金髪と金髪との邂逅。
翠屋を後にした僕と小猫さん。もちろん全額僕の奢りだ。小猫さんが中々の量のケーキを食べてくれたので割と出費となったが、まぁこれぐらいなら問題ないだろう。
まぁ、それはさておき。僕たちの目の前には5分前と変わらずアワアワとしているシスター服の金髪少女の姿がある。
いくら困り果てていても彼女はシスターで教会関係者。下手すれば悪魔祓い(エクソシスト)。やっぱりこのまま放置する手もあったけど、男に二言はないし、それにもう涙腺崩壊一歩前まで来ている彼女を放っておくのはあまりにいたたまれない。夢にまで出てきそうだ。
「大丈夫かい?」
「――ッ!? わ、私の言葉がわかるのですか!? ホントにホントにホントですかッ!?」
僕が声を掛けると、金髪のシスターは弾かれたかのように僕の顔を見てきた。よほど言葉の通じる相手に巡り合えたのが嬉しかったのだろう。シスターは僕の右手を両手で掴むと涙で潤んだ瞳で僕を見上げてきた。涙でウルウルとした瞳とは裏腹にその表情は実に晴れやかだ。うん。5分間放置しててごめんね。
「うん、ホント。ホントだから、ちょっと落ち着こうか」
その気持ちはわかる。凄くわかるのだが、あんまり近づくのは止めてほしい。彼女の胸に提げてある十字架が僕に地味にダメージ与えてきちゃってるから。平静を装ってるけど、これ結構痛いから。あと、なぜか小猫さんが急激に不機嫌になっちゃったから、そっちの意味でもある程度の距離をもって接してきてほしい。
「は、はい……ごめんなさい、つい」
僕の願いが通じたのか、シスター服の少女は顔を赤らめたかと思うと僕の手から両手をバッと離した。初対面の異性の手を握るという行動に恥ずかしさでも感じたのだろう。
「それで? 何か困ってたみたいだけど、どうしたの?」
「あ、あの、実は私、道に迷ってしまいまして――できたら道を教えてほしいのですが」
うん。何となくそんなことだろうと思った。だって、彼女のソワソワフワフワワタワタ具合は尋常じゃなかったし。
「僕はこの辺のことはよくわかってるから、君の力になれると思うよ」
「ほ、本当ですかッ!?」
「うん。ホント」
僕の返答にパァと花が咲いたような笑みを見せるシスターさん。これはまた破壊力が凄まじい。耐性のない人がこの希望に満ちあふれた彼女の笑顔を見たら一発でノックアウトしてしまいそうだ。
「どうせですし、目的地まで案内しましょうか?」
と、僕の言葉に続いてシスターさんの案内をかって出てくる小猫さん。僕の言おうとしていたセリフ、取られちゃったなぁ。
「い、いえ、さすがにそこまでしてもらうわけには――」
「遠慮しなくて結構ですよ? それに、ただ道を教えただけでは貴女がきちんと目的地まで辿りつけない気がしますし」
「そ、そんな風に見えますか、私?」
「はい。方向音痴の人にしか見えませんね」
僕も小猫さんと全くの同意見だ。
「ほ、方向音痴……ハゥ」
小猫さんの容赦ない指摘に傷ついたのか、シスターさんは再び涙目になる。一方、小猫さんはどこかすっきりした表情を浮かべている。あれ? 今まで気づかなかったけど、小猫さんってSだったりするのかな?
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は木場祐斗。で、こっちが――」
「塔城小猫です」
「短い付き合いだろうけど、よろしくね。僕たちのことは好きに呼んでいいよ」
「はい。こちらこそ。私はアーシア・アルジェントと言います。よろしくお願いします。木場さん。塔城さん。私のことはアーシアと呼んでください。……あぁ。これも主のお導きですね。こんなに優しい人たちと巡りあわせてくれるなんて。ありがとうございます」
僕たちと握手を交わした彼女:アーシアさんは両手を組んで神へ感謝の言葉を述べる。その言動は地味に僕と小猫さんのライフゲージを削っていった。敬虔な信者なのは結構だけど、今はそういうのはあんまりしないでほしいかな。うん。
◇◇◇
その後。僕と小猫さんはアーシアさんに町を紹介しつつ、アーシアさんを彼女の目的地:教会の近くまで案内し、そこで別れた。あんまり教会に近づくと攻撃されるかもしれないしね。機会があったら教会に来てくださいと言われたが、行く気はない。行ったら確実に神側と悪魔側で問題になるからね。次に彼女と会う時があるとしたら、精々町中でバッタリ出くわした時くらいだろう。
「いい人でしたね、アーシアさん」
「そうだね。本当にいい人だった。あんなに純粋な人もいるもんだね」
アーシアさんの向かっていった教会を見つめつつ、僕と小猫さんはアーシアさんの印象を口にする。
「今回のこと、一応部長に報告しておこう」
「そうですね。誰もいないはずの教会に派遣されるなんて妙ですし」
ということで、僕たちは部室に戻り、部長に先の件を話した。その際、部長からは「貴方は相変わらずのようね、祐斗……」との呆れの眼差しをもらった。