スフィリアの魔法によって起きた火災を3人が鎮火している中、暗闇に潜んでいたヴィルインが駆けつけてきた。
「よう、何とか終わったみてぇだな?」
「はい、でもラセイユさんが犠牲になってしまいました……」
隊の最年長でいつもニコニコと見守っていた彼の死に皆は気持ちの整理をまだつけられずにいた。
「アンジェルモ、俺はラセイユの遺体を回収してくる。おめぇは奴を仕留めたという証拠を―――」
「『
会話を遮って突如響く叫び。ドラゴンと同等の火炎が4人を襲い、それぞれが盾の魔法で必死に防ぐ。
「これはシャウト?! がぁ!?」
クロスボウの独特の射出音と共にヴィルインの左手を鋼鉄のボルトが打ち抜く。
刺さったボルトを強引に引き抜き、骨まで達した傷をポーションとアンジェルモの回復魔法で癒していく。ボルトが飛来した先には闇に溶ける漆黒と血のような赤い鎧を纏った死んだはずの男がいた。
「そんな!? 私の魔法を耐えたというの!?」
「惜しかったがな……おかげでイヴァルステッドで見つけた貴重なポーションが空だ……」
クロスボウをしまいながらポーションの空き瓶を見せ付けるように足元へと投げ捨てる。
「……お前たちを甘く見すぎて不覚を取ってしまった。 だが、ここからは油断なく行かせてもらうぞ!」
プリズナーが纏うプレッシャーが増し、大きく息を吸い込むのが見えた。シャウトの直撃に備え4人は素早く盾の魔法を展開。だが、シャウトは彼らではなく天空へと放たれる。
「
放たれたシャウトによって雷雲が急速に集まっていき空を覆っていく。
そして雷雲が帯電していきに溜め切れなくなったエネルギーが落雷となって地上へと降り注ぐ。
≪ストームコール≫……天候を操り、使用者以外の全てを落雷によって撃つ最強クラスのシャウトである。
突如引き起こされた落雷によって隊列は崩され、それぞれが回避で手一杯になり連携が崩壊していく。
「まずい! 全員散開し撤退! 各自で野営地まで戻れ!」
全滅を防ぐために彼らに残された手段は、野営した洞窟へと退却していくことだった。
「……逃がさん! む?」
「おっと悪いな、ノルドの兄ちゃん。先に俺と遊んでいかねえか?」
だが、後を追おうとしたプリズナーの行く手をヴィルインが塞ぐ。手には一本のダガーが握られていた。
「さっき撃たれた左手、まだ力入らねえ……おかげで射手の俺が戦士のまねごとをする羽目になっちまってよ。 ま、今更アルトマーの足には追い付けねえし、足を引っ張るくらいならと思ったわけだ」
シャウトの効果が表れると同時に雷耐性のポーションを飲み、複数のダガーを避雷針代わりに周囲の木に突き刺しているものの、いつ落雷が当たるか分からない。そんな状況の中、仲間の逃走の時間を稼ぐべく戦場に残ることをヴィルインは選んだ。そしてその覚悟を受けてプリズナーも構えを取る。
緊迫した時が流れること数秒。落雷が2人のそばを掠めたその時、互いの獲物を振りかぶる2つの影が交差した。
同日、 洞窟内 野営地にて
「ヴィルインさん、戻ってこないわね……まさかあの人まで!?」
「大丈夫です。 あの人ならきっとどこかでやり過ごせていますよ……今までそうだったでしょう?」
入り口の外に光が漏れないように注意しながら3人は焚き火で体を温めていた。
若い二人が不安を隠すように小声で会話する中、フェリスは悔しさに身を震わせていた。
(報告書に不備がありすぎた!まさか探知と天候操作のシャウトを修得したとは……諜報部は今まで何を見ていた!! お陰で私の部下が……)
シャウトはマジカを使うことなく様々な効果を生み出せる強力なである反面、修得に長い時間がかかる。よって新しいシャウトを取得しようとすれば事前に知れたはずなのだ。諜報部の怠慢で部下が死んでしまった。そう考えるだけでやるせない思いに満たされる。
落ち込む者2人に憤る者が1人。洞窟に漂い始めた重い空気を打破するべく、アンジェルモが遠慮がちに提案をする。
「あの、フェリス隊長。雨が収まったらヴィルインさんを探しに行っていいですか?私は≪透明化≫が使えるので隠れるのに向いていますし、≪生命探知≫でヴィルインさんや敵の位置を探れます!どうか許可を……」
「分かった。きっとヴィルインも救助を待っているだろう。もう少ししたら―――」
フェリスは焚き火から目を離し、洞窟の入り口へと振り返り―――。
「
突如強い衝撃を受けて吹き飛ばされ、岩壁に全身を叩きつけられる。
