艦娘と人間と、職務と青春と。   作:いちごオレ

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第九話「職務と青春」

 

 

8月19日、八月の中旬もあり、焼き付ける太陽の光が地面を照す。遠くを見つめれば蜃気楼が所々に見られ、セミの声が静まることはない。ここ、舞鶴は海に面しており涼しい海風がときより町を通る。

 あれからというものの、吹雪の休暇日数も残りわずかとなり、舞鶴神社のお祭りも明々後日に迫っていた。吹雪は来る祭りの為に日数の節約、自ら教練艦として非番の日も生徒艦の指導を請け負っている。

 

 

吹雪「……はいそこ!隊列乱れてるよ、ちゃんと周囲警戒しないと!……一番手!後ろついてきてるか確認を……」

 

 

舞鶴鎮守府から少し離れた海洋演習場。そこで後期教育を修了していない艦娘らがバラバラの複縦陣を形成し、その後ろから吹雪が指導指示を出している。

 照りつける太陽の光が上から射し、その光が海に反射してギラギラしている。皆、汗水を垂らしながら必死に隊列を組むが集中力が散乱するのか中々テンポ良く次に進めない。

 艦娘としての基本教育が約半年。前期教育と後期教育は基本教育に割り振られており、対人訓練や人間社会に溶け込む為の"人"としての教育は前期にて、艦娘として国防から戦闘にいたり全ての"艦娘"としての教育が後期にて行われている。

 艦娘の発見と確保する時期は予測出来ないため、定数集まり次第でも、1月から……というのは存在しない。そのため今期の艦娘達は猛暑の中訓練をするため辛いところがあるだろう。

 

 

天霧「……せんぱーいっ、そろそろ休憩にしませんか?肩が痛くて痛く……」

 

 

天霧が隊列から顔をだし吹雪に向けて問う。艤装の特性上、個々に装着の仕様が違うため艦によっては疲労がたまりやすいため難しい所だ。しばらくすると天霧を後ろから見ていた狭霧が天霧の手を取り、隊列に戻そうとする。

 

 

狭霧「ちょっと天霧っ……すみません吹雪先輩、天霧ったらいつもこうで……」

 

吹雪「ううん、大丈夫だよ。わたしも後期で弱音とか吐いちゃう時もあったから……天霧ちゃんもあともうちょっとだから頑張ろう!」

 

   

吹雪はガッツポーズをとりながら天霧に呼び掛けた。天霧は吹雪の言葉を素直に聞き入れると視線を戻しながら隊列に再編した。

吹雪は腕時計と指導表を見合わせる。

 時刻は午後2時、そろそろ一休み入れてもいい頃合いだろうか。

 

 

吹雪「陣形完成して大丈夫だったら休憩とろうかー」

 

 

「え、まじ!?」「やっとだ~」「はぇー……」

 

吹雪の言葉に、皆は笑顔を取り戻し、陣形を整え始める。最初からそうして欲しいものだと思うが、今日の訓練内容を考えるにハードな分、仕方のないことだろうか。

 

「はい気を引き締めてー」「よーく辺りを見渡してっ」

 

 

広い海に少女の声が響く。

 

 

 

近年、近代化改修によってレーダーが発達し、目視による索敵はあまり効果が見込めないとして、防衛省は、艦娘による目視索敵よりも先にレーダーによる索敵を優先させるよう教本を更新。直接索敵について力を入れてこなくなっていた。

 しかしそれは人類側の勝手な都合と慢心であって、艦娘達は変更あるなしに関わらず、目視による索敵に気を抜かないで訓練に取り組んでいる。人類があれこれ変更した戦術が、実戦で深海棲艦に通じなかった事案などいくらでもあるからだ。

 

 船舶だったときの記憶が鮮明に残っている者はそうでない者を支え、深海棲艦に対抗する術は日々、現地で戦っている艦娘によって考えられている。吹雪も自らの経験と知識を口の中で分かりやすく噛み砕いて、生徒艦に指導する。

 

 単縦陣、輪形陣……しばらくして、なんとか無事、陣形も安定し、約束通り吹雪率いる練習艦等は、近くの岩肌の近くに集まると休憩に入った。元々陸地の近くで波が落ち着いており岩肌が所々に突き出して防波堤の様になっているため演習場の数ある休憩場所の一つだ。

 

 

天霧「やっと休憩だぁ……肩痛てぇ」

 

 

天霧は艤装を支えてる二本の肩紐を手に取り艤装を下ろすと同時に、岩場にゆっくりと腰を下ろした。狭霧やその回りの艦も岩場に腰を下ろしたり、艤装を下ろしたりしている。

 吹雪は艤装を下ろすよりも先に、指導書に書かれた今日のノルマを確認している。まだまだ小難しい内容が残ってる事に少しため息が出かける。

 

