サルモール魔道士の異世界滞在記   作:半日本人

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 長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
更新が滞っている間もお読み下さった方々には感謝の念が絶えません。ミツルギパーティの女性2人のデータが少なくてちゃんと描写ができているか不安ですがお楽しみいただけたらと思います!


21話 フラグは立てるもの

「クレメア、フィオ! 今回のクエストを手伝ってくれそうな人を連れて来たよ!」

 

 ミツルギの呼びかけに少女たちは談笑をやめ、顔をそちらへと向ける。

ミツルギの背後に立っていたのは青色のローブを来た長身のエルフ。

中性的な顔立ちに加え、金色の肌と銀の髪が特徴的な容姿からはどこか神秘的な雰囲気が漂っているようにも思われた。

相手の顔を確認した2人は不快そうに眉を寄せる。

 

『またキョウヤに悪い虫がくっ付いて来たわ・・』

 

『さっさと帰ってもらいましょう。 キョウヤには私たちがいれば十分よ!』

 

 ミツルギは魔剣の勇者として名高い冒険者だ。

 高い実力に加え、整った容姿と紳士的な性格から特に女性の人気が高い。

 一方で、彼に好意を寄せている彼女たちは自分たちの仲に他人が入り込んで来るのを嫌っている。仲間候補、特に恋のライバルとなりそうな女性冒険者に対しては過剰に反応し、パーティ入りを認め来なかった。

 ミツルギのパーティに未だ優秀な後衛がいないのは彼女たちのそんな思惑も理由の一つとなっていたのだ。

 この女もさっさと追い返そうと口を開く彼女たち。しかし、それよりもミツルギの背後いた人物が前に進み出て名乗る方が早かった。

 

「我が名はアンジェルモ、紅魔の里にて秘術を学びし者! 此度汝らに助力する者だ! よろしく頼む!」

 

「「―――」」

 

その容姿からは想像がつかない衝撃的な名乗りによって、彼女たちの口から出かかっていた言葉は、霧散するのだった。

 

 

 

 

 

 

10分後  アルカンレティア郊外の草原にて 

 

 多少の戸惑いはあったもののお互いに自己紹介を軽く済ませ、今は街の外にあるクエストの場所に向かいながらお互いに会話を繰り広げている。

 

「えっと、アン・・ジェルモ君? は紅魔族の里にいたって本当?」

 

「1年に満たない間だったがな。 ・・それと呼び辛いのならアンジェで構わない。 連携する時に困るからな」

 

「へぇ~、本当に発行場所が紅魔の里になっているね。 12歳でアークウィザードになれるなんて一体どんな教育をしているのかしら? ・・ていうかあなた12歳だったの!?」

 

 信じられないという表情で盗賊職のフィオがその桃色の髪を揺らしながら冒険者カードとアンジェルモを見比べている。

 年齢に見合わないほどの落ち着いた態度に、大人たちに匹敵するほどの身長。自分たちの知る12歳像とのギャップに戸惑いを隠せないようだ。

 彼の種族が元々高身長な種族で、生前の年齢が16である事を知らないのであれば当然の反応だろう。

 

 一方のアンジェルモは、盗賊であるフィオが人前で堂々としていた事や、前衛職のはずのクレメアが鎧を着ていない事に違和感を覚えていた。

 

(盗賊がこうして堂々と人前いるのはまだ違和感があるな・・ それにあのランサーは鎧を着ないで大丈夫なのか? ミツルギが特に何も言わないから問題はないだろうが・・)

 

 先程不穏な気配を出していた少女2人だが、今は警戒も解けて興味深そうに冒険者カードとアンジェルモを見比べている。

 助っ人が男性で、話すと意外にまともだったことに安堵したことに加え、最高の魔法種族から学んだという魔法への期待。何より今まで見て来たエルフたちとまるで違う彼に好奇心が刺激された事も大きい。

 

 アンジェルモも元々タロス信者や敵以外の人間には特に嫌悪感は抱いていなかった事に加え、紅魔の里の経験を通して多少人当たりも良くなった事もあり会話は弾む。

 その会話に前方を歩いていたミツルギも加わる。

 

 

「2人が興味を示すなんて珍しいね? どれどれ・・・あれ? 上級魔法を覚えたのは確か最近だって言っていたよね? それまではどうやってこの数のモンスターを倒していたんだい?」

 

 スキル欄にあるのは最近覚えたという上級魔法と見慣れないユニークスキルのみ。

 このレベルに到達するには相当な数のモンスターを倒しているはず。だが上級魔法を使ったと考えると余りにも不自然な事だ。

 目の前の彼の実力を図りたいミツルギはその疑問をストレートにぶつけてきた。

 

