大変遅くなりました。秋築若葉の新作、『夢見る少女は夢を見せる』です。
お楽しみいただけたら幸いです。
皆さんは、夢を見ますか?
将来こうなりたいとか、そういう夢じゃないですよ?
寝ている間に見る夢の話です。
脳と体は別々に寝ていて、脳が寝てる時は寝返りとかで体が動いて、体が寝てる時は脳が動いて夢を見るんだそうですよ。
夢とは、睡眠中にあたかも現実の経験であるかのように感じる、睡眠中にもつ幻覚のこと。
そう、夢なんて所詮は幻覚。
……なら、その幻覚を操れるとしたら?
自分で夢であると自覚しながら見ている夢、明晰夢を自由に見せることが出来るとしたら?
その明晰夢を誰かの夢と繋ぐことが出来るとしたら?
それってきっと素晴らしいですよね。
高橋 結女には、ユメにはそれが出来るんです。
ユメだけが、貴方に夢を見せられるんです。
疲れ果てた大人の皆様は、そろそろおやすみの時間なんじゃないですか?
さあ目を閉じて、体の力を抜いて?
私が、夢を見せてあげる。
『 橘 涼介 様
厳正なる選考の結果、残念ながら採用を見送りましたことをご通知いたします。』
「……またか」
日に日に増えていく不採用の通知に、社会から必要とされていない事を痛感する。
俺、橘涼介は、小さい頃からとにかく冴えなかった。いや、本当に。胸を張ってはいけないけれど、胸を張って言えるほどに冴えない。勉強も運動も出来なくて、義務教育の間は成績も下から数えた方が早かった。
高校も、かろうじて合格したのは私立の通信制。そこから必死で勉強して、大学合格まで漕ぎ着けたものの、その大学も底辺中の底辺で、挙げ句の果てに、勉強についていけず中退。
21の現在、とりあえず職には就かないといけないと就職活動に励むも、結果は見ての通りである。かれこれ30社近くの面接を受けているが、全て見送られている。
どこまでも冴えなくて、どこまでも中途半端。それが俺なんだ。
「なんなんだよもう……」
こんな自分に嫌気がさす。現実逃避をするように、部屋の隅のギターを手に取る。
冴えない俺にだって趣味くらいはある。音楽だ。実際本気で目指していたころもあった。でも諦めた。どうせ無理だから。
「本当に、俺は何がしたいんだろうな」
そんな事を思いながら時計を見ると、時刻は0時を過ぎていた。
「……そろそろ行くか」
立ち上がって部屋を出る。不合格通知が届く度に、俺はこうして家の周辺を歩き回る。決して変質者ではない。もう一度言おう、決して変質者ではない。
しばらく歩いていると、見慣れない公園を見つけたので、立ち寄ってみる事にした。
「こんな公園あったんだな…」
歩き慣れた道を歩いていたつもりだったのに、初めて見るその公園には、小さなブランコと滑り台が1つづつ、木のベンチが右側と左側に1つづつという、いたってシンプルなものだった。
俺は公園のベンチに腰掛け、星が小さく輝く空を見上げていた。こうしている時間は、何も考えなくていいし、楽だし、好きなんだけど、どうしようもない虚無感に襲われる。
俺は、なんで生きてる?
――死ぬのが怖いから。
俺は、どうして必要とされてない?
――何も持ってないから。
俺は、何のために生きてる?
