虹に導きを   作:てんぞー

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幕間、或いは男たちの余談

「やぁ、煙草はないかな? ちょうど切らしていてしまってね、気分転換に一本欲しいんだ。持っていたら譲ってくれると嬉しいんだが」

 

 そう言って路地裏に血塗れのまま転がっていた姿を見つけたのがジェイル・スカリエッティという男との出会いだった。その時のジェイルも俺も若く、まだまだ未熟だった。特にジェイルも衝動的に自分を製造した管理局に対して反抗して自分の遺伝子バンクを破壊する事に成功したが、それが原因で深手を負ってしまい、致命傷寸前という状態で死を待つだけの状態だった。事実、そこを俺が通りかからなかったらジェイルは死んでいたのだろう。

 

 助ける義理も義務もない。別に、見捨てても良かった。当時はまだ今ほど強くなく、そして便利でもなかった自分は敵を選んでいた部分もある。明らかに非合法に片足を突っ込んでいるジェイルの姿を見て、面倒の気配を感じていた。だから最初はこいつに関わるのは止めた方がいいのだろう、と思いもした。だがその考えが頭からぶっ飛んだのはジェイルの目を見た時だった。

 

 血塗れで、路地裏に転がっているジェイルの姿は控えめに言って瀕死だった。これ以上何らかの戦いにも逃亡にも耐えられるような状況ではなく、ナイフを突き刺せば確実に死ねるという状態だった。だけどジェイルの目は死んでいなかった。それどころかこの状況でさえ楽しむように笑みを浮かべ、治療よりも先に煙草を求めていた。その理由をジェイルへと聞いてみればそれは驚くことに、

 

「―――いや、ほら、良く映画(ホロ)であるじゃないか、血塗れの相棒が煙草を口に咥えてそのまま静かに息を引き取るってシーン? 死ぬ寸前のくせに煙草を吸ってそれが美味しいってバカみたいな事を言うんだ。ふと、こうやって自分でも血塗れになって考えてみたんだ―――アレ、本当に美味しいのか? もしかして気遣っているんじゃないのか? だって、ほら、こんな状況で味を感じられるわけじゃがないか。だとしたら格好つけているだけだろう? どうだ? 気にならないか? 私の実験にちょっと付き合ってみないか?」

 

 正真正銘のキチガイだった。この状況でそんな言葉を言う事が出来たのだから。だけど同時に、自分の興味心を刺激されたのも事実だった。このキチガイの言葉を少しでもいいから聞いてみたい。そう思ったのが自分と、そしてジェイルという半生の友との出会いだった。その後の事も覚えている。再現する為に煙草を渡して、それを口に咥えてジェイルは煙草を吸ってみると、それに盛大にむせて、煙草を吐き出した。

 

「思い出した、私は禁煙家だった。あの煙がどうも苦手でねぇ―――はっはっはっは」

 

 そんな事を血反吐を口から吐き出しながら言うのだから、正真正銘の馬鹿としか評価することが出来なかった。それと同時に、こんな面白い奴を死なせるのはまずありえない、とジェイルを助ける事にしたのだ。それから人生に軽くケチが付いたようなもので、管理局に軽く追いかけられる身となった。知らなかったとはいえ、管理局と敵対するジェイルを拾って治療したのだから当然と言えば当然の事だった。

 

 とはいえ、自分も結構反社会的なもので、管理局の治世は肌に合ってなかった。だからこそ師のところを飛び立ってからは次元世界という次元世界を管理外世界を中心に飛び立っては契約相手を探して旅をする、当てのない冒険を続けていたのだから。だからジェイルとの出会いは漸く、似たような価値観を持つ友人を得たようなものだった。出会ったすぐに意気投合した。この頭のおかしい奴は楽しかった。

 

 そして楽しい事は重要である―――法律を守らず、自分が楽しいと思う事を進み、実践する自分たちの様な輩にとっては楽しく思える友人は重要だった。だからそれ以来、自分とジェイルの友人関係は続いている。

 

 今も、こうやって、女子供のいなくなった食堂で酒を飲むように。

 

