幸運の星のキセキ   作:@T

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恩人・後

 キバオウの性格には些か難がある

 それは“強い者は弱い者を守る義務がある”という強迫観念にも似たものである。

 

 その様な性格になってしまったのは彼の家庭に原因がある

 その主な要因は彼の父の所為だ

 働かず酒ばかり飲み、母に暴力を振るう父を彼は長い間見ていた。

 

「うるせぇ! 酒持ってこい酒!」

「止めてアナタ!」

 

 その父を見て彼は父の様にはなるまいと生きてきた

 弱い者に暴力を振るう強い者、惨めな人間のやる事だと彼は見下した。

 

「なんやお前等? 一人に対して何人も囲んで、カッコ悪いと思わへんのか?」

「なんやと?!」

「なめとんのか!?」

 

 暴力を振りかざす者には暴力で返す

 見て見ぬふりをすれば結局は同じ穴の貉だ

 弱ければ誰も守る事が出来ない

 だから、強くなろう。誰よりも強く

 

「ねぇ、アナタ? この娘は?」

「……」

「俺の子供だ。文句あるか?」

 

 父が夜遊びして作ってきたのであろう自分より10歳も小さい少女

 その少女が自分の妹であると自覚するのには少し彼には時間を要した。

 

「……名前はなんて言うんや?」

「……ユリ」

 

「そか……ワイの事は適当に呼んでや」

「……あんちゃん?」

 

「……まぁ、それでええわ」

 

 だが、守る対象に少女が加わるのはそれほど時間が掛からなかった

 どんな事をしてでも目の前の少女を守る

 それが彼の心に決めた事だった。

 

「……」

「母ちゃん!」

「おふくろ!」

 

 彼が15歳の時、彼の母が倒れた

 今までの無理がたたってしまったのだろう

 最後まで彼の母は息子の将来を案じていた。

 

「あん? 金が無いだと? 稼げば良いじゃねーか!?」

 

 それでも父の酒癖は治らなかった

 母の為の涙も流さなかった父に彼の堪忍袋はとうとう限界を迎えたのである。

 

「……もうええわ」

「あ?」

 

 彼はその時に初めて父を殴った

 今までに溜めていた怒りを爆発させる様に父を殴りつけた

 母の苦労を少しでも減らす為にバイトを年齢を偽ってやっていた。

 

 部活もやらず土木作業などの肉体を酷使するバイトをやっていたせいか

 部活をやっている者達よりも筋肉は付いていた

 ガキ大将等と喧嘩をやっていたのもあり、彼は喧嘩慣れしていた。

 

 そんな彼と酔っぱらいの父、勝負の結果など誰でも分かる

 

「ユリ、行くで」

「……うん」

 

 そして彼は少女と母方の叔母達を頼って生きてきた

 父のそれからを彼は知らないし、知りたいとも思わない

 そして……デスゲームに巻き込まれた。

 

「兄ちゃん……」

「大丈夫や、ワイが直ぐにこんなゲーム、クリアしたる」

 

 妹との約束

 始まりの街に残してきた妹の為にも直ぐにゲームをクリアしなければならない

 その為にはなんでも利用すると決めていた。

 

「まったく……走馬灯かいな」

 

 キバオウはそう呟いて目の前に佇むエネミーを睨む

 

【キアァァァァァ!】

 

 目の前のエネミーは雄たけびを上げながらキバオウに跳びかかる

 キバオウはそれを転がるように横へと避け、立ち上がりながら剣で切りつける

 

-----ガガガガガ-----

 

 だが剣はそのエネミーの身体を軽く傷つけるだけに留まる

 目の前のエネミーはその様子を見て勝ち誇った様に吠えた。

 

「いったいなんなんや、お前は!」

 

 目の前のエネミーは先程闘っていたフォレストリザードと姿は同じである

 だが、他のフォレストリザードと違うのはその大きさである

 普通のリザードなら成人男性よりも少し小さい程度だが、このリザードはそれよりも大きい。

 

 もしキバオウが少年の持っていたガイドブックをしっかりと読んでいたのなら目の前のエネミーの名前を憶えていただろう

 目の前のモンスターはこの森に出るボス級エネミー“フォレストリーダー”である

 このエネミーが出るのは一定の条件をクリアした後、指定の場所に行くとこのエネミーがポップする

 なんの偶然かキバオウはその条件をクリアしてしまい、不運な事に指定の場所に行ってしまったのだ。

 

 このエネミーの特徴はフォレストリザードよりも高い防御力とボス級ならではの体力の多さだ

 普通ならパーティーで挑む程のエネミーである。

 

「くそがっ!」

 

 こんなんだったらパーティーを抜けなければ良かったとキバオウは後悔した

 あまりスピードは速くないので冷静に受ければダメージは少ない

 だが、少しずつキバオウの体力は減っていき、今で体力ゲージは黄色に点滅してる。

 

 撤退しようにも周りは囲むように雑魚エネミーが逃げ道を塞いでいる

 まさしく絶体絶命

 幸いなのは雑魚エネミーを相手にしなくても良い事だが、キバオウの体力が赤くなるのも時間の問題である。

 

(すまん、ユリ。兄ちゃんアカンかもしれん)

 

 妹の為にも死ぬ事は出来ない

 しかし現状の打開策はない

 あるとすれば先程別れたパーティーの皆がキバオウを見つけてくれる事だが、可能性は低い。

 

