アルカンレティアにはカルセルモがいたら歓喜した後、真実を知って寝込みそうな場所がありますね。
19話 元異端者狩りと狂信者の町
◇紅魔の里 里の入口へと向かう道中にて
旅立ちの日は、春の日差しに照らされた穏やかな陽気となった。
次はいつ戻れるのかも分からないからとアンジェルモは道中の風景を目に焼き付けながら里の入り口へと向かう。
最も近い町アルカンレティアまでは歩いて2日のほど。
その距離を徒歩で行くか30万エリスを払ってテレポートで送ってもらうかの方法は二通りあった。
かるせるやそけっとに相談した所、お金はかかるが後者の手段を勧められた。
里周辺のモンスターの強さに加え、オークの集落を通る事もあってかなり危険な旅になるからだ。
かなりの出費となったが、里の入り口からアルカンレティアまでテレポートで送ってもらう手筈となっている。
(特に男は捕まると酷い目に遭うとか・・ 決闘を強要されるか、もしくはマラキャスへの改宗を強要されるのか?)
トリニマックだった頃なら考えていたかもという妄想を追い出し、目的地へと急いだ。
里の入り口には族長をはじめ、私が世話になった多くの人が見送りに来てくれた。
「遂にお前も旅立つ時が来たか・・! ぶっころりーに連れられて家に来たのがついこの間だった気がするな」
「私も同感です。今まで色々と心を砕いて下さり感謝の念に堪えません」
族長は得体の知れない私を里の一員として温かく迎え入れ、学校入学の手続きまでしてくれた。
本当は謝礼を渡したかったが「子どもが気をつかうな」と断られてしまった。
悔しいが一人前になってから改めて渡す事にしよう。
肩を叩いて笑う顔を見ながらそう決意する。
「はい、師匠から弟子へのプレゼントよ! 大切に持っていてね!」
「これは巻物・・? 魔力は感じませんね・・」
そけっとさん(師匠)からもらった巻物の外側にはこの世界の古代文字で<蘇血屠流>と書かれ、続けて現代文字で<免許皆伝>と書かれている。
恐らく古代文字が好きな、かるせる先生からそれっぽい文字を聞いたのだろう。
因みに巻物の中身を要約すると『私の弟子なのだからしっかりやりなさい!』という激励の手紙だった。
欲を言えば秘伝の呪文書を期待していたが、これはこれで嬉しい。きっと戦いの中でこの言葉と修行の経験が生かさるだろう。
怒った師匠に上級魔法で追われる恐怖に比べればモンスターなどホーカーに等しいからな。
「達者でね。短い間だったけど『聖剣の賢者』の師となれて光栄だったよ!」
「ふっ・・私も『片眼鏡の大賢者』の下で学ばせていただき恐悦至極に存じます」
茶化してくる先生に大げさに返事を返し、差し出された手を固く握る。
今思えば、この人はずっと、途中転入の私が授業に遅れないように下校時間ギリギリまで補習に付き合ってくれていた。
相当な負担だったはずなのにそれを感じさせないで様々な知識を授けてくれた。
模擬戦では負けてしまったが、次は先生に勝つことで恩を返すとしよう。
「ほら、注文していた爆発ポーションだ。 アクセルに着いたら俺の商品をよろしくな!」
「ええ!もちろんです! 新商品も楽しみにしていますよ!」
ひょいざぶろーさんのお陰で巻物も完成できたし、有用な魔道具との出会いもあった。特にこのポーションは最高だ!
以前、ウィンターホールドで買った『術者まで爆発する炎のマント』なんかよりも遥かに使える!
以前、興味本位で買って酷い目に遭ったからな!
ところで周囲の皆が私から距離を取り始めたのは何故だ?
