27話 始まりの街アクセル
◇オブリビオン ソウルケルンにて
オブリビオンのソウルケルン。それは死霊術などによって捕らわれた魂が送り込まれる場所である。ここに送り込まれた魂はムンダスの生と死のサイクルから完全に切り離され、永遠にこの世界に囚われる。
夢を通してアンジェルモが見せられたのは、本来、自分が送られていたはずのその場所だった。
(この世界で動いている者は魂かアンデッドのみ。まともな者なら耐えられないほどの陰気な場所なのだが…………あの男のおかしさは異世界でも健在なのだな)
吸血鬼のセラーナですらこの世界の雰囲気に参っている中、プリズナーは魂となった商人から品物を買ったり、馬の頭蓋骨を探したりとムンダスと同じように動き回っている。敢えて違う点を挙げれば、戦闘の最中に異形の吸血鬼に変身するようになったことぐらいだろう。
そのいつもと変わらない彼の姿にアンジェルモは違和感を覚える。
(何故、あの男は動揺しない? 異世界に来たことも、自分が異形に変わる事への恐怖も感じられない。…………まさかあの噂は本当だったのか?)
サルモールにいた頃に聞いた彼に関する様々な噂。
帝国軍の高官でありながら実は皇帝暗殺の首謀者であった、
だが、異世界に来たという気負いも感じさせず、躊躇なく異形の力を使って進んで行く彼の姿はその噂のいくつかが真実に極めて近いことを示していた。
(こんな化け物が相手では負けるのも……いや、それは違うな)
自分たちの仇の強大さに圧倒されそうになるが彼が自分に見せてくれた本気の姿を思い出しその考えを否定する。
彼が最期に見せてくれた本気は、英雄らしい両手斧で他者を圧倒するスタイルではない。盾を構えて攻撃を防ぎながら敵の隙を窺うという戦士の基本スタイルだった。
(豪快に両手武器を振り回すノルドらしくない……高度な剣や盾の技術は見られたが、むしろあれは打ち合いでは勝てない駆け出しの戦士こそが好むスタイルだ。本気がそれだったということはつまり……あの男もかつては弱者だったのだな。私と同じ……)
今では英雄や災厄の権化などと呼ばれているプリズナーであっても最初から強かった訳ではない。アンジェルモは知らないが、彼もフロストトロールから逃げながら7千階段を登ったり、仲間と協力してやっと山賊と渡り合っていた時期もあったのだ。
その経験のためか、強者でありながら他の暗殺対象のように決定的な隙を晒すことは無かったのだ。
(悔しいが、油断していなかったあの男は我々を超えていた……これだけは事実だ)
強者でありながら弱者の用心深さを併せ持つ彼が自分たちを上回った。仲間を殺されたという感情は残るものの、戦いの結果についてはアンジェルモは受け入れた。
戦場では良く起こる命を奪い合い。自分の死も仲間の死もその結果でしかないのだと。
やがて前方に大きな城が見え、その門の傍に立っていた女性に向かいセラーナが駆け寄って行く。結界に隔てられながら交わされる2人の会話から彼女たちが母娘の関係であることがアンジェルモにも分かった。やがてセラーナが連れて来たプリズナーを巡り2人は感情をぶつけ合って行く。
「この者が吸血鬼を名乗ったとしても私たちの苦悩を何一つ知らないのよ!? どうしてあなたを任せられるの!?」
「その余所者の彼は、お母様が何世紀以上の間にしてくれた以上のことを僅かな間にしてくれましたのよ!」
「よくもそんなことを……! あなたが父と呼ぶ狂信者から守るために私は全てのことをあきらめたのよ!」
「ええ……お父様は狂信的に……変わってしまいましたわ……それでも私のお父様なのです! そういう父親を持った娘がどんな気持ちでいるのか……どうして分かってくれませんの!?」
問題の規模こそ規格外だったが、そこには引き裂かれてしまったある家族とそれを沈痛な面持ちで見守る1人の男がいるだけであった。
◇異世界 アクセル 宿屋にて
「……ヴァーミルナにでも私は呪われているのか?」
紅魔の里を出てからどうも碌な夢を見れていないアンジェルモは悪夢を司るデイドラロードの関与を真剣に疑い始める。後で聖堂に相談に行く事を決心しながらのろのろと起き上がる。
(家族がいるのだな……あの男にも……そして吸血鬼にすらも)
エルフ種が人間より優れている証明として寿命の長さを例に出すアルトマーは多い。
だからこそ理に逆らうことで自分たちより長く生きる吸血鬼のようなアンデッドに対しては良い感情を持っていない。
所詮は闇に生き、常命の者とは逸脱した自分たちとは相容れない存在。アンジェルモ自身もそれを疑ったことは無かった。
しかし、夢に出たセラーナと呼ばれる吸血鬼は家族の温もりを求め、その母親も娘を思う気持ちを持っていた。しかも、この世界ではなく自分がいたムンダスの住人である。
