幸運の星のキセキ   作:@T

7 / 8
恩人・前

 これは少し前の話……

 

 ゲームが始まってから10日程度のとある男達の話である

 

 

「糞がっ!」

 

 森の小道を全速力で駆け抜ける5人の男達

 その後ろからは多量の砂埃が舞っている。

 

「駄目だ! 逃げられねえ!」

「諦めんな! あの数じゃ確実に全滅だ!」

 

 後ろの砂埃の切れ目から見える

 そこには20を超える数のエネミー達

 それは突然彼等の前に現れた。

 

「いったい何だってんだよ!」

「どうして俺達がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」

 

 虚しく彼等の声が響いた……

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

 事の始めは数十分程前

 彼らが森を進んでいる時にそれは現れた。

 

「うわあぁぁぁぁ!」

 

 叫び声を上げながら壮年と思われる年齢の男が横道から彼等の歩いていた小道に出てくる

 その男は彼等を見つけると手を伸ばす。

 

「助け」

 

 だが、最後まで男は言葉を発することが出来なかった

 

【キシャアァァァ】

 

 男の背に向かって横道から出てきた何かが何かを振り下ろす

 

-----ガシャーーン-----

「嫌だ、嫌だ、嫌だーーー!!」

 

 男は叫び声を上げながらエフェクトを周りに撒き散らす

 そして彼等は男に襲い掛かる何かを視認した。

 

 それはこの森に居るエネミーの“フォレストリザード”

 リザード系の中で最弱と言われているエネミーだ。

 

【キシャァァァ】

「うわあぁぁぁ!」

 

 だが、厄介なのは彼等は仲間を呼ぶという事だ

 彼等は弱っているプレイヤーを集中的に囲んで狙う

 1匹1匹はたいしたことはないが、数体に狙われた場合厄介だ。

 

 だからこそ、彼等を狩る場合は3人以上のパーティーを組んで来ることを推奨されている

 だが、まだガイドブックが出回っていない時期、知らないで来てしまう者達も居る。

 

「あああぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして、そんな者達の最期を彼等は目の前にしてしまった

 体力が0になりポリゴンが周りに散っていく

 残る物は何もない。

 

【キシャアァァァ】

 

 リザード達が彼等に眼を向ける

 彼等は先程の光景を見て及び腰だ。

 

 今にも跳びかかってきそうなエネミーに彼等は思わず後退る

 

【キシャァァァァ!】

 

 そんな彼等の様子に好機と見たのだろうか

 リザードの中の一匹が大きく雄叫びを上げる

 それに呼応して周りのリザード達も雄叫びを上げ始める。

 

「な、なんなんや!」

 

 その様子に何かを感じた男が声を上げる

 その疑問に答えるかの様に小道の横にある草が揺れた。

 

【キシャァァァァ】

【キシャァァァァ】

 

 そこから現れる新しいリザード達

 そこで彼等は気付いた、逃げなければと。

 

「戻れえぇぇぇ!」

 

 一番後ろに居た男が声を上げながら後ろへと走る

 それに合わせて他の男達も来た道を戻る

 その様子を見たリザード達は彼等を追った。

 

「なんでこんな事になったんやー!」

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

 そして、話は冒頭に戻る

 

「くそっ!」

 

 男の一人が速度を緩めて後ろを見る

 

「何をやってるんだ!」

 

 それに気づいた横に居た男が叫ぶ

 止まった男は不適に笑った。

 

「このままじゃ全滅だ。なら、俺がこいつ等を引き付ける」

「何言ってるんだ!」

 

 前方を走っていた男も速度を緩める

 それに併せて他の男達も速度を緩めた。

 

「仲間を置いて逃げれるか!」

「ふざけるな! このまま全滅になるのと誰か一人の犠牲で済むのどちらがましだ!?」

 

「なら、俺も残る! ここに来ようと言ったのは俺だ!」

 

 そう言って男は横に逸れて後ろを走る男達を先に行かせた

 

「“クルエル”はん!? “ネラー”はん!?」

 

 走りながら男が残った男達のキャラネームを叫ぶ

 それに応えるかの様に残った男達はニヤリと笑った。

 

「“キバオウ”、街に行ったらここの危険性を街の奴等に教えてくれ」

「俺達の犠牲を無駄にしないでくれよ……俺を置いて先に行け!」

 

