虹に導きを   作:てんぞー

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故に彼女へと送る言葉は―――

―――オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはただの少女だった。

 

 彼女は王女だったのかもしれない。だけど彼女の人生はそれを許さなかった。優れている事は美徳かもしれない。だけど人々はそれを許さない。そしてオリヴィエは怪物王女から人間へと成った。その先で死の運命が待ち続けていると知らずに。彼女が王になる事を諦めなければ、きっと希代の名君になっただろうし、おそらくは死の運命と相対する事もなかっただろう。だがオリヴィエ・ゼーゲブレヒトは死ぬ。

 

「―――はい、陛下……いえ、お父様。私はゆりかごに乗ろうと思います。この命と引き換えにベルカを。……これは違いますね。正直な話、ベルカなんてどうでもいいです。私の人生でベルカは奪う事しかしてくれませんでした。優しくしてくれた兄姉も居ませんでした。陛下も、父親としての姿を一度も見せてくれませんでした―――お恨み申し上げます」

 

「そう、か」

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの人生を表現するなら悪意なき悪意と表現するのが一番だろう。そこには純粋な善意しか存在しなかった。ただし、それはオリヴィエへと向けられていない。国と民へと向けられ、王族であるから、切り捨てられる覚悟はある筈だから、それが王の血筋の義務であるから、そういう認識と言葉によってオリヴィエだけ民から爪弾きものにした。王の資格は奪ったというのに。そこに悪意はなかった。だが優しさもなかった。

 

「はい。恨んでいます。お父様も。お兄様も。お姉さまも。助けてくれなかった皆を。苦しいのに解ってくれなかった皆を。ただの学生のままでいさせてくれなかった皆を。本音を言えば今すぐここでこの両手を使って殺してやりたいとさえ思っています。地獄に落ちろ、と正面から叫びたいところです。……お前たちも、全てを失って地獄を味わえ、と同じ目に合わせてやりたいところです」

 

「……」

 

「憎い。心の底から憎い。私を産んでおいて都合が悪かったら捨てて、そして必要になったら利用する。私を王家から追放しておいて必要になったら呼び寄せる。私が聖王家の中で疎まれているのは知っていました。ですから継承権を失ってからはなるべく関わらないように生きて来ました。ですが結局のところ、私は血の通った人間ですらなかった―――ずっとずっと、人形として扱われてきたんだな、と漸く理解しました」

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトは王女であった。だが、今の彼女は人間だった。王女だった頃のオリヴィエではこんな言葉を吐かなかっただろう。彼女は美しく、正しく、そして清い存在だった。それは王としての理想的なシステムだとも言えたかもしれない。だがそれを受け入れられる人間はいない。故にそこから失墜し、導かれ、彼女は人となった。そう、誰もが見ても納得できる人間らしい人間に。

 

 彼女を今見ている人間達はオリヴィエの言葉を聞きながら()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。オリヴィエが怨嗟の呪詛を言葉として吐き出す姿が初めて王子たちの姿に映り、彼女がどこにでもいる様な少女である事を自覚させる。彼らはそこで初めてオリヴィエ・ゼーゲブレヒトに溜め込まれた怨嗟の念を理解する。だが表面上、彼らに変化はない。

 

 彼らは貴き血筋を引く者。大国の継承者。犠牲を出して大多数を救うのは当然の事だった。それは何時の時代、誰にだって行われている事だった。少数を捨てて大多数を救う。そうしなければ国家は存続できない。少数が生き延びるという例外を生み出せばシステムは崩壊する。それ故に少数を切り捨てて行進し続けなければいけない。そこには守るべき大多数の幸福が残っているのだから。

 

「ですが私はゆりかごに乗ろうと思います。正直に申せばベルカは滅べ、とさえ心の中で思っている所はあります。ほとんど歩いたことのない城下町。継承権を失ってもやらされる王族としての仕事、出会った事もない騎士や侍女たちには陰口を向けられて生きて来ました。全員死ね、とさえ思う部分もあります。みっともなく泣いてなんで私だけ死ななきゃいけないのかと思う所もあります。ベルカは、どうでもいいです―――」

 

 偽らざるオリヴィエ・ゼーゲブレヒトの本音。それはちょっとした変化が生み出した暴露だった。誰か、秘密にし、そして見守ってくれる存在が話を聞いて、背中を押してくれるから。それがあって訪れた変化だった。誰かに吐き出す、内心を吐露する。それをオリヴィエは実行する事が出来るようになった。或いは見守る存在の悪辣さに似てしまったのかもしれない。オリヴィエがこうやって言葉を残すだけで、消えない傷が王宮に残されて行く。