(別に家族がいようが敵対するのであれば容赦はしない……しないのだが……)
家族がいようといまいと敵である変わらない。頭では理解できているし、実際に手を下す事にためらいは無かった。自分たちも命がかかっているから当然のことだ。
(……この者を私が手にかけた結果、泣く者がいる。家族がいればその重さを背負ってしまう……だからこそ縁者のいない標的の方が楽だ)
命を奪うことに躊躇いは無いが、奪った後で、その重さを感じ後悔することはある。
アンジェルモがその割り切りが下手で部隊の皆からは心配されていたが、唯一母親だけはその葛藤が血の通った者の証だと密かに喜んでいた。
寝間着を脱ぎ、紅魔族のローブに袖を通し、姿見で服装を確認した後、目を瞑り魔力を流れを確認する。イメージの中で標的に見立てたプリズナーに魔力を収束させ……
「ッツ……!」
火球を放つ寸前で彼の2人の子どもがイメージに割り込んできたことで思わず息を止めてしまう。目を開けるとそこには苦痛の表情を浮かべた自分の姿が映っていた。
「……私は殺人者ではない。標的以外は……」
プリズナーが聞かせたであろう自分の話を楽しそうに聞いていた2人。仮に自分が生き残って彼が倒れていたとしたらあの2人は…………。
「……くだらないな。もうあの男と私の道は交わることはないのだから……」
家族がいるからと言って見逃すほど情に厚い訳ではない。しかし、故人を思って泣く存在を完全無視できるほど非情にもなり切れていない。敵であれば人類だろうと倒す覚悟を決めながらも、可能な限りその機会は来ないことをアンジェルモは願うのだった。
◇2時間後 アクセル 冒険者ギルドにて
気を取り直して朝食を取ったアンジェルモは冒険者ギルドへと向かった。
受付の一か所だけ異様に混んでいることに首を傾げながらも、空いているカウンターで自分のカードの情報を登録し、クエストの相場を調べに掲示板へと向かっていた。
(『ジャイアントトード5匹討伐』……報酬は……10万エリス!? ううむ、パーティで挑むと貯蓄が一切できないではないか! いやしかし、パーティでの戦闘を経験せねばこの街に来た意味が……)
クエストの掲示板の前でアンジェルモはクエストの相場を調べている。一撃熊などの強力なモンスターが出るのが当たり前だった紅魔の里や、高難度のクエストが羅列するアルカンレティアと比べれば当然その報酬額は低い。
ソロで挑めばそれなりの額になるが万が一のことを考えれば仲間が欲しいし、パーティでの戦闘を学ぶという自分の目的も果たすことができない。
「この分では、クエストではなく付呪で稼ぐか……?」
冒険者としてそれはどうかと思われるが、アルトマーとしてはせめて馬小屋ではなく宿には泊まりたい所だ。魔術大学に送られたあるサルモールのウィザードのように酷い部屋の環境に耐え切れずに発狂するのはアンジェルモだって御免被りたいのだ。
(付呪は依頼者に吸魔石などを持ち込んでもらえれば作業料金がそのまま収入にできる。価格設定さえ誤らなければ毎日安定した収入を確保できるのでクエストの報酬を気にすることなく参加できるな。錬金術の素材は蝶の羽や野の花ぐらいなら手に入るので自分の菜園を手に入れるまではこれで自分用の常備薬ぐらいは使えそうだな。菜園を手に入れたらムンダスの植物を栽培して・・)
掲示板から離れ、受付に向かいながらアンジェルモは自分の予定を組み立てて行く中。先程対応してくれた女性が気付き声をかけて来た。
「あら? 本日はクエストをなさらないのですか?」
「ええ……今日の所は。先に街を探索もしたいですし……」
「貴方ほどのレベルならソロでも不覚は取らないと思いますが…………アルカンレティアや道中での噂は私共の耳にも入って来ていますよ。良い物も悪い物も」
「ここでは広めないで下さいよ? というか悪い噂に心当たりが一切ないのですが……」
「もう時間の問題だと思いますよ? 貴方は凄く目立っていますから……」
長身・金色の肌・エルフ種の三拍子が揃ったアンジェルモの容姿は非常に目立っている。同族がいないこの世界ではよりそれは顕著だ。加えて冒険者やギルドは各街の情勢やクエスト等の情報に非常に敏感なのだ。魔剣の勇者と共に戦い、ワイバーンやゾンビを爆破したルーキーの存在がこの街に広がるのもすぐだろう。
アルトマーの優位性が広まるだけなら兎も角、潜入や工作に長けるサルモールの一員だった者としては目立ち過ぎるというのも複雑な心境なのだ。
段々と自分に集まって行く周囲の視線から逃れるべくアンジェルモは話を切り上げることにする。
「そ、それではそろそろお暇させて……ああ、最後に。この街に紅魔族の魔道具を売っているお店があると聞いたのですが場所はご存知ですか?」
