艦娘と人間と、職務と青春と。   作:いちごオレ

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第三話「教科書と薬莢」

ダダンッ!パンッパンッ!

 

 

昼、校舎のような影をグラウンドに作る鎮守府、その海側の大きなグラウンドに響く乾いた銃声、そんなギャップも艦娘達の日常の中では当たり前の事だ。着任して間もない頃は、なかなか受け入れ難かったが今ではほぼ全ての艦娘がその事を受け入れてくれている。

 

 

 

 

 

バンッ!バンッバンッ!!

 

 

吹雪「……よし、このくらいにしておこう」スチャッ

 

 

吹雪は自分が撃った的を回収すると着弾点をまじまじと見ている。

たまたまなのか自分以外、射撃スペースには誰も居なかった。

射撃の終わった後にくる独特な静まりも周りが静かだとなおさら強く感じる。

 

 

吹雪「なんだか一人の頃を思い出すかな……」サッ

 

拳銃を腰のホルスターに納めると射撃台に置いた自動小銃に手を伸ばす。

 

吹雪「小銃もかなり剥げてきちゃったかな……もうそろそろ武器科に言っとかなきゃ」

 

今日は特に用事もないため、ただひたすら射撃訓練を行う。何気に艤装等の操作には慣れているが中々人類が扱う武器に至っては慣れていない。というより未だに慣れない。

いつものことのように姿勢を安定させて、安全装置を素早く外して単射、三点射、連射を繰り返し安全装置を掛けるという基本的動作を繰り返したり小銃から拳銃のトランジションという動作を行う。

 

昼過ぎ辺りになるとぞろぞろと艦娘達が射撃練習をするためにグラウンドに出てくる。

食べたばかりなのに走りたくない!……と悲鳴をあげる娘もいるが先導する軽巡にずるずると引きずられていくのを見て吹雪は苦笑する。

 

 

吹雪「もう1時か……そろそろお昼ご飯食べないと」

 

 

吹雪は射撃台に置いてあった射撃用品を専用のバックに詰め込むと、ささっとグラウンドを後にした。

館内の食堂に脚を運ぼうとした時、ふとグラウンドに目をやると林の中に白い玉の様なものが落ちているのがわかる。林に向かい確認するとどうやら野球のボールの様だ。

 

吹雪「野球ボール……あー向こうの高校のだ」

 

ボールにはペンで舞鶴高と書かれていた。

鎮守府からそう遠くない高等学校で舞鶴鎮守府主催の街の清掃活動で良くお世話になる学校だ。

吹雪も良く清掃活動で舞鶴高校とは良く交流している。……しかし、吹雪に至ってはそれ以前の交流がある。

 

 

吹雪「舞鶴高校って確か今4時間目辺りかな……ならついでだしお昼ご飯食べた後にちょっと出掛けてこようっ」

 

 

吹雪は妙に嬉しそうに軽い足取りで館内の食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時前だろうか、学校からチャイムが聞こえる。吹雪は慣れた足取りで校舎に入ると職員室まで進んだ。

 

 

吹雪「すいませーん…舞鶴鎮守府の者ですがー……」

 

話しかけると一人の"業務課:橋本"と書かれた机に座っていた人が椅子ごしに振り返った。

 

橋本「あら!吹雪ちゃん久しぶり~!ボールの件ね。連絡貰ってるよ!ありがとねーわざわざ届けてくれて!」

 

 

橋本さんは相変わらず元気な人だと吹雪は思った。それもそのはず、吹雪とは数年の付き合いだからだ。

 

吹雪「いえいえ!たまたま見つけましたし非番でしたから……」

 

吹雪は肩掛けカバンからボールを取り出すと橋本に渡す……自然と吹雪は職員室を見渡した。

 

 

吹雪「……かなり机増えましたねー」

 

橋本「まぁねー正直人手が増えて楽だし……逆に急に増えたお陰でちょっと騒がしいけどね!……というかそんなことより、吹雪ちゃん背ちょっと伸びた?」

 

吹雪「いやいや、艦娘は成長に決められた制限があるのでこれ以上伸びませんよ!」

 

もっと身長欲しいけどこればかりは仕方がないと吹雪は苦笑する。

 

橋本「ほんっとその制服もかわいいけどうちの学校の制服着せたら気がつかないかも」

 

吹雪「橋本さんそれ褒めてます?」

 

吹雪と橋本は久しぶりの再開で話に花を咲かせていたが橋本の業務が途中だったため一旦おあづけになってしまった。

 