 

「―――ですがゆりかごには乗ります」

 

 オリヴィエはそれを覚悟した。これから迫りくる死の恐怖には勝てず、その恐怖を反映して義手の指先はわずかにだが震えている。

 

「この国の為ではなく、私がどうしても助けたいと思う友と、友の国の為に……本当に祖国と思えるほどに楽しい時間を過ごしたあの国の為に、私が生きていたという証を残せた場所を守る為にゆりかごに乗ろうと思います」

 

「そうか……この国はお前に何かを与えられたか?」

 

「いえ、なにも。友との出会いも、安らぎも、時間も、全てはこの国以外がくれました」

 

 最後の最後までオリヴィエは呪詛を吐き出した。それが当然の様に。そしてそれを受け止める男は―――聖王だった。周辺には重臣や王族たちの姿があり、数名は吐き出されるオリヴィエの呪詛に顔を青ざめている。そこにある心配はオリヴィエへの扱いに対する後悔―――ではなく、ここまで憎しみを抱いているオリヴィエをゆりかごに乗せた結果、その矛先がベルカへと向けられないかという恐怖であった。だがそれに一切頓着する事無く、聖王は表情を変えず、頷いた。

 

「良かろう、玉座と聖剣オートクレールをオリヴィエ、お前にやろう。……そして敵を滅ぼすと良い、お前の美しい想い出を穢そうとするその存在全てを」

 

 聖王からオリヴィエへと王冠が、マントが、そして聖剣が引き継がれた。そうして歴史はついに生み出した。現代ベルカ史に残す最後にして偉大なる聖王、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの存在を。

 

 歴史には彼女は偉大なる聖王であると記録されていた。美しく、優しく、そして強く。彼女は国を愛し、民を愛し、そして理想の王であったと。彼女は国の危機に憂いた。禁忌兵器による世界の破滅を防ぐために同じ禁忌兵器である聖王のゆりかごに自ら望んで乗り込み、動力源となって死んだ―――そしてベルカは救われ、その後にゆりかごは暴走してベルカをも滅ぼした。

 

 美しい歴史ではあった。

 

 だがそこに真実はなかった。

 

『ここで私達の追い求めていた歴史の真実というものが完全に晒されたね。まぁ、なんというか……これは後世に伝わるときに真実を知る者が大衆操作の為に手を入れているという事が明らかに解る結末だったね』

 

『なんというか……これじゃあ余りにも救いがないです……』

 

『元々オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの死は歴史によって決められていたものでしょう? だから彼女が死ぬ事は歴史的には正しいんでしょうね。だけど流石にこれは……ねぇ?』

 

 現代から同じ景色を見て、同情的な言葉が届く。それを耳にしながら、聖王と場所を変えたオリヴィエは王冠を被り、マントを羽織り、そして聖剣を手に玉座に座った。その姿を聖王の横に並んで眺める。

 

「……私は、王である。故に大多数を守る義務がある。それは玉座に座った瞬間から発生した。親でもなく、男でもなく、王というシステムとして国家を維持し続けた。最大限の効率で。それが世界の繁栄の為に必要な事であるのも解る」

 

 だが―――そう、聖王だった男は呟いた。

 

「―――娘に親だと思ってもらえず、呪詛のみを送られるのは流石に堪えるな」

 

 王冠を失った男は誰にも聞こえない様に、後悔するような呟きを放っていた。隣にいる、この時間軸には存在しない、誰にも見えない自分にだけ向けて放った言葉。それは同じ世界に存在する、同じ時間軸に存在する誰にも吐き出せない聖王だった男の本音だった。

 

 そう、この王宮に明確な加害者なんて存在しなかった。

 

 誰もが王族、王政、或いは聖王というシステムによって縛られた被害者だった。

 

『アニメや漫画、小説には常に打倒すべき敵が存在する。だけど現実はそうじゃない。明確に悪徳に走る連中なんてほんの一部さ。特に国家を運営するものが明確に悪へと走る余裕なんてない。組織が大きくなればなる程腐敗は全体を揺るがす……きっと、彼は本気で国を維持し、成長させようとしていたんだね。ただそこに娘を加えるだけの余裕がなかっただけで』

 

『なんか……誰を責めればいいのか解らず、複雑っすね……』

 

