幸運の星のキセキ   作:@T

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最初の難関

「それにしても、まさかキリトに会えるとは思ってなかったよ」

「そうか? 俺がゲームをやってるならいずれは会えると思ってたろ?」

 

 現在、少年はキリトが拠点にしている部屋でキリトと会話していた

 他に人も居ないので普通に会話している。

 

「ははは。それでもこんなに早く会えるとは……ね」

「そうだな。それにしても、星があの本の確認をやってるとは思わなかった」

 

 二人の関係はβテスト時のソロパーティー仲間である

 情報を交換したり経験値稼ぎを二人でしたりなど、βテスト時に一番仲良くなったと少年は思う。

 

 

「そういやあのクエストはやってないのか?」

「ああ、あのクエストは簡単だしやらなくて良いかなって……」

 

「あのクエスト俺はやったから情報やるよ」

「あ、ホント? それはありがと」

 

 そんなたわいもない会話を二人はする

 そして気が付けばけっこうな時間が経過していた。

 

「そろそろ帰ろうかな。明日はボス戦だしね」

「ああ、そうだな」

 

 その会話はデスゲームとは思えないほど穏やかであった

 二人も会話中は自分達がデスゲームをやっているとは感じなかった。

 

 しかし、現実にも最初の壁であるボス戦が始まろうとしている

 

「星」

「ん?」

 

 部屋を出ていこうとしていた少年にキリトは声をかける

 実際、何故自分が少年を呼び止めたのかキリトには分からなかった。

 

「……明日は無事にクリアしような」

「……そうだね」

 

 少年は笑っておやすみと部屋を出ていった

 少年の口からはキリトが期待していたキリトを非難する言葉は一切出てこなかった……

 

(イヤ、アイツは人に恨み言を言う様な奴じゃなかったか……)

 

 キリトは自分の考えに苦笑しながら眠りについた

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

「「「……」」」

 

 ボスのフロアまでの道のり

 彼等遊撃部隊の三人は会話をあまりしなかった

 と言うのも、フードを被った者が少年を警戒していて会話をしなかったと言うのが正しい。

 

「……僕は先に言ってるね」

 

 その事が分かった少年は前のグループとボスでの立ち回りをすると言って前の組に合流する

 それを見たフードを被った者はキリトへ話しかけた。

 

「……貴方も元βテスター?」

「! ……そうだ」

 

 聞かれたキリトは周りに聞かれていないか警戒しながら肯定した

 

「……あの人は何であんなに皆に期待されてるの?」

「? スターの事を聞いた事はないのか?」

 

「……」

 

 フードを被った者は頷く

 キリトはそれを見ると懐かしむ様に話した。

 

「βテスター時代、ボスのフロアに最初に辿りついたのはアイツだった。俺達元βテスターが行けた最高層の8階層、そこまでのボスは全てアイツが見つけたんだ」

 

 元βテスターの中でスターの名前を知らない者はいなかったであろう

 誰よりも速くボスのフロアに辿り着き、パーティーを組んでボスを攻略する最前線に少年はずっといたのだ。

 

「……凄い」

「だな。最初は俺も半信半疑だったさ」

 

 3階層でのボス戦の時、少年とキリトは同じパーティーだった

 そしてそこでキリトは“スター”の力を見たのだ。

 

「今の様な軽装備でアイツは前線に居た。ボスの行動を見切って誰よりもダメージを与えていた」

 

 スターが誰よりも優れているもの、それは適応力である

 その慣れの速さは他の者の追随を許さない

 そして、それを駆使した立ち回りは見事の一言であった。

 

「そして……アイツは不可能と言われた事をやってのけた」

「不可能?」

 

 キリトは苦笑して続けた

 

「……“単独”でのボス攻略。アイツはそれをやってのけた」

「? それって凄いの?」

 

 フードを被った者の言葉にキリトはずっこける

 残念だが、元βテスターでなければボスの強さなど分からないのだ。

 

 と言っても、道具屋でもらえるガイドブックにはボスの事も載っているので

 情報収集をしっかりやっていればボスの強さは分かるだろう。

 

「はぁ、アンタまさか道具屋のガイドブックをもらってないのか?」

「……」

 

 無言は肯定である

 キリトはため息を吐いて説明した。

 

