ゲームが始まって一か月、プレイヤーの死亡数は千人を超えた
しかし、これはこのゲームで予測されていた死亡数の半分である
そして、この死亡数の低さの原因は尽力をつくした、はじまりの街の元βテストプレイヤーの力である。
しかし、まだプレイヤー達は二階層にまで辿り着いていなかった
それはあの少年でさえ例外ではない。
「これより、ボス攻略会議を始める!」
そしてやっと彼らはボスの部屋を見つけボスの攻略を始めようとしていた
攻略プレイヤー達が石で造られた舞台を囲むように座っている
そして、舞台の上には水色髪の男が一人。
しかし、その場に少年の姿は無かった……
「俺の名前はディアベル。職業は……気持ち的にナイトやってます!」
だが、会議は進む
それは当たり前の様に
そう、当たり前だ。
少年は一端のプレイヤーであり、ボス攻略に必ず必要な人材ではないのだから
「ちょっと待ったー!」
そんな会議に水を差すようにある男が上から現れる
その男は不恰好に石段を二段飛ばしで走り下り、一番下の舞台の上に降り立った。
「ワイの名前はキバオウ言うんや。ボス攻略の前に一つ言わせて欲しい事がある」
「ん。どうしたのかな?」
ディアベルと言う男がトゲトゲ頭のキバオウに声をかける
キバオウは舞台を囲むように座っているプレイヤー達に向けて指をさした。
「この中に謝らならん奴が居るんちゃうか」
その言葉に何人かの人物が身体を固くする
それは分かる人には分かる言葉だった。
「……キバオウ君、それはここに居るかもしれない元βテスターのことかい?」
「そうや。ここに居る元βテスターはビギナーを見捨てたくそ外道や!」
キバオウは囲んでいるプレイヤー達を睨む
それはその中に居るはずの元βテスター達への憤怒の眼だった。
「ワイは許せんのや、ビギナーを見捨ててクエストやモンスターを狩りに出ていった元βテスターを。そして、そのまま何もビギナーにしない元βテスターを許せんのや!」
キバオウは叫ぶ
「皆も許せんやろ?! ワイは許せん。そんな奴等と一緒に皆はボス攻略が出来るかいな?!」
周りのプレイヤー達もざわざわとざわめく
そんな中、その言葉に反応する様に一人の男が手を上げた。
「……ちょっといいか?」
「なんや?!」
手を上げた男は大柄な体系の男だった
黒く焦げたその肌からは歴戦の戦士の様な風格を漂わせている。
「俺の名前はエギルだ。さっきの発言だが、元βテスターに賠償と謝罪をさせようと言う訳か?」
「そ、そうや!」
そう言われるとエギルは後ろのポケットからあるメモ帳を取り出す
「このガイドブック、これは元βテスターが配布している情報だ。道具屋に無料配布されている。それでもビギナーに対して謝罪や賠償をさせるつもりか?」
エギルの言葉に対してキバオウは言葉が詰まった
確かに、元βテスターに対しては言い過ぎたかもしれんと。
「せやな……けど、謝って欲しい相手はビギナーやない」
「……何?」
エギルの言葉にキバオウは同じメモ帳の様なものを取り出す
「このガイドブック、誰が書いとるか知っとるか?」
「それはこの作者のアルゴと言う者だろう?」
エギルの言葉にキバオウは鼻を鳴らす
「そうや。じゃあ、この情報の裏どりは誰がやっとるか知っとるか?」
「む、それは……元βテスターじゃないのか?」
キバオウは指を横に振る
「そうや。けど、それは何人か知っとるか?」
キバオウはまるでクイズをしてるかの如く周りのプレイヤーを見る
周りのプレイヤーも顎に手を当てて考えている。
「……普通に考えたら10人以上の人出が必要だな、このガイドブックの正確さは」
「そうやろ、そうやろ。普通は二桁くらいの人が必要や」
頷きながらキバオウはガイドブックをたたく
「大量のクエストやモンスター情報、それの攻略法から弱点まで書かれとる……これをしてるのは一人だけや」
その言葉を聞き、何人がその言葉をしっかりと理解できたであろうか
たとえ理解したとしても頭がそれを否定するであろう。
「まさか……」
「信じられんやろう? この情報を全部一人で確認してるんや。ただの一人でや」
キバオウはそう言って空を見上げる
それは誰にも知られず今でも一人で走り続けているであろう少年に向けていた。
「あの人は本来ならここに居ても可笑しくない人や。それが居ないっていうんは今でも情報の確認をしてるんやろな」
「……それで、その人はなんてキャラネームなんだ?」
エギルの質問にキバオウは鼻を鳴らして答える
「“スター”はんや」
その名前を聞いて何人もの者が反応した
それは元βテスターやはじまりの街で教わった者など、集まった者の殆どの者だ。
「その反応やとスターはんを大体のもんが知っとるようやな。なら、あの人がここに居ないのは可笑しいと分かるやろ」
キバオウの言葉に何人かの者が頷いた
「あの人がここに居らんのは元βテスター達が協力せんせいや。本来ならスターはんがここに居らんはずが……」
キバオウが次の言葉を言おうとした時、上からの言葉がそれを妨げた
「そこまででいいよ、キバオウさん」
石段の最上段
そこからフードを被った者が現れた
「あ、あんたわ!」
「よっと」
その者はキバオウの様に石段を何段か飛ばしで降りてくる
しかしその様はまるで空を歩いているかの様に軽やかだった。
「僕が好きでやってるんですからそれを他の強要させちゃ駄目ですよ。それに、そんな事で不和が生まれる方が僕は困ります」
