虹に導きを   作:てんぞー

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そして物語は美しく閉ざされた

『超弩級次元航行戦艦……通称聖王のゆりかご。その本来の名称は歴史の闇の中に消え去っている』

 

 天地を鳴動させながら心血に魔力が注がれる様に虹色の魔力が船体の溝を走っている。その力は文字通り、世界を揺るがすレベルだった。

 

『だが一つ、私が過去の記録を調べて把握したのはこれがアルハザード産であり、()()()()()()()()()()()()()()()であるという記録だ。データベースを探っていると古代ベルカの更に前、そうだね、その300年前からもさらに昔になるから大体200年以上も前の時代に別次元への侵略の為に利用された兵器であるという事だ』

 

 浮かび上がるゆりかごの姿、そしてその姿が生み出す不吉な気配に誰もが言葉を失っていた。それは本来、ゆりかごに動力源として接続される聖王の血筋が存在しなければありえない兵器だった。だからこそゆりかごはある意味安全だと言われた。聖王の血筋そのものが馬鹿げた才能を持つ怪物ばかりで、それを拉致するのはほぼ不可能に近く、それを接続させるなんてありえない話だ。だけどその現実は否定されていた。

 

『次元跳躍砲。空間破砕弾。次元震弾。ハーモニクスイレイサー。虚数転移砲。アルハザードを出自とする数々の禁忌兵器を複数同時に運用する事を目的として建造された、禁忌兵器をばらまく為の空母とも言える存在だ―――ちなみに、現代で私達がタイムハックを行う為に利用しているのもゆりかごだ』

 

 ジェイルは残念ながら、と言葉を付け加える。

 

『私達の時代だと経年劣化とかつての運用から一切メンテナンスされていないから兵装のほとんどが稼働不能になっているけどね。だけど、本当に残念な話だけど―――この時代だとまだメンテナンスし、機能を維持しようとする技術が残っている。喜びたまえ、私達は今、一切劣化していないアルハザードの遺産を目撃しているのだ』

 

 絶望を孕んだ船が空へと浮かび上がった。それを見て一番最初に復活したのはヴィルフリッドだった。

 

()()()

 

 ヴィルフリッドは酷く焦った表情でゆりかごを見ていた。おそらくは自分と同じく、あの破壊兵器が持っている不吉な予感を、絶死の予感を感じ取っているのだろう。アレをあのまま動かし続けてはならない。それがヴィルフリッドには感じられていたのだろう。それを理解した瞬間、ヴィルフリッドは再び髪色を白く染め上げ、オリヴィエから離れた。

 

「一体だれがどうして動かせているのかは解らないけど―――嫌な予感しかない。ごめん、ヴィヴィ様。悪いけどちょっとぶち抜いてくるよ」

 

「あ……」

 

 いまだにどうすればいいのか混乱しているのか、悩んでいるのか、ショックが続いているのか、オリヴィエの返事は薄かった。だがヴィルフリッドは焦った様子でクラウスへと視線を向け、クラウスが頷きを返した。どうやら通信を通して既にクラウスがゆりかごの稼働と、その避難を命じていたらしい。行動が早い。そしてそれに従う様に、ヴィルフリッドが大地を蹴り飛ばし、一気に空へと浮かび上がった。

 

「何をするか解らないけど、消し飛ばして進めば―――」

 

 ヴィルフリッドがそう言葉を吐いた。消滅の能力で片っ端から攻撃を消滅させれば何が来ても怖くない。実際、聖王の鎧ですら消し去って戦闘を続行できたヴィルフリッドなのだから、ありえない事でもないのだろう。だが空へと浮かび上がったゆりかごはその船体に纏った虹色の光を波動の様に全方向へと向けて放った―――瞬間、存在していた魔力の結合が全て切断され、ベルカ王城を中心とした一帯から魔力そのものが消し飛ばされた。

 

「ぐっ」

 

「しまっ―――」

 

「なっ」

 