 残った男達にリザード達が襲い掛かる

 キバオウはそれを見ている事しか出来なかった。

 

 

 ……本来なら、街に帰ったキバオウはその森の危険性を知らせる

 が、その情報はβテスター達により既に知らせられており、彼等の死は無駄だと思い知らされる

 っして彼は思うのだ“βテスターがもっと速く情報を皆に知らせていれば彼等が死ぬ事はなかった”

 “彼等が死んだのは全てβテスターの所為だ”。

 

 そしてこうも思うのだ“もっと強い武器があれば良かったのだ、そうすれば自分は彼等を見捨てずに済んだ”

 “そうだ、何もかもβテスター達が情報を流さないのが悪いんだ”。

 

 八つ当たりだと彼にも分かっていた

 だが、そうしなければ彼は自分を保つことが出来なかったのだ

 仲間を見捨てた自分を、それを許容した自分を

 そして……それに耐えられず消えた他の仲間達を思うと……

 

-----ワイはどないすれば良かったんや!-----

 

 そうしなければ自分を保てなかった

 少しでも気を抜けば彼等の声が聞こえるのだ、“何故お前だけ生き残っている”

 “俺達の死は無駄だったのか”“お前も楽になれよ”“お前もあの時一緒に……”。

 

 勿論、そんな事は彼等も思っていなかっただろう

 しかし、彼には“キバオウ”には聞こえたのだ

 

-----ワイは……ワイは!-----

 

 自分勝手だと彼も分かっていた

 それが何時か自分の身を滅ぼすのも分かっていた

 だが、止まれない、止めれない。

 

 誰にも頼らず、誰にも頼れず前に進めるだけ進む

 弱者を強者が導くなどただの偽善だ

 そうしなければ思い出してしまうからだ、仲間達の事を……

 

 彼にとって本当の仲間とは消えてしまった仲間達だけだったのかもしれない……

 

 長々とした未来の話は止めよう

 それが本来の歴史だとしても、それが成る事は無かった。

 

「反転しろ!」

 

 突然の声に男達は前を向く

 声の主は自分達よりも10は低いかもしれない少年

 そして少年は男達を見ながらトップスピードで突っ込んでくる。

 

「うおっ!」

 

 それを見て男達は足を止める

 少年は男達の間を縫って後ろへと駆け抜けていく。

 

 少年は腰に備え付けている投げナイフを外して襲い掛かろうとしているリザードに投げつける

 ナイフはエフェクトを纏い蒼い軌跡を残しながらリザードの頭に突き刺さる。

 

「しっ!」

 

 そして手に持ったナイフをそのリザードの首に突き刺す

 クリティカルヒットを告げる紅いエフェクトを撒き散らしてそのリザードは爆散した。

 

「こいつ等の弱点は首だ! 首を狙え! 一体一体はたいした事ないぞ!」

 

 次のリザードを切り付けながら少年は男達に聞こえる様に声を上げる

 男達はその声に戸惑いながらも武器を抜き出した。

 

【キシャアァァァ】

「じゃかましいわ!」

 

 首へと一線

 男の剣は抵抗される事なく横へと抜けた。

 

「ほ、ホンマや! 勝てる! 勝てるで!」

「マジか! これはいける! いけるぞ!」

 

 男達が歓声を上げ始める

 だが、それに合わせるかの様にリザード達も雄叫びを上げ始めた

 それを聞いて男達は固まる。

 

 その様子で少年は何かを察したのか、大きく声を上げた

 

「経験値が増えるぞ! お前等、レベルアップチャンスだ!」

 

 獰猛に笑いながら少年は新しく現れたリザードへナイフを振り下ろす

 その様子に男達は顔を見合わせた

 自分達より小さい少年が自分達を鼓舞しようとしてるのだ、応えない訳にはいかない。

 

「行くぜおまえら!」

「フィーバータイムってやつだ!」

「戦争か? 戦争なんだな!」

「俺に付いてこれるか?」

 

「行くで! ワイ等は負けへん!」

 

 6人の男達がリザードの群れへと突っ込んでいった……

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

「あ~疲れた~」

「マジで死ぬかと思った」

「俺達の闘いはこれからだ」

「打ち切りエンドにしようとすんな」

 