全身をを強く打ち意識が朦朧とする中で、彼が最期に見たのは……必死に自分に駆け寄ろうとする部下達と自分の頭上へと崩れ落ちる洞窟の天井であった
「なんで……どうしてこうなるのよぉ……」
孤児の自分にとって本当の家族のように思っていた仲間がまた一人死んだ。祖父のように自分を可愛がってくれたラセイユ。父親のように見守ってくれたフェリス。恐らく悪態をつきながらも兄のように手助けをしてくれていたヴィルインも既に……。
スフィリアは目の前の惨状に茫然自失となって動けずにいた。
一方、注意を自分に向けさせるべくアンジェルモが魔法を撃ちながら剣で斬りかかる。
だが、プリズナーが構えた盾に現れる障壁が魔法を防ぎ、剣さえも受け流していく。
「ちっ! 本当に厄介な盾だな……」
放ったのは変性魔法の≪麻痺≫、魔法障壁ではない普通の盾であればガードの上から動きを止め、急所に剣を当てる隙が作れるはずであった。力の差を幾度も埋めて来た必殺コンボが防がれ思わず悪態がついて出る。そして先程とは違い剣と盾を構えるプリズナーは先程以上に隙がなかった。劣勢を覆せないと悟った彼は魔法で牽制しながらスフィリアの元に駆け寄る。
「先輩! もう私たちだけでは勝ち目がありません! 本部に戻って情報を本部に報告しましょう!」
「……無理よ、あいつは私たちの退路を塞ぐ位置にいるわ……2人とも斬り殺されて―――」
「いえ、私と先輩の魔法を叩き込めば恐らくあの障壁を破れるでしょう……そして奴が体勢を崩したらすぐ脱出してください!」
「馬鹿なことを言わないで!? 逃げるときはアンジェも一緒よ!!」
「……では、体勢を崩したら一緒に逃げますよ!」
片手で弾幕を張るように撃っていた魔法を、2人は両手で一撃の威力を高めて放つ。
威力と衝撃が倍加された魔法が絶え間なく障壁を揺らし続け、ガラスが砕ける音と共にプリズナーの障壁を破壊する。
「っぐ……!?」
障壁が破壊された反動と魔法の衝撃で遂にプリズナーがよろめく。
その隙を逃さず入口へと駆け出す2人。だがアンジェルは突如立ち止まり、前を走るスフィリアの背に光弾を撃ち込む。
「あっ……嘘でしょアンジェ……」
背中に魔法を撃ち込まれた驚き、そして彼の意図を察して悲しみの表情が浮かびあがったのも一瞬。徐々に幻惑魔法による抗えない恐怖の感情に塗りつぶされ彼女は洞窟の外へと逃走していった。
「スフィリアごめん……」
周囲に聞こえないように呟き、視線を既に体勢を立て直しつつある敵へと向ける。
「……ほう、仲間を逃がしたのか?先程のウッドエルフといいお前といい変わった連中だな」
プリズナーは苦笑しながら自分の戦いの日々へと思いを馳せる。
ヘルゲンを逃げる時に必死に剣を振るった日々から数年。何時しか、伝説のドラゴンボーン、大戦の英雄等と呼ばれるようになった今では、窮地に陥ることもなく戦いに高揚することが無くなっていた。
しかし、久し振りに自分を死の一歩手前まで追い詰めた連中が現れた。異種族で構成されながらお互い強い絆で結ばれ、仲間の強みを生かせるように考えられた連携。そして仲間の命のため、自分の身を挺して立ち向かってくる勇気。良き戦いを求めるノルドにとって正にソブンガルデで称えられるに相応しい敵との邂逅であったと言える。
「礼を言うぞ、サルモールの小僧!お前たちのおかげで久し振りに魂が震えたぞ!」
「ふん! 戦いに意味を見出そうとするお前たちの思考、まるで理解できないな!」
剣と剣がぶつかる金属音が洞窟に響き渡り、アンジェルモの必死の抵抗が始まった。
戦いに名誉を求め小細工なしで敵を正面から打ち倒すことを好むノルド。勝利のために様々な搦め手を使い自分が優位な状況を作り勝利をつかもうとするアルトマー。
そんな両種族の傾向が表れるかのようにプリズナーは攻撃を盾で受け止め、正面から苛烈に攻め続け、アンジェルモは破壊魔法による遠距離戦闘、≪透明化≫からの奇襲攻撃、鎧の魔法と召喚魔法の援護受け白兵戦という幅広い攻めで対抗する。
しかし、狭い洞窟内で軽装のフットワークを生かしきれずアンジェルモの被弾が増え、回復魔法へとマジカが割かれていく。
均衡が徐々に崩れていく中、素早く盾と持ち替えたプリズナーの短剣が右腕を浅く切り裂く。短剣に込められた付呪がスタミナを削り、魂を縛る。その脱力感と苦痛に剣が落ち膝を着いてしまった。
「……良い戦いだったぞ! お前の魂なら良い付呪ができそうだ!」
黒い塊を手に持ち満足げな表情のプリズナーが止めを刺そうと剣を握り直す。
(くそ、体に力が入らない… 魂を捕らえるなんて正気かコイツ!)