(む、そこに気付かれたか? 余り手の内を晒したくはないが・・)

 

 当然ともいえる彼の疑問にアンジェルモは渋る。

 タムリエルでもこの世界でも冒険者というのは善人がいれば悪人もいる。 

 場合によっては敵対する者となる可能性がある他の冒険者に自分の能力を把握はされたくない。そう考えた所でアンジェルモは苦笑する。

 

(いや、そもそもレベルやスキルポイントで劇的に強くなるこの世界で戦闘能力の秘匿性は余り重要視する必要はないな。・・それに今は、軍属ではなく冒険者。情報が洩れて仲間が損をすることはないし、私個人の信用こそ何より優先させないとな!)

 

 無意識にサルモールの時の感覚になっていたと自嘲しながら、疑問に答えるべく左手を天井に向け魔力を循環させていく。

 

「これが答えだ ・・《魔力の剣》」

 

この世界に習って名前を呟きながら魔力を収束し剣を生成してゆく。

フィオとフレメアは驚愕に目を見開き、ミツルギは興奮したように口を開く。

 

「これは君のオリジナルの魔法!? なるほど! ランクを明確に分類できないからスキル欄に表示されないんだね!?」

 

「・・まぁ、大体合っている。他には弓と剣も多少扱える」

 

「へぇ・・意外とやるわね。まぁ、キョウヤには及ばないけど!」

 

「ええ、キョウヤの魔剣の方が凄いわよ!」

 

「・・事実だが、魔剣を持つ高レベル冒険者と新米冒険者を比べるのはどうかと思うぞ?」

 

 なんかコイツら面倒だと思いながらも周囲の草むらに敵がいないか目を配る。

 今の所はフィオの盗賊スキルに敵は感知されていないが、潜伏能力に長けたモンスターも付近に目撃されているため油断はできない。

 

「・・そろそろクエストの場所に着くよ! 皆、僕から離れ過ぎないで!」

 

「大丈夫、絶対に離れないから!」

 

「キョウヤに近づく魔物は私の槍の餌食よ!」

 

「犬共に誰が主人か教えてやる! アルドメリと紅魔のコラボに括目せよ!」

 

 それぞれが獲物を手に取り先に進むと、行き先を遮るかのように粗末な武器と防具を身に付けた犬頭の亜人たちが多数飛び出してくる。

 

「『クエスト・コボルトの群れの討伐』! 油断しないで終わらせるよ!」

 

 ミツルギの号令に皆が頷き、一斉にコボルトの群れに向かって駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 前方で一塊になって獲物を振るうミツルギたち。

一方のアンジェルモは彼らを援護するべく、後方で上級魔法を叩き込む機会を窺っていた。

 

(・・くっ! また魔法の射線に入ってしまったか・・)

 

 しかし、コボルトに夢中になっている彼らが度々射線に入って来るため舌打ちしながら魔法を中断する。 

 普段の癖が出ているのだろうが、前衛にいる3人の距離は互いに援護をできるようにとても近い。これは武器を持った仲間同士なら正しい布陣といえるだろう。

 しかし、前方に一塊になってしまった事で後衛からは前方の状況が分かりにくく、最悪魔法で味方を巻き込んでしまうため援護がしにくい。

 よって、敵が集まっている密集地には魔法が撃ち込めず、チマチマと群れから離れたコボルトの数を減らす事しか出来なかった。

 これでは折角のクエストなのに大した経験を積むことが出来ないとアンジェルモは戦法を変える事に決める。

 

「その前に、できる援護はしておくか・・・《扇動》!」

 

 炸裂する光弾がミツルギたちを包み、幻惑魔法により戦意を高揚させる。

 

「・・・! 何か、調子が出て来たみたいだわ!」

 

「これも君の魔法なのか!? ありがとう!」

 

 彼らの動きは目に見えて良くなったのを確認し、アンジェルモは一気に前線に向けて走り出す。ミツルギたちを囲んでいたコボルトの何体かが接近に気付き武器を振り回しながら迎撃に向かって来るのが見える。

 

「無茶よ!? ウィザードが接近戦なんて!?」

 

「こいつらの強さはもう把握した! 心配無用だ!」

 

 クレメアの制止の声を聞きながらも足を止めず、魔力の剣と鎧で武装し距離を詰める。

 そして切り結ぶ直前、空いている左手を先頭にいるコボルトに向ける。

 

「《ファイアボルト》! 《チェインライトニング》!」

 