「まったく、変わり者仲間がいなくなるとゆんゆんが寂しがりますよ。 おまけに家の収入も減るのでおかずを一品減らさないといけませんし・・ 精々、前のように死にかけないでくださいよ?」
「ねぇ、お手紙ってどれ位の頻度で送ればいいのかな? やっぱり1日に1回? それとも毎日朝夕には送った方がいい? あっ、でもあんじぇ君が返事書くのは気が向いた時でいいからね? 私いつまでも待つから!」
「君を題材にした小説を書いたから感想を後で手紙で送ってくれるかい? 因みに君は勇者暗殺の命を受けた悪の組織の一員でね―――」
「毎日新鮮な果物と野菜を食べるんだよ? 必要なら家から送るからね!」
「お前に祝福あれだ! 行く先々で地面が揺れればいい!」
「皆、一斉に話さないでくれ!? 誰が何を言ったのか聞き取れないぞ!?」
最後は友人たちに囲まれ、もみくちゃにされる。
変わり者ばかりでいつも騒がしかったが、こうして遠慮が要らない関係というのは随分久し振りだった気がする。職に就いてからはそういうもの無縁だったからな。
しかし、良く考えると皆は本来の私より大分年下だったな・・?
くっ、かなり本気で楽しんでしまった自分が恥ずかしい・・いっそ殺してくれぇ!
「き、急に頭を抑えて悶え始めましたぞ!? 新たな力の覚醒か!?」
「ううん、きっと過去を振り返って無性に自分が恥ずかしくなったのよ! 私も良く覚えが―――」
「ねぇ、取り敢えず早くお守り渡そう? テレポート屋のおじさんずっと待っているし! ほら、あんじぇも正気に戻って!」
肩を掴まれ我に返った私が渡されたのは手作り感が漂う小さな袋のような物。
中には私の安全を祈願して里の皆が髪を少しずつ入れてくれたようだ。
・・・目が熱くて汗をかきそうになるじゃないか全く!
「では、そろそろ行きます。皆さんお元気で・・」
「あんじぇー!! 困った時はいつでも帰って来いよ!!」
「私の弟子だから手柄を立てるまで帰ってきたらダメだからね!!」
「どっちですか一体!?」
本当に最後まで変わった人たちだ・・。多分一生変わらないだろう。
だからこそ私を迎え入れてくれたし、次も同じように受け入れてくれる気がする。
無事に生き延びて生前には果たせなかった再会の約束を次こそは!
そう決意を込めて御守りを首からかける。
『いってらっしゃい、私たちの愛する子』
テレポートをする直前にふとの母上の声が聞こえた気がして後ろを振り向く。見えるのは里の皆だけだ。
しかし、その人混みの中で確かに母とヴィルナが私を見送ってくれている気がした。
「いって参ります! アーリエルの光に導かれんことを!」
目の前の新たな友人に。そして昔から変わらず私のために祈ってくれている家族に向けて別れと再会の言葉を贈り旅立つ。
テレポートの魔法が発動し光に包まれると、体が浮く感覚と共に私は紅魔の里から消えていった。
◇水の都アルカンレティアにて
ここアルカンレティアは水の都の名に恥じず、街のいたる所に水路を通して清らかな水が流れている。
アンジェルモはその見事な光景に目を奪われながら街中を散策していた。
(マルカルスでも似たようなものがあったが規模や美しさではこちらが遥かに上だな・・まぁ、あちらは鉱山で水が濁っているし)
金色の肌に銀髪、そしてエルフ特有の中性的な顔立ちの彼は周囲から注目を浴びている。
しかし、それに気づかないほど彼の好奇心が高まっていた。
今まで見たことが無い品物の数々。気が付くと商人たちの活気が凄まじい大通りへと足は向けられていた。
(『温泉の素』? ・・この袋に入った粉をかければ地面から温泉が湧き出るのか? 魔力の反応が無いのにどうやって―――)
「お客様、そんな下品な店で物を買うとお客様の品位が疑われます。高貴なお客様に相応しいのは天然素材オンリーで作られたエルフ族特性のアルカン饅頭です。ぜひ、こちらを―――」