「ボスはそこらのエネミーよりも体力、攻撃力、防御力が高い。それに周りに雑魚エネミーを従えてるからパーティー数組が組んで攻略するのが普通だ」

 

 そう、パーティーを組んで闘う事を前提としている

 

「……それをアイツは殺ったんだ。誰の手も借りずにな」

 

 7階層のボスフロア

 攻略組がパーティーを組んで入ったそこには少年が居た。

 

 弾け飛ぶポリゴン、振り上げられた少年の武器、フロアに響くファンファーレ

 それは少年がフロアボスを攻略した事を告げていた。

 

「そしてこっちを向いてアイツはこう言ったんだ。“遅かったな”ってな」

「……」

 

「それでアイツはこう呼ばれたよ、未開の探索者って」

 

 誰も行ったことがないと言われる9階層

 そこに踏み込んだのは少年ただ一人。

 

「誰よりも強かったよアイツはな」

「……そう」

 

 キリトの話を聞いてフードを被った者は少年の警戒を少しといた

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

【グルルルル】

「A隊B隊は前に出てボスの攻撃を弾いて。D隊E隊はボスに隙が出来たらスイッチ。その他遊撃隊は周りのエネミーを狩って!」

 

 ディアベルの指示に従って前に決められていた配置につく

 少年はキリト達との三人で周りのエネミーを狩っていた。

 

「星、スイッチ!」

「オーケー!」

 

 キリトの声に従って隙の出来たエネミーに少年はナイフを突き立てる

 そして後ろに回り込んでナイフを引き抜く。

 

「スイッチだアンタ!」

「ふっ!」

 

 エネミーを蹴り飛ばし、そこをフードを被った者がレイピアで貫く

 フードを被った者は少年が考えていたよりも手練れだった。

 

「上手いなアンタ、本当に初心者か?」

「え、ええ」

 

 少年の変わりように戸惑いながらもフードを被った者は言葉を返す

 三人が雑魚エネミーを狩っている中、ボスの体力は残り二割を切った。

 

【グラアァァァァ!】

 

 雄たけびをあげながらボスエネミーは持っていた剣と盾を投げ捨てる

 それはガイドブックに載っている内容そのままだった

 そしてそれは少年が前に見たことのある行動だった。

 

「僕が決める!」

 

 それを見てディアベルがボスの前へと躍り出る

 それを見て少年とキリトは疑問を浮かべた。

 

(ボスのセオリーは囲んでそのまま圧殺するだったはず、幾ら体力が少なくたって一人で……)

(ガイドブックには最後まで気を抜かず皆でボスに挑めって書いてあったはずだ。一人でボスに挑むならそれ相応の利益があるはず……)

 

 少年とキリトがディアベルに疑問の視線を向けていると……

 ディアベルと眼があった

 否、ディアベルが視線を合わせてきた。

 

 そこで二人は別々の考えに至る

 

(アイツ、俺達と同じ元βテスターか!?)

(アイツ、まさか!)

 

「「!」」

 

 そこで少年とキリトは気付く

 持ち替えた武器はβテスト時と違って曲刀型ではなく鉈

 それを見た彼らの行動は別れた。

 

「気をつけろ! 武器が情報と違う!」

「!」

 

 キリトはディアベルに警戒の声を上げる

 少年はそんなキリトの声を背中に駆け出した。

 

【ぐおおぉぉぉぉぉぉ!】

「な!」

 

 先ほどまでとまったく違う動きをボスは見せる

 横に建っていた柱を足場に空を跳ぶ

 その動きは先ほどよりも速い。

 

「くそ!」

 

 ディアベルはその動きに眼をあわせようとするが、動きが合った時には既に後ろをとられていた

 

「ディアベルはん!」

「!」

 

 そして、無慈悲にもボスの剣はディアベルに振り落とされた

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

ディアベルside

 

 僕には婚約者が居る

 プロポーズしたのは僕の方からだった。

 

 それが2年前。そう、2年前だ

 お金も溜まった、仕事も安定した

 これから、これからだったんだ。

 

 彼女との結婚生活を夢見てた

 籍も役所に持ってくだけだった。

 

 それがどうだ

 少し息抜きのためのゲームだった

 友人と遊びで出した応募に僕だけが当たってしまい友人に勧められるままβテスターとなり

 本製品を買ってプレイした。

 

 それがどうだ

 体力が0になったら現実でも死ぬゲーム?

