日曜日。
特にやることもなく、暇を持て余していた俺は、たまには行ってみてもいいか、という思いからボーダー本部へ行き、誰か知っている人と、個人戦をしようと思い立った。
後から考えれば、これは思い立ったのではなく、そう仕向けられていたのかもしれない。
そうとも知らず、呑気に本部へ。
残念ながら、俺の知り合いは見当たらず、結局、暇なまま午前中を過ごす。
帰ろうかとも思ったが、お腹がすいた。
食堂で昼食を食ってから帰ろう、と考え付いた。
後から考えれば、これは考え付いたのではなく、そう仕向けられていたのかもしれない。
俺は、人気ナンバーワンの料理を選び、食堂の隅の方へ。
一人で昼食なんてかわいそう?
そんなことはない。俺は一人には慣れっこだ。
でも、周りの目とかあるんじゃないんですか?
俺は、影が薄い。存在感がない。
サイドエフェクト、『自然隠密状態』
俺は、この体質のおかげで、周りから目を向けられることはほとんどない。
一人で料理に舌鼓を打っていたその時。
事件が発生した。
存在感がないはずの俺のもとに、歩み寄ってくる一人の人。
その歩みは、俺のすぐ近くで止まった。
仕方なく顔をあげたその先には、風間さんがいた。
風間蒼也。A級3位風間隊の隊長。個人では、攻撃手ランク:2位。
身長158cmとかなり小柄。ちなみに、20歳、大学生だ。
いきなりの登場にざわついている食堂。
「風間さん?いきなりどうしたんですか?」
とりあえず手短に用件を聞く。
「・・・。」
黙っている風間さん。
「あの...?風間さん?」
「・・黒分寺宵。B級隊員。チームに所属せずソロで活動。」
「万能手。レイガスト、拳銃使い。鉛弾を使用。」
「サイドエフェクト、『自然隠密状態』か。」
唐突に俺のプロフィール紹介。
困惑。
要件は何ですか?と聞こうとしたとき。
「単刀直入に言おう。風間隊に入らないか、黒分寺。」
「・・そういうことでしたら、すみませんけどお断りします。」
チームに所属する気がない俺は、即座にお誘いを蹴る。
「これは言おうか迷ったんだが。」
そう前置きして、
「お前は、ネイバーに母を殺されたと聞いた。」
「っ!!」
「復讐したいとは、思わないのか。」
俺は、その問いには答えず、
「・・遼と、菊地原ですか。」
「ああ。二人からお前のことは聞かせてもらっている。」
風間隊の、歌川遼と菊地原士郎。
俺は、この二人と同じ中学校に通っている。
二人とも、俺の数少ない友達だ。
「悪いですけど、チームに所属しようと思えないんです。」
「だから、すみません。」
無言の風間さん。
「そうか。」
ようやく開いた口から漏れた言葉からは、本当に残念だという思いが感じられた。
「だがな。」
続けて風間さんが言う。
「俺はお前を買ってる。それと、こう見えても俺は、意外と諦め悪いぞ。」
不穏な言葉を残して去られ、俺は、ため息をつくのだった。
* * * * * *
「そうでしたか。やっぱり宵はチーム所属したくない理由でもあるのかな...。」
「そうだろ。あいつが誰かと一緒に何かをやってるとこ、見たことないし。」
「それにしても風間さんは、あいつを買いかぶりすぎなんですよ。」
その後。風間蒼也が作戦室に行くと、風間隊のメンバーが残っていた。
そこで、断られたという話をし、今、こういう状況。
「本人が乗り気じゃないなら、無理して誘う必要もないんじゃないですか。」
もちろん、風間隊オペレーター、三上歌歩もいる。
この四人で、風間隊だ。
風間隊は、全員が『カメレオン』というオプショントリガーをセット。
それと菊地原のサイドエフェクト『強化聴覚』を組み合わせた、隠密戦闘を得意としている。
そう。
だからこそ彼らは、『自然隠密状態』の黒分寺宵に目を付けたのだ。
「風間さん、黒分寺君ってどれくらい強いんですか?」
三上が聞く。
「・・そうだな。言われてみれば噂だけで、実際に見たことはなかったな。」
「見るまでもない。別に大した奴じゃないですよ。」
「え?菊地原君は見たことあるの?」
「いや、ないけど。」
「なんだ、じゃあ、詳しいことは分からないんだね。」
「よし。」
「歌川。また黒分寺の誘導をお願いしてもいいか。」
「今回は成功しましたけど、次は分かりませんよ?」
「失敗しても別にいい。日曜日に頼む。」
「わかりました。やっときます。」
誘導。怪しげな言葉だ。
二日前。
歌川遼は黒分寺宵が日曜、つまりこの日に、本部に来るように仕向けていたのだ。
自分が忙しいから、課題を写すために、黒分寺に土曜日までにすべての課題を終わらせ、
本部にいることをそれとなく示唆しておき、
食堂の人気メニューの話もしていた。
黒分寺が日曜日に本部に行くように、歌川遼は裏で手を引いていたのだ。
恐ろしい子...!である。
* * * * * *
夕方。
本部から出た俺は、本屋に寄った後、日曜日恒例の場所へ向かう。
「お母さん?」
目的地に着くと、扉をあけながら、俺はそう言う。
俺の母、
こっちに気づくと、「ああ、来たのね。」と一言。
「はい、これ。頼まれてた雑誌。」
俺はそう言いながら、本屋で買ったものを渡す。
「ああ、ありがとう。ちょっとそこに、置いといて。」
そう言うと、また夕焼けを眺めはじめる。
「夕焼け、綺麗だね。」
近くの椅子に座り、話しかける。
しかし母は、何も言わずただ夕焼けを眺め続けた。
やがて日が沈み、母は話し始めた。
「夕焼けって、残酷だと思うの。」
「あんなに綺麗なのに、少しの間しか見られなくて。」
「空が曇ってたら、それだけで見られなくなるし。」
どうしたのだろうか。
今日はやけに詩的だ。
「なんだか、命の儚さと同じようなものを感じない?」
その一言に、俺の心は締め付けられる。
母が半年ほど前に、『夕焼けが好きになった』と唐突に言ったことがふと蘇る。
俺の暗い雰囲気を察したのか、母は話題を変えた。
「最近、どう?友達とは上手くやれてるの?」
俺は少し考えて、言う。
「そうだね。まあ、ぼちぼち。」
「強いて言うなら、今日風間隊の隊長さんに勧誘された。」
「そうなの?で、入るの?」
「いや、俺じゃ全然弱いから。」
「入りたいとは思わないの?」
「歌川くんと菊地原くんも、風間隊だったわよね?」
母は、諒と菊地原のことを知っている。
二人は、1、2回だが、病院に来たこともある。
「それはそうだけど...。それとこれとは違うんだよ。」
母はその時、何か言いたげな顔をしたが、すぐに元に戻り、
「せっかくだし、入ってみればいいのに。」と言った。
そこから、他愛もない話を少しした後。
「んじゃ、帰るわ。」
そう言って立ち上がる。
「うん。ありがとね、いつも。本当に去年から迷惑かけて...。ごめんね。」
謝られてしまった。
心が痛む。
「いや、いきなり何?別に謝ることでもないよ。」
「そうね。変なこと言っちゃった。じゃ、気をつけて。」
「うん、じゃ。」
再び何か言いたげな顔をしたのが少し気になったが、結局俺は帰宅。
のちに俺が、今日のこの行動を後悔することになるとはつゆ知らず。 続
次回で完結となります。
結末、あたたかく見守って下されば嬉しいです。
読んでいただき、ありがとうございました!