しばらく待機所にて雑談を交わしていると格納庫への扉から一人の男性がやって来た。
誘導員A「皆様が本日搭乗される吹雪1尉、深雪2尉、古鷹1尉……で宜しかったでしょうか?」
吹雪「え?……あ、はい。そうですけど」
誘導員A「失礼しました!現在輸送機の最終点検作業中ですので今しばらくお待ち下さい。準備出来しだいお呼びいたししますのでよろしくお願いします」
そういうと誘導員は敬礼し格納庫の方に戻って行った。
吹雪「やっぱ飛ぶんだよね……大丈夫かなー」
深雪「わかる。それすっごいわかる」
古鷹「ま、まあ……空路が確保された場所を飛ぶわけですから問題ないですよー……多分!」
深雪「いや……案外そうじゃないかもっすよ……?ハワイに行くとき不意遭遇戦に会った。だから……」
深雪が続きを喋ろうとしたその時隣に座っていた吹雪が口元を指で押さえる仕草を見せた。
吹雪「だ、だめだよ深雪!知ってた?言霊って本当に起こるって言われてるだよ!」
深雪「冗談だってー……吹雪本当にこういうの怖がるよなー」
古鷹「え?吹雪さん怖がりだったんですか? てっきりそういうのは大丈夫な方だと思いました……」
吹雪「んなっ!」
古鷹が驚いていると深雪が付け足しする。
深雪「吹雪はそういう分野脆いんだよね~」
吹雪「こ、怖がりじゃないです!ただあんまりそう言う縁起の悪い話が苦手なだけで……」
吹雪はごにょごにょと言葉を曇らせながらうつむく。
古鷹「よしよし、吹雪さんこっちおいでー」
吹雪「古鷹さんお気遣いは有り難いんですけど子どもあつかいやめてください。でも……もしホントに落ちちゃったら……」
深雪「吹雪ー輸送機ならパラシュートあるから多分大丈夫だよ。使えれば」
吹雪「使えればじゃん……」
そうこうしてるうちに輸送機の準備が整ったのか。さきほどの誘導員が三人を輸送機へと案内する。
ブォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛
すでに輸送機のエンジンがかかっており外の声はエンジン音でほとんど聞こえない。吹雪達は誘導員に渡されたヘッドセットを耳につけながら輸送機後部のハッチから搭乗する。
吹雪「この機体は……どっかで見たこことある気が……」
誘導員A「はい、後程機体説明に入らさせて頂きますのでまずは準備の方よろしくお願いします」
吹雪達はそう急かされるとそこまで広くない格納スペースの簡易椅子に腰を下ろす。同時に作業員が合図を知らせると誘導員がハッチから退避する。
……ガタッ
ゆっくりと大きな後部ハッチが大きな音を立ててしまる。そのあと輸送機の隊員によるブリーフィングが始まった
隊員「では機体説明に入らさせて頂きます。……吹雪1尉、どうかされましたか?」
吹雪「ふぇ?あ、大丈夫です」
隊員「何かあれば直ぐにお知らせください。本機体はAC-130J、貴女方艦娘を輸送するためにAC-130を改良したものになります。本機体の武装に関しては対深海棲艦航空機や海上の深海棲艦に対抗するため一部機能が変更さてれおります。離陸前に皆様には必ず艤装を装備してもらいます。有事の際はその状態で降下できる様、事前に艤装にパラシュート機能を追加装備させて頂きましたので確認の程よろしくお願いします」
吹雪「な、なるほど……」
深雪「お兄さん説明どうもっ!……って吹雪?大丈夫?」
吹雪「……大丈夫だよ。わたしだって艦娘だし伊達に9年間戦ってきた訳じゃないんだからっ」
吹雪は顔をパチパチ叩くと気合いを充填した。こうでもしないとさすがに姉として情けない。
古鷹「お、さすが吹雪さんですね……私今さらながら深雪ちゃんの話思いだしちゃいました……」
深雪「ごめん、本当にごめんなさい」
隊員「あはは、なにがあったのかは分かりませんが……では準備の方、よろしくお願いします」
隊員は説明を終えると機首の方に向かっていった。もう飛ぶとなるとそこまで怖くないかもと吹雪は考える。二人は後悔してるようだが。