「はっ! お高くとまりやがってこの野郎! いいか? 物ってのはな、高けりゃ良いってもんじゃねぇ! お客さん、ワシんところのドワーフ族特性肉饅頭にしときな! 肉汁たっぷり、日持ちもするし何よりも安いぞ!」
商品を眺めていると通りの奥の方から口論が聞こえて来た。
その時に聞こえた聞き逃せない言葉にアンジェルモの意識は現実へと引き戻される。
「エルフ・・それに
ニルンでは数千年前に突如消えたドワーフ。
現在のタムリエルの基準と比べても遥かに進んだ技術を持っていた彼らの生態は今も謎に包まれている。
ロマンを愛する者としてこの機会は見逃せない。
加えて自分達とは全く違うこの世界のエルフ種族。
「君は本当にエルフ?」と事あるごとに言われていたアンジェルモとしては是非自分の目で姿を確かめたい。
アンジェルモは声がした方へと駆け出して行った。
「エルフ特製アルカン饅頭とドワーフ特製肉饅頭を2個ずつ!」
「「まいどあ・・!?」」
目の前では、長い耳と緑色の髪で肌の白いやや小柄なエルフの青年。彼より低身長でずんぐりとした体型でノルド以上に濃い髭を生したドワーフが笑顔のまま固まっている。今は2人で肩を組んでいるが喧嘩はもう良いのだろうか?
「あー、お客さんはエルフ族? 悪いが肉饅頭は売ってやれねぇよ・・すまねぇな」
「ん? ああ、そういえば私たちとは仲が良く無かったですね」
確かに里で読んだ本にはそう書いてあったが・・先ほどは肩を組んでいたし、私に対する嫌悪感も見られ無い。ならばこれならどうだ!
「我が名はアンジェルモ! エルフと紅魔族の心を合わせ持つ者!! ・・エルフには売れなくても紅魔族なら売れますよね? なのでぜひ!」
「ちっ! そう言われちゃ仕方ねぇ! 今回だけだからな?」
「ええ、是非両方を食べ比べて下さいお客様!」
こちらがそれらしい理由を付けると2人ともほっとしたかのように饅頭を手渡してくれた。
どうもあの2人はわざと人前で仲が悪いように演技をしている気がする。
その理由もここにいる間に分かるといいが・・
あの2人・・まるでスノーエルフとドワーフを見ている気になったな、太古に同盟がしっかりとなされていたらあるいは・・。
暗い事は今は置いて置こう・・それよりも!
「どれどれ・・お! 流石に肉饅頭は食べ応えがあるな! ・・アルカン饅頭は香草が良いアクセントになって・・アイツらまだついて来るのか?」
饅頭を食べながら歩く私を先ほどの店から付けている者たちがいる。
《生命探知》に反応したが敵意は感じられない。
この街でこんな事をやりそうな連中といえば・・
「さっき騒いだから目をつけられたか? はぁ・・少しはしゃぎ過ぎたか・・」
噂は聞いていたし、テレポート屋のおじさんも別れ際に口を酸っぱくして注意してくれたのに・・
「私に何かご用ですか? ご一行様?」
「おや? 気付かれていましたか・・」
尾行がバレたといっても全く悪びれる様子も無く次々と姿を現していく人たち。その中で司祭の服を来た女性が進み出る。
「はじめまして! 私はセシリー、水の女神アクア様にお仕えする者です。ちょっとお話をいいですかアンジェルモさん?」
魔王軍すら避ける女神アクアを信仰する狂信者の集団に名前を覚えられてしまったようだ。
だが、私も親子2代で狂信者共を狩る役目を担っていた者。アクシズ教の実態、きっと見極めてみせよう!
・・・To be continue
予定より投稿が1時間ほど遅れて申し訳ありません!
何とか年内にはもう一話あげたいです。
タムリエルでは様々な事情のために共に笑えない者が異世界では笑い合えている。
エルフと人間、それにドワーフ・・。
割とエグいこのすば!の世界ですがこうやって笑える人たちがいる分まだ救いはある気がします。
年の瀬ですが皆様体調にはくれぐれもご注意を!