地図を受付の女性に見せながら問いかけると溜め息一つ吐きながらも地図に印をつけてくれた。なぜ、彼女が呆れたのか首を傾げながらもアンジェルモは地図を片手に街中へと出るのだった。
◇30分後 アクセル ウィズの魔道具店にて
地図に付けられた印を頼りにアンジェルモはある魔道具店へと足を運んでいた。街の繁華街から離れたこの場所は昼時であることもあってか人通りは見られない。春の柔らかな日差しに照らされてあるきながら目的の店を見つける。
(ここはひょいざぶろーさんの言っていた店なのか? 想像していたよりも随分と小さいが……)
紅魔族が制作した武器や魔道具は王都で高額で取引されているとアンジェルモは聞いてので、それなりに資本がありそうな大きな店をイメージしていたのだがその店はアクセルの他の店よりも寧ろ小さい。立地も街の繁華街ではなくやや人通りの少ないこの場所であることもあるのも引っ掛かりを覚えた。
(まぁ、あの人と波長が合うらしいから案外職人気質の店主がやっているのかもな……)
一般には知られていない知る人ぞ知る名店。何故か周囲からの評価が低かった里の恩人を思い出しながらアンジェルモはそう結論付けた。
(中にはどんな魔道具があるのだろう? もしかしたらダンジョンの奥底で見つかった秘宝も置いてあるかもしれないな……。ああ、早く見てみたい!!)
アルトマーに高名な学者が多いのは知能の高さや長命であることだけではなく未知の物に対する好奇心の強さも関係する。そしてアンジェルモもその特徴を見事に受け継いでいた。逸る気持ちを抑えながら失礼にならないギリギリのを意識しながら店のドアを開け放つ。
「失礼します! 我が名はアンジェルモ! あるポーションの購入と魔道具を拝見させていただきたく……む?」
勢いよく開けられたことでドアに取り付けられたベルが店内に響くが返事が無く何かが動く気配すらない。営業中であることは既に確認しているため店主もしくは店員の誰かはいるはずなのだ。
「あの……誰か居られませんか? 弱ったな、外出中なのか?」
誰かが来るまで待たせてもらおうとカウンター近くに置いてある椅子に腰かけようとしたアンジェルモの目に床に倒れた青い白い手のようなものがある。確認のためにそっとカウンターを覗き込んで見れば茶色い髪の女性が倒れていた。
「これは!? おい、大丈夫――ッ!? つ、冷たい!?」
カウンターに立ち入り倒れた女性を起こそうとすればその体温の低さに思わず身震いをする。まるで死人のような冷たさで脈もほとんど感じられない。既に手遅れともいえる状況であった。
「……いや、まだ死後硬直は始まっていない! ならば…………!《二連・他者治療》!!」
まだ蘇生が間に合う可能性にかけ自身ができる最大の回復魔法を叩き込む。癒しの光が倒れた女性を包み込み……。
「きゃああああっ!? か、身体が熱いっ!?」
「うわぁああああっ!? 生き返ったああ!?」
体から煙を上げて女性が飛び起き、それに驚くアンジェルモの悲鳴が店内に響き渡るのだった。
落ち着きを取り戻した女性に促されアンジェルモは椅子に腰かけている。カップに入れられた紅茶は消して高級なものでは無いが、作り手の工夫によってある程度舌の肥えた彼にとっても満足できる物になっている。味と香りを存分に堪能している彼の様子に安堵の息を吐きながら先程の女性が声をかけて来る。
「そ、その……先程はお見苦しい所をお見せしました。私の名はウィズ、この店の主です」
「これはご丁寧に……我が名はアンジェルモ! 高貴なる種族の末裔にして紅魔の技を学びし者!」
「ああ、貴方も紅魔の里に? 私も何度か商品の買い付けに行ったことはあるんですよ? 良い所ですよね……」
「ええ、同感です」
紅魔の里を知る者同士の和やかな会話が進んで行く中、アンジェルモはおもむろに懐に手を入れる。
「ところでウィズさん、貴方に一つお聞きしたいことがあるのですが……」
「は、はい? 私に分かることなら……そ、それは!?」
アンジェルモが懐から取り出した剣、ドーンブレイカーを目にした途端ウィズの顔が恐怖に歪む。その様子を確認しながらアンジェルモは《無音の唱え》で魔法を発動させる。
「《死体探知》に反応あり。 やっぱりアンデッドか……」
「……ええ、私はリッチー、アンデッドの王とも呼ばれる存在です」
「……リッチだと!?」
リッチーもしくはリッチとも呼ばれるアンデッドの王はこの世界でもムンダスでも例外なく強力な種族である。アンジェルモがスカイリムで戦ったのは彼らの亜種ともいえるドラゴンプリーストだが部隊の全員でかかってようやく倒すことができた。リッチはそれよりも遥かに強く、特にウィザードである自分にとっては最悪の相手だと聞いている。
(全盛期より遥かに落ちた能力。加えて今度は私1人……それでもやるしかないのか?)