 

狭霧「あのー吹雪先輩っ」

 

吹雪「……あっごめん、どうかした?」

 

 

指導書とにらめっこ中だった吹雪は一つ反応が遅れて、声をかけた狭霧の方向に目を向ける。

 

 

狭霧「そのーこの後の予定を聞きたくて……」

 

吹雪「あ、うん、ちょっとまってねー……」

 

 

吹雪はこれまでの経緯とポイントを教本にメモしようと制服のポケットからペンを取り出そうとする。取り出しかけたその時、ポケットに入れていたお守りが、ペンのフックに引っ掛かり、海に落ちかけた。吹雪は寸前のところでキャッチすると急ぎポケットに戻そうとする。

 

 

狭霧「先輩、それってー……」

  

吹雪「あっ……これのこと?……お守りだよ」

 

 

吹雪は戻しかけた"お守り"をもう一度手に取るとそれを見せる。太陽の光が、お守りのラメに反射してキラキラと輝いている。

 普段は無くさないように首に掛け、制服の内側にお守りを吊してるしているのだが、今日はたまたまポケットに入れていた。

 興味を持ったであろう狭霧にお守りを見せるとお守りに書かれた文字に狭霧は微笑む。

 

 

狭霧「航海安全っ……なんだか可愛らしいですね」

 

吹雪「そうかな?でもまあ、悪い気はしないし嬉しいよ」

 

狭霧「うれしい?……お知り合いから頂いたとかですか?」

 

 

狭霧は純粋な探求心を込めたような目でこちらを見てきた。吹雪は一瞬たじろむが気を落ち着けて水平線の遠くを眺める。

 

 

吹雪「そうだよ、でも特別何かって訳じゃないから、だけど……」

 

 

吹雪は狭霧に見せていたお守りを手の中でやさしく握り胸に当てる。

 

 

吹雪「とても大切なお守りなの。大切な……護りたい人から貰ったものだから」 

 

狭霧「特別ではないけど大切な人からのお守り……なんだかロマンチックですね」

 

吹雪「うん、さてっ……時間も押してるしそろそろ続きやるよ!はい立って!」

 

 

 

吹雪の声かけに生徒艦らはぞろぞろと隊列を組始める。

 あれからかなり時間が経ち、空はだんだん紅くなり夕焼けの面影を作り出していた。ついあくびが出そうなくらい心地よい海風に吹雪達は、訓練中だと自らに言い聞かせ後半の訓練を再開した。

 

 

 

 

舞鶴鎮守府浴場にて

  

時間は午後の5時丁度、作戦や遠征など様々な任務を終えた艦娘らが一番帰投する時間帯である。食堂では軽空母やその他の公務員が食事を準備し、回復の源であるドック(浴場)では、24時間艦娘を癒す準備が出来ている。

 

 

 

吹雪は演習から帰って提督に報告を終わらせると、直ぐにドックに駆けつけた。脱衣所で汗だくになった制服や下着を脱ぎ、髪留めを外すと浴室に繋がる扉を開ける。するとすでに一人先客が駆けつけていた。同じ駆逐艦の叢雲だ。

 

 

吹雪「……もう帰ってたんだね、叢雲ちゃん」

 

叢雲「まあね、輸送船団の護衛なんて大したことないわ」

 

 

吹雪は叢雲らしい回答に微笑むとシャワーコーナーで身体を洗い始める。温水が頭から肩、背中、脚にかけて伝う。海の塩や汗をシャワーで洗い流すと湯船に向かった。先に入水してた叢雲が吹雪を手招きし、吹雪はそこにしゃがみこんで静かに浸かった。 

 

 

吹雪「はぁ……気持ちいいー……」

 

叢雲「アンタ本当に幸せそうな顔してるわね……」

 

 

吹雪はその言葉に照れつつ、肩まで湯に浸かって天井を見上げる。沢山の照明が浴室を照らしている。

 

 

叢雲「で、進歩はいかほどなのよ?吹雪さん」

 

吹雪「えぇ……お姉さんなんのことやらさっぱり……」

 

 

しらを切る吹雪に叢雲は吹雪の肩に手を回すと耳元で再度質問した。

 

 

叢雲「"あの子"との進展はどうなのって聞いてるのよ」

 

 

吹雪は耳元でそう呟かれた途端、首筋がぞわぞわし叢雲から距離をとる。

 

 

吹雪「あわわ、ちょっとっ……こそばゆいってば」

 

叢雲「ごめんごめん、……で、どうなのよ吹雪」

 