『アンチ・マギリンク・フィールドを外側へと向けて強制展開したか! 凄いぞこれは! 魔法を使った戦術が完全に使えなくなったぞ! いや、魔法そのものが使えない! リンカーコアの中身まで完全に空っぽだ!』

 

 笑いごとじゃねぇんだよ、と現代へと通信を戻しながら落下してくるヴィルフリッドを見た。彼女は見事に着地する事に成功したらしいが、ジェイルの言葉通り、クラウスもオリヴィエも、リンカーコアの中身から魔力を結合解除されてしまったか、酸素を求める様な苦しさで胸を押さえている―――おそらく、このベルカという国がそんな事態に追い込まれているのかもしれないが。その力、範囲は底知れなかった。

 

「そんな……本当に完全稼働している……。なら、私は何の為に……」

 

「それを悩むのは後だ! 機械式の通信機を持ち込んできて助かったな……おい、大丈夫か! みんな!」

 

 クラウスが被害状況を確認しようにも、三人の顔色は全く回復する様子を見せなかった。それもそうだろう。リンカーコアとは体内にある魔力を蓄える為の器官である。それは大気中の魔力を濾過するようにフィルタリングして体内に溜め込み、そして自分の使用可能な魔力へと変換しつつ、そのまま自分の体力などを魔力へと変換して生み出す魔法使い、魔導士に必要な器官だ。

 

 あのゆりかごのAMFと呼ばれる波動は、そのリンカーコアの機能でさえも一時的に不全を起こしているという事だ。魔力が生み出せない、魔力が操れない、魔力を蓄えられない。

 

『現代に残ったデータからの再現だと魔力の結合解除程度しかできなかったけど……そうか、本来のスペックならリンカーコアそのものを殺す事が出来るのか……いや、本当に恐れ入ったよ。この私でさえその技術の凄さには認めるしかない。大した化け物だね、アルハザードの技術者達は』

 

 ジェイルの感嘆の声を聴きつつも、ゆっくりと上昇して行くゆりかごの姿を見た。それを見てダメ、とオリヴィエが言葉を吐いた。

 

「アレをそのまま昇らせちゃダメです……ゆりかごは軌道上に乗る事で世界のどの場所からも自由自在に攻撃出来るようになります―――次元すら超えて」

 

「宇宙空間に逃げられたら人類じゃどうしても攻撃が届かないんだよねー……」

 

「リッド、どうにかならないのか?」

 

 クラウスの声に、ヴィルフリッドが苦笑する。

 

「……まぁ、魔法が使えたらどうにかできたかもしれないよ? 接近できるって事だしね。固有能力の類はAMFの影響を受けずに行使できるし。だけど空が飛べないんじゃさすがの僕でも無理がある、かな」

 

 あははは、と笑っていながらもその声に一切の遊びはない。あのゆりかごを浮かべてはならない、と本能的に察しているのだろう。だがクラウスも、オリヴィエも、ヴィルフリッドも、何も出来ずにその上昇を眺めていた。

 

『……まるで茶番ですね』

 

 地上から、物語が美しいエンディングを迎えたはずの場所から空を眺めていると、泣き止んだ助手の声が聞こえて来た。

 

『頑張って頑張って頑張って、それでせっかく悲劇をひっくり返したのに、それが放送局の都合の悪い展開だったからコマーシャルを挟んで、内容を変えている様な気分で……』

 

『あぁ、うん。なんかそういう感じはあるよね』

 

『私も、そういう偏向報道はつまらないから嫌いだなぁ……で、君はそこらへんはどうなんだい? マイ・フレンド』

 

 ジェイルの言葉にそうだなぁ、と呟きを返す。クラウスはもうボロボロで、ヴィルフリッドも割と苦しそうにしており、オリヴィエは―――オリヴィエは泣いていた。助かっても良い。そう言われたはずなのに、目の前でそれを見えぬ何かが裏切った。そう、彼女はこの流れで間違いなく助かる筈だった。だがそれを否定した流れがここにはある。それが自分は、

 

―――どうしても許せなかった。

 