剣を握る手が緊張の汗で湿っていくのを感じながら油断なくウィズを見据えるが、彼女は戦闘態勢すら取らず悲しそうに見つめて来るだけだ。
「……どうして抵抗しようとしない? それほど自分の実力に自信でもあるのか?」
「いいえ、そんなことは! でもアンデッドを嫌うあなたの気持ちも分かります……私も生前はそうでしたから」
「お前の膨大な魔力に気付かないと思っているのか? 私はおろか里にいた紅魔族の誰よりも圧倒的な魔力に! それほどの力がありながら何故この街で大人しくしている? 目的でもあるのか?」
倒すべき相手のことを知ろうとするのは愚かなことだと理解している。敵の事情を知り放つ魔法や振り下ろす刃を鈍らせることは避けるべきだ。そう分かっているのに朝見た夢がどうしても頭から離れなかった。
「それは……ここで会わなければいけない人たちがいるんです……何年、いいえ、例え何十年経とうと。お願いです! どうか見逃してもらえませんか!? ……人間は傷つけたことはありません! 彼らに会うまでの間で良いですからぁ……」
「ぐっ……!」
悲痛なウィズの表情が、夢の中のセラーナの姿と重なる。アンデッドも自分たちと同じ感情があると知ってしまった。知ってしまったからこそアンジェルモの手は鈍ってしまった。自分よりも圧倒的に強いはずの彼女が全く戦おうとしないこともアンジェルモを混乱させる。
もし、ウィズが待っているという何者かが彼女の死を知ればどうなるのか。そして無抵抗の彼女を手にかけた自分を家族が見たらどう思うか……。目を閉じて考えを巡らせた後、大きく息を吐きながらアンジェルモは静かにドーンブレイカーを鞘に納めた。任務が無い今は自分の意志を優先させるのは当然だと自身に言い聞かせながら。
(私の意志? ああ、そうか私は本当は彼女を……)
キンッ!という鍔鳴りの甲高い音が響くと共に、張り詰めた空気が霧散する。自分が大人しく剣を収めたことにあっけにとられているウィズを顔を見ながらアンジェルモは表情を緩めた。
「お前が……いえ、貴女が何者であれ少なくとも我々と敵対する存在だとは思えませんね……剣を向けてしまい申し訳ありません。あの……図々しいお願いなのですが、お店の商品を見せていただいてもよろしいでしょうか? もちろん先程の蛮行をお許しいただけるであればですが……」
「え、ええ……! ようこそウィズの魔道具店へ! どうぞゆっくりご覧ください!」
目から流れる雫を拭いながら笑顔を向けてくるウィズ。アンデッドの王である彼女を見逃す事に不安が無い訳では無いが、嬉しそうな表情を見るだけで心が軽くなって行く。
(この選択が正解は分からないが、少なくとも彼女……そして私にとっては最良の選択だったのだろうな。これもあの2人が……。いいや! あの男は違う! いっそ膝にアイスジャベリンでも刺さればいいのに……)
自分の選択のきっかけになったセラーナとプリズナーに思わず感謝の念を抱きそうになったことに身震いしながら呪詛の言葉を頭の中で巡らせるのだった。
元々、ひょいざぶろーの工房に出入りしてそれなりに楽しんでいたアンジェルモにとってウィズの店は興味を引く物で一杯だった。
「おお! 見たことがない爆発シリーズが!? ウィズさん、この瓶はどう使うのですか?」
「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発します。手に取るときは気を付けてくださいね?」
「なんと!? 発火させる必要が無いとは素晴らしい! リストに加えておかないと」
「……」
目を輝かせながら店内の商品を見て回るアンジェルモの姿にウィズは嬉しく思う反面、彼があっさりと警戒を解いたことに違和感を覚えていた。アンジェルモを視線で追いかけるウィズ。自分に向けられた視線を感じてアンジェルモは口を開いた。