 先頭のコボルトの顔面に小さな火球が当たり怯ませ、動きが止まった体を雷が貫く。

 雷が乱反射しながら後続のコボルトに当たり動きを止めた隙に、先頭のコボルトを魔力の剣で斬り捨てる。残りのコボルトたちが体勢を立て直す前に更に追撃を加えるべく詠唱と共に左手を横に振り抜く。

 

「《ライト・オブ・セイバー》!!」

 

左手の軌道に沿って放たれた光刃が残ったコボルトを両断した。

正に一網打尽という言葉が相応しい上級魔法の威力にアンジェルモの気分は高揚していく。

 

「フハハハ! 貴様らは犬! 私が主人だ!」

 

「・・・ねぇ、あの子本当に大丈夫かしら? やっぱり紅魔族と一緒にいたから頭がおかしくなっているんじゃない?」

 

「さっきは落ち着いた感じだったのに・・エルフってあんな種族だったかな?」

 

 スカイリムで山賊を蹴散らした時の感覚が蘇ったのか、高笑いを上げながらコボルトたちを蹴散らしていくアンジェルモの姿をミツルギたちはドン引きしながら見つめる。

 既に彼らの周囲のコボルトは全滅し、生き残りも散り散りに逃げ始めていた。

 

 彼に援護は要らなそうだと判断し、ミツルギは魔剣に付いた血を振り払う。多くのコボルトを鎧や得物ごと斬りながらその刀身は傷一つ付いていなかった。

 

「ねぇ、2人とも。 彼をパーティに勧誘してみないかい? 言動が変わっているけど魔法の威力も申し分なかったし、いざという時は剣でも戦える。加えて独自の魔法という彼だけの強みもある。今は新人でも、成長すればきっと素晴らしい仲間になれると僕は思うよ?」

 

 討伐を終えてこちらに駆け寄って来るアンジェルモを見ながらミツルギはそう2人に呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 コボルトとかいうモンスターの討伐は私が想像していたよりも楽に終わった。

 対集団戦闘ということでスカイリムの山賊共をイメージして挑んでみたが、想像以上にあっけなくて拍子抜けしている。

 まぁ、山賊共も戦士の才に恵まれた種族で構成されていたからある意味当然の結果なのだろう。両手斧やハンマーを振り回す連中があちらにはゴロゴロいたからな。

 それだけの馬鹿力を略奪行為などではなく製材所や農園で生かせば良いものを・・。

 

 軽く感じる斬撃を剣で受け止め、最後のコボルトを氷柱で撃ち抜いた私は3人の方に視線を向ける。あちらにはかなりの数が残っていたが、既に討伐を終えていたようだ。

 

 あの3人の中だとミツルギがやはり飛び抜けて強い。ステータスの高さに加え、コボルトの武器や鎧をバターのように両断した魔剣の性能も凄まじい。

 女神アクアの恩恵がどれほど及んでいるのかは定かではないがあの男とも渡り合えるくらいの剣技も持っていた。まぁ、あくまで純粋な剣技のみの勝負という前提だが・・。

 リーダーなのに自分が真っ先に突っ込んでしまうのはいただけないが、彼が率先して敵を排除したお陰で仲間の負担が軽減されている一面もあるから何とも言えない。

 前衛の危険は減るが後衛は動きにくいという所だろうか? 3人でクエストをずっと受けていたからこのスタイルなのは仕方ない気もするな。

 

 クレメアは耐久力の低さを軽いフットワークと長い槍のリーチを生かして上手く立ち回っていた。

 手強いモンスターが来ると危険だが、今回のように弱い敵が多く出るクエストなら寧ろ真価を発揮できそうだ。

 しかし、鎧を着ない事に加えてあの服装で前線立たれるのは色々な意味で心臓に悪い。

 彼女を壁にするぐらいなら私が魔法の鎧で前線に立つ方が安全な気がする。

 

 フィオが見せた盗賊スキルには本当に驚いた。 

 相手を拘束する《バインド》、離れていながら敵の持ち物を奪える《スティール》。

 スキル名を叫ぶので窃盗には向かないが、戦闘でも非常に有用な素晴らしいスキルだ。

 加えて敵の気配も探り、遠くを見る事ができるなどかなりサポートに優れた職業だ。

 正直、コソ泥みたいなイメージがあったが、世界が変われば印象も変わるものだな。

 

 私も上級魔法もいくつか放ったが、大して練習もせずにあれ程の魔法を使えたというのがまだ信じられない。初めて使う魔法ですらあたかも知っていたかのように自然に知識が頭に浮かび上がったのだ。問題なく上級魔法を使えるのは嬉しい反面、それを可能にするこの世界の仕組みに恐ろしさを感じる。