 だから善悪という言葉は面倒なのだと思う。捨てられた運命の果てに玉座に座るオリヴィエの姿を見れば、運が良かった悪かった、誰々が良い悪いなんて言葉で判断、片付ける事は出来ない。救いのない話だが、悲劇なんてものはどこでも溢れている。社会の一部として行動する以上はどう足掻いてもルールやシステムに従う必要が出てくる。

 

 オリヴィエ・ゼーゲブレヒトはそういう存在だった。従った結果、大多数をを存続させるために切り捨てられた少数。それが彼女だ。だからこそ自分の様な人間はアウトローを選ぶ。一言で言えばそれが気に入らないから。法律や社会に縛られている状態では絶対にできない事がある。絶対に救えない人がある。絶対に求める事の出来ない物語がある。

 

 別段、社会は悪い訳じゃない。人類という種の存続を考えれば当然のことだ。癌を患ったとき人間はどうする? 無論、腫瘍を切り落として切除する。それが治療だ。そしてそれが社会の構造でもある。社会は間違っていない。システムは極論、大多数が正しいと認識すればそれで正しいのだ。

 

 そこに、少数の否定が入ろうとも大多数が納得すればそれが真実になる。

 

 王冠を脱いだ元聖王の姿はどこか、疲れているようにも、身軽になったようにも思えた。長年患ってきた聖王という衣を脱いだ男の表情は変化はない。だがその胸中は解放された事から今までの様に、王として振る舞い続ける必要はなく、その内心では本音による嵐が吹き荒れているのだろう。果たして、その気持ちを察する方法は自分にはない。ただ解るのは、

 

 彼もまた、望まぬ事を王として行い続けていた、という事実だけだった。

 

 

 

 

「聖王のゆりかごは……初代聖王陛下と共にベルカへともたらされたものであり、古くはアルハザードのものだと言われています。この時代においても完全に解析されたわけではなく、それを構成する技術の多くは不明です。ですが、それがもたらす恩恵と強さは知っています。ですから昔から()()()()()()()()事で本来の姿を隠してきました」

 

 ベルカ城の一角、人々が完全に退避させられていた。城の一角と思える場所は完全に人払いが成されており、誰も近づけない様に結界まで施され、侵入者が出ない様にされていた。そこには王族でさえ近づく事が出来ず、オリヴィエだけが一人で城を割り、その擬態を解除する威容の前に立っていた。一部の城壁などを破壊しながら出現するその巨大な姿は、

 

―――戦艦であった。

 

 形状としては三角形のそれで、数千メートルを超える巨大さを誇っていた。まるで建造したてかの様な真新しい装甲を持ち、その船体には大量の砲塔などが見える。全範囲を狙い、破壊できるように設置されているその多数の砲台だけではなく、内部から感じる凄まじいまでのエネルギーはこれ単体で余裕で国だけではなく大陸規模で破壊が行える超兵器である事が伝わってくる。

 

『これが全盛期のゆりかごか……現代のゆりかごと比べるとまるで別物だねぇ。内蔵エネルギー量、稼働可能な武装の数だけじゃないぞ、これは。おそらく多くのシステムや特殊兵装がまだ稼働する状態だ。この時代だとまだゆりかごをメンテナンスする方法が存在していたんだろうね……あぁ、実に惜しい。その技術が現代にまで残っていれば私が復活させたのに!』

 

 ほんと、歴史からその手の技術が消え去った事を感謝する。ジェイルが船首の上で両腕を組んですごいぞー、つよいぞー、かっこいいぞー、と叫びながらずり落ちる姿が想像できてしまう。苦笑しながら、オリヴィエを見た。

 

「まさかこれを私が動かす事になるとは思いもしませんでした。思いたくもありませんでした……うん、やっぱり怖いなぁ。かっこつけられないや」

 

 そう言ってオリヴィエは埃を下ろし、わずかに浮かび上がったゆりかごを見た。その船体は被っていた埃を払いながら少しずつ降下を着地の為に進めていた。おそらくは搭乗者であるオリヴィエの気配を悟ってシステムが稼働しているのだろう。ゆりかごを完全な形で稼働させるための最後のパーツを受け入れるべく、自動で動いていた。

 

 それはオリヴィエにとっての死だった。

 