 

吹雪と裕翔の関係を唯一知っている叢雲は唯一の相談仲間だ。叢雲のがっつきぶりに吹雪は降参するとこれまであったことを全て話す。

 

 

叢雲「……やったじゃない吹雪!アンタじゃ無理かなぁと思ったけど流石は我が姉、やるときはやるじゃないっ!」

 

 

叢雲は自分の事のように喜ぶと腕を組んで一人頷いている。 

 

 

吹雪「そんな誉められることではないとおもうけど……」

 

叢雲「そっかーデートかあ……」

 

吹雪「でぇっ、デートなんてそんなっ!二人で遊びに行くだけだし……」

 

叢雲「いやそれデートでしょもう」

 

 

叢雲の突っ込みに吹雪は顔を赤くしてお湯のなかに身を潜める。確かに二人の異性が祭りに出かけるのはデートと言われても文句言えない。

 

 

吹雪「でも……」

 

叢雲「なによ、羨ましい限りなのに」

 

 

一見幸せそうに見える吹雪だが、悩みもあった。ただでさえ数少ない艦娘の一人、安全とはいえいつまた戦闘が起こってもおかしくない今この時、自分だけがそんな浮かれていていいのか。

 艦娘は成長&老化という概念が存在しない。たとえ付き合っても必ず相手が先に老いて逝く。戦闘で次の日にはこの世に居ないかもしれない。吹雪は裕翔を思い出すとそればかりを考えてしまうのだ。

 

 

吹雪「んーどうしたらいいんだろう……」

 

叢雲「……いわ」

 

吹雪「……え?」

 

叢雲「もったいないって言ってんのよ!」

 

吹雪「もったいない……?」

 

 

叢雲は湯船の縁に両腕をおきながら横目で吹雪を見る。

 

 

叢雲「アンタバカなんじゃないの?良いじゃない付き合ったって遊んだって。吹雪は十二分に頑張ってるし少しぐらいはめはずしてもなんの問題ないわよ」

 

吹雪「え、あ、でも……」

 

 

うつむく吹雪に流石に切れたのか叢雲は吹雪の前に立つと胸に手をあてて声を上げる。

 

 

叢雲「それに!艦娘以前に私たちも"人"なのよ!付き合ったら戦闘が怖い?死んだら不安がる?当たり前よ!軍人の中にも家族持ちがいるわ!でも文句垂れずお互いを信じあって生活している!」

 

 

叢雲がいきなり怒り出すのはよくあることだが今回はなにか違う。吹雪はいつもと違う叢雲になにかを感じ、ただ黙って聞いているしかなかった。叢雲は強ばった身体を落ち着かせると両手のひらで目を隠す。

 

 

叢雲「……ごめんなさい吹雪、でも私は……妹として、叢雲として貴女には幸せになって欲しいのよ」

 

吹雪「叢雲ちゃん……!」

 

 

吹雪が立ち上がろうとすると叢雲はお風呂セットを持って脱衣場に去っていく。しんみりとした空気がドックに漂う。吹雪は叢雲になにか雲を吹き飛ばされたような感覚を覚えた。

 

 

 

 

時間は午後7時半、まだ外のアスファルトには昼の余熱が残っているのか生暖かい。脱衣場で吹雪は身体をタオルで拭き、着替えの制服を着用して髪を乾かすとゴム紐で結い直した。

 

 

吹雪「よしっ……申請しなくちゃ」

 

 

吹雪は気持ちをリセットして脱衣場を出るとそのまま執務室にて向かった。 

  

 

 

  

 

    

8月19日 午後8時

舞鶴鎮守府執務室にて

 夜になると、グラウンドからはランニング中の艦娘の声や射撃場からの発砲音は消え、鎮守府も静寂を取り戻す。執務室にはいつもの様に提督が一人椅子に、その机を挟んだ目の前には吹雪が立っている。

 

 

 

提督「……20、21日の外出許可申請?」

吹雪「はい、確かまだ2日残ってますよね?」

 

提督「残ってはいるが……別に書類で通してくれればこちらで了承するんだが……」

 

吹雪「いえ……少し訳があってですね……その……」

 

 

吹雪は何か物言いたげな表情をするも中々喉から言葉が出てこない。それもそうだ。事が事だけに流石に言いにくい。

 

 

提督「……吹雪?どうかしたか?」

 

吹雪「そのですね……自由外出を認めて貰いたくて……」

 

 

吹雪は絞る声で静かに答える。自由外出。それは文字通り自由に鎮守府外を歩くことができる事である。政府の枠から外れ、自由に交流ができる。それを聞いた提督は何かを悟る様な顔を見せると口を開く。

