「どうして顔が変わってんだ!?」
「何これ!? 訳分かんない!?」
「お前、男だったのか!?」
「そっちこそ! 大学生とか言っておっさんじゃねーか!?」
その時、世界は崩壊した
ゲームでありながら現実であると言う普通ではあり得ない現象
それが世界初のVRMMORPGソードアート・オンラインの世界で起きていた。
「嘘だ……嘘だ……」
開始から数時間、突然の強制転移でプレイヤー達は始まりの町へと収集させられる
そしてゲームの製作者である『茅場 昌彦』から衝撃の事実を言い渡された。
それは体力が0になると同時に強電磁パルスを発生させて脳を破壊するというものであった
それを聞いたプレイヤー達は混乱。
その中に茅場昌彦は更なる爆弾を投下する
それはプレイヤーの姿形を現実と同じにするという手鏡だった。
プレイヤー達は更なる混乱に襲われ行動不能になる
そして、そんなプレイヤーの中に彼も居た。
「嘘だ……こんなのありえない。そうだ、これはゲームなんだ。現実と同じになるはずがない」
そう言いながら少年は持っている手鏡をもう一度覗き込む
そこにはまだ幼い顔立ちの見慣れた自分の顔がある
見たくもない現実がそこにはあった。
「ああぁぁぁぁぁぁ」
少年は人混みの中を駆け出す
何処へ行く? 答えはない。ただ、現実から逃げ出そうとしただけだった。
「はぁはぁはぁはぁ」
人混みから逃れ町の端
そのベンチに少年は横になる
そして眼を閉じて願う。どうか眼を覚ましたらこの悪夢から起きれますようにと
空は紅く輝いていた……
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
眼を開けた少年が見たのは青く澄み渡った空だった
「……ログアウト……」
メニューを開けてそれを探す
だが、その様なボタンは存在していなかった。
「……ははは」
少年は自らを嘲笑う
それはこの悪夢が現実であると認識した事を意味していた。
「……」
空を見上げてそのまま停止する
何も考えない、思考を停止させる
それは少年がよく使う現実逃避の方法だった。
何も状況が変わらないのは分かっている
しかし、少年には現実を直視するのは厳しかった。
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
そうしていてどれだけの時間が経ったであろうか、気付けば太陽は真上にあった
「おヤ? もしかして君ハ……」
聞こえてきた声に少年は横へと向く
そこには顔にヒゲのフェイスメイクをした鼠をイメージさせる顔の女性が居た。
「もしかしテ、もしかするのかイ?」
「……誰ですか」
僕を現実に戻すのは? 最後の言葉を少年は飲み込み女性を見る
そしてその特徴から彼はある人物を思い出す。
「……鼠」
ボソッと呟いたその一言に女性は過剰反応ともとれるくらいのオーバーリアクションをとる
そして少年にはやはりその反応に覚えがあった。
「本当にもしかしてスー坊かイ?」
「ええ……あってますよ。鼠のアルゴさん」
少年の言葉にアルゴと呼ばれた女性はまたオーバーアクションをとる
それが少年には懐かしかった。
「こんな所でまさか会えるとは思わなかったヨ。何をしてるんだいスー坊?」
「……空を見てました」
少年は素直に答える
その答えにアルゴは頬を掻いた。
「何だイ、ここに面白いクエストがあってそれの条件か何かかイ?」
「……何もしてなかっただけです」
少年は苦笑する
その苦笑にアルゴはまたもやオーバーアクションをとった。
「あのスー坊が時間を無駄にしているだっテ!? どうしたんだイ、何かあったのかイ?!」
「……元気ですね、アルゴさん」
少年は呆れながらアルゴを見る
アルゴはにゃハハハと笑いながら少年の隣に座った。
「それデ、本当にどうしたんだイ? スー坊なら今日にはダンジョンにアタックしてると思っていたヨ」
「……こんな状況ですからね」
その言葉は暗に喋りたくないと言っていた
その言葉にアルゴは苦笑する。
「そうかイ。ところでスー坊、面白い情報があるんダ」
「……その情報を買えと?」
アルゴはちっちっちと指を横に振りながら笑い、突然真剣な顔になる
「……この情報はただでもいいヨ。調べれば誰でも分かる情報だからネ」
「?」
その真剣な顔に少年は首を傾げる
少年の知っているアルゴと言うプレイヤーはどんな時にも人を小馬鹿にした様な態度をとるプレイヤーだったからだ。
「昨日までに既に100人以上のプレイヤーがこの世界から消えタ」
「! それは……」
もし、茅場昌彦が言った事が本当なら既に100人以上の人達が死んでいる事になる
そして、少年にはあの言葉が真実であると分かっていた。
「そしテ、その過半数が元βテスターだヨ」
「そんな!」
「テスターだった事が逆に仇になったネ。大体の奴等は凡ミスで消えたらしいヨ」
「……」
少年は自分が昨日の内にフィールドに出ていたらと想像する
途中でエネミーに囲まれて体力が0になるまで幻視できた。
「はぁ、はぁ」
少年は想像しただけで息を荒あげる
その様子を見ながらアルゴは言った。
「消えた奴等が帰ってこない事からアイツが言った事は本当だと分かるヨ。もっとモ、スー坊は最初から分かってたみたいだけド」
「……理論的には可能ですからね。それに、天才が考える事は予想できない」
少年は苦笑しながらアルゴを見る
アルゴは未だに真剣な顔であった。
「スー坊、さっき昨日死んだのはテスターが過半数だってオレっちは言ったよナ?」
「……ええ」
「なら、今日はどうなル?」
「……!?」
少年は少し考えてから眼を見開いた
「流石スー坊ダ。これだけでもう答えが出たんだナ」
「……今日からはビギナーがフィールドに出やすくなるって事ですね」
「正解ダ」
昨日までは混乱してビギナーの者達は何かのイベントだとフィールドに出なかった者が多い
しかし、1日経って救援が来ない事が分かればどうなる?
