晴れた日の朝、心地よい風がカーテンを揺さぶり太陽の光が射す中、吹雪が目を覚ますとそこは鎮守府の一角に設けられた医療室のベットの上だった。
天井は相変わらずそっけないシンプルな照明とデザインで幼い駆逐艦が壁や窓ガラスにシールやらなんやらを貼ったあとなどがある。しばらくぼーっとしていると横から寝息が聞こえるのでふと見ると吹雪型の2番艦である白雪が自分のベットにうつ伏せになっている。
吹雪「……白雪ちゃん看病してくれてたんだね」
白雪はうーんと少しうなるとこちらの方に顔をむける。目が少し腫れてる所を見るに恐らく相当心配をかけたようだ。吹雪は左腕に繋がれた点滴の位置をさすると小さく呟く。
吹雪「やっぱり注射は苦手かな……」
すると白雪は吹雪の声に反応したのか体をビクッと痙攣させた。そして瞼を開けるとそこにはなんと吹雪が目を覚ましている。白雪は唖然としてしまった。
吹雪「おはよう。白雪ちゃん」
白雪「あぁ……姉……さんっ!」
白雪は自分は夢でも見てるのかと言うような顔をしつつ、震えながら吹雪に手を伸ばす。吹雪は伸ばされた手をやさしく引き寄せベット越しではあるがぎゅっと抱きしめた。
白雪「姉さん……あぁ……良かった……っ!」
白雪は大声で泣きながら吹雪の名を呼ぶ。
吹雪「白雪ちゃん……ごめんね?心配かけちゃって」
白雪「ほんっとに!姉さんは頑張り過ぎです……!2日も目を覚まさなかったんですよ?!いつもは応急修理で笑ってすんでたのに……」
吹雪は驚いた。それもそのはず、あの輸送機の一件から丸2日寝ていたなんて思いもしてなかったからだ。 あっても半日寝るか長くても1日だ。
吹雪「……どうりで身体が少し重いわけか……うん、本当にごめんね。わたし、みんなに迷惑かけちゃって」
白雪「でも無事に帰ってきて良かったです。さすがに血まみれで搬送されたときは血の気が引きましたけど……」
白雪は目元の涙を指で払うと微笑みながら続ける。
白雪「……私は姉さんが起きたことを司令に報告してきます。姉さんはもうしばらくゆっくりしててください」
白雪は机に置いていた吹雪型の改二を表す紺の制服を吹雪の手元に置くと医療室を後にした。
吹雪は静かにため息をはいて点滴針を腕からゆっくり引き抜くとベットの上で着替え始めた。まだ肩が軽く痛むため着替えがやりづらい。
鎮守府 執務室
執務室に入室するとまず最初に提督が目に入る。次に先ほど報告しに出掛けた白雪だ。
白雪「……っ!姉さん!まだ安静にってっ」
吹雪「もう大丈夫だよ……司令官、駆逐艦吹雪、只今帰還しました」
提督「お帰り吹雪。そして……まさかこんな事態を招いてしまったことを謝りたいと思う。すまない」
提督は椅子から立ち上がると目の前の吹雪に向かって頭を下げた。
吹雪「そんなっ!司令官!顔を上げてください……。今回の事案は私の錬度が不足してたことであって……」
吹雪は鎮守府のトップが自分にお辞儀するということに耐えられず言い訳を探す。
提督「いや、これは人員を削いでいきなり長時間の輸送任務を命じた私の責任だ。本当にすまない」
吹雪は否定しつつもかしこまる上官にこれ以上頭を下げまいと急かす。
吹雪「……それで戦況報告はどうなりましたか?もう終わりになられました?」
吹雪の問いに提督は椅子に腰かけると腕を組む。
提督「ああ、その事なら古鷹達が報告してくれたよ。問題ない。ハワイの提督から感謝の通達もあった」
吹雪「そうですか……」
提督「ああ、それでだな……吹雪」
提督は被っていた帽子を机に置き、足を組みながらラフな姿勢をとる。
提督「しばらくは休暇を取ってくれ。この作戦が今月の最大任務と言ってもいい。それを三隻で成し遂げた事は大変素晴らしい事だ」
吹雪「え、いいんですか?私たちは損害をだして一つ作戦を成功させただけですが……」
吹雪の言葉に提督は微笑みかける。
提督「吹雪、そう固くなるな。問題ない。君らは人類の希望を繋いでくれたようなものだ。その価値は十二分にある」
吹雪「そうですか……。でしたらお言葉に甘えさせていただきます!ありがとうございます!」
白雪「良かったですね姉さん!」
吹雪「はい!」
吹雪は元気良く敬礼し、執務室を後にする。白雪は何か用事があるのか執務室に残るようだ。
しばらくの休暇……ということは指定休暇を取れば夏祭り行けるかもしれない。
吹雪「……っ!」
吹雪は影で小さくガッツポーズをとると足踏みを軽くして自分の部屋に戻る。正直昨日の惨劇が夢だったかのような天気と気分に吹雪は違和感を感じた。
別におかしい訳ではないし正規の作戦と正規の休暇、なのにこの不思議な感覚はなんだろうか。
吹雪「うーん……まぁいっか」
部屋に着いた吹雪は扉の前で立ち止まる。部屋の中から親しい声が聞こえるということは姉妹が帰ってきてるのであろう。基本駆逐艦娘は型単位で数が居るため4人位に分けるなど部屋が別になっている。しかし休暇や特になにもすることがない時などは一つの部屋に集まって好きなことをしている事が多い。
吹雪「ただいまー」
吹雪が扉を開けると吹雪型の姉妹である深雪、初雪、叢雲が居た。深雪を除く2人はちょうどオフだったらしく部屋着でごろごろしている。
叢雲「あら、吹雪……昨日は災難だったわね。まぁ無事でなによりよ」
叢雲はそっけない態度で接する。とたんに深雪は顔をにやつかせると叢雲の肩に手を置いた。
叢雲「な、なによ……」
深雪「深雪様は知っているぞ叢雲。帰還した時凄い顔で心配してくれてたじゃーないか。お姉さん感激しちゃったよ」
叢雲「っな!……別に姉妹として当たり前でしょ…!」
吹雪「あはは……ありがとう叢雲ちゃん」
騒がしい二人の茶番を割るように初雪が吹雪の目の前に立つと片方の袖を指で摘まんで顔を上げる
初雪「……ごめんなさい。姉さんが怪我した時遠征で看病できなかった」
吹雪「初雪ちゃん……別に謝らなくていいんだよ?仕事は仕方ないことだから……初雪ちゃんも心配してくれてありがとう、お姉ちゃんそれだけで凄く嬉しいよ」
初雪はうんと返事をすると吹雪に身を寄せた。
吹雪「……さてと、なんだか雰囲気がじめじめしてるけど張り切って行こう!わたしもう平気だからさ!」
深雪「そうだなー……さてと、それじゃあ深雪様は暇だから外でランニングしに行くよ」
吹雪「えー走るの?外すごい暑いよ?」
深雪「わかってないなぁ吹雪は、それがいいんじゃん」
深雪はそう言うと別れを告げて部屋を出ていった。
吹雪は皆のテンションがいつもの状態に戻ったことに安堵した。昨日大怪我をして今日ランニング出来るのは艦娘くらいだろう。"普通の人間と艦娘の違い"はそこだろうか。そういった人間との違いを見つけ意識するとなんだか自分が異物に感じ吹雪は考えるのを止めた。他の者もそう思っているのであろうか。それはその艦娘本人にしか判らない。
次回「職務と青春」