 昔を思い出しながらグラスに注がれた酒を眺めた。そこそこ良いものらしいが、酒の良し悪しなんて自分には解ったものではない。だけど美味しい酒であるのは通じた。そして友人と飲む分にはそれ以上の情報は必要なくも感じた。そういう事で、男二人だけで酒を飲み交わしていた。別に実験をさぼっている訳ではなく、整理するべき情報があり、そして考えるべき事があった。

 

 そこに女子供を交えるのには少々抵抗があったというだけの話だった。

 

 そういう訳で二人で酒を飲みながら、昔話に花を咲かせていた。

 

「私はね、元々は不老の方法を探すために管理局の最高評議会に製造されたんだ」

 

 酒を傾けながらジェイルの話を聞く。

 

「150年前の次元平定より生きるご老人方は永劫に次元世界の覇者として君臨する夢を見ている……そのために技術的に不可能を可能に変えられる私が選ばれたんだろうね。まぁ、色々とアプローチは考えたよ。アンチエイジング、クローニング、細胞の補充とかね。アンブロシアやソーマなんて言った神酒の作成も一度挑戦したことがあるかな、私は」

 

 で、結果は? とジェイルに聞いてみれば、笑い声が返ってきた。

 

「そんな都合の良いものがある訳ないだろう? 命というのは終わる為に存在するものだからね。絶対に一定年数を生きれば不意に自殺衝動とも呼べるものが沸き上がってくるのさ。そしてそれを乗り越えると今度は自然死へと向かって行く……私はこれを一度、実験したことがある。死ぬ運命にある人間を脳移植や人格交換等で肉体を入れ替えた場合、果たしてその者は死の運命を乗り越えられるのか? とね」

 

 まぁ、と言葉をジェイルが笑いながら吐いた。

 

「結果はダメだったんだけどね。何をどうしても死が追いついてくるのさ。私はそれを見て思った。運命という観測できず、触れる事さえできない概念を信じる事は出来ない。だけど魂であるならば科学的な根拠があるから立証できる。これは魂の病なのだ。肉体ではなく魂そのものが病んでいる。滅びを求めているのだ、とね。そして魂の治療法なんて私は知らないからね、匙を投げるしかなかったよ」

 

 それはつまり、と言葉を置けばジェイルが笑った。

 

「そう。最高評議会が患っているのは魂の病だ。もうすでに150年以上、脳味噌だけになってまで生き延びた。だけどそれですら限界が来ている。心や体ではなく魂が死にたがっているのさ。どれだけ体を入れ替え、健全な肉体を持つ人間の体を奪っても無駄だ。触れられない魂が死のうとして病んでいるからね。科学とは凄いものだ。完全無欠の肉体を生み出せるようになったのだから。だけど結局はオカルトの領域で敗北するもんだからやってられないものさ」

 

 自嘲するような呟きと共にジェイルは呟いた。今更になって永遠の命とか眉唾物ではあるが―――ジェイルはこう、長く生きる事に何かを思わないのだろうか?

 

「私が? 長く生きるつもり? そりゃあないよ。ないさ。ある訳ないだろう? 自分から選んで畜生になったんだ、そりゃあ確かに失敗すれば死ぬし、やりたい研究もできないだろう。だけど結局はそれすら自分の選択であって、私は()()()()()()()()()()()のさ。そうだろう? そうじゃなきゃあの時煙草を強請ったりせず自分の事を応急治療してたさ」

 

 となると、やはりジェイルは恐れていないのだろう―――自分の存在の消失を。その言葉にまあね、とジェイルは笑った。やはりこの男は笑う。それこそ泣いたり、喚いたりすることは一生ないだろう。自分に向けられた絶望でさえも笑って楽しむだろう。こいつはそういう男だ。だから肩肘をテーブルに突きながら口を開いた。

 

 明確に、歴史の改変を目的として自分をベルカの時代へと招いた存在がいる、と。その言葉にジェイルは頷いた。

 

「時間概念は基本的に不可逆だ。時間遡行を起こすには宇宙一つ分のエネルギーが最低限必要だと言われている。なぜなら時間の逆行運用は本来ありえない現象であり不可能であると共通認識で決められているからだ。故に逆行だけは人類に行えない絶対不可侵の領域だ」

 

 当然ながらもそれはアルハザードでさえ触れる事の出来なかった領域だ。なぜならアルハザードがそんな事を出来ていたのであれば、既に過去を改変してアルハザードの滅びを回避しているであろうというのが解るからだ。つまりアルハザード時代ですらそれに触れる事は出来なかった。