 乗り込めば最後、オリヴィエは人間ではない―――ゆりかごの一部、パーツとして接続されて動力源として消耗される。それがオリヴィエに用意された未来だった。故に言葉を贈る。別に、逃げてしまってもいいのだと。それを責める人間は間違いなくいるし、腐るほどいるだろう。だけどそんな事はどうでもいいと自分は告げた。それを誰よりもオリヴィエの痛みを知る自分は、責めない。寧ろ推奨する。オリヴィエはただの少女である。

 

 だとしたらただの少女の人生を送るべきであると思っている。

 

「うん……言葉は伝わらないけど、その暖かい気持ちは伝わってくるよ。ありがとう。その気持ちだけでも頑張れるよ」

 

 オリヴィエが降りてくるゆりかごを見上げながら口を開いた。

 

「……あのね、なんとなくだけど貴方の事が解ってきたの」

 

 剣を下に向けて大地に突き刺し、両手を柄に乗せた状態で揺れる事もなく立ち続けながらオリヴィエは言う。

 

「貴方はきっと、未来から来たんだって。なんとなくだけどそう思うんだ。何故そう思ったのかは知らないし、そこまで興味のある事でもないんだ。だけどね、貴方から伝わってくる暖かい気持ち、そして見守る言葉はいつも私の背中を押してくれたんだ。貴方はきっと、とても素敵な人だと思うんだ」

 

 なぜかは解らないけど―――だけどオリヴィエは確信していた。時空を超えた旅人がそこにいる筈なのだ、と。彼女は最初からずっと感じ取っていた。最初からずっと影響され続けて来た。少しずつ此方を学んで適応していた。なぜならこれは憑依であり、付与だから。彼女の一部として同じ人生を感じていたから。つまり自分の一部が彼女に付着していたという事でもある。そこから彼女は一を聞き、十を知る才能で理解に至っていただけだった。

 

 常人であればこの程度は問題なかった。

 

 だが彼女は聖王核が二つ存在する万能の天才であった。

 

 何を覚え、何をしても完璧になれる。そういう圧倒的素質と才能の持ち主として生まれて来た。だから時空を超えて、対策を施して自我の融合が起きなくても、カスや欠片、或いは破片とも呼べる物が彼女に付着すれば、そこから彼女は覚え、察する。

 

 そうやって彼女は答えに至った。

 

「ありがとう、名前も知らない貴方。きっとどこかの未来で生きている素敵な貴方。この大地にはリッドやクラウス、クロがいる―――そしてみんながいるこの大地がきっと未来へと続くのなら、貴方が生まれてくる。それはきっと、とても素敵で優しい事だと思うの」

 

 うん、だから、と、オリヴィエは笑った。

 

「怖いし、死にたくないし、泣きそうだし、今も体が震えそうだけど―――頑張るよ」

 

 頑張る、それはつまり同時に()()()()()()()という言葉でもあった。少女となってしまったオリヴィエ・ゼーゲブレヒトは無理をしている。彼女はここに立つべき人間ではなかった。彼女はベルカへと帰ってくるべきではなかったのだ。

 

『……こう、何とか出来ないもんなんですか? ドクター』

 

『さぁ? 元々私は出来る事を全部やっているさ。それで漸く時空に介入しているんだから、これ以上を求められても困る事さ。第一あのアルハザードでさえ滅びを覆す事は出来なかったんだよ? それ以上を私に求めるのかな?』

 

『いいからとっとと働けよドクター』

 

『辛辣……! だけどそこが癖になる! まぁ、私にはないさ、文字通り全力だからね! 私がこの状況を維持しつつ管理局を全力で攪乱するのにどれだけ苦労しているのか全く理解できないようだなぁ―――! ……まぁ、ヒントは出ているから頑張りたまえ』

 

 ()()()()()()()

 

 魔女猫クロゼルグはそう言った。その彼女は既に未来で死亡している。その為、彼女の言葉は理解することが出来ない。だが彼女は一度、そう言った。だとしたら一度だけ、という事でもある。

 

 一回だけ、全ての理不尽をひっくり返すだけの事が行える。

 

 クダを片手に抜いて握った。だがそこまで手を動かしたところで、停止させる。いや、まだこのタイミングではダメだ、と。そう。忘れてはならない。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトの死に対して憤る人物は未来に居る自分たちがメインではない。寧ろ自分たちはこの物語においては脇役でしかない。本編の主役たちはこの時代に存在する連中である。それはつまり、

 

―――結界の破壊音と共に飛び込んでくる連中になる。

 

「っ!」

 

