきょとんとしていたアンジェルモの顔が不安そうに眉を寄せる。
「いいのでしょうか? 私としてはありがたいですけど・・」
「勿論、貴重なポーションだからただではあげられないよ。君には特別試験を受けてもらう。筆記は当然として、実技として僕と模擬戦もするからそのつもりで――」
「ちょっと待って下さい!?まさか先生と戦うのですか!?」
冗談ではないと思わず声を上げる。
相手は担任、恐らく里で1番自分の情報を持っている相手だ。
学校でアンジェルモの魔法を見ており、担任という立場上プライベートでの出来事も把握し、おまけに冒険者カードを1番見せている相手だ。
それは逆にシルビアやそけっとのように情報アドバンテージでステータス差を埋めるのが難しいという事だ。
折角のスキルポイントを稼ぐチャンスをふいにしたくはない。
「大丈夫。そけっとと同じで上級魔法で攻撃はしないから。勿論、非攻撃魔法や中級魔法は使うけどね」
「・・ちなみに仮にその試験を合格したらポーションはいくつもらえますか?」
「5本だよ」
「5!? ぐ、しかし・・」
余りにも魅力的な数に心が揺れる。
これだけあれば冬が終わる頃には上級魔法を覚える事も夢ではない。
何より農家の兄弟をはじめ卒業間近の級友達と卒業することができる。
しかし、恐らくそけっと以上に勝ちを拾うのは難しい相手だ。
俯いて真剣に悩み始めた彼に担任が更に言葉を続ける。
「アンジェは情報の大切さを知っているね。体育の紅白戦では状況把握を優先するし、里の皆とも積極的に会話して情報を集めている。そしてそけっとと手合わせをしている君が僕との模擬戦を躊躇するのは情報アドバンテージが僕の方にあるからだ。違うかい?」
「・・・おっしゃる通りです。私は先生の戦い方を知りませんが先生は私を知りすぎています。この状態で戦いを仕掛けるのは余りにも――」
「うん、君のその考え方は兵士だとしたら正解だよ。でも・・冒険者としてはどうかな?」
『兵士だとしたら』という言葉にアンジェルモの肩がピクリと跳ねたがそれに気が付く事もなく話は続く。
「確かに戦いは命がけだよ。負けたら死ぬかもしれないから君のように対策をしっかりして手堅く生きるのも一つの手さ。でもそれだけだとわざわざ冒険者になった意味はないよ。冒険者の生き甲斐は、富、名声と色々あるけどやっぱり未知との出会いを楽しむことが醍醐味だと思うよ?」
「未知との出会い・・?」
「新種のモンスターを見つけて死闘した人。誰も到達したことのないダンジョンを探索した人。そうやって未知の物に一歩踏み出した冒険者たちのおかげで今があるんだ。幸い君は未知との出会いを好意的に受け取ることができる。もし今でも冒険者になるつもりならそこから一歩踏み出す勇気を持って欲しい。結局ここで幾ら学んでも冒険して行けば未知との遭遇は避けようがないからね。さぁ、そのうえで君の答えを訊こう!」
そう言い終わるとにやりとアンジェルモを見る。
ここまで言えばこの教え子がどう答えるのかが分かっているかのように。
そしてこの状態のアンジェルモが出せる答えは1つしか無かった。
「・・そこまで言うのでしたらお受けします。・・冒険者は云々とか言いましたが要は先生が私と手合わせしたいだけですよね?しかも正論なのがたちが悪い・・」
「いやぁ、生徒の実力を確認するのも教師の務めだからね!君が冒険者としてやっていけるのかしっかり見極めてあげるよ!」
「・・それで、本音は?」
「ん? 君と戦うと面白そうだから!」
「ぐぐ・・教師でなければアルドメリフックをその顔に打ち込んでやるのに・・・!」
時刻は2日後の体育の授業。
場所は学校の校庭。
その時には、目の前の元凶にお灸をすえてやろうとアンジェルモは固く決意するのだった。
1時間後 ひょいざぶろーの工房 倉庫にて
「――というわけで先生相手に何か使えそうなものがないか探しているわけだ。ひょいざぶろーさんの許可は取っているぞ?」
フライパンを片手に怪訝な顔をしているめぐみんに事情の説明をする。
「物取りかと思って駆けつけてみればそういう事でしたか・・はぁ~お父さんも年頃の娘がいるのに勝手に入らせないで欲しいものですよ」
「年頃?・・・他に誰かいたか?」
「どうやらこのエルフは余程フライパンの餌食になりたいようですね!」
「おい待て!? 話せば分かる!?」
意図せず思いっきり地雷を踏んでしまい目を紅く光らせためぐみんがフライパン片手ににじり寄ってくる。