 

 これから先、踏み入れようとしているのはそういう領域だ。おそらくだがあの少女の影はオリヴィエを救ってほしいのだと言っている―――というかそれ以外の心当たりが存在しないのが現状だ。そして彼女が姿を現してくれたおかげで色々と疑問が氷解した。

 

「たしかに。未来から過去への干渉はほぼ無理だと言われているけど、過去から未来への干渉はそうでもない。もしその子が何らかの方法で未来を知ったのであれば、疑問は一気に解消される」

 

 未来から過去へと呼び寄せるという事はそこまで難しくはないのだ。未来は言葉を言い換えれば可能性でもある。その可能性の一つを引き寄せているに過ぎないのだから。だから何らかの方法で未来の情報を取得した場合、それが過去を変動させ、そしてその結果情報が現代へと伝わり、()()()()()()()()()()だろう。その上で確定された未来から呼び寄せればほとんどスムーズに過去へと呼び寄せることが出来る。

 

「つまり私達はサイコハック自体には成功していた―――だけど時間軸Cからの呼び寄せる干渉によってその一段階先へと進んでいた。サイコハックで時間軸を合わせた上で呼び寄せられ、未来から過去への移動ではなく過去から未来に対する呼び寄せという風に順序が変動し、裏技として過去への干渉が疑似的に可能となった……という感じかな」

 

 Aが古代ベルカ、Bが現代だとする。

 

 A → → → B これが正しい時間の流れになる。

 

 だが今発生している疑いがあるのは、

 

 A → → → B → → → A+ → → → B という状況である。

 

 つまりはAからBになるのが普通の時間に対して、AがBの情報を取得してしまったため、AがA+化したのである。つまりBによる干渉での変化ではなく、Aの自発的な変化である。つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点にある。この際、どうやって未来情報を取得したか、というのは忘れておく。だがそれが原因でAは変化しつつある。

 

 Bはそのままの状態では不確かである。つまり無数にある可能性の一つとして存在していた。だがAがA+となってBを観測した結果、未来がBによって固定された。つまりBに存在する自分やジェイルの存在が確定された歴史の存在となった訳だ。これは歴史が根本から否定されるか、A+視点からBが不確定の状態に戻るまで続行する風になる。そしてBが確定された未来になれば、Bへの干渉が前よりも楽になる。無数の可能性ではなくBという未来から引っ張ればいいのだから。

 

 こうする事で、

 

 A+ → → → B が、 A+B → → → B という状態へと変化する。

 

「つまりは召喚、憑依、付与をA+地点から行う事で一種の降霊を行っている訳だ。A+とBを一時的に同一時間軸として圧縮する事で未来を過去と同期させて干渉を可能とする……うん、確かに理論上は出来るけどその為のコストなどを考えたら少し頭の痛くなってくる話だ」

 

 こうする事で()()()()()()()()()()()()()()する事が出来る。俺の推理が正しければ、この作業が始まったのは()()()()()()()()になるだろう。つまり自分たちがこうやって干渉している時点ではその術は発動すらしていないという事になる。

 

「だけど未来である現代にいる私と君は既に術が発動した後の世界にいる―――つまりは既に発動し、その対象として見られている。一種の無限ループ処理だね、これは。私たちがその術の影響を受けて過去へとサイコハックを試みた結果術が発動し、それがタイムハックへと変質する訳だ」

 

 そしてそれが干渉という因果性を生み出す、と。

 

 めちゃくちゃややこしい。

 

 溜息を吐きながら軽くだが状況を整理するとそうとしか思えなかった。自分が死んだ後で術が発動し、その前に術の効果が戻ってくることで死ぬ前の自分が術の発動者として繋がる様に時間のループ処理を利用したクレバーな術だ。発動者がいなければ術は発動しない。命を対価にしなきゃこんな事、不可能だ。だったら発動して死んで、生きている頃の自分にリンクさせれば良い。

 

 古代ベルカの技術力でもなければこんなゲテモノ魔法、絶対無理だ。それも正規の魔法ではなく、魔女術や呪術と呼ばれるアンダーグラウンドでマイナーな、王道ではない類の方法だ。めんどくさいが、これを使った人物は本気であるという事だけは解る。じゃなければここまで時間軸をぐちゃぐちゃにしないだろう。だがこれに関する本当の問題はこの後からやってくる。