 そう、言葉として表現すれば簡単だ。許せない、その一言に尽きる。自分は今まで一つの本を読んでいた。オリヴィエの人生という名の本だ。その本は最後まで書き綴られていたが、最後の最後で、作者が新しく書き直して今、美しいエンディングを迎えるはずだった。

 

 シンデレラが王子と結婚するように、白雪姫が目を覚ます様に、アリスが夢から覚めるように。

 

 物語の終わりはどこか、美しくなくてはならない。そこに滅びの美はいらない。自分が好む美しさとは笑顔である―――即ち、ハッピーエンドのみに限るのである。こんなクソみたいなちゃぶ台返しを一体だれが望んだ? 誰が望んでいる? 少なくとも俺はそんなものを認めない。認めたくはない。ここまで頑張って生きても良いと思わせた少女に涙を流せる等、

 

 運命がそうしろと言おうとも、この俺が蹴り飛ばす。

 

―――そういう訳だ、ジェイル。

 

 そう言葉を浮かべた。覚悟は決まった。いや、既に決まっていた。この旅が始まった時点で既にこうする事は決まっていたのかもしれない。だがそれを実行する以上、やはり一言言葉を挟むのが礼儀だというのだろう。だから自分はジェイルへと言葉を継げる。

 

 お前との馬鹿は実に楽しかった、と。お前と一緒に色々とやった無茶を自分はおそらく一生忘れる事もない。お前は自分の人生における最高の友人であった、と。

 

『あぁ……私も君みたいなイカレた友人を持てて幸せだったよ。悪を蹴り飛ばし、そして善も蹴り飛ばす。気に入らなければ善悪の区別なんていらない、思うが儘、自由に、欲望のままに暴れまわって人を助けて人を殺して、私達はそういう友人だったね―――うん、好き勝手やった結果なんだ、私も後悔はない』

 

 では、さようならだ、と言葉を贈る。

 

『あぁ、さようなら―――また何時か、新しい歴史で会おう』

 

 ジェイルとの通信が途切れた。それと同時に本気を出した。既に道は用意されていた。チャンスは一度。介入は一度切り。だけどそんな言葉は()()()()()だ。この、次元世界で最も自由な男が、その程度のルールで縛られると思っているのだろうか。この俺が、手段もやり方も選ばない人間がこの程度の時間差をどうにか出来ないとでも思うのか。

 

 いつも通り、気合と根性と、そして胸いっぱいのロマンを詰め込む。

 

 現代からの通信が切れる。バックアップが途切れる。ガラスを粉砕するような音と共に現実が破壊された。既に自分の心はそこにあった。故にあとは体をそこに呼び出すだけ―――自分を精神が存在する場所へと召喚し直すだけである。

 

 それで時間軸への完全介入は完了。

 

 人類の未知―――時間遡行の完了だ。

 

「えっ」

 

 空間が砕ける音と共に時空そのものが割れ、時間が破損した。それと共に歴史そのものが歪み始め、未来が未定になりつつある。ヴィルフリッドの声が一番最初に漏れて、此方の存在に気付いた。それと共に帽子を脱ぎ、それを軽く払ってから被り直す。スーツにも少しだけだが時空の粒子がくっついている。ばっちぃので掃ってしまおう。やれやれ、と呟きながら泣いているオリヴィエに近づき、その涙を指で拭った。彼女の顔が持ち上げられ、此方へと向けられた。

 

「あ、なた、は―――」

 

 無論、君の魔法使い様である。ちょっと無茶をして君の為に出て来ただけなので気にせず泣き続けていると良い、と言う。きっと泣いて泣いて泣きまくったらすっきりするだろう。その果てでまた立ち上がってくれるのであれば自分としては願ったり叶ったりである。

 

「というか来ちゃったんだ君」

 

 ヴィルフリッドの言葉に来ちゃったんだよ、と笑いながら答える。あまりにもヴィルフリッドが情けないので出てきてしまったのだ。もうちょい早くゆりかごを破壊してくれれば俺が出てくる必要もなかったんだけどなぁー! と笑いながら口にすると、クラウスが困惑した様子で、此方を見た。