吹雪「あれっ……うんしょっ……」ガチャ
古鷹「吹雪さん?どうされました?」
吹雪「あ、すいませんちょっと魚雷発射管持っててもらえますか?着けにくくて……」
古鷹は吹雪の艤装を太ももの定位置に押し当てる。そのうちに吹雪はしっかりと魚雷発射管を固定する。
吹雪「やっぱり手動はなれないですね……」カチッ
吹雪は苦笑すると軽く跳び跳ねたり手で支えたり艤装がしっかりと装着させれているか確認する。
一見軽そうに見える艤装は一つ一つが史実の約3分の2の程の重さで物にもよるが人が手で持ち運べる重さではない。しかし艦娘はそれを軽々とまでは言わないが苦にならない程度に取り扱える。
古鷹「今見て思ったんですけど吹雪さん達って脚細くて良いですよねー羨ましいです」
吹雪「そ、そんなことないですよ……て言うかそんなにまじまじと見ないで下さい!……恥ずかしいですっ」
深雪「単に成長してないだけってのもあるけどな」ガチャ
古鷹「す、すいません……」
吹雪は勢いに任せて艤装を背負うと背中に装着する。深雪と古鷹もそれに合わせて装着していく。正直気にしてる所を誉められて気が悪くなる人はいないだろう。
深雪「いやーなんか今の話で緊張が緩んだよー」
吹雪「ほんっと、いつものセクハラですね」
古鷹「ひ、ひどい!純粋に褒めてたのに!」
吹雪が窓から外を見ると機体が滑走路に入りだんだんと加速していく。過去に何度か空輸は経験したが何回飛んでもこの離陸と着陸の瞬間は好きではない。吹雪はそう思いながら外を眺める。米空軍のF-22が2機、別の滑走路から発進するのがわかる。おそらく護衛の機体だろう。2機のエンジンから吹き出る火を目で追いながら吹雪は帰国後の事を考えた。
太平洋上空
数分たっただろうか。飛行機は既に雲の上を飛んでいた。随伴していた護衛機も基地に帰って後は到着を待つだけだ。
吹雪「そろそろ7時……」
吹雪は腕時計を見ながらそう呟くと席を外す。
深雪「どこ行くんだ?」
吹雪「んー?ちょっとね」
吹雪はスマホをちらつかせると貨物の影に消えた。
深雪「ん?……なにやってんだろ」
古鷹「あ、深雪さん知りたいですか……?」
深雪「え!知ってるんすか!」
好奇心の塊の深雪は意味深な顔をする古鷹にがっつく。
古鷹「しー!静かに……これは噂ですけどね……実は吹雪さんに思い_」
古鷹が口を開き何かを話そうとした瞬間、吹雪が満足そうに帰ってくる。
吹雪「……どうかされましたか?」
古鷹「あ、いや!?高度の割にはかなり揺れるねーって」
吹雪「……?あー確かに揺れますねー、気流が乱れてるんでしょうか……」
吹雪はそう言うと肩に掛けていた10cm連装砲を手に持つと砲身の掃除を始めた。数年前とは違い武器関係の艤装もかなり改良されていった。光学機器などがその例だ。
深雪「ちょっと、ここ機内だよ?部品無くしちゃうかもだよ」
吹雪「いつ戦闘になってもいいように軽く砲身の中掃除するだけだよ。だいたい点検は離陸前にやってるし……」
深雪「んーまぁそうだけど……」
深雪が頭に腕を組もうと手を上げた瞬間、隣に座っていた古鷹が顔を真っ青にして吹雪を見る。
古鷹「ふ、吹雪さん!」
吹雪「ん?どうかしました……?」
古鷹「対空レーダーに感あり!真下です!」
吹雪「なっ!?」ダッ
吹雪は古鷹の言葉を聞くや否や、コックピットに向かって走り出した。その間5秒。この輸送機は対空レーダーこそ搭載しているもの、真下は死角になっていた。古鷹がたまたま装置を傾けた時それに反応したのだ。
しかも今飛んでいる空域は日本とハワイのど真ん中で今現在膠着状態の太平洋の奥地に一番近い空域なのだ。吹雪は冷や汗をかきながら走る。
ガチャンッ
吹雪「パイロット!真下からレーダー反応です!急ぎチェックを!」
パイロットA「なんだって!?現在確認を……」
バアァァンッ
パイロットが計器に触れようとしたその時、機体を激しく揺する爆発が起きた。おそらく機体の近くで爆発したのだろう。間違いなく敵だ。