 結界に穴が生まれ、そこから素早く飛び込んでくる二つの姿が現れた。どちらもひどく汚れている姿を見せており、既にどこかで戦いを繰り広げたのか、ところどころダメージを受けている様な姿を見せている。緑色と白の服装の青年と、そして黒一色の服装の少女の組み合わせだった。この場に飛び込んできた二人の姿を見てオリヴィエは大きく目を見開いた。

 

「クラウス、リッド! なんでここに……」

 

「無論、君を助けに来た以外の選択肢があるものか!」

 

「父さんを山ごと叩き潰して一族のヘッドになったからね、魔女猫の一族と協力して一緒にベルカ王城に突入してきたんだよ! 魔女猫は足止めに置いて来たからここに居ないけど許してね!」

 

 イエーイ、と言いながらヴィルフリッドは親指を持ち上げている。ここに来るまで相当の無茶をしていたのだろうか、良く見ればクラウスもヴィルフリッドも魔力を損耗しているのが解る。だがそれを超える覇気がその体には満ちていた。何があっても絶対に負けないという気概がそこには存在していた。その光景をぽつん、とした表情でオリヴィエは眺めてから、頭を横に振った。

 

「クラウス、リッド、来てくれたのは嬉しいですけれど帰ってください。ここは聖王のみが入ることを許されている場所です。退去をお願いします」

 

 オリヴィエのその言葉にクラウスとヴィルフリッドは視線を合わせ、同時に答えた。

 

「断る!」

 

 当然の様に言葉をクラウスとヴィルフリッドは返した。

 

「そもそもここまで突破してくるのにどれだけお金と苦労を割いたと思ってるの!? 僕なんか父さんを無闇に叩きつけた上で砕いてへへ……もう……お前に教えるものなんてないぜ……とかいう臭い流れまでやったんだよ!? しかも父さん今は元気に騎士を相手にヒャッハ―してるし! 感動が台無しだよ!!」

 

「俺も王子という身分を捨てる覚悟でここへと来てみれば家族からはにやにやした視線を送られるばかりか花束まで持たされたぞ! 何かうちは色々と勘違いしてないか!? こう、もっと緊張感のある状況だった筈だったんだが……!」

 

「リッド! クラウス! ふざけないでください!」

 

 オリヴィエの怒声が響く。

 

「このままだと……このまま各国を放置していれば禁忌兵器によって国土が荒廃します! あれは戦後の事を考えない世界そのものを滅ぼす類の兵器だというのは解っているはずです! ベルカが……私が率先して止めなくてはならないんです。既に王位は継承しました。聖王として、私が先陣に立って民を導かなくてはいけないんです」

 

「いや、その必要はない」

 

 クラウスは頭を横に振った。

 

「これは俺の国の問題で、オリヴィエ、貴方の国の問題ではない。これはシュトゥラが立ち向かうべき問題だ―――我が国はベルカとの同盟を切って、一国としてガレアの脅威に対して立ち向かう覚悟がある」

 

「いえ、それは許せません。第一シュトゥラは国力でも戦力でもガレアに劣っています。そんな事をすればベルカのバックを恐れなくなったガレアがシュトゥラを蹂躙するだけです。ベルカは同盟の盟主としてそれを見過ごせません。自分よりも弱く、助けの必要な者を見過ごしません」

 

「―――だけど、そんな事一言も頼んでいない」

 

「―――」

 

 ヴィルフリッドは頭を横に振った。

 

「僕らは一度たりともそんな事を頼んでいない。助けて、とか。力を貸して、とか。王位を継いで、とか。だって元々僕らはそんな事が関係なくヴィヴィ様の事が好きになったんだもん―――おい、ヘタレ王子そこで顔を赤くするのやめろ状況を考えろ思春期じゃなくて……うん、つまりは別に助けてってヴィヴィ様には頼んでないって話」

 

 とても簡単だろう? とヴィルフリッドが言う。

 

「僕らは人間だ。助けが必要なら助けを求めるさ。別にやせ我慢をしている訳じゃないんだ」

 

「だけど俺達はそんな風に助けを求めていない。助けが欲しかったらベルカの王族に頼む。君じゃない、ベルカの王族にだ。そしてシュトゥラは必要ないとそう判断している」

 

 だから、とクラウスは言葉を置いた。

 

「勝手に俺達を死ぬための理由に使わないでくれ。君に居なくなられると……寂しい」

 

「……」

 