 

「えーと、貴方は一体?」

 

 クラウスの言葉に答える―――知らんのか、と。

 

 お気に入りの帽子を頭から外し、それをオリヴィエに被せた。左袖を軽く振るえばクダが出てくる。これで完全に臨戦態勢となった。ここまで来たらもはや止められない。ルールだとかそれが摂理だとか言う言葉はファック&ファック、知った事ではないのだ。自分は今、最高傑作の小説を読んでいたら編集者が原作者に無断で続編を作って、しかも前作で綺麗に終わった物語を最悪な感じに引き裂く、ああいうクソ作品を眺めているような気分である。

 

 童話、小説好きとしてはこういう展開は断じて許せないのである。

 

「あ、趣味が結構可愛い」

 

 失礼な。そんな事を呟きつつも、では俺が何者か、という質問に答えるとする。

 

 

真の主役だよ、と。

 

 

 一分で片付ける。そう宣言するのと同時にゆりかごの空へと浮かび上がる動きが停止した。その原因はゆりかごを見上げれば解る。ゆりかごの上から()()()()()()()のだ。その超質量の落下がゆりかごを頭上から叩き、上昇を阻止した。その姿を見てハ? と三人が首を傾げるのを見て笑い、ゆりかごと高度を合わせる為に空へと自分を飛ばした。

 

 固有技能にAMFの干渉は関係ない。自分の召喚技能は素質x魔法x技能という組み合わせだ。元々魔法を封じられた場合の対策は何十通りと用意してある。この程度ではどうにもならないと思ってほしい、と、笑みを浮かべながら空に足場を召喚しつつ着地し、ゆりかごと正対した。

 

 さぁ、落ちようか、と。

 

 ゆりかごの全砲門が開き、一斉射撃による偏光レーザーが放たれた。曲がりくねるレーザーは逃げ場をなくすように迫りくるがそれよりも自身を後部へと召喚し直し、レーザーの範囲外へと出現しながらさらに追加で山を召喚し、上から山の雨を落とす。放たれていたレーザーは再び形を変えて山の迎撃を行い、その隙に今度は海を呼び出した。一瞬で環境が激変し、深海の底へとゆりかご諸共自分が沈み込んだ―――だがそれによって影響を受けるのはゆりかごのみ、

 

 どこの馬鹿が自分にも影響が及ぶようにするのだろうか。

 

 深海5000kmの圧力であれば一瞬で圧潰出来ないかと思ったが、そんな事はなく次元弾によって全方位に放たれた砲撃は深海を消し飛ばして本来の空を取り戻す事に成功した。だがその瞬間には炎だけで構成された煉獄の魔人の巨体が出現する。虚空から上半身だけを現した魔人は炎の腕を無数に増やし、ゆりかごを掴み、砲撃されている事実に関係なく消滅しながらその船体を投げ飛ばした。

 

 その先に待っているのは巨人の兄弟である。全長60mを超える巨人の兄弟がそれに見合う鋼の大剣を握り、まるで野球を遊ぶかのように迫ってきたゆりかごへと大剣をスイングして叩きつけた。凄まじい衝撃と破砕音に空間が揺れるが、ゆりかごを聖王の鎧が守護しており、攻撃は船体に傷をつける事はなかった。そのまま、零距離から放たれた砲撃が兄弟を飲み込み、そのまま数百キロ先までの景色を荒野へと変えるように破壊を生み出す。

 

 うひゃあ、おっかねぇ、と召喚した翼竜の背中に立ちながらその破壊を見て呟いた。だけどこれぐらい耐えてくれないとずっと見ていた鬱シナリオのストレス発散にもならないだろう、と獰猛な笑みを浮かべながら認めた。

 

 なので成層圏の向こう側から適当な隕石を選んで召喚した。

 