パイロットA「ちくしょう!今日はついてねえな!」
パイロットB「迎撃準備を!銃座ァ!」
機内でアラートが鳴り響く。そのとたん機内の隊員が慌てて各自席につき迎撃体勢をとりはじめる。まさか遭遇するなんて思っても無かったのだろう。皆不意を突かれた顔をしてモニターに食いつく。
吹雪「数は!?種別確認を!」
パイロットA「IFF応答なし!ちくしょう深海の航空機だ!」
パイロットB「こちらUS.23!太平洋空域管制応答せよ!繰り返す、こちら……」
パイロットが繰り返そうとしたとき無線機から応答が出る。
管制官「こちら太平洋空域管制、どうしたUS.23、問題か」
パイロットB「現在深海棲艦の航空機から奇襲を受けているっ! 現在対応回避行動を取っている!至急応援を求む!オーバー!」
パイロットBは切羽詰まった声で無線機に話しかける。それに対して冷静な口調で管制官が答える。
管制官「了解した。F-22をハワイからスクランブルでかける。到着まで300s、それまで持ちこたえてくれ」
吹雪「300っ!?……遅い……」
パイロットB「了解っ!……は!?ミサイル警報!」
パイロットA「フレア!」
パイロットは殴るようにフレア発射ボタンを押す。瞬間機体の後部からあの印象的なフレアが射出される。しかしそれはミサイルではなくロケットだった。運良く明後日の方向に消えていったが代わりレーダーが後方に機影を映し出す。
吹雪「……っ!すいません! 後部ハッチ開けれますか!?」
吹雪はパイロットにそう告げると返事を聞くや否やハッチに向かった。
パイロットB「あ、あぁ!許可するっ!」
ハッチの近くに戻ると 既に二人が待機していた。
古鷹「ハッチから攻撃するんですね!ならこれを使いましょう!」
古鷹は吹雪に命綱の代わりにアンカーを使うよう促す。吹雪は自分の艤装からアンカーを取り出すと機体の貨物取り付け基部に取り付ける。その後急いで後部ハッチを開閉するボタンを押した。ゆっくりとハッチが開くと気圧の問題か機体が一瞬激しく揺れると同時に肌を切り裂くような突風がやってくる。
吹雪「各自通信機装着!300だけ時間を稼いで!」ガチャン
吹雪達はアンカーを伸ばしてゆっくりとハッチのギリギリまで前に出る。外は真下が雲で見にくいが後ろから深海棲艦の航空機が向かってきているのがわかる。
深雪「さっきあいつらロケット撃ってきたぞ!どんだけだよ!」
吹雪「わたしたちと一緒だよ!撃たれる前に撃ち落として!撃ち方始め!撃て!」
バアァァンッ!バアァァンッ!
吹雪と深雪の10cm連装砲が勢い良く火を吹くと、とたんに航空機がおとされはじめた。海上から空を狙うのではなく空から空を狙うわけでしかも今回は後ろからついてきている航空機を攻撃するのだ。止まっているように見えるためにこの練度で外す訳にはいかない。……が、偏差射撃は少々面倒だ。気流が乱れるせいで機体がゆれ照準が定まらない。
それに敵機も吹雪達艦娘を狙うのは効率が悪いと考えたのか輸送機本体を狙い始めた。吹雪達は右側、左側、機体後方を各自警戒し迎撃に移った。
深雪「……ちっ!後ろの奴等はまだいいとして回りから来る敵航空機はどうなってるんだよ!」ダァンッ
吹雪「左側のエリアは古鷹さんと機体搭載の20mmと40mmが対応してるけど古鷹さん以外の攻撃はほとんど効果無しだよ!……なんとかわたし達で守らないと……!」
三人はハッチのさらにギリギリまで出る。流石に高速で飛ぶ航空機の外ギリギリだと恐怖で脚がすくんで集中して撃てない。アンカーが外れたらそのまま風に押されて落ちてしまうだろう。安定させるため立て膝をついた状態で応戦するが 一向に数が減らない。
吹雪「お願い……当たって!」ダンッ
吹雪は一機一機確実に撃破していく。古鷹は砲撃による対空射撃は難しいため、 集中配備された25mm三連装機銃をひたすら撃ちつづける。
バアァァンッ!
