「“俺”は元、βテスターだ!」
広場に響いた少年の言葉
広場に集まっていたプレイヤーの殆どが少年へと眼を向ける
少年は自分に注目させる事が出来たからか不敵に笑った。
「注目してくれてありがとう。さっきも言ったが俺の名はスター。βテスト時にテスターとして前にこのゲームに参加していた」
少年の言葉に広場のプレイヤーはざわめく
殆どのβテスターは既にこの街を去っている、今この少年はなんの為に自らがβテスターだと名乗りを上げたのか、その目的が理解できない。
「この広場に集まっているプレイヤーは殆どがビギナーか、または仕様が分からない人の方が多いと思う」
少年の言葉は広場に響き、集まっていたプレイヤーのざわめきが増える
それは少年の言っている事が当たっている事を示していた。
「俺は3日後この街を出ていく。だけどその前に、俺はこの街に居るプレイヤーにスキルの使い方や最低限の動き方を教えたい!」
少年の言葉に更にざわめきが広がる
それは少年の言葉の意味を測りかねているからだ。
「なぁ、少しいいか?」
少年の近くに居た青髪の男が少年に疑問の声をかける
「なんだ?」
「俺達に仕様を教えてくれるのはありがたい。が、それをして君になんの得がある?」
それはこの広場に居る誰しもの疑問であった
βテスターだと思われるプレイヤーはビギナーなどにも眼をくれずこの街を出ていった
それが今更なぜ自分達にそんな事を教える気になったのか……
「それは……」
「それは?」
少年は眼を閉じて空を見上げる
そして決心した様に眼を開いて皆をみた。
「……俺がそうしたいからだ!」
少年の言葉が広場に響き渡る
少年の言葉を理解するのにプレイヤー達は数分の時間がかかった。
「……そうしたいから?」
「そうだ! 一人でも多くの人を生き残らせたい、一人でも多くの人の助けになりたい、そう思ったから俺は元βテスターである事を言った!」
元βテスターであると言うのはそれ相応の経験、そして情報を持っている事に他ならない
それは嫉妬や逆恨みをかけられる理由にもなりかねない。
つまりこの場でそれを喋ると言う事はデメリットを抱えてメリットの半分を捨てると言う事だ
「頼む、俺に一人でも多くの人を救わせてくれ。誰の為でもない、俺の為に。そして……現実で待っている人達の為に!」
人はそれを偽善ととるか独善ととるかそれとも子供の戯言ととるかは分からない
しかし、少年の眼はまるで星の様に輝いていた。
「え~っと、スターだっけ?」
「ああ」
そして、その輝きに魅せられた者は少なからず居た
「俺達に指南してくれよ。生き残る為に」
「ああ!」
最初の一日は十にも満たない人数しか少年の下には集まらなかった
まぁ、不審に思うのもしょうがない。下心なしなんて言葉を信じる者は少ないのは当たり前だ
しかしその次の日、そして最終日、少年の下には数百を超える者達が集まっていた。
「行っちゃうんだね、星君」
「はい。これから先に行く人達の道を確かめに行く為に」
数百人に見守られながら少年は門の前に居た
「また戻ってきます……それまでこの街の人達をお願いします」
「ああ、分かった」
少年に心を動かされビギナーの為に動き出した元βテスターの者達が数人
その者達と共にビギナーを教える事が出来るようになった者達が数十人
そして、その者達に教えられた者達が数百人。
それが少年がこの3日で成した成果だった
「それじゃあ、行ってきます」
少年はそう言い始まりの街を出ていく
その後ろ姿に何人かの者達は敬礼をした
そしてその者達は後に軍と呼ばれる
そしてそのギルドの正式名称は『星に導かれし解放軍』であった……
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
「それでアルゴさん、僕はまず何処へ行けば良いですか?」
フィールドで彼は呟く様に聞く
彼の周りに人影はない。
「やっぱり気付いてたんだナ」
そんな中、草陰からゆったりとアルゴが出てきた
「いちおう索敵のスキルを持ってるんで」
「オレっちの隠密よりも高いとかどれだけ上げてるんダ? これでも隠密はけっこうあげてるんだゾ」
苦笑しながらアルゴはメニューを開いてメモ帳を見る
そしてパラパラとメモ帳を捲り、そして閉じた。
「最初ははじまりの谷のクエストとモンスターの確認だナ。スー坊なら3日もかからないカ?」
「3日もいりません。1日でやります」
準備運動で少年は屈伸を始める
そんな少年にアルゴは疑問に思っていた事を聞いてみた。
「どうしてスー坊はあんな事をしたんダ?」
「皆を鍛えた事ですか?」
アルゴは頷いて少年を見る
「……僕は現実では軽い引きこもりです」
「? スー坊がカ?」
アルゴの知るスターと言う少年は謎のカリスマを持つ少年だった
そのカリスマは多くの人達と魅了していたと思っている。
その少年が現実では引きこもりなどとは思えなかった
「ちょっと理由があって学校にもあまり行ってないんですよ」
苦笑しながら少年は話を続ける
「それでも僕は人との繋がりを欲していました。そこで出会ったのが……オンラインゲームです」
少年はそれに魅せられた
たとえ遠くに居たとしても人と繋がれるその便利さ、そしてその匿名性に。
「相手の顔を見なくてもネットの中で人と繋がれる、それに僕は助けられました。そして学んだのが自分を偽る事です」
「自分を偽る?」
人を偽るのではなく、自分を偽る
それはまるで仮面の様に自分の心を変えるということだ。
「多重人格ってあるじゃないですか、僕の場合は自分をそれに見立てます。普通のオンラインゲームならゲームをしている時、そしてナーヴギア系のゲームではナイフ……武器を手にした時に意識を切り替える」
そう、武器を持った時少年は現実の自分ではなく本当にゲームの“スター”になるのだ
「……デ、なんであんな事をしたんダ?」
「そこは察してくださいよ……」
イヤ、アルゴはなんとなくだが察しているのだろう
だが、その言葉を少年から聞きたいのだ。
「はぁ……人との繋がりがほしかっただけです」
そう、少年の行動理由はそこに収束されるのだ
たとえ本当に繋がっていなくても一人でも多くの人と繋がりを持ちたい
オンラインゲームという仮想空間の中で現実とは違う自分で人と繋がっていたい。
それが少年の心だった
「それじゃあ、行きます」
そう言い少年は走り出す
アルゴはそんな少年の後ろ姿を見て考える
(結局、なんであそこで燻ぶってたかは聞けなかったナ。現実で引きこもりだったのが原因カ?)
それならばあそこまで皆の前ですらすらと話せるのは可笑しい
(もしかしテ、自分を偽ると説明してきたのはそれでカ? だが、結局のところは分からないナ)
ただ一つだけ、少年は自らの本心を言い切っていない
それがアルゴの分かった事だった。
(いずれは喋ってもらおうかネ。相手の情報を全て把握すル、それも情報屋の楽しみだヨ)
彼女は情報屋として少年ほど個人を調べ尽くす事はほとんどない
その事が少年に惹かれていると言う結論に達するまで多くの時間を彼女は費やすのであった。
そう、彼女も星に魅せられた一人なのである