 終末もかくやという景色が発生する。成層圏を超えて降り注ぐ無数の隕石が流星群の如くゆりかごへと向かって落ちてくる。ポーズをキメながら高笑いを上げてみるが、むせそうになるのでおっと、と笑うのを止め、レーザー砲台で迎撃し、大技をぶっ放そうとするゆりかごの気配を感じ取った。

 

 これが人型、或いは生物だったら相互契約を結んでペイントレードして即死させてやるのだが、無機物相手にその手は通じない。困ったものだ、と此方へと向かってくる主砲を再召喚で空間を飛び越えて回避する。足場となった翼竜が消し飛んでしまったので、新しい足場を呼び出してその上に着地した。

 

―――よし。

 

 ならばこうしよう、と口に出す。お前のAMFクソうざいぜ、とも口に出す。だけど同時に思う、これはちょうどよい舞台なのではないのか? とも。なぜならAMFだ。つまり魔力がゼロにされてしまうため、魔法が使えない。これは非常にめんどくさい。そして魔法が使えないという事は魔導士としては死滅するしか手が残されていないのだろう。だけど逆に考えよう。

 

 魔力が化け物過ぎて普段は全力で暴れる事の出来ない奴を出しちゃってもいいじゃないか、と。

 

 ぶっちゃけた話、俺自身はそこまで特別強いという訳ではない。肉体的なリソースは全て先読みと回避能力に叩き込み、魔法的資質も召喚と契約、憑依と付与という部分に全てリソースを回している。その為、一般的な強化魔法や回復魔法でさえ最低限のものも一切できない。だからこそ出来る部分を出来るところまで完全に突き抜けるのだ。そしてそれで突き抜ける事に成功すれば―――それですべてをこなしてしまえばよい。

 

 俺が戦う必要はない。誰かに戦いを任せれば良い。

 

 俺が足を延ばす必要はない。足場が俺の所に来れば良い。

 

 俺が攻撃を防ぐ必要はない。代わりに受ける奴を用意すれば良い。

 

 俺が回復も、回避も、強化も、研究も、難しい事を考える必要もない。つまり究極のサマナーとは出来る奴を用意してそれに全部任せるという究極の他力本願である。口八丁が回って契約さえ結べるのであればそれで役割は完了なのである。ならばいつも通り、勝てる者を用意すれば良い。勝てる者を代わりに戦わせれば良い。何せ、それが召喚特化型という存在の戦い方であるのだから。本人は生き延びる事だけを考えれば良い。

 

 では―――始めるとしよう。

 

 クダが開き、召喚陣が出現する。もうすぐ一分に到達しそうなので、この状況で引きずり出せる奴で一番やんちゃなのを呼び出す事にする。

 

 即ちゼロに相対する側、その正反対の概念。存在しないものの対極。

 

 即ちは、

 

―――無限である。

 

「呼ばれて飛び出てどっかーん! 出勤ですよー!」

 

 言葉と共に天空を濃密な魔力が纏った。召喚陣を粉砕しながら出現した小柄な姿は紅を纏いながら魔力が消え去り、今もゼロへと回帰を続けるAMF空間内に濃密な魔力を滾らせた。その体から湧き上がるのは無限の魔力であり、ゼロに対して拮抗せず、それを飲み込む勢いで己の周囲に魔力を復活させた。ふははは、と笑いながらむせれば背に展開された紅の翼が大きく広がった。無限とゼロが衝突する事でその力は幾割か、削がれているのは事実だった。それを理解していやぁ、と現れた少女の姿の決戦兵器は額を拭った。

 

「―――これなら星を破壊せずに全力出せますね!」

 

 良い笑顔を浮かべた少女が結晶を固めて杭を生み出し、それを投擲した。迎撃のレーザーを貫通したそれは聖王の鎧に衝突し、動きを停止した。だが途切れる事のない魔力で強化された少女は一瞬で肉薄、翼ですべての干渉を殴り飛ばしながら吹き荒れる魔力の暴風で無理やり砲台の狙いを弾き飛ばし、悪鬼の如き笑顔で鎧に接触し続ける杭の裏側に足をかけ、

 

「エーンーシェーンートー……」

 

