木場きゅんと小猫さんとのやり取り書いてると何故だかフォンフォンとフェリさんを想像してしまう今日この頃。
今現在。僕の眼前で小猫さんはパクパクとケーキを食べている。目をキラキラと輝かせながらケーキをパクついていく。その姿は見ていてとても微笑ましい。まるで僕が小猫さんの保護者となったような気分だ。
ちなみにそれは他のお客さんも同様らしく、皆そろって小猫さんの食事シーンを目の保養だと言わんばかりに微笑ましげな表情で見つめている。彼らにとって小猫さんの存在はストレス緩和剤なのだろう。その一方で、小猫さんと一緒にいる僕に向けて殺気に近い視線を向けてくる人たちもひと握りながら存在する。大方、彼らにとって僕と小猫さんは彼氏彼女の関係のように映っているのだろう。
だけど。甘い甘い。この程度の睨みつけで居心地悪く感じたりビクついたりするほど僕の精神は柔じゃない。これならまだ兵藤くんたちの睨みつけの方が鋭い。まぁそれでも。フィルさんの眼力に晒されてきた身からすれば、この程度、何ともないね。
それにしても。小猫さんは実に美味しそうにケーキを食べていく。CMに使えば売上倍増するんじゃないかと思えるくらいに幸せそうにケーキを頬張っていく。そのような嬉々とした表情で食べてくれればケーキの方としても本望だろう。そんな小猫さんを見ている影響か、僕の何か甘いものを食べたい感情はあっという間に吹き飛んでいってしまった。今はコーヒーだけで十分だ。
「……どうかしましたか?」
僕の視線に気づき、コテンと首を傾げる小猫さん。それだけで小猫さんを見ていた何人かの人が『グハッ!?』という叫び声とともに胸を押さえて撃沈した。恐るべき破壊力だ。さすがは『戦車(ルーク)』。ちなみに、やられたのは全員男性だった。誰か彼らのために衛生兵を呼んでくれないだろうか。死因が小猫さんの可愛い仕草だなんて色々な意味で哀れすぎる。
「いや、凄く美味しそうに食べるなぁーって思ってさ」
「……そうですね。このケーキのあまりの美味しさについ我を忘れていました。なぜ期間限定なのか非常に理解に苦しむ代物ですが、よかったら祐斗先輩も一口どうですか?」
「いや、僕は止め――ッ!?」
と、僕が口を開いた瞬間を狙って、小猫さんのフォークが僕の口の中に差し込まれた。完全に不意打ちだったため、僕は為す術もなく、小猫さんの絶賛するケーキを食べることとなった。
「どうですか?」
「……ん、確かに。これは美味しいね。しつこくもなく、でも特別控えめってわけでもない。期間限定なのがもったいないくらいだ」
「ん」
小猫さんの食べている期間限定のケーキは、小猫さんが絶賛するだけあって凄く美味しかった。絶品という言葉はこのケーキのためだけにあるのではないかと錯覚させるほどに美味しかった。その旨を小猫さんに伝えると小猫さんは幸せいっぱいな表情を浮かべる。きっと自身の気に入ったケーキで僕と意見が一致したのが嬉しかったのだろう。
「……私、決めました。しばらくは毎日ここに通います」
「そこまで気に入ったのかい?」
「はい。虜になりそうです」
小猫さんは嬉しそうな表情のまま、再びケーキをパクパクとフォークで食べていく。さっき僕の口にケーキを突っ込んだフォークを使って当然のようにケーキに舌鼓を打っていく。……今の行為が世間一般に間接キスと評されるものだと小猫さんは知っているのだろうか? いや、多分知らないんだろうな。知っていたらきっと公衆の面前で平然と関節キスを行ったりはしないだろう。知らぬが仏とはこのことか。
ちなみに。さっきの小猫さんの幸せいっぱいな表情によって衛生兵を必要とする撃沈者はさらに増えている。まさにうなぎ上りの勢いだ。
そこまで状況が悪化してることなど知る由もない僕は翠屋のウィンドウから外を覗き見る。すると、僕の視線の先にシスター服を着た金髪の少女が映った。
「……(あれは教会関係者か?)」
悪魔にとってシスターもとい教会関係者は警戒すべき存在だ。相手次第では天敵となりかねないからだ。特に悪魔祓い(エクソシスト)となればいつ襲われるかわからないため最大限の警戒を払う必要がある。
――のだが。
何かワタワタしている。アワアワしている。パテパテしている。ファタファタしている。トテトテしている。コミュニケーションを取ろうにも、誰とも言葉が通じなくて涙目になっている。あ、転んだ。足元に何もないのに。コンクリートの地面に顔から転ぶなんて、色々と大丈夫だろうか、あの子?