敵航空機を破壊した細かい断片が何度も勢い良く輸送機に飛び散る。すでに後部ハッチの回りは敵機銃でボロボロになりガタツキ始めた。
深雪「……吹雪!頭から血がっ!」
吹雪は自分が頭から血を流している事に気がつく。頭を触るとベトっと手が自分の血で真っ赤に染まり瞬間なぜかあの高校生の顔が脳裏に浮かんだ。
吹雪「これくらい大丈夫……それにっ……まだ死ねない!」ガコンッ
吹雪は既に熱で真っ赤になった砲身を構えると次々と撃ち出した。回りの音をも遮る突風や飛び交う銃弾、自身の目の前の砲撃音で完全に興奮状態の吹雪はただ撃たれる前に撃つので精一杯だ。
吹雪「はぁ……ゆ……待って……!」ガクッ
出血の量が仇になったのか意識が散乱していく。三人とも満身創痍で回避行動をとる飛行機の状態も飛べているのがやっとだ。
古鷹「み、みなさん!……ハッチが崩れそうです……!下がりましょう!」
吹雪「深雪は……深雪っ!」
深雪「……あ、脚が……くっ」
深雪の脚を見ると、左脚の太ももに手のひらより大きなサイズの断片が刺さっておりそこには血溜まりができていた。吹雪は片手で主砲を射撃しつつ深雪を機内に引きずる。生々しい血が辺りに飛び散っている事に目もくれず頭を殴られるような痛みに耐えながら吹雪は叫ぶ。
吹雪「深雪……!気をしっかり!バケツ使えばそんな傷なくなるでしょ……だから……!」
正直自分も限界だ。頭から滴る血液が深雪の頬に伝う。古鷹は左腕をやられ激痛に耐えながらも機銃掃射をやめない。海の上なら艦載機ごときにやられるはずもない。まさに艦娘の弱味につけこまれたのだ。止まって見えるのは敵も同じ、しかもこいつらは輸送機を狙っている。
もうさすがに終わりなのだろうか、輸送機から数十メートル離れた航空機の機銃の銃口がはっきり見えた。つぎ撃たれたら確実に殺られる。吹雪は動けない深雪の上に覆い被さると歯を食い縛った。
瞬間、キィーンと聞いたことのある鋭いエンジン音を出しながらそれは輸送機の横を通り抜ける。
直後三人の通信機に通信が入った。
???「こちらファースト1、US.23へ、これより敵航空機の殲滅にうつる。良く耐えたな。ファースト1,エンゲージ!」
良く見るとF-22と思わしき機影が空を舞う。いつの間にか300秒耐えたのだ。他にも良く見ると航空母艦の艦娘が放ったとされる戦闘機も多数見られた。
吹雪「や、やった……」
F-22パイロットの良く耐えたという言葉に吹雪はつい泣き出しそうになる。だがボロボロの妹の前で泣くのは無責任だと自分を縛り、鼻をすする。
敵航空機の元を絶ったのか、応援は来ずに残存機だけが奮戦する……が圧倒的物量になすすべなく次々と落とされていき敵航空機は全滅ないし撤退した。
先程の戦闘が嘘のように静かになった。聞こえるのは風の切る音や金属の軋み、自分の吐息のみだ。
吹雪「はぁはぁ……痛っ……」
深雪「ま……まさか……ここまでやられるなんて……」
古鷹「……二人とも大丈夫?」
深雪は膝枕のような状態で見上げる。吹雪がそこにいたが頭が血で真っ赤だった。姉が身を案じて自分を庇った事を思いだし深雪は泣きつきたくなる衝動にかられた。
吹雪「うん……大丈夫…これくらい……」
古鷹「……ハッチ閉めますね……」
古鷹は自分が一番ボタンに近いことに気がつきボタンを押す。するとハッチがゆっくりと金属音を立てて閉じ始める。なんとか油圧や稼働部分は損傷軽微ですんだようだ。
ガコンッ……
ハッチが閉じると同時に機体中央の方から救護員が駆けつける。三人の満身創痍な状態に驚きはしたが、各自迅速かつ正確に止血や応急処置を施す。
吹雪「良かった……皆無事……で……」
吹雪は安心のあまり力が抜け、その場に体を崩す。そのままぼんやりと気が薄れ目の前が暗くなっていった。
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