 先程は思わずはしゃいでしまったが、魔法の知識だけ頭に入っていても、しっかり経験を積まないと足元を掬われかねない気がするな。これからも油断せず研鑽を積まねば・・。

 

 討伐も終わり合流しようと駆け寄る私に3人が視線を向ける。

ミツルギが真剣な表情でこちらを見、そんな彼をクレメアが複雑そうな表情で見つめている。そして、フィオは周囲を落ち着きなく見回し始めた。

 皆の様子がどこかおかしい。

 

「アンジェ君、もし良かったら―――」

 

「ッ! 危ない!!」

 

 ミツルギが私に何かを言いかけるが、フィオの警告と共に背筋の凍る殺気を感じて地面に伏せる。一瞬遅れて、私の頭があった場所を黒い影が通過して行った。

もう少し伏せるのが遅れていたらと背中を冷たい汗が流れた。

 

 すぐに飛び起き、襲撃した相手の確認をする。

 外見は黒光りする毛皮に包まれた大きな体躯。 

 全身を覆う筋肉は強靭さと敏捷性を兼ね備えた物。

 剥き出しになった爪と口から覗く牙は鋭く光っている。

 その見た目はまるで・・・。

  

「黒い・・サーベルキャット? かなりでかいな・・」

 

 先程のコボルトとは比べ物にならない威圧感を放つ漆黒の獣。

私は緊張で乾いた唇を舐めながら魔力の剣と鎧で武装し、3人もそれぞれの得物を構える。

 

「アンジェ君下がって! このモンスターは―――」

 

「キョウヤ! 後からも敵反応が!?」

 

「くっ・・!」

 

 盾となるべく前に出ようとしたミツルギの後方にも同種のモンスターが現れ、低く唸り始める。

 前後から挟まれる形となった私たち。一方が厄介な彼を牽制し、もう一方が隙を見て飛びかかろうという考えなのだろう。

 山賊どもよりも知恵が回るのは感心するが、私を脅威と思っていないのが癇に障るな。

 

「アンジェ君! こいつらは初心者殺しと言って手強い上に冒険者を罠に嵌める悪辣さも持つモンスターだ! 迂闊に仕掛けると危険だ!」

 

「了解! 指示があるまで状況維持に務める!」

 

 初心者殺しとはまた縁起の悪い名前だ。しかも、明らかに私だけをピンポイントに狙ったような・・。

 この世界に来て早々一撃熊に襲われたり、魔王幹部に殺されかけ、そして初のクエストではこいつ等と遭遇する。

 幸運値が低いというのも割と馬鹿にできないものがあるな。割と真剣に幸運の女神(エリス神)に祈った方が良いのだろうか?

 

「だ、だ、大丈夫よ! キョウヤにかかればこんなモンスターなんて一撃なんだから!」

 

「そうよ! こんなモンスターなんか全然余裕なんだから!」

 

「おいやめろ!? その流れはまずいヤツだ!」

 

 里の学校で学んだ知識に紅魔族が戦闘で勝つために最も大事とするものがある。

 それは戦闘前のやりとりでフラグを立てることだ。

 選択を間違えなければ、たとえ武器がフォーク1本だろうと、1人で邪神が呼び出した巨大生物に立ち向かおうが死なないが、逆に、どんな強大な力を持っていても『お前のエリスを数えるのが楽しみだ!』や『3分間だけ待ってやる』などと調子に乗ると、高い確率で死ぬらしい。

 よって今の2人の言動は非常にまずい! 何とか流れを変えないねば!

 幸いネコみたいな敵に対峙した時にピッタリの言葉を知っている!! この言葉で勝利を呼び込んでみせるぞ!

 

「・・・その毛皮を上等な絨毯にしてやるぜ!!」

 

「「「・・・」」」

 

 尚、この言葉を叫んだ山賊が言った対象(ラセイユさん)に瞬殺された事を私が思い出すのは、初心者殺しが私に飛びかかって来た直後の事である。

 

To be continue…

 




 クレメアの服装はタムリエルの常識(というか現実においても)露出が凄い気がします。ミツルギはカズマと違って真面目なはずなのですが・・ 
 アルトマーの貞操観念が分からないので、このすばの色っぽいキャラに対する反応に悩みました。 エルフ(の女)は貪欲という人もいれば生涯で1人だけを愛するという物もありますし… 
 一応、本作の主人公は幼い時から女性(幼なじみ、母、妹)に囲まれていたのでそこまで女性を意識はしないという設定です。 ついでに長命種の16歳なのでまだまだ子どもという事にしています。 そんな彼が何故サルモールにいるかと言えば大戦末期の日本で行われた学徒動員をより厳しくしたものだとご想像いただければと思います。
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