「助かったわ、あんさん」

 

 殲滅が終わり男達はその場に倒れ込む

 少年も微笑みながらその場に座り込んだ。

 

「イエ、誰も死ななくて良かったです。僕でもこの先はキツイですから」

 

 ナイフを仕舞った少年は先程と違い穏やかに笑う

 

「……あんさん、もしかして元βテスターか?」

 

 突然のキバオウの質問に少年は眼を丸くするが、笑いながら肯定した

 

「はい」

「それなのになんであんさんはこんな所に居るんや? 本来ならダンジョンにアタックしとるんとちゃうんか?」

 

 キバオウの棘のある言葉に少年は戸惑う

 その様子を見てクルエルがキバオウを宥めに入った。

 

「そこまでにしとけよ、キバオウ。この子は俺達を助けてくれたんだ、この子がいなかったら確実に俺とネラーは死んでた」

「そうだな、クルエルの言う通りだ。俺達だけじゃ死亡フラグからは逃れられなかった」

 

 二人の言葉にキバオウは舌打ちをつく

 少年に感謝しなければいけない事はキバオウも分かっているが、それよりも速くこのゲームを終わらせて欲しい思いが勝っていたのだ。

 

「イエ、僕も本来ならダンジョンにアタックをかけてなければいけない立場です。すみません」

 

 だからこそ、頭を下げてきた少年に戸惑いをキバオウは覚える

 そして、改めて少年の姿を確認した。

 

 身長は自分達のお腹程度、がたいもそこまでよくない

 そこで彼は気付いた、自分よりも一回りほど小さい少年に自分は何を責めてるのかと。

 

「イヤ……ワイもすまんかった。あんさんを責めるのはお門違いやった」

 

 そう、この怒りをぶつけて良いのは“茅場晶彦”だけである

 

「イエ、僕は謝らなくてはいけません。僕はこれからもダンジョン攻略に参加する事が出来ませんから」

「なんやて?」

 

 少年の言葉にキバオウは眉を吊り上げる

 その様子に少年は懐から手帳の様な物を取り出した。

 

「? なんやこれ?」

「僕の知り合いは“ガイドブック”と言ってます。これには初心者への心得からこの階層の攻略情報まで乗っています」

 

「なんやて!?」

 

 少年の言葉に反応してキバオウはガイドブックを奪い取る

 その様をクルエルが咎めようとするが、彼もガイドブックに意識が向いている。

 

 パラパラとガイドブックを見ながらキバオウは今自分達が居る場所のページを見つけた

 

「……ホンマに書いとる」

「ちょ、俺にも見せろ!」

「お前等……すまん、少年」

 

 ガイドブックにキバオウ達が集中してるのを横目に少年は周りの索敵を始める

 そして周りにエネミーが居ないのを確認すると、先程ドロップしたアイテムの確認を始めた。

 

「なんなんや、この本は……」

 

 時間にして10分、キバオウは震える声でガイドブックを握り潰す

 

「ちょ、おま……」

「それは少年のだぞ、キバオウ……」

「まだ見てたのに……」

「これは酷い」

 

 咎める仲間達を尻目にキバオウは少年の胸倉を掴む

 少年は大体の予想がついていたので成すが儘にされていた。

 

「こんなもんがあるんなら、なんでさっさと出さないんや!」

「この本が完成したのは昨日です。それに……まだ未完成と言っても良いです」

 

 少年の言葉にキバオウは握りしめているガイドブックに眼を向ける

 

「何言ってるんや、現に本は……」

「今のこの本の状態は僕の知り合いが覚えている限りの情報をただ書き込んでいるにだけすぎません」

 

「本来ならエネミーの動きからクエストを受ける方法、武器のドロップにトラップの場所など、情報の確認をしなければいけません」

 

 少年はキバオウの眼を見ながら話す

 

「裏どりをしていないこの本にはまだ信用と言う絶対的なモノが足りてません」

「!?」

 

 少年の言葉にキバオウは愕然とする

 その隙にクルエルは少年の胸倉を掴んでいるキバオウの手を解いた。

 

「……君の言っている事は分かった。だが、それが君がダンジョン攻略をしないのにどう関係するんだい?」

「……」

 

 少年は一拍空けて言葉を発する

 その言葉は男達にとって予想外の言葉であった。

 