 

 つまりオリヴィエを救うという目的の達成だ。

 

「そうだねぇ……オリヴィエ・ゼーゲブレヒトを救うという事はつまり、彼女をゆりかごに乗せないという事だ。彼女がゆりかごに乗る事で次元世界ベルカは戦争を終結させ、そしてゆりかごの暴走によってベルカは滅ぶ。そして同時にオリヴィエ・ゼーゲブレヒトは死亡する」

 

 オリヴィエがゆりかごに乗らなければゆりかごは暴走しない。いや、可能性としては別の王族がゆりかごに乗るかもしれない。だがあのゆりかごが命を奪って聖王の血筋を動力源として組み込むロストロギアであるのならば、継承権を失っているオリヴィエ以外の王族を軽々と組み込むこともできないだろうとは思う。その場合、ゆりかごは稼働しないと思う。そしてゆりかごが稼働しなければベルカは滅びない。

 

 ……いや、滅ぶだろうが見立てではあと100年近くは存続する。それだけの国力があの国にはあった。アレを一夜で滅ぼせるのはゆりかご級のアルハザード産ロストロギアぐらいだろう。そして、ゆりかごが稼働しないという事は、

 

「……150年前に発生した次元平定がなくなり、時空管理局が設立されなくなる……いや、或いはそれがずっと計画的なものなら後年で設立されるかもしれないね」

 

 ジェイルの言葉に頷き、そして続ける。

 

 時空管理局の設立が発生しない、或いは遅れる。それはつまり、

 

「―――私が生まれてこない」

 

 ジェイルは笑みを浮かべたまま言い切った。それからグラスの中身を飲んだ。なんてことのない、実験の結果を伝えるように。

 

「そうだね……管理局でも私を製造するにはそれなりの準備と苦労があったと聞くよ。そうでもなければ今頃量産型スカリエッティクローン軍団とかが管理局の技術力をインフレさせているだろうしね。それなりに安定した地盤が必要だよ、私の製造には。少なくとも50年程度では私を作成するだけの準備は整わないだろうね」

 

 ジェイル・スカリエッティが生まれなければあの助手の女の子たちも生まれず、管理局がなければあの聖王のクローンの子も技術の発達で生まれなかっただろう、根本的にジェイルに使われている技術と同じらしいのだから。つまり、この場にいる人間で残るのは俺一人になる。

 

 いや、それすら怪しい。時空管理局が存在しなければ多くの次元世界が未開拓のまま、人の住める場所ではなかっただろう。自分が生まれ育った世界もそういう世界の一つだった。管理局の支援による開拓がされ、人が根付き、そして発展して社会を形成した。自分の両親はそんな開拓途中の次元世界へと植民してきた一派だ。その前は流浪していたらしく、その時代は危険な時代だとも聞いている。

 

 つまり、管理局の庇護がなければ何時事故で亡くなっていてもおかしくはなかった。

 

「なんて傍迷惑な娘なんだ! 助ける為に未来の多くの人間に死ねというのか! この私に消えろと言うのか! 私の娘に死ねと言うのか!」

 

 ジェイルは愉快そうに笑みを浮かべながら楽しそうに言葉を吐き出した。あの助けを求めていた少女はおそらくそこまで考えていない。歴史を変えて助けるという方法をルールに触れず、人類が出来る範囲で行う方法を考えたのだろう。そしてその結果、彼女の知らぬ領域で未来が盛大に前提を崩壊し始めた、と言うだけなのだろう。無理もない。時空管理局が形として見えるのはゆりかご暴走から150年後の未来だ。

 

 つまりオリヴィエと同世代の人間は全員死んでいる。

 

 古代ベルカの人間に時空管理局がどういう役割を果たしたのか、その影響力がどんなものなのか、そしてその結果どうなるかだなんて知る訳がないだろう。そこは責められない。だけど我々はその結果を知っている。その影響力を知っている。時空管理局というベルカの屍の上に生まれた花がどれだけ今の次元世界に貢献しているのかを、我々は良く知っている。その恩恵があって生きているのだから。

 