 デスゲームだって? 悪い冗談だろ。夢なら覚めてくれ……何度そう思ったか分からない。

 

 一緒にゲームをやっていた友人と供に一階層を終わらせる為にダンジョンに潜った

 仲間には信頼された、友からは賞賛された。

 

 それでも……僕の愛した彼女はこの世界にいない

 友人は何時もそんな僕の顔を見ると謝ってきた

 そしてボスの場所に辿り着く前に……彼は消えた。

 

 不注意? 慢心? それともレベルが足りなかった?

 分からない。だが事実彼は消えてしまった「すまない」そう僕に残して……

 

 フロアボスに辿り着いたと聞いた時、僕は安堵のため息を吐いた

 疲れていたんだ。

 

 現実に残してしまった彼女、失ってしまった友人

 過ぎてしまった時間は戻せない。

 

 だからこそ、この世界に僕は未練が無かった

 一緒に戦ってきた仲間?

 結局は他人だ。彼が消えた時に塞ぎ込んだのは僕だけだった。

 

 最初のフロアで約1ヶ月だ。100層クリアするのにいったいどれだけの時間が掛かるか分からない

 現実に残してしまった彼女もそんなに長く待つのは苦痛だろう

 それならいっそ……

 

 僕の計画は簡単だった

 1階のフロアボスが武器を変えた時に突っ込んでいきヤラレル

 その為には皆に止められないようにしなければならない。

 

 その為に僕はリーダーになった

 できれば誰かに覚えていて欲しい

 誰かに“僕等”の意志を継いでもらいたい……なんて自分勝手なものだろう。

 

 そして、“彼”が現れた

 

 『スター』

 

 最前線に居た僕達の耳にも届いていた

 初心者に手を差し伸べた最初の一人にして最強のプレイヤー

 それが僕の認識だった。

 

 僕は一目見て確信した

 彼なら大丈夫だ

 僕等の意志を受け継ぎ、果たしてくれる。

 

 僕の予想通り彼は僕の意思に気付いた

 振り落とされる鉈を前に僕は嗤う

 

(あんな小さな子に僕は背負わせるのか)

 

 自嘲した所で何も変わらない

 僕はボスの鉈の攻撃を……

 

-----ガキーンッ-----

 

 受けることはなかった

 

 

side out

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

 甲高い音が辺りに響き渡る

 驚愕に眼を見開く皆の視線は一人に集中していた。

 

 エフェクトを散らす武器を持ちボスの渾身の一撃をその身一つで受け止める

 

「『シールドバッシュ』!」

 

 少年の声と共に武器がエフェクトを放ちながらボスの武器を弾く

 そしてそのまま武器をボスに叩き込みボスを弾き飛ばす。

 

「き、『騎士の盾』」

 

 キリトは眼を見開きながら少年の武器の名前を口にする

 それはこの階層ではあまり聞かない武器の名前だった。

 

「構えろ!」

 

 呆然とする皆の耳に少年の出した命令が飛び込む

 それに弾かれる様に皆は武器を構えた。

 

「A隊B隊はボスを牽制、動きが変わってるから気を付けろ。C隊D隊はスイッチ、A隊B隊の体力を注視してスイッチのタイミングを図れ。その他遊撃隊は周りにリポップされる雑魚を牽制しディアベルを守れ!」

 

 少年の指示に一瞬顔を見合わせた面々は直ぐに行動を移す

 少年はそれを見るとディアベルに近づいて行った。

 

「……」

 

 俯くディアベルの襟元を掴んで少年は無理やり立たせる

 そして彼にだけ聞こえる声でディアベルに言った。

 

「アンタが何を思ってたのかも知らない。アンタがどうしてこんな事をしようとしたかも知らない。だがこれだけは分かる。アンタは人として最低の事をしようとした」

「!」

 

 ディアベルは唇を噛む

 

「だったら、どうしたら良かったんだ!?」

 

 叫ぶディアベルの言葉に少年は静かに告げた

 

「生きればいいだろ。死ぬ事が一番最低な事だ」

 

 少年の最後の言葉は周りの皆にも聞こえた

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