「僕がこの本の情報の“全ての”裏どりをするつもりです」

「「「「「!?」」」」」

 

 それはあまりにも無謀な考えであった

 一階層だけでも全ての情報の裏どりをするだけでいったいどれ程の時間を使うか分からない

 だが、少なく見積もっても数か月はかかってしまうだろう。

 

「君一人で……かい?」

「はい」

 

 少年の眼に迷いは見えない

 その真っ直ぐな少年の眼に男達は無謀だと言う考えを消した。

 

 もしかしたら目の前の少年なら出来るかもしれない

 そう男達に思わせるほど少年の眼は人を魅せる眼をしていた。

 

「……もし良かったら、この森での裏どりに僕達も同行して良いかい?」

「クルエルはん!?」

 

 少年はクルエルの言葉に少し考える

 この森での単独行動は少年にとっても面倒なものだ。

 

 他のエネミーに警戒しながら目標のエネミーの動きを観察するのは難しい

 それが一対二ならまだ少年も余裕があるが、一対八などは少年でも厳しかった。

 

「……僕がエネミーの動きを観察している間の護衛と言う形でも良いですか?」

「……あぁ、それでも良いよ」

 

 クルエルは少年の言葉に頷く

 それに併せてキバオウの勘忍袋の緒が切れた。

 

「クルエルはん! なんで一人勝手に決めとるんや!? ワイ等はここを抜けてさっさとダンジョンを目指すんやないんか!」

 

 キバオウの言葉にクルエルは頷く

 

「あぁ……だが、さっきの戦闘で俺達の実力不足を痛感した」

「!?」

 

 クルエルは少年に尋ねる

 

「ダンジョンにはこの森よりも強いエネミーがどれだけ居るんだい?」

「……βテスト時にはここよりも強いエネミーが沢山出てきました」

 

 クルエルは少年の言葉に頷き、仲間達を見る

 そして決意した様に言う。

 

「聞いた通りだ、俺達が今ダンジョンにアタックをかけたとして生き残るのは厳しいと判断した。幸いにも俺達は今、経験者の動きを見る事が出来る状況に居る」

 

「安全かつ俺達の実力を上げるにはここで少し周り道をしてみるのもありじゃないか?」

「「「「……」」」」

 

 男達はクルエルの提案に顔を見合わせる

 そして一番先に言葉を発したのは……

 

「……俺は賛成だ」

「ネラー……」

 

「ゲームだと思って甘く見てたが、死んだら終わりのゲームで油断しちゃいけないと痛感した」

 

 それに、とネラーは少年を見る

 

「……彼の動きはまさに南斗の輝き!」

「……ふざけるな、ふざけるな。最後までカッコよく締めろネラー」

 

「イヤ、ぶっちゃけ俺ってムードメーカーじゃん? 最後は笑いで締めたくなるやん?」

「……お前に真面目を求めた俺が馬鹿だった」

 

 二人の賛成に他の二人も頷いた

 

「んじゃ、じっくりと見させてもらうとするかね……俺はショタコンじゃねーぞ?」

「ふふふ。この道は修羅の道よ……」

 

 クルエルは皆の言葉にホット一息吐く

 そして少年に同行しようと言おうとして……

 

「なんでや……」

 

 キバオウの震える声にはっとなった

 キバオウは拳を握りしめて言う。

 

「ワイは皆がダンジョン攻略を目指して速くこのゲームを終わらせる言うからパーティーを組んだんや! 今こうしている間にも始まりの街で震えてる奴等が居る言うのに、ワイ等が悠長しとる場合か!?」

「……だが、死んでしまったら元もこうも……」

 

「もうええわ! ワイは一人で行く! パーティーも解散や!」

 

 キバオウは手元の画面を開きパーティーを抜ける

 そして森の奥へと走って行った。

 

「……」

「「「「……」」」」

 

 呆然と少年達はその後ろ姿を見る

 そしてその後ろ姿を見えなくなって、少年はクルエルに聞いた。

 

「……あの人は何をそんなに焦って居るのですか?」

 

 少年に聞かれてクルエルもハッと戻ってくる

 そして言いずらそうに彼は言った。

 

「……アイツ、妹を始まりの街に残してきたみたいなんだ」




オリキャラ紹介は最後に書くつもりです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。