転移魔法の光に包まれたかと思うと全身に強い衝撃を感じ意識が遠のいていく。
それに伴い、薄い靄がかかった空間に包まれていく。
そして靄が晴れ2人の人影が朧気に見えてきた。
どうやら全身黒いローブで覆った人物が、全身白いローブの相手に対して怒りを露わにしているようだ。
靄がだんだんと晴れてきた中、黒ローブ姿の方に見覚えがあることに気づく。
(
幼馴染であり姉代わりに世話を焼いてくれてた存在。サルモールに入隊してからは信頼できる仲間、そして本音を言い合える存在としていつも身近にいてくれた女性。部隊が壊滅し、仲間が次々と倒れていった中、彼女の無事を確認できたことで幾分救われた気持ちになる。
その彼女は目の前の相手を凄い形相で睨み付けており、高まったマジカが外部に漏れだし帯電するほど怒りを露わにしていた。
『このならず者! いい加減それを返しなさい!!』
『……ん? あぁ、もう少し待ってくれ。この中の魂を確かめたくてね。』
『さっさとしなさい! もしあの子の魂に何かしたら痛い目を見せるわよ!!』
一方、白いローブから聞こえてきたのは落ち着いた男の声。憤慨している彼女を気にする様子もなく手に持った黒い破片を様々な角度から眺めている。
破片を一通り調べた後、老人が返してきた破片をひったくるように彼女が奪い取る。
これまでやり取りからあの破片は魂石の破片で自分の魂が入っているだろうと推測できた。
『……さて、お前に一つ伝えておくことがあるのだが』
『ふん! 誰がサイジックの言うことなど……』
(スフィリア、頼むからサイジックにケンカを売らないでくれ! あぁ心臓に悪い……)
彼女は真っすぐな性格で、自分の信念を曲げない。そんな彼女をアンジェルモは好ましく思っていたが今は相手が悪過ぎる。幸いにもアンジェルモの心配を余所にサイジックの男は気分を害した様子もなく話を続ける。
『まぁ、そう言わず聞いておいた方が良いぞ。いいか? これから数年のうちにニルンと外界と繋がる時が来る。その時に起きる惨事を回避する道へこの破片が導いてくれる。 時が来るまで大切に守っておけよ』
言い終わるや否やマジカの光が男を包みその姿を薄れさせていく。消える直前に男はスフィリアへ言葉を投げかけていく。
『そうそう、どうしてもあの男に会いたいときはその破片を枕元において眠るがいい話すことは叶わずとも見ることはできるだろう……』
『えっ?……』
そこにはもう男の姿は無くスフィリアがただ1人立ち尽くしているだけであった。
(あの男が言っていた『会えないが見ることはできる』ってどういう意味なのだろう?)
最後に大きな疑問を残したまま周囲の景色が薄れていきアンジェルモの意識は覚醒へと向かっていった。
「つっ!? 痛たた……」
目を覚ますと見知らぬ森の中に仰向けに倒れていた。背中に感じる鈍い痛みと見上げた空から差し込む太陽光に顔をしかめながらゆっくりと起き上がる。立ち上がるとすぐ、回復魔法で傷の治療とついでに疲労も回復させておく。しかし、自分の予想よりも早くマジカが尽きてしまった。
「おかしい、この程度で尽きるはずが……ん?」
ふと自分を手に目をやって違和感を覚える。
入隊してからの厳しい訓練や実戦を経て傷だらけになっていた自分の手が綺麗になっていた。それに異世界の木の高さはよく知らないがいつもより目線が低く感じる。
急いで近くの小川で自分の姿を写し、そして驚愕する。
「おぉ、アーリエルよ……!」
水面に写されたのは、サルモールに入隊する前の幼い自分の姿だった。
この体でどれほど戦えるか検証するため、生前に使用できた最大級の魔法を放とうとした。しかし、寸前にマジカの不足による脱力感を感じ中断してしまった。
「はぁ、やはりマジカもあの頃のままか……」
転生してみればなぜか子供に戻ってしまった体。知識や技術はしっかり覚えていても、それを再現できる筋力・マジカ・スタミナは年相応の強さに戻っていた。
具体的には熟練者級の魔法が一発やっと撃てて、片手剣は両腕で振り回さないとすっぽ抜けてしまうほど。
魂が不十分のまま転生したため、ある程度の弱体化は覚悟していたがこれは予測不可能だろう……。
なお、オブリビオンの住人である
