さらにオリ主とオリキャラ同士の会話だけになってしまいました…
※展開が原作と変わっております。調査兵団はトロスト区攻防戦の途中に帰還ではなく、攻防戦以前に帰還している設定です。
なので壁外調査も随分前に出ています。
無事に帰還した。
「開門、開門ーッ!」
門の前で信号弾を上げれば、それを確認した駐屯兵団が速やかに門を開ける。
門を開けた瞬間、壁が吸収していた人々の声がどっと押し寄せてきた。事前に帰還する日が知らされていたのだろうか。人々は明らかに調査兵団の帰りを待っていた。
人々は口々に帰還を喜び、あるいは調査兵団の面々を指さして何事か話している。
彼らの雰囲気は、まさに凱旋パレードさながら。
(まるで、英雄のようだ)
ロザリアはそっと目を閉じた。
「ちっ、うるせえ奴等だ……」
リヴァイの不機嫌な声は、群衆の叫びによってかき消された。
「調査兵団の精鋭達だ!」
「エルヴィン団長や人類最強の兵士、リヴァイ兵士長もいるぞ!」
「見ろ!ロザリア補佐官もいる!」
人々は所構わず調査兵団に労いや称賛の言葉を浴びせかけてくる。
成程、これは確かにうるさい。壁外調査から帰還し、体が疲労の極みに達している今ならなおさら。
「うるさい……」
目を開ければ沢山の人、人、人。それに声、拍手。
早くこれが終わってほしいものだとロザリアは再び堅く目を閉じた。
調査兵団本部に着き、ロザリアは真っ先に己の執務室へと向かった。
壁外調査を終え、大抵の兵士は寝るか風呂に入って体の汚れを落とすかのどちらかだが、ロザリアはあえてそうしなかった。休む前に済ませておく書類があったのである。
椅子に深く腰掛け、息を吸い、ゆっくり吐く。何度か繰り返してしばらく目を閉じた後、面倒だという雑念を捨てて作業を始めた。
部屋には、ペンを走らせる音と紙を捲る音だけが響く。
しばらくし、ドアが控えめにノックされた。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのは見覚えのない男性兵士だった。
頬と額に絆創膏が貼られた顔はまだ若い。新米兵士だろうか。新米兵士ならば、この程度の怪我で生還できたのは素晴らしい成果である。
いや、それよりこの顔は何処かで見覚えが――――。
記憶と合致し、ロザリアはあ、と小さく声を上げた。
「もしかして、あの時の新米兵士」
「はい。あの時は本当に有難う御座いました」
彼は、ロザリアが助けに入ったあの新米兵士だった。
時間を置いて心の整理ができたのだろうか。顔色は健康的で、表情も明るかった。無理して笑っている様子もない。
ロザリアは彼を来客用のソファーに座るよう促し、自身も反対側のソファーに座る。
「話によれば、君は精神的に不安定であると聞いていたけれど」
「あ…はい。そうだったんですけど、壁外調査から帰ってこれて心の整理ができたので、今は大分落ち着きました」
「そうか」
一応、壁外調査から帰った自分用にととっておいた焼き菓子を出してみたのだが、彼は手をつけようともしない。当然といえば当然である。上官の前で緊張しているのだろう。ましてや上官の前で菓子を食べるなど不敬にも程がある。
仕方なく自分だけ菓子を口に運びながら、ロザリアは口火を切った。
「巨人は怖い?」
「――――ッ!」
「遠慮しなくていい。ここにはわたしと君しかいない」
彼がこの部屋を訪れた理由が、ロザリアには何となく予想がついていた。
彼はロザリアにあの時の礼を言いに来たわけではない。礼なら、彼を巨人から助け本隊と合流するまでに、馬鹿の一つ覚えのように繰り返していたのを聞いている。
彼は壁外調査を終え、敵前逃亡という大罪をロザリアに罰せられに来たのだ。
黙っている彼を前に、ロザリアはさらに追い打ちをかけるように言葉を重ねる。
「怖いでしょう。アレは恐怖の象徴だと思う。逃げたくなる気持ちも分からなくもない」
話の意味を理解した彼は、慌てふためき勢いよく頭を下げた。
「もっ、申し訳ありませんでした!」
「君、わたしに罰せられに来たでしょう」
「――……その通り、でございます」
苦虫を噛み潰したような顔で、彼は観念したように白状した。
大丈夫と言っていたものの、彼の水面下では様々な感情と戦っているように感じられた。
悲しみ。憎しみ。無事に壁内へと帰ってこられた安堵、それでいながらろくに戦っていない事への後ろめたさ。
そして何より――――敵前逃亡を選択した己への怒り。
ロザリアは立ち上がった。
顔は先ほどの親しい友人と話すような穏やかな表情ではなかった。……兵士としての凛とした顔である。
「君はどうしたい」
「……僕、ですか」
きょとん、としたように彼は言う。
「そう。君の処遇はわたしが決めるものではない。君が決めるんだ」
彼は黙っている。
しかしロザリアは見抜いていた。彼は自分がどうしたいのか知っている筈だ。
やや間を置き、やがて彼はロザリアの目を見てきっぱりと言い切った。
「もし許されるのであれば……今度こそは、僕が率先して巨人を倒します」
「そうか」
この男性兵士の瞳は綺麗だ、とロザリアは思う。
憎しみや恐怖の邪念に囚われず、ひたすらに前だけを見る、濁りのない瞳。
――――彼はきっと、人類の進撃の刃になる。
「君、名前は」
そこで彼は、自分が名乗っていない事にようやく気付いたようだった。立ち上がり、恥ずかしさから若干顔を赤らめながら名乗る。
「はっ!グレイ・シャールと申します!」
ロザリアもまた、視線を真っ向から受けた。
「グレイ・シャール」
名を呼ばれたグレイは敬礼をとる。如何なる罰も甘んじて受ける、という決意を秘めた顔である。
だが――――ロザリアは、予想と百八十度反する答えを出した。
「もっと修練に励むがよい」
「はっ………はいっ?」
「それが、君が今一番できる事であろう」
「…………………………」
話は終わったとばかりにソファーに再び腰掛けるロザリア。対するグレイも、脱力したようにへなへなとソファーに座り込んだ。
「あの……宜しいのでしょうか」
「何」
「僕が、この程度で許されるなど」
「この程度、ではないでしょう」
すっかりくつろいでいるロザリアは、焼き菓子を一つ口に放った。香ばしい蜂蜜の甘い味が口の中に広がる。
「巨人を率先して倒したいのならば。血の滲むような努力をしなさいとわたしは言った。君は努力し、進化し続けなければいけない。それは敵前逃亡した君の責任。今考えられる最大の罰し方でしょう」
その予想外の言葉にグレイは瞠目し。
失礼ながら少しおかしなひとだなあと思い、笑ってしまった。
その時だったのである。
異常事態を知らせる警鐘が、町中に鳴り響いたのは。