ビギナーの者達は状況打破の為にフィールドに出るのではないか?
仕様も分からずエネミーの前に姿を出せば……
「明日、明後日には3倍……イヤ5倍の人数が消えるだろうナ」
「……」
それは少年にも簡単に分かった
「だかラ、俺っちはこれを道具屋に置くつもりダ」
「? これは……」
アルゴから渡されたのは小さなメモ帳の様なモノだった
少年はそれをパラパラとめくる。
「……初心者へのマニュアルですか?」
「あア。オレっちが覚えている情報の総てをそれに書き込んであル。勿論、βテスター時代の情報だと添えてナ」
少年はそれをアルゴに返すと空へと視線を向けた
「……βテスターであった事を明かすんですか」
「それで一人でも多くの命が救えるんなら本望だヨ
まぁ、情報屋として顧客を増やすのも目的だけどナ。にゃハハハ」
そう言い笑うアルゴに少年は苦笑する
「アルゴさんは凄いや。僕なんか取り乱して他の人を構う余裕なんてなかった……」
「にゃハハハ。それはスー坊、大人の余裕ってやつだヨ」
そこでアルゴはまたも真剣な顔になった
「……けど、オレっちのこのガイドブックには決定的に足りないものがあル。なんだか分かるかイ?」
「……確証性ですか?」
「そうダ、それが決定的に足りなイ。所詮これはβテスト時点の情報ダ、一番大切な正確な情報が本当かどうか分からなイ」
「……」
そこで少年はアルゴが自分に話しかけてきた理由が分かった
「……僕に情報の確かめをしろって言うんですか?」
「お願いだヨ、スー坊」
アルゴは眼を伏せながら言う
「この街に残っている元βテスターはもう殆どいなイ。居たとしても部屋に閉じこもっている連中ばっかりでオレっちの頼みなんか聞きゃしないのサ」
途方にくれているところでスー坊を見つけたのさ。とアルゴは少年にサムズアップした
「……」
「スー坊がなんでまだこんな所に残ってるのかは知らなイ。だけど頼むヨ、他の奴等に頼むのは遅すぎたんダ」
もしアルゴが他のβテスターを追ってこの街を出て行ったとしたら情報の伝達に一日以上かかるだろう
それだけの時間にいったい何人の人が消えるかは予測できない。
「……少しだけ時間をください」
少年は頭を抱えながら言葉を口にする
少年は悩む、自分の善意とコンプレックスに
「……時間はあまりないヨ」
「分かっています。せめて3日の猶予をください」
それまでに覚悟を決めます。と少年は言い切った
「……分かったヨ。スー坊に任せル」
少年の言葉にアルゴは頷いた
普通ならその様な時間は無い。しかし、アルゴにはどこか確信があった
(スー坊ならオレっちの想像の斜め上を行ってくれる)
それは情報屋としての勘と少年がβテスト時にやったある事が主な理由だった
(さテ、どんな行動をとるのかナ? “未開の探索者”様ハ)
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
(それデ、スー坊はいったい何をやってるんダ?)
アルゴが少年の下から去って数十分後、動き始めた少年は広場の前に居た
未だに多くのプレイヤーが集まっている場所である。
(さっきから左右を見たり頭を抱えたリ、いったい何をしようとしてるんダ?)
そして更に数分後、少年は腰に装備しているナイフを抜く
その行為に何人かのプレイヤーはギョッとした態度を見せたが、少年の奇行に気付いた者は少ない。
「……出来る、“俺”はなんだ。“俺”は誰だ?」
(何をブツブツ言ってるんダ? ナイフなんて抜いテ?)
聞き耳を立てていたアルゴの耳に次の瞬間、正気を疑う声が聞こえてきた
「俺の名前は『スター』! 元、βテスターだ!!」