「そ、そんな事って……」
被っていたフードをとりその者は笑う
もちろん、その者こそスターであった。
「僕の事を考えてそう言う事を言ってくれるんですよね、ありがとうございます」
歳相応の笑顔をキバオウに見せて少年は周りのプレイヤーを見る
周りのプレイヤーは少年を見て様々な反応を見せた。
そしてそれを少年は笑う
「知ってる人は知っていると思いますが、スターと言います。後から来た身ですが、僕もボス攻略に参戦させてもらいます」
その言葉に何人ものプレイヤーが雄たけびをあげた
それは少年のβテスト時を知る者達であり、少年を信用する者達だった。
「ははは。それじゃ、続きをお願いします。え~っと……」
「あ、ああ。僕はディアベルって言うんだ。よろしくね、スター君」
「はい、よろしくお願いします」
スターはそう言い石段を登ろうとする
「あ、スターはん。どうですか、ワイ等とパーティー組みませんか?」
が、キバオウにパーティーに誘われて足を止める
「……イエ、今回僕は遊撃部隊に回ろうと思います」
スターはキバオウのパーティーだと思われるメンバーを見て、誘いを断る
そして、自分が遊撃をすると告げた。
「な、スターはんが遊撃ですか?!」
スターの言葉にキバオウは驚きで声を荒あげる
それはスターが前線の部隊で指揮をとると思っていたからだ。
「……今回、僕は指揮をしません。それは元βテスターでなくともボス攻略は出来ると皆に知らせる為です」
そうする事でより速くこのゲームは進めるはずだと少年は言う
だがそれはより多くの者達を危険にさらす事になる。
「少しでもこの世界に絶望する人達が減らせるなら……僕は皆を信じます」
少年は皆を信じる
そう言い上段へと上がっていった。
「ははは。これは責任重大だな」
苦笑いをしながらディアベルは会議を進めていく
そして会議は何事もなく終わった。
ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー
会議が終わり少年は外で夕食を食べていた
「……うん。やっぱりあのクエストで手に入る弁当は美味いな」
その手に持っているのは中々に豪華な弁当
周りに居る何人ものプレイヤーがそれを羨ましそうに見ている事から美味しそうなことが分かる。
「……ん?」
そこで少年が顔を上げると前方でパンを食べている二人を見つけた
だが少年の視線はパンではなくそれに付けているバターに向かっている。
(あれはもしかして……)
気になった少年は食べていた弁当をしまい二人の下に向かう
「すみません、ちょっといいですか?」
そして声をかけた
声をかけられた二人の反応は違った。
「……」
フードを被った者は特に何も言わず少年を見る
もう一人の少年と同じぐらいの歳だと思われる少年は……
「あ、えっと……どうした?」
額に汗をかいて動揺していた
少年はそこまで驚くのはどうかと苦笑いをする。
「さきほど付けていたバターの事を教えてもらおうかと思いまして。まだそのクエストをやってなかったんで……」
「あ、ああ。それなら……」
少年と同じ歳ほどの少年は少年にバターを入手したクエストの事を教える
少年はその事をメモすると、前と変わりはないな。と呟きアルゴに向けてメッセージを飛ばした。
数分後、了解した。と言うアルゴのメッセージを読んで少年は頭を下げる
「ありがとうございました。おかげで一つクエストに行かないで終わりにする事ができました」
「ああ、こんな事ぐらい気にするな」
少年は頭を上げて二人を交互にじっくりと見る
そして、何かを考えた後、ふとした拍子に手をたたいた。
「確かボス攻略会議にいましたよね?」
「い!?」
少年の言葉になんで知ってるんだと言わんばかりに驚く同じくらいの少年
フードを被った者は不審げな眼で少年を見ていた。
「二人は遊撃のパーティーですか?」
「あ、えっと、ま、まあな」
しどろもどろになりながら同じくらいの少年は少年の言葉に反応する
その様子にフードを被った者は更に不審げな眼を少年に向けた。
「もし良ければパーティーに入っても良いですか? 足は引っ張りませんから」
「へ?! あ、お、俺は良いけど……」
そう言い同じくらいの少年はフードを被った者を見る
なんとなしに少年には同じくらいの少年が嫌がっている様に見えた
が、理由が分からないので黙っておく。
「……別にかまわない」
フードを被った者がそう言うと同じくらいの少年はため息を吐きウィンドウを開く
目の前に現れたパーティー加入の誘いを促すウィンドウに少年は肯定の選択肢を押した。
「……?」
パーティーに加入した事により二人の名前が少年にも見える様になる
そして、少年の眼はパーティーリーダーの名前を捉えた。
「『Kirito』?」
少年はキリトと言うキャラネームの少年を見る
キリトと言う少年は顔を伏せていた。
二人の様子にフードを被った者は首を傾げる
「キリトって……ああ」
少年は分かったとばかりにキリトと言う少年にフレンド申請を送る
キリトと言う少年は目の前に現れたウィンドウに少し考えてから肯定のボタンを押した。
それを見て少年はキリトと言う少年にプライベートメッセージを送る
《久しぶりって言えばいいのかな? 君は生き残っていたんだね、キリト》
《ああ、久しぶりだな。βテスト以来か、星》
二人の少年は同時に苦笑した