「しかし、ここはどこだ?先ほど木に登って見たが町なんてどこにも……む?!」
ガサガサと繁みが揺れる音で思考を中断し《生命探知》の魔法で様子を窺う。
可視化されたオーラの色は赤で敵意あり。遠慮する必要はどこにもない。
「さあ、燃えろ!」
右手から放たれた火球が繁みに当たって爆発し、更に周囲を焼く。
魔法で確認すると今度は何も探知できなかった。
どうやら一撃で仕留めることができたらしい。
異世界最初の敵の姿を確認するべく駆け寄って行く。
「……兎?」
焼け跡から見つけたのは額に角をはやした子犬ほどの大きさの兎の死体であった。
角がある所を除けばニルンにいる兎と同じに見える。
可愛らしい見た目だが魔法に反応した以上、危険な生き物だったらしい。
(普通に接触していたら不意を突かれてやられていたかもしれないな。想像以上にここは危険かもしれない。早く誰かと接触してこちらの知識を得たいな。だがその前に……)
「……腹も空いてきたし、まずは何か食べておくか。 こいつは食べられるのか?」
腹が減っては戦はできない。何が起きるか予想できないこれからに備えて一先ず軽めの食事をすることに決めた。
先程倒した生き物の肉は少し臭みがあったため塩をすり込んで串に刺し、臭い消し粉末にしたラベンダーを振りかけて火で炙る。肉が焼けるまでの間、アクアから貰った特典によってローブのポケットの中を異空間に接続。ナップザックに入っていたパンを取り出したついでにアクアが言っていたプレゼントの確認をする。生前にはなかった『プレゼント』と書かれた麻袋から出てきたのは一通のメモと一振りの剣だった。
「なになに……『水の女神である私に異世界の希少なお酒を奉納した行いに報い、あなたの記憶の中に見た神器のレプリカを特別に授けます』か・・。ではこれはムンダスにある神器なのか?」
柄がリング状で眩い光を放つ神秘的な剣。試しに鞘から抜いてみれば刀身までが太陽のよう光輝いていた。
(……確かこれはドーンブレイカーだったか? デイドラの秘宝の1つである魔剣。確か作ったのはメ……メリディアだったか? 流石に効果までは思い出せないが)
デイドラロードというオブリビオンに住む神々達が作った数々の秘宝。
そのほとんどが強力で他に代えがたいユニークな効果を持つものが多い。当然、酒瓶数本とは比較にならない価値がある。
とはいえ、中には酒を2・3本一緒に飲み比べただけで秘宝をくれるデイドラロードがいるので神々にとって下界の酒の価値は案外高いのかもしれない。
(裏にも書かれているな? ……『PS.魂を捕らえていた悪趣味な物や白い石は没収しました』だと!? 人間以外の魂もだめなのか?)
この世界では魂を捕らえる行為自体がアウトだったらしい。おかげで付呪の作成や補充のための代わりのエネルギー源を探す必要が出てきてしまった。
アクアからのメッセージを読み終える頃になると、肉が焼け香ばしい匂いが漂って来ていた。
串を一つ手に味見をすると、若干の癖があるものの程よい塩加減の肉の味が口に広がる。
この味なら明日のために何本か取っておいていいかもしれないと思いながら次の串焼きに手を伸ばすー
『くきゅうぅぅう・・・』
突如、腹の鳴る音が
やや気が抜けなながらも念のため《生命探知》で背後を確認する。オーラは白。敵対反応は無い。
「はぁ・・、何者か知らないが出てきたらどうだ?」
「ふふふ、ばれてしまっては仕方ありませんね!」
子供の声がしたかと思うと茂みから今の
「我が名はめぐみん。紅魔族随一の職人の娘。やがて最強の魔法の使い手と―――」
『ぐぎゅうぐるる・・・』
ポーズを決め高らかに名乗りを上げる少女の声が腹の音によって中断され、気まずい空気が漂う。
「……君の名に関して言いたいことが多々あるが、まずは何か食べるか?」
「おい、私の名前に文句があるなら直接聞こうじゃないか」
彼が異世界で初めて会った人間は紅い目を持つちょっと変わった少女であった。
To be continue…
間が空いた割には完成度が低くてすみません。アイデアが頭にポンポン浮かんで来るのですがそれを文字で表すとなると・・・このような拙作をお気に入り登録してくださった方々本当に感謝します! 少しでも楽しんでいただけるよう頑張らせていただきます。