相当使い込みあちこちが歪んでいるそれは調理器具というよりメイスに近く油でギトギトしているように見える。
万が一殴られでもしたら痛み+油汚れのコンボで体とローブにダメージは必須だ。
「とにかくそれを下ろしてくれ!《鎮静》!!」
「ああ!? 卑怯です! 術を解いてください!」
幻惑魔法の光弾がめぐみんに当たり強制的に精神を落ち着かせていく。
目の輝きが治まったのを確認すると持っていたフライパンを回収して、アンジェルモはほおっと汗を拭う。
「危ない危ない・・それにしてもめぐみんは少し気にし過ぎじゃないか?早熟な人間とは言えまだまだこれからだろうに・・確かに11歳にしては小さいが・・」
「・・私は必ず立派な魔法使いになってあの時のお姉さんのような爆裂ボディーに!運命には負けません!」
「全く意味が分からないぞ?」
誰ともなく呟いたアンジェルモの言葉に幻惑魔法で判断力が低下しているめぐみんが反応をする。
運命とか立派な魔法使いになったらなぜ爆裂ボディーなのかはかは知らないが彼女が本気でなのは伝わった。
「お?そうだ、めぐみんはスキルポイントは幾つ溜まっている?もう上級魔法は覚えられると思うが?」
彼女は里随一の天才であると上のクラスでも評判生徒だ。
体育の時間こそさぼってはいるらしいが定期テストでは常に優秀な成績だと聞いていた。
ならばもう上級魔法を覚えられるポイントは溜まっているはずだという軽い気持ちでの質問だった。
「スキルポイントは39ポイントです!でも私は上級魔法を覚える気はありませんよ?」
「!!」
驚きで息が詰まる。
紅魔族の子どもは皆上級魔法の習得を目標としていると思っていた。
それは天才と呼ばれるめぐみんも例外では無いのだと。
しかし、彼女は覚える気が無いと断言した。
幻惑魔法の効果がまだ残っている中、嘘や誤魔化しなどあり得ない。
「・・何故だ?上級魔法を覚えるつもりが無いなら何のためにまだポイントを更に稼ごうとする?」
「私が覚えたいのは爆裂魔法!あの日憧れた魔法を使う。それこそが今の最大の目標なのです!」
「リスクは分かっているのか!?爆裂魔法は威力が高い反面膨大な魔力を消費する!精々1日に1回撃てるかどうかの魔法だ!魔力の回復が早い私とは違い君たちは2発目は自力では撃てない・・それを分かっているのか?」
「全部分かっていますよ。それでも私は覚えると決めたのです!爆裂魔法がネタだというなら私が世界にその有用性を示しましょう!魔王や邪神を私の爆裂魔法で蹴散らすことによってね!」
「・・・・前人未踏の事を成し遂げるつもりなのだな。全く、私なんかよりもずっと冒険者に向いているな」
思わぬ形で後輩の覚悟を見せつけられ、思わず苦笑する。
大事なのは何のために冒険者になるのか。
今まで何となく女神に言われるまま魔王軍と戦う事ばかりしか頭になかった自分。
かるせるは使命感だけではなく未知なるものへと踏み出す自分の意志の大切さを問うた。(彼の願望もある)
そして今そのヒントをめぐみんが見せてくれたように思う。
「・・・はっ!? 私は一体何を? あっ! あんじぇ! さっきは良くも魔法を――」
「めぐみん! 君の事をちんちくりんとか暴力と暴食の化身とか思っていたけど訂正する! 君はいい女だ!」
魔法の効果が切れ我に返っためぐみんがフライパンを取り返すべく掴みかかって来るが、大切なものを教えてもらった感謝の念をストレートに伝える。
「い、いい女!? いや、その前に凄く失礼な事言いませんでしたか!?」
「うんうん。 君の進む道は困難だろうけど私は応援するぞ! 私も負けていられないな!」
「その分かっていますみたいな反応は何ですか!? 何を知っているのか洗いざらい吐いてもらいますよ!」
めぐみんをあしらいながらアンジェルモは魔道具探しを再開する。
相手は自分の性格まで熟知しているかるせる。
ならば敢えて自分が今まで使わなかった魔道具でもいいかもしれない。
そう考えながら、魔道具を探す手をアンジェルモは速めるのだった。
To be continue・・・
かるせるは里の中では割と常識人ですが自分が楽しむためにそれを投げ出すこともできる平均的な紅魔族です。
軍属としては己を殺し任務を全うすることが大事ですが、冒険者は逆に自分らしさ前面に出して周りにアピール行かないといけない。
主人公は組織に属する者と個人で動く者の違いに今慣れている最中です。