 

 

提督「あー……吹雪1尉」

 

吹雪「はいっ!」

 

 

いきなり階級呼びをされて吹雪はそらしていた目線を提督に向ける。提督のその目は吹雪ではなく吹雪を貫通した先を見ているようだった。

 

提督「……まあいいんじゃないかな、そういうのも」

 

吹雪「……えっ?」

 

 

まだなにも言っていないのにと吹雪は唖然とする。提督は表情一つ変えず話を続ける。 

 

 

提督「基本的に艦娘が外部の……一般人と親密になるのは好ましいことではない……が、俺は吹雪1尉を信用している。鎮守府創設当初から行動を共にしてきた俺が言うんだから間違いない」

 

 

吹雪「あ、ええっと……」

 

 

提督は吹雪の目を見るや否や椅子に深く腰かけ直す。椅子の軋む音に合わせて吹雪は深く呼吸する。

 

 

提督「……俺の読みは違ったかな?」

 

吹雪「ええっと、はは……お察しの通りです……」 

  

 

吹雪は頭を掻く素振りを見せながら頭を下げる。提督は机の上に置いてあるカレンダーを見ながら問いかける。

 

 

提督「吹雪、君は昔から嘘が下手だね。まあ嘘つくこと事態少なかったから反応が面白かったよ」

 

吹雪「はは……恐縮です」

 

 

吹雪は両手を後ろで組むと身体を小さくする。提督は椅子を回転させて執務室から見える夜景に目を向ける。海が月の光を反射してキラキラと光り、港のクレーンに付いている航空障害灯がカチカチと点滅している。

 

 

提督「なにはともあれ、楽しんできなさい。許可書は明日の朝には発行しておくよ」

 

吹雪「あ、ありがとうございます!司令官!」

 

提督「ああ、おやすみ、吹雪1尉」

 

吹雪「はい!おやすみなさい!」

 

 

吹雪は敬礼し、提督の答礼を確認すると回れ右をして執務室を出た。

 

 

 

 

提督「……そろそろ出てきたらどうだ?叢雲」

 

 

提督にそう呼ばれ叢雲は机の中から這い出てくる。

 

 

叢雲「ふー……面倒を見るのも大変ね」

 

提督「なんで、こんなところに隠れる必要があるんだ……もっとほかにもあったろ」

 

叢雲「予想以上に早く来たから仕方ないじゃない……それになによ"面白かったよ"って……ほんとキモいわ」

 

提督「罵倒はやめなさい……、叢雲も良く吹雪の事を俺に話す気になったな。一応やばい線行ってる話だし」

 

 

帽子を取り机の上に静に置くと提督は叢雲を見る。

 

 

叢雲「……あの子のためよ」

 

提督「はは、こんな姉思いの妹だと知ったら絶対吹雪幸せそうな顔をしそうだよ」

 

叢雲「ちょっと!余計な妄想しないで!……いいのよこれで……影で支えれていればそれで十分よ」

 

提督「ふっ……そうか」

 

 

二人はしばらく沈黙していると時計が午後の9時を知らせた。叢雲は巡回があるからと駆け足で去っていく。これでいいのだろう。提督も残りの貯まった業務を終わらせるべく机に向かった。

 

 

 

 

 

吹雪型部屋にて

 

 

吹雪は執務室にて用事を終わらせるとすぐさま部屋に戻った。部屋に入ると妹らがいつものように退屈している。今はゲームをやっているようだ。

 

 

白雪「あ、姉さん、結構遅かったですね。なにかあったんですか?」

 

吹雪「うん、ちょっと提督に用があってね」

 

 

白雪は事を把握すると、座り直して初雪とゲームに戻る。

 

 

初雪「吹雪もやる?人生ゲーム」

 

吹雪「ううん、明日、明後日ちょっと忙しいから早めに寝るようにするよっ。ごめんね初雪ちゃん」

 

 

初雪は首を横に振るとゲームを続ける。部屋の回りを見るとなにかが足りない気がした。

 

 

吹雪「あれ……叢雲ちゃんと深雪は?」

 

白雪「二人なら今日は夜間巡回ですよ。ほら、今日当番じゃないですか」

 

吹雪「ああ!そんなこと言ってたね!ありがとう白雪ちゃん」

 

初雪「姉さんもう寝るの?だったらうるさいだろうし場所変えるけど……」

 

吹雪「あ、気にしないでいいよ。今日ちょっと疲れたしすぐ寝ちゃうから……」

 

 