―――そのまま、押し込んだ。

 

「マトリックス!」

 

 聖王の鎧ですら防げない無限の燃料と出力が不壊である筈の城壁を破壊し、そのままゆりかごの船体に杭を貫通させて突き刺した。そのままゆりかごを大地へと向かって突き刺すと、翼を広げた。

 

「ジ・アンリミテッド!」

 

 突き刺した杭を中心に、ゆりかご内部に数百、数千という夥しい数の杭が出現し、ゆりかごをその内部から串刺しにした。そのまま、貫通した個所は結晶化を始め、ぽろぽろと崩れ始める。もはや破壊の杭に浸食された存在に後はない。ゆっくりと滅びる運命を前にするだけだ。

 

「いやぁ、やっぱり必殺技叩き込むのって楽しいですねー! じゃあ次―――」

 

 とか、何か妄言を言っているがこれ以上暴れられたらベルカの大地がやばそうなのでさっさと送還する。第一、ゆりかごを今、一瞬で完全に破壊してしまったら現代から接続しているという事実そのものが消滅してしまう。そうなると俺も一瞬で消滅してしまうため、破壊するまでしばしの時間が欲しいのだ。文句を言う子を本来の場所へと送り返しながらふぅ、と息を吐き、元の場所へと自分を移動させる。

 

 既にAMFは死滅していた。魔法を封じるフィールドは消え去っており、戻った大地には顔色の良い三人の姿が見えた。とりあえずゆりかごを沈めてきた、とオリヴィエから帽子を回収しつつ被りなおしたところで、口にする。

 

 これでゆりかごでベルカをどうにか、ってのは無理だな、と。いい仕事をした。

 

 ところでここからどうすればいいのだろうか……。

 

「考えてなかったよこの人……!」

 

 そりゃあそうだ。衝動の人間でもなければこんなことに首を突っ込むはずもない。元々最初は人生を眺めるだけに留めるつもりだったのだが情が湧いてしまったのだからこうだ、どうしてくれる。帰り道がないんだが。

 

「えぇー……というか寧ろ国が所有する重要兵器を破壊した事で逮捕の方があり得る線なんじゃないかな」

 

 それを考えていなかった―――が、まぁ、どうせ、オリヴィエが死ぬ事で生まれる未来から自分はやってきているのだ。その原因であるゆりかごがあの状態だ。破壊されればその未来も完全に途絶える。そうすれば自分もこの時空から完全に消滅するだろう。

 

 その果てに自分が存在し続けられるかどうか、それはもはや自分の気合と根性に賭けるだけの話だ。そう、歴史という時空のうねりさえもこの精神論で屈服させれば、俺が人類最強のイケメンである事が証明されるのだ。

 

 まぁ、なんだ。

 

 自分の活躍で可愛く綺麗な子が一人、救われたのであればそれは良い事だ。恥じる事はない。俺は自分の思うままに、我儘に生きた。ならばそれを悪く言う事は誰もできない―――被害者以外は。

 

 つまり今から歴史が消え去る事で被害を被る皆様は盛大にキレていい。

 

「その前に助けてくださったのは結構ですが、どちら様でしょうか」

 

 クラウスが話について行けていないようなのだ、オリヴィエ専用ストーカーだとサムズアップで名乗っておく。クラウスが困惑した表情を浮かべている。が、大体これで合っているので訂正はしない。それよりもだ、

 

「―――貴方が、そうなんですか……?」

 

 オリヴィエが膝を大地に突く様に、此方を見上げていた。その姿を見て帽子を軽く持ち上げて挨拶をしながら答える。いかにも、自分が君を時々導いていた妖精さんである、と。

 

「あ、あの―――」

 

 オリヴィエが見上げた状態で何か、言葉を紡ごうとしている。だけど何を言えばいいのかそれが解らず、困っている様子でもあった。とはいえ、それをずっと待っていられる訳でもない。そもそも無理やりこの時間軸に自分を召喚したのだ。

 

 最初から限界を超えている。

 