――目標なんて持ってないだろ。
あぁ、そうか。
俺が『俺だから』か。
なら俺なんて――
「死ねばいいのに、でしょっ?」
ハッと声がする方に目を向けると、さっきまで人の居なかったはずの公園のブランコに、1人の少女がキィ、キィ、と揺れていた。
肩の辺りまである白がかった金髪には、ふわふわとパーマがかかっていて、俺を真っ直ぐに見るその目は、どこか今日の夜空に似ている。
少女的な甘い響きを持つ声を発したであろう唇は、牡丹のような鮮やかな色だ。
声に比例した幼い顔立ちも、『可愛い』よりも『美しい』という表現の方が合うほどに整っていた。
「おにぃさんっ?そぉんなくだらないこと考えて、何してるのっ?」
悪戯っぽく微笑む少女は、俺にそう問いかけた。それに対して俺は質問を返した。
「別に、何もしてないよ。……っていうかお前こそ、子供がこんな時間に何してんだよ。補導されるぞ」
「えぇ、私? 私はいいのよっ?」
「良い訳ないだろ……ってほら、言ってるそばから」
俺の指した方向にいるのは、1人の警察。見回りでもしているんだろう。こちらに歩いてくる。こんな幼げな少女なんて補導され……と言うことは、俺も危ないんじゃないか?身の危険を感じた俺は、何とか少女を隠そうと試みるが、あいにく小さな公園なので、にもなかった。
「……ヤバイっ」
覚悟を決めて俯く。……しかし、特に聞こえてくることはなく、警察官は俺の前をすっと通りすぎた。
「えぇっ!?」
驚きすぎた俺は、思わず声をあげてしまった。それに反応した警察官が明らかに警戒した様子で俺に声をかけてくる。
「あの! い、いきなりどうされたんですか?」
「え、いやぁ……」
困り果てた俺は警察官の隣でニコニコ笑っている少女に目線で助けを求めた。……別に俺が頼りないわけではない。たぶん。
仮定だが、警察官には彼女が見えていない。俺が疲れているのか、俺が憑かれているかのどちらかだろう。
そうこう考えている内にも、警察官の表情はどんどん怪しくなっていく。なにか言わないと、なにか言わないと、焦って考えれば考えるほど挙動不審になり、更に怪しまれていく。あろうことか少女はそれを見てクスクスと楽しそうに笑っているのだ。それが可愛いのは少し困るのだが。
俺が泣きそうな顔をすると、やっと満足したのか少女が口を開く。
「寝ぼけてたんですぅとか、テキトーに言えばいーんじゃないのっ?」
実に的確な案だ。急いで警察官に
「ち、ちょっと寝ぼけてて……」
と告げると彼が感じたであろう怪しさを目線でそのまま残しながら不満そうに
「……そうですか、夜道お気をつけて」
と言い、去っていった。間一髪である。安心したのもつかの間、問い詰めるために少女に意識を向ける。俺からしたら、不満と疑問で いっぱいなのだ。
「……なんなんだよ、今の」
「だから言ったのにー! 私は大丈夫だって。今のは、おにぃさんが悪いよ?」
「なんで俺が悪いんだよ……」
なんとも楽しそうにくるくるしながら話す彼女に、俺は心底あきれてしまった。
「お前、何者だよ?」
「やだなぁー見て分かんないかなぁ?絶世の美・少・女っ!」
……こいつなんかムカつく。ムカつくけど否定できないのがさらにムカつく。ロリコンじゃなくてもほっとけないレベルの可愛さなのは間違いない。
「そういう話じゃなくて、なんで警察官はお前が見えてないんだよ。お前、幽霊か何かなのか?」
「そんな訳ないじゃんっ! ちゃんと存在してるよー? ほらっ!」
そう言って俺の頬に当てられた彼女に手は、確かに感覚があり、暖かかった。
「これで納得したっ?」
「存在してることには納得したよ、お前が人間ってことも。…まぁ、人かどうかはちょっと微妙だけど。けど、どうしてあの警察官はお前が見えてないみたいだったんだよ?」
「えぇ? 普通に見えてないからでしょっ?」
「だから、それがどうしてだって聞いてるんだよ」
「んー、それはねぇ……あの警察官さんは、『幸せだから』だよっ?」
「幸せだから……?」
「うんっ!」
不思議そうな顔をする俺に、彼女はニコニコしながら続ける。
「あの警察官さんは、そこの角を右に曲がってまーっすぐいったとこにある駐在所の中平裕さんで、1ヶ月前に結婚して3年になる奥さんの綾音さんとの間に男の子と女の子の双子ちゃんが生まれたのっ! そんなの幸せじゃない訳ないよねぇー?」
「おい……ちょっと待てよ……」
彼女はどうしてそんな細かい事まで知っているんだ?確かに、駐在所の人っていう事なら知っていてもおかしくはない。ただ、結婚して3年とか、男の子と女の子が生まれたとか、そんな細かく知ってるのはおかしいだろ。
俺が混乱している間にも、彼女は楽しそうに跳ねたり回ったりしている。……少しは落ち着けって。
「えへへ~びっくりしたぁ?」
「あぁ、びっくりしたよ……」
彼女は動きを止め、何気なく空を仰ぐ。
「……だから、あの人は幸せなんだよ。けどね?」
「けど?」
「貴方は、違う。」
俺は、違う。さっきとはがらりと口調を変えた彼女が俺に言った言葉は、俺の心に深くもどこか心地好さのある痛みを残していった。
戸惑う俺を真っ直ぐに見つめる彼女に、俺は次の言葉を待っている。
こんな短時間で、俺は、幸せじゃない俺は、何処までも彼女に惹かれている。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回から、さらにファンタジーチックになっていく予定です。