「ああ、ご安心を。正体は誰にも話しませんよ? 貴女は安全そうですし、この面白そうな店が無くなってしまうのはひょいざぶろーさんや私にとっても大きな損失です。何より彼我の力の差は私も理解できていますよ?」
「いえその、私がリッチーなのに平気なのかなぁ……と言いますか、その……、一応人類の敵対者側で理を外れた存在なのですが……」
「それはそうですが……最近、自分の今までの価値観を疑わざるを得ない状況が多発しましたので……」
「???」
(それに良く考えれば私は貴女をことを言えない立場ですからね……)
ムンダスの理から離れ今は別な世界で生きている自分。そして生前は人間たちとは敵対する側にいた。首を傾げるウィズに曖昧に笑いながら再び口を開く。
「その……あれですよ! リッチと友好的になれる機会を逃したら勿体ないと思いましてね。これでもアークウィザードですから魔法のこととか色々伺いたいですし……それと後で幻惑魔法の実験台になってもらえませんか? いい加減そろそろ極めたいですし―――」
「ゲンワク魔法って何ですかその不穏そうな名前!? 実験台って私どんな目に遭わされるんですか!?」
「何、少し私の魔法で精神が高揚したり、鎮静化されるくらいです。まぁ、敵であれば恐怖に囚われたり、仲間の顔が分からないほど激昂させたりはしますが……」
「それ、危ないハーブと同じじゃないですか!?」
「本当に大丈夫なのですが……《挑発》」
「あああっ!? い、いきなり何を……あれっ? あ、あれっ?」
突然放たれた光弾にウィズが慌てふためくが、体に当たった光弾は何の効果も及ぼさず消滅する。
「ううむ……、これがアンデッドにも効けば母上の領域まで到達できるのに……どうです? 安全だったでしょう?」
「え、えっと……確かにこれくらいなら協力できるかもしれませんね?」
「おお! ありがとうございます! ではウィズさんに対する報酬は―――」
『ぐうぎゅるる……』
会話を遮る程の大きな空腹を告げる音。気勢をそがれたアンジェルモはその音のを鳴らした張本人、すなわちウィズに視線を送る。
「ちちち、違いますよ!? 確かにここ1週間は砂糖水だけでしたけど……さっき意識を失っていたのは決してお腹が空いていたからでは―――」
(この世界では吸血鬼では無いアンデッドも空腹になるのか……というか普通に食事はするのだな?)
顔を真っ赤にさせてあたふたと言い訳をするウィズを見ながら改めて自分の常識が通用しないことをアンジェルモは痛感する。遠慮するウィズに先程の謝罪も兼ねて《エクストラポケット》から取り出した食べ物を裂いて分けながら初めて異世界に来た時のことが思い浮かべる。
(そういえばめぐみんと初めて会った時も、こうやって食べ物を分けたな……あれからもう1年経ったのか)
あの出来事の後、紅魔の里では様々な人との出会いがあり多くの代えがたい経験を得ることができた。そして今、アクセルでの生活の初日にあの時と同じような状況になっている。ただの偶然かもしれないが、どことなく運命的なものを感じる。
(さて、この街ではどのような出会いや経験ができるのか……願わくば、かけがえのない物となることを祈ろう)
久し振りの食事を味わうように食べるウィズを眺めながらアクセルでの新たな日々に胸を躍らせるのだった。
To be continue…
アンデッドの王のリッチ・リッチーについて
リッチ……スカイリムの前作OBLIVIONにて登場したモンスター。炎の弱点があるが、それ以外の魔法に対する耐性、反射、吸収の三重防壁を備え、毒も効かない。召喚魔法でも呼ぶことができた。
リッチー……このすば世界のモンスター。強力な魔法抵抗力+魔法の掛かった武器以外の物理攻撃の無効化能力。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する。弱点は恐らく聖と水属性。
ご意見・ご感想をお待ちしています。