橋本「ごめんね…ほんとはもっと吹雪ちゃんと話たかったんだけどね…」

 

吹雪「いえいえ!突然お邪魔しちゃいましたしこちらこそすいませんでした!」

 

橋本「今日はありがとねーまた今度ゆっくりおいでよ!」

 

吹雪「いえいえ~はい!また来ます!久しぶりに話せて良かったです!さようなら~」ガラガラ

 

 

吹雪は職員室から外にでると廊下の時計を見合わせた。

 

 

吹雪「あ、部活の時間……居るかなあ……」

 

 

職員室で話しているうちにいつの間にか部活が始まっていた。吹雪はささっと用件を済ませると道草を食って校内のとある教室に足を伸ばす。

そこは美術室と記載された教室だ。吹雪はその妙に嬉しい気持ちと緊張に一瞬扉を開けることに躊躇したが深呼吸をすると指を掛けた。これがわざわざ学校に来た目的と言っても過言ではないから。

 

 

ガラガラと音を立てながら扉を開ける。

そこに居たのは一人の男子高校生で目の前の画用紙に絵を描いてる途中だった。

 

 

??「お、吹雪じゃん……どうしたんだ?こんなところに」

 

吹雪「あ、えーとね……ボールが落ちてたから届けに来たの、その……ついでに顔出しとこうかと思ってね」

 

??「そうなのか…まぁ立ってるのもなんだし…座れよ」

 

吹雪は青年が引っ張り出して置いてくれた椅子に座り込むと辺りを見渡した。絵を固定する台と椅子しかないいかにも美術部らしい教室だ。

 

 

吹雪「変わってないね、ここも」

 

??「……まあな」

 

吹雪「裕翔(ゆうと)は…ちょっと背ぇ伸びたかな?」

 

裕翔「ん?あーつい昨日図ってたけど170越えてた。吹雪は相変わらずかわらんな」

 

吹雪「え?あ、うん……でも多分160あるしっ!」

 

 

さっと吹雪は立ち上がると背伸びして裕翔に並ぶ。

明らかに5cm以上の差があるがお互い突っ込みはしないし気にしない。

 

 

裕翔「でも吹雪それ以上伸びないんだろ?このまま俺がこしちゃうかもな~」笑

 

 

裕翔は椅子に腰掛けると脚を組んで挑発するように質問する。

 

 

吹雪「うわ~すっごいムカつく~」

 

 

お互いに久しぶりの再開に喜び合いながら話が自然と進む。まるで昨日の話の続きをしているような感覚だ。

 

 

裕翔……3年前の大規模作戦の時に中学生の裕翔に出会ったんだろうか。やっぱり背は伸びても性格は変わってない。

 

 

吹雪「…あ、そう言えば…」ゴソゴソ

 

 

吹雪は制服のスカートに付いているポケットから真新しいスマートフォンをさし出す。

 

 

裕翔「あ、吹雪やっとスマホ買えたんだ」

 

吹雪「そうだよ~なかなか手続きに戸惑っちゃって……ライム交換しようよ!」

 

裕翔「ライム……?ラインじゃなくて?」

 

吹雪「あっ…」

 

 

裕翔は苦笑しながらも吹雪のスマホを手に取るとLINEのIDを読み取り直ぐに友達登録をした。

 

 

吹雪「ごめんね、全部やらせちゃって…何もまだ分かんないから」

 

裕翔「いつものことだから大丈夫…はい!」

 

 

裕翔は慣れた手つきでスマホをいじり終わると吹雪の手元に返した。

 

 

吹雪「ん…ありがと…へーあ、裕翔が新規の所にいるよ」

 

裕翔「そのうち友達欄に戻るから大丈夫だよ。そうだ、今度また家に遊びに来いよ」

 

行きなりの誘いに吹雪はビックリしたが冷静に考えて友達のグループで遊ぶ事だと理解した。

 

 

吹雪「そうだね~こっちの11駆の子達もちゃんと紹介したいしみんな誘ってカラオケでも行こうかなー」

 

 

それを聞いた裕翔は戸惑いながら顔を反らして話を続ける。

 

 

裕翔「あ、いや……二人で行こうかなって考えてたんだけど」

 

 

(……え?あ、えーっと……え?)