 次元世界は広く、無限に世界が存在し、管理局はその腕を広げ過ぎた結果治安維持に苦労している。成程、道理だ。

 

 無限書庫では常に人員不足に陥っていてまともに運営すらできていなく、ブラック運営が続いている。それも確かだ。

 

 管理局は裏では違法技術などの管理、実験を行っており、そのせいで犠牲になっている人たちが常にどこかに存在し続けている。

 

―――だけど時空管理局のおかげで人の生活が多いに安定したのは事実だった。

 

 それで時空管理局の所業を肯定する訳じゃないし、逆に存在を否定する訳でもない。だが事実として時空管理局が次元世界における人口の爆発的増加に対して貢献したのは事実である。自分やジェイルの様に暗部の中にあるものさえ覗き込まなければ、時空管理局は大衆の味方であり、次元世界を今も平定し続けている。

 

 その事実は何がどうあっても変わらないのだ。

 

 時空管理局が消えればそのシステムが全て崩れる。

 

 安定した生活と治安によって得られた文明の全てを再び捨て去るという事でもあるのだ。いや、そもそもなかったことになるのだから、ここまで平和ではなく、乱世の時代がさらに長引いた可能性もある。

 

 オリヴィエを救うという事はその先の未来の変化を許容する事でもある。その主犯として。だが歴史の改変、事実の変更とはもはや神の領域にあるものだ。それが発生したところで、それを人間が覚えていられる事はできない。

 

 今までの出会い、別れ、それが消える。生まれた事実でさえ消えるのだから、当然とも言えるのかもしれない。だがその事実を前にして出てくる言葉はシンプルである。

 

()()()()()()()()()

 

 悪くない―――そう、悪くない。自分も、ジェイルもそう思っている。これに巻き込まれる世界や人々はたまったものじゃないだろう。

 

「だけどこれは実に好奇心が擽られる。私を生み出した社会と管理局がそれによって無へと帰る姿を見るのは心が躍る―――なによりも、こんな状況、楽しめるのは人生に一度あるか、ないか、そういうレベルの話だ。これは祭りだよ。歴史という存在のね。そんなのに乗り遅れる訳にはいかないだろう?」

 

 ジェイルの言葉は非常にジェイルらしく、苦笑してしまう。そんなこちらのリアクションを見て、ジェイルはじゃあ、と言葉を置く。

 

「君は何で乗り気なんだい?」

 

 自分の場合は色々ともっとシンプルだ。ぶっちゃけ、俺は深く考えない男である。もっと簡単に言えば衝動の男である。感じたままに生きて、思うがままに行動する。社会や法律なんてファック、俺が思う様に生きる為の枷でしかない。だからこそ管理局とは時々衝突するし、場合によっては手伝う事もある。それが自分のライフスタイルである。だがその上で思う事は一つ。

 

―――女を犠牲にして生き延びるような世界ならそのまま滅べ。

 

 俺は俺が救いたいと思ったやつは救う。逆にどうでもいいって思う奴は割と放っておく。自分でどうにかできそうな事に関しては関わる必要もない。だからこそこの案件はやると決めている。

 

 ……オリヴィエに対して情が湧いたかと言われたら否定できない部分もあるのだが。

 

「ま、君の場合は感情とかもある程度ダイレクトに感じてしまう部分もあるから影響されやすいんだろうね。そこは流石にしょうがない、とも言えるかもしれない。とはいえ、そうか、君と一緒に酒を飲めるのもこれで最後かもしれないのか」

 

 残った年月や年代を見れば明らかに物語のクライマックスが近い。たぶんここからはずっとダイブしっぱなし、一気に物語の終焉まで一本道だろう。果たしてそれを覆す手段があるのかは……実際、見ないと解らないだろう。だがそれはそれとして、出来る範囲出来る事はやると決めた。

 

 それを決めるとグラスに中身を注ぎ直し、掲げた。ジェイルも同じように掲げ、声を合わせた。

 

「友情に乾杯」

 

 グラスをぶつけて音を響かせた。色々と終わりが近いのを感じながら。

 




 というわけで頭脳指数が上がりそうな会話。そして結論、自分たちが消えてもいいから助けてみるか、楽しそうだし。

 大体の判断基準:楽しいか否か。

 このssの目標は完全無欠のハッピーエンドです(半ギレ

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