そう言うと吹雪はその場でジャージに着替えるとベッドに向かう。

 鎮守府の寮のベッドは二段ベッドになっていて各段にカーテンが設けられるなど個室のようになっている。そのため壁に写真を貼ったり私物を置いたり掛けたりと自由に出来る。

 吹雪は一段目のベッドに寝そべるとおやすみの挨拶をしてカーテンを閉める。

 

 

吹雪はベッドの中にうずくまると自分のスマートフォンが目についた。

 

 

吹雪「あ、LINE……裕翔と今のうちに予定とか決めとかないと……」

 

 

吹雪は裕翔にLINEを送った。しばらくすると既読がついて直ぐに返信が来た。

 

LINE内

 

 

吹雪{裕翔ー起きてる?}

 

裕翔{おう、起きとるよ?どうした?}

 

吹雪{あ、いや、ほら、祭りの予定とかそろそろ決めなきゃなーと思って}

 

裕翔{あ、そっか……どうしよっかな……}

 

吹雪{……私、その……明日の午後から空いてるんだけど……}

 

裕翔{え、明日の午後から?……ちょ、ちょっと待ってな}

 

 

 

 

 

わかっている。自分が今どんなことを言ってどうしてその反応なのかを。祭りは明後日、明日午後から空いてると言うことは明後日どうするのか……だいたい裕翔も察して焦ったのだろうが送った本人が一番恥ずかしい。

 

 

 

 

 

裕翔{あ、ごめんごめん、吹雪?}

 

吹雪{いいよいいよ、なに?}

 

裕翔{そのー、祭りは明後日なんだけど明日っていうのは?}

 

吹雪{ええっと、提督から明日、明後日の自由外出許可貰ってね。せっかくだし浴衣でも着ようかなって思って……ほら、裕翔の家からだと神社近いでしょ?その……荷物もあるし……だから……}

 

 

自分が今、どんな顔をしているのか用意に想像できる。吹雪は顔を真っ赤にして震えた指で送信ボタンを押す。

 

 

裕翔{そうだよな……ちょっと泊まれるか母さんに聞いてみるよ}

 

吹雪{えっ……あ、うん}

 

 

 

 

かなりストライクな答えに、吹雪は枕に頭を埋める。わざとなのか天然なのか、"泊まる"という単語がさらっと出たことに吹雪は驚きを隠せなかった。

 だが吹雪にとってはウェルカムな回答でもあったし欲を言えば泊まってみたかったのもある。そういう点ではなんとも言えない気持ちになった。

 

数分たって既読がつくと返信がくる。

 

 

裕翔{友達の泊まりって言ったら拒否られたけど、祭りと吹雪の件を伝えたらさらっとOKだしたよ}

 

 

吹雪はその文面を読んでついガッツポーズをしてしまった。

 

吹雪{ほ、ホントに泊まっちゃって良いの?親御さんに迷惑とか掛けない?}

 

裕翔{問題ないってさー。むしろ久しぶりに話したいって母さん喜んでるよ。父さんは出張だから今は名古屋にいるけど……}

 

吹雪{お父さんお仕事頑張ってるんだね。じゃあ今度会ったとき挨拶しとかなきゃ}

 

裕翔{おう、そうだな。時間とかはどうする?吹雪業務とか有りそうだし任せようか?}

 

吹雪{あ、うん!ありがとう!その方が助かるかなー。細かい時間はなんともだけど多分13時にはそっち行けると思うよ}

 

 

正直今すぐにも行きたい気分だが焦るな自分。こういうのにも順序がある。

 

 

裕翔{りょーかい。じゃあそれまでにはこっちの準備も終わらせとくよ。部屋かなり散らかってるし 笑}

 

吹雪{そーなんだ 笑、じゃあ明日楽しみにしてるね}

 

裕翔{こちらこそ、よろしくな}

 

吹雪{うん!}

 

 

最後はお互いおやすみのスタンプを送って終わり。吹雪はいつの間にか力んでいた体の力を抜くとその場に崩れ伏せた。

 

 

吹雪「上手く言えた……ネットで恋愛の勉強したことちゃんと役立てれた……はぁー」

 

 

吹雪はスマホの電源を落とすと布団の中に潜り込む。さっきの余韻が今も残っていると心臓がドキドキして吹雪に伝えている。

 

 

吹雪「お泊まり……デート……ああ、ホントにやばい……大丈夫かな」

 

 

吹雪型駆逐艦、一番艦、吹雪、自分は真面目で業務に勤しみ、姉妹と楽しんだり、戦闘で奮戦したりとそんなキャラだと思っていたがあまりの自分の女の子に呆然とするしかなかった。

 

 吹雪は枕元の照明を落とすと目を閉じた。今日は良く眠れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回「懐かしい記憶」
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