「……祐斗先輩?」
「あ、うん。どうしたの、小猫さん?」
「いえ。何だか上の空でしたから、大丈夫かと思いまして」
「僕なら大丈夫だよ。心配してくれてありがとね、小猫さん。ただちょっと、アレが気になったからさ」
僕が窓の外を指さすと、小猫さんも何かコテコテしている金髪シスターの姿を捉えた。
「……悪魔祓い(エクソシスト)、ですか?」
「多分そうなんだろうけど、それにしては変わってるなって思ってさ」
「放っておけばいいのでは? 幸い、あちらは私たちに気づいていないみたいですし。それに、私たちの脅威になりそうなほどの実力を持っているようにはとても見えませんし」
「まぁ、そうなんだけどね……」
「いたたた……」といった表情で擦りむいた鼻をさすっていた金髪シスターは通行人の一人と肩がぶつかったせいで理不尽にも怒鳴られている。今にも泣きだしそうな表情でペコペコと頭を下げている。アレを放置しているのは何だか気が引けた。
「よし、5分だ」
「はい?」
「5分待とう。5分待っても誰も彼女と言葉の通じる親切な人だったりあの子の知り合いだったりが現れなかったら、その時には彼女と接触しよう」
日本人というものは基本的に親切だが、言葉が通じない相手となるとその大概が対応を一気に変えてくる。自身の使えない外国語を使う存在を異質なものと捉えて、またはめんどくさい感情が働いて敬遠してしまうのだ。その点、悪魔は言語関係で苦労することは一切ない。ならばここは悪魔の出番だろう。といっても、シスターに手を差し伸べる悪魔なんて僕くらいなんじゃないかな?
「相変わらずですね、裕斗先輩」
「そうかな?」
「そうですよ。堕天使だろうと悪魔祓い(エクソシスト)だろうと、困っている相手がいたら助けようとするじゃないですか?」
「それは否定しないけど、ちゃんと助ける相手は選んでるよ? 例え僕が悪魔だってバレても敵対するように見えない、見た目から優しさが滲み出てる人しか助けないし。万が一僕の予想に反して襲ってきても全く問題ないレベルの人としか接触しないし。それに。こういう行動の積み重ねが後の自分の助けになることだってあるんだから」
「例えば?」
「万が一、僕が堕天使だったり悪魔祓い(エクソシスト)に殺されそうになった時に庇ってくれるかもしれないよ? そしたら後はその人を見代わりにして撤退すればいい。悪魔に味方する存在は悪魔たる僕を狩ろうとする連中にとって目障りで仕方ないだろうからね。時間稼ぎくらいにはなってくれるよ、きっと。あぁ、その人ごと敵を串刺しにするのもありかもね」
僕がコーヒーを飲みつつ自身の考えを口にすると、小猫さんが何か固まってた。あたかも小猫さんの周りの時間だけが止まったかのようだ。あれ? これ、実はギャスパーくんがこの辺に出没してて小猫さんだけに神器発動したってオチだったりする?
「……案外エグいこと考えてるんですね」
「まぁね。僕悪魔だし。それに。僕が堕天使だったり神父だったりが個人的に嫌いなの、知ってるでしょ? 仲間割れで彼らの数が少しでも減ってくれるのなら万々歳だ」
「……」
僕が本音を正直に述べると小猫さんはかける言葉をなくしたのか、黙々とケーキを食べにかかる。僕のせいでちょっとばかり雰囲気が悪くなってしまった。やっぱり本音はそう簡単に口にするものじゃない。さて。このどこか気まずい雰囲気を払拭するためにもそろそろ行動に移るとしよう。
「さて。小猫さんがそれ食べ終わったら行こうか。そろそろ5分だ」
僕は店内の掛け時計を確認して、小猫さんのおやつタイム終了を促した。