―――遠くで何かが崩壊する音が聞こえた。

 

 おそらくどこかの最終兵器が放った奥義が漸く完全に浸食を終わらせたのだろう、この時代に残された最悪のロストロギアの一つが漸く崩壊した。それに伴い。未来が意味を喪失した。完全に今から自分の存在するルートが絶たれ、自分という存在があやふやになるのを、気合と根性で食いしばってみる―――が、長くは無理そうだ。どうにも、自分が消えるという感触を感じる。

 

 いやはや、楽しかったので後悔はないのだが。

 

 気づけば体が淡い光に包まれており、徐々に消えてゆくのを知覚していた。やっぱり気合と根性じゃ無理かー、と思って笑っていると、

 

「どうして……」

 

 オリヴィエが声を向けるのが見えた。

 

「どうして、そんな風になるって解って助けてくれたの?」

 

 オリヴィエの言葉に対して、とてもシンプルな答えを出す事にする。というかそもそも、個人的にヒーローって答えに悩み過ぎじゃね? とか考えている。そりゃあ善悪の概念があるし、色々と主張する事もあるだろう。だけど結局のところ、

 

 そこに理由なんてない。

 

「な、い?」

 

 そう、説明するような理由なんてない。俺がやりたいと思ったからやった。この子を助けたいから助けた。君の笑顔を美しいと感じたから助けた。誰かを助けるにはそんな動機があればいいし、そんなもの理由とすら呼べない。つまり、理由なんてないんだ。

 

 誰かを助けるのに理由を求めるほうがおかしいのだ。

 

 好きなら好きだと言えばいい。

 

 一緒に居たいなら一緒に居たいと言えばよい。

 

 それが出来るかどうか、はまた別の話だろう。だけど素直な気持ちは常にそこにあるのだから、それを偽って理由で固めるのは馬鹿々々しいと思う。そう思って今までの人生を歩んできたら化け物ばかりを社畜に育成したり、キチガイの様なテロリストが友人に居る。だけどまぁ、人生そんなもんだろうと思っている。

 

 悔いがあるかないかで言えば悔いの多い人生だった。

 

 だがそれとは別に満足している。

 

 そしてさらに満足できるだろう―――君が笑顔を見せてくれれば。

 

 それだけで全て、報われる。

 

「聞こえてる王子? アレをサラッと恥ずかしがらずに言えるのが真のイケメンという奴だって」

 

「恥ずかしくないのだろうか彼は……」

 

 余裕を取り戻した瞬間それかよお前ら。現代に居た頃とあんまりノリが変わらない。……いや、そうなのだろう。どの時代でも結局人間に変化と呼べるようなものは薄い。どこまでも馬鹿で、阿呆で、そしてくだらなく……素敵なものなのだろう、そう思う。

 

 まぁ、それはそれとして、そろそろタイムリミットである。

 

 世界が時間の粒子に飲み込まれ、存在そのものが歴史の果てに消えて行く―――まだ生まれてこない未来へと。果たして時間の流れそのものを崩壊させた大罪人に待つのは消滅か、永遠の虚空か。どちらにしろ、楽しみであるのに間違いはない。

 

 そんな事を考え、消える間際、

 

 オリヴィエが視線を持ち上げ、立ち上がったのが見えた。

 

―――そしてそのまま、抱きついて来た。

 

 感じる体温の感触と軽い体の感触に意識が囚われた瞬間、世界が時と共に解けて消えるのを感じた―――。

 




 次回、エピローグ。

 ヒャッハ―な彼女はきっと、映画の予告に来てくれたんでしょうねぇ……。という訳で古代ベルカのお話はここで終わり。次回はエピローグでこの話は終わり。あとがきもあるけど。

 本体はクソ雑魚でも、ならそれが出来る奴を呼び出せばよいというのが召喚特化。究極的には突っ立っているだけで全部召喚してフィニッシュしてくれるのが理想。でも召喚ってそんなもんだろ? 自分から攻撃しに行くのとかサブサマナーじゃないか、と。

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