命、そして魂まで奪われようとしているこの状況の中、必死に抵抗の手段をアンジェルモは考える。
(体はもう動かせない、なら破壊魔法か?いや盾でガードされる。なら盾で防げないような場所にすれば・・)
「さて、祈りは終わったか? お前との戦い中々楽しかったぞ」
「もう、勝った気でいるのか?……アルトマーをなめるなぁああ!!」
剣が振り下ろされる瞬間、アンジェルモの叫びと共にアルトマーの血に秘められた力が覚醒し、周囲に漂うマジカを急速に取り込み始める。
アンジェルモのマジカの高まりを感じたプリズナーが反撃を警戒し盾を構え、そのまま止めを刺すべく剣を振り下ろす。その盾を構えた一瞬が明暗を分けた。
(……そうだ! 抜け目がないお前なら反撃を必ず警戒する! だから!)
剣が触れるより一瞬速くアンジェルモの地に着いたままの両手からルーンが飛ぶ。
地面に刻まれたルーンは倒れこむアンジェルモの体とプリズナーの盾によってプリズナーの視界から隠されていた。振り下ろされた剣によってアンジェルモの頸動脈から血が噴き出すと同時に、障壁が届かない真下から踏み抜かれたルーンの強烈な爆炎が2人の体を包んだ。
「ふう……あの小僧、最後まで手こずらせやがって!……あーあ、魂石が砕けているぞ」
アンジェルモが死に際に放った一撃はプリズナーの命には届かず、軽い火傷を負わせ、持っていた魂石を砕いただけであった。
「はぁ、魂が入っているのもいくつかあるが、バラバラじゃ付呪には使えない・・空っぽの破片もいくつかあるが魂はどこに消えたのだ?」
ぶつぶつ言いながらも記念だからと破片を適当に集め、良き戦いに出会えた満足感と共にプリズナーは洞窟を後にした。
数分後、幻惑魔法が解け、駆けつけたスフィリアが見たものは幼馴染だった少年の変わり果てた姿。亡骸を抱き上げた際にこぼれ落ちた黒い魂石の破片を見て彼の魂がどうなったのかを察することができた。
余りに多くを失い足元が崩れる感覚が襲う。しかし悲しむより先にやらなければならないことがあると自分に言い聞かせる何とか踏みとどまった。
散らばっていた魂石の破片を小袋に集め懐にしまい、遺体が獣に食い荒らされないよう埋葬の準備を彼女は始めるのだった。
◇南中の月 14日 乗り合い馬車にて
翌日、マルカルスからの自宅のあるモーサルへと向かう馬車の中にプリズナーはいた。
彼は馬車の荷台で寝転がりながら山賊やフォースウォンの襲撃に備えている。
やがて、そろそろリーチ地方を抜けるという場所にさしかかったその時、馬車の振動が止まったことに気付き跳ね起きる。
周囲を見回すと馬や御者、野の獣、空の鳥、舞う蝶に至る全ての時が凍り付いたかのように動きを止めていた。生憎、彼はこの異常事態を生み出せる存在に心当たりがある。
「これは……サイジックの魔法か!?」
突如として目の前の空間が歪み白を基調としたローブをまとった男が現れる。
「久しぶりだなアークメイジ……残念ながらお前に再び道を示す必要ができてしまった」
「クアラニル? お前が出てくるとは、一体これから何が起きる?」
クアラニルは最高の魔術師達が所属するサイジック会の一員で、以前ウィンターホールドの魔術大学で起きた事件でプリズナーを導いた魔術師である。未来を見通す力さえ持つ彼らは世界に大きな危機が迫っている時以外は外部との接触を避けている。先の事件も一歩間違えれば大惨事となるほどのものであった。その彼が再び現れたのは新たな危機を予感させるものであった。
「世界のノドに今も残る時の傷跡。 正確な時期は不明だがそこに外界へと繋がる道が生まれ、タムリエルに災いを招く。今我々が見えている未来はこれだけだ……」
まだおぼろげで、しかし、確実に来る危機を魔術師は英雄に告げる。
「災いが起きるという外界へはお前が持っているその魂石の破片が導いてくれるだろう。今回ばかりはその忌々しい死霊術を使うのは運命的なものだったようだな」
サイジックとして死霊術は否定したいが、使った結果危機への対策ができた。そのことに複雑な表情を浮かべる。
「危機がすぐ訪れるわけではないみたいだが、いつでも対応できるようにそいつは肌身離さず持っておけ。 時期になったら呼びに来るからまずは目の前の危機を何とかするといい。 ……会はお前を信じているぞ」
要件が終わると光と共にクアラニルは消え周囲の時は動き出す。荷台に立ったままの自分に対する御者のいぶかしげな視線を感じながらプリズナーは思わず嘆息する。
「吸血鬼に謎の教団、果ては異世界からの危機……いい加減休ませてくれないのか?」
心底うんざりしたように呟きながらも未知なる冒険を思い口元が緩む。
英雄の休息はまだまだ先である……
文字数がついつい多くなってしまいました。各分野であればドラゴンボーンを超える存在は結構いますが、他の達人と比べて短期間で新たな技を習得でき、戦士・魔導士・盗賊・暗殺者の一流の技術を持つ人間びっくり箱相手の絶望感が少しでも伝わるといいなと思います。本編第2話までは期間が空きますので気長にお待ちいただけたらと思います。