 その言葉にオリヴィエは黙りこんだ。クラウス一人では―――という所ではあるだろう。だがここにはヴィルフリッドも居た。彼女の言葉は付き合いの長さから一番オリヴィエに届く力を持っていた。だからこそヴィルフリッドは事前に動きを止められそうになっていたのだ。故に、クラウスとヴィルフリッドの言葉は合わさってオリヴィエへと届いていた。

 

 だけど、オリヴィエは頭を横に振った。

 

「ありがとう、クラウス、リッド。その気持ちは凄く嬉しいです。だけどね、ダメなんです。私は聖王となったんです。それは国家の象徴で、私はベルカを導く義務があるんです」

 

「何が義務だ! 何が象徴だ! ふざけるな! 少女一人を都合の良いように使って存続しなきゃいけない国、滅びてしまえ! その義務は君がそう思い込んでるものだよヴィヴィ様! そんなもの、最初からなかったんだよ!誰でもない、この国が君から取り上げたんだ!」

 

「ううん、あるんです。お父様から王位を譲ってもらったときにその重さを改めて知りました。お父様……まるで、燃え尽きた薪のようでした。今まではそんな風に見えなかったのに、王であり続ける間はまるで疲れを知らない超人だったかのようなのに……それを見て解ったんです。お父様もずっと王位という立場に苦しんでいたんだと。でもそれに対して一度も文句を言いませんでした」

 

「それは彼が望んで王となったからだオリヴィエ! 彼は王になろうとして王になった、それが彼の覚悟だった! 彼は自分から義務を背負ったんだ!」

 

「私も自分から義務を背負いました! この戦争を終わらせるという事が私に出来る事なんです!」

 

 明確なオリヴィエからの拒絶。それはオリヴィエが死を覚悟したともとれる言葉であり、それに二人が激怒する。そしてそれを察知したオリヴィエが大地に突き刺さった、透き通った氷の様な、水晶の様な刀身を持った幅広の両手剣を握り、構えた。聖剣オートクレール。それは王位の継承と共に前聖王からオリヴィエへと渡されたものの一つであり、

 

「……()()します。貴方達は現在、ベルカ王家にのみ許された私有地へと侵入しています。立ち去るのであれば咎めません。ですが残るというのなら……、っ、排除します!」

 

「無理してそんな事を言って……!」

 

 明らかに無理をしているのは見て取れた。だがオリヴィエは本気でクラウスとヴィルフリッドを追い出すつもりだった。一瞬で魔力を圧縮させながら取り込み、そして自身を一気に強化しながら迎撃の体制を整えた。オリヴィエは戦う、ヴィルフリッドとクラウスと。その姿を見て、自分も歩き出す。

 

 オリヴィエの横から、ヴィルフリッドとクラウスの背後へと。此方を視線が捉えていないが、オリヴィエが苦笑を漏らした。

 

「やっぱり……貴方もそっちなんだね……」

 

 無論、というか当然。美少女が死ぬとか歴史的大事件なのだから、死なせる訳ないだろう? という当然の話だった。それはそれとして、物質的な干渉は出来ないし、自分が出来る事と言えば応援するぐらいだ。だけど、それでも十分だろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 クラウス、オリヴィエ―――そしてヴィルフリッドが揃ったこの時点で。

 

 それを肌で感じていた。

 

 故に一手―――運命を変える一手がここに揃った。

 

 ヴィルフリッドは初めて見せる顔を見せていた。普段は笑みを浮かべてばかりいる少女、笑ってふざけて遊んでいる強さを見せる少女だったが―――今は、その目の端に涙を浮かべており、

 

「この―――解らず屋っ―――!」

 

 叫び声と共に涙を散らし、ベルカの行く末を変える戦いを始めた。

 




 本来の歴史では軟禁されたことによって決してオリヴィエとの最後に合えなかったヴィルフリッドの。

 その結果、vsオリヴィエでワンパンどころかかすり傷さえつけることが出来なくリフティングされたかのようなボロボロの姿で地面に転がるリフティング王子の姿が。きっと原作でも聖王の鎧で護身完了させながらサッカーボールにされたんだなぁ、って……。

 覇王流はそう考えるとオリヴィエ敗北後の時期に生み出したものなんだろうなぁ、と思う。もう存在しない次は絶対に負けない様に生み出した武術。ただ恋愛感情はなかったらしいのでお前、なんでそこまで拗らせるの……? って首を傾げる。

 エンディングが見えて来たわねー。

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