 

 

しばらく沈黙の時間が流れ吹雪が口を開く。

 

 

吹雪「い、いい……よ?別に…と、というか予定合わせやすい……かも?」

 

 

吹雪も顔を反らして自然を装ってるが焦っているのがとてもわかりやすい。

 

 

裕翔「そ、そうだよな……合わせやすいよな」

 

 

平然を装う二人だがお互い顔を見合わせないだけで顔は赤くなっていた。あまりの沈黙に外のグラウンドの部活動の声が聞こえてくる

 

 

吹雪「あ、そろそろ時間かも…」

 

 

吹雪は時計を見るとさっと立ち上がり背伸びをした。それを聞いて気がついた裕翔も同様にデザインセットを片付け始めた

 

 

吹雪「じゃあね……また後でLINEするね」

 

裕翔「送るよ」ガチャガチャ

 

吹雪「……え?」

 

裕翔「もうさ、外暗いし…それにこんなに時間とっちゃって鎮守府の人達も心配してたりとか大丈夫か?」

 

吹雪「あ、えっと…うん全然大丈夫だよ、というか今日非番だし」

 

裕翔「そうなのか…」

 

 

 

 

 

それから二人は校舎を出ると、そのまま鎮守府に続く道を進み始めた。正直この距離なら全く問題はない。鎮守府も町からかなり遠いが、話ながら歩けば問題ない程だ。そとは少し冷気が立ち込めているがどちらかと蒸し暑いというところか。虫の鳴き声がたまに聞こえてくる。

 

裕翔「自転車あるから後ろ乗れよ、その方が速く着くし……」

 

裕翔は学校の鞄を前のカゴに移動させると吹雪を後ろに誘った。吹雪は始めての二人乗りに少し戸惑いを見せる。

 

吹雪「あ、でも……ううん、ありがとう」

 

裕翔「ここ坂だし危ないから俺の体掴んでて、足はそこに掛けてな」

 

吹雪「あ、うん…」

 

裕翔は確認するとペダルを軽く踏み入れ自転車を進ませた。

夏と言えど夕方辺りは自転車で坂を下るため風が強く肌寒いがなぜかこの時だけはとても暖かい覚えがあった。

外気ではなく、体の芯から。

 

 

 

 

 

 

しばらく自転車で走り続けると鎮守府の照明が見えてきた。赤レンガを基調とした海軍基地といった感じだ。……まあ海軍基地なのだが。

 

 

 

裕翔「はい。着いたよ」

 

裕翔が鎮守府正面の門の手前に自転車を止めると吹雪はゆっくりと自転車から降りる

 

吹雪「今日はありがとね、こんな所まで送ってもらっちゃったりして……」

 

裕翔「大丈夫大丈夫…あ、そうだ」

 

吹雪「なにこれ……お守り?」

 

裕翔は懐から"航海安全"と綺麗に書かれた白銀の……まるで吹雪の吹く景色のような柄のお守りを吹雪に手渡す。

 

裕翔「そうだよ、吹雪は1尉っても現役戦闘艦娘なんだろ?だからそのためのお守り。まぁ柄も吹雪にはぴったりだったしどうかなって思って」

 

懐にあったからか微妙に温かい。正直艦娘に階級はあんまり関係ないがそれを吹雪が口にすることはなかった。

 

吹雪「嬉しい……ありがとうっ」

 

吹雪はお守りを鞄ではなく制服の内ポケットに優しくしまいこんだ。

 

 

裕翔「じ、じゃあな!また今度!」

 

 

吹雪「あ、うん!また今度!」

 

 

吹雪は裕翔が見えなくなるまで見送った。一瞬だが裕翔の口が微笑んでいるのが見えた気がする。

 

吹雪「あーうん…やばい……これは完璧に……」

 

 

 

吹雪は両手で顔を擦りながら鎮守府内の駆逐艦寮に入る。外出中の札を裏返して在室中にするとちょうど一階のフロアーのような休憩スペースで駆逐艦娘とすれ違う

 

 

敷波「あ、吹雪お帰りー…ってなんでそんな嬉しそうな顔してるのさ」

 

吹雪「ただい…え?いや、なんでもないよ!…あはは…」

 

敷波「ふーん、ならいいんだけどさ」

 

 

 

 

 

しばらく歩いて自分の部屋……というか11駆の部屋に入る。まだ誰も部屋には居なかった。吹雪はベッドに横たわるとちじこまって顔を布団で塞ぎこんだ。

 

 

 

 

 

 

「あー……やっぱり……好きなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回「重要書類輸送任務」
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