(勝手に出て行って助けてくれとはホント救えんな。まったく持って救えんもんや)

 

 キバオウは嘲笑する

 体力ゲージが赤く点滅した。

 

「……すまん、ユリ」

 

 刹那、彼の目の前にエフェクトが弾けた

 

【ガアァァァァァ!?】

 

 エネミーが甲高い悲鳴を上げて後ろへと跳び退く

 キバオウの目の前にカランと何かが落ちた

 キバオウはそれを手に取り呆然と後ろを見る。

 

「ギリギリで間に合ったか」

 

 少年はナイフを回しながらキバオウに言う

 キバオウは呆然と少年に聞く。

 

「……なんで追いかけてきたんや」

 

 少年はキバオウの持つナイフを奪い取って答える

 

「“俺”の目的がこのフォレストリーダーの確認だからだ。ある意味で手間が省けた」

「そ、そうか」

 

 少年はフォレストリーダーを見る

 フォレストリーダーは攻撃してきた少年を次の目標に定めたのか、少年を警戒する。

 

「今の内に回復しておけ。俺がコイツの相手をしておく」

 

 キバオウの返答も聞かず少年はフォレストリーダーに突撃する

 フォレストリーダーは少年を近付けさせない様に爪を横に振るが、少年は当たらないギリギリを見極めて避ける

 そして、ナイフを顔面に突き立てた。

 

【ガアァァァァァ!?】

「頭部が弱点なのは変わらず、攻撃も爪のみ……か」

 

 フォレストリザードは爪を不規則に振るい少年を攻撃する

 少年は爪をギリギリで全て躱し、フォレストリザードに刃を突き刺し、斬り付ける

 その様はまるで踊りを踊るかの様に軽やかだった。

 

「すげぇ」

 

 キバオウが漏らしたのは感嘆の声だった

 何時もの口調を忘れるほど彼はその動きを見ていた。

 

「よし。大体のデータはとれたな」

 

 少年は体力ゲージが残り2割程度になった時、キバオウを見る

 

「何をボウットしているんだ? これはお前の獲物だろうが」

「な、は?」

 

 少年はナイフを仕舞ってキバオウの横に立つ

 フォレストリーダーは威嚇する様に様子を窺っている。

 

「このエネミーは貴方がポップさせた、なら“僕”が倒してしまったらマナー違反です。体力は削りましたから今の貴方でも倒し切れるはずですよ」

 

 少年はそう言ってキバオウをフォレストリザードの目の前に押し出す

 キバオウは唖然としながらも剣を構えた。

 

「フォレストリザードは爪の攻撃を5回放った後、必ず隙が出来ます。爪の攻撃範囲に入らない様にしながら弱点の頭部を攻撃してください」

「え、あ、ちょ、待いや!」

 

 キバオウの静止も虚しくフォレストリザードは爪をキバオウへと振るう

 キバオウは悲鳴を押し殺して爪を後ろへと避けると、フォレストリザードは5回目の攻撃を大きく空振って後ろを向いた。

 

 「コナ糞!」

 

 キバオウは自分の放てる最大のスキルを発動させてフォレストリザードへと斬りかかる

 赤い甲高いエフェクトが辺りに響いた後、フォレストリザードの体力ゲージは0になった。

 

「おめでとうございます」

 

 少年は周りを見ながらキバオウに賞賛の声をかける

 キバオウは呆然とドロップしたアイテムを見た。

 

「か、勝ったんか?」

「はい。周りのエネミーが散ったのがその証拠です」

 

 周りに居た雑魚エネミーの姿は消え、代わりに先程別れた4人が来ていた

 

「やったな、キバオウ」

「……クルエルはん」

 

 クルエルがキバオウに賞賛の声をかける

 キバオウは呆然としながら皆を見ていた。

 

「なんで皆、追いかけてきてくれたんや」

「おいおい、勝手にパーティーを抜けといてそれはないだろ? 俺達はお前を仲間だと思ってたんだぜ?」

 

 ネラーは快活にキバオウへと笑う

 

「……俺達の絆は切れない蒼い糸で繋がれている」

「つまり俺達は腐れ縁だってことかな」

 

 他の二人も気にしてないとキバオウに笑った

 キバオウは泣きそうになりながら4人を見る。

 

「クルエルはん、ネラーはん、ヤミはん、エミナはん……すまん! ホンマにすまん!」

 

 キバオウは4人に頭を下げた

 4人は笑いながらキバオウの肩を叩く

 その4人を見て、少年は微笑みながら、言い忘れていた事を思い出した。

 

「あ、キバオウさん。貴方に伝言がある事を忘れていました」

「伝言?」

 

 少年はえぇ、と頷いて伝言を口にする

 

「“リリィ”ちゃんから、“無理をしないで頑張って”と」

「な! あんさん、ゆ……リリィに会ったんか!?」

 

 キバオウは少年に眼を血走らせて近寄る

 あまりの事に少年は驚きながら、しかし冷静に話した。

 

「え、ええ。僕と同じ位の歳だったんで始まりの街で話し相手になってもらってました」

「ほ、ホンマか? ゆ……リリィは……」

 

「今は教会で戦えない子供の面倒を見ていますよ。大人も居ますし大丈夫です」

「そ、そか……よかった」

 

 安心した様にキバオウは地面に腰を落とす

 少年はその様子を見て、良い兄だと思った。

 

「時々で良いので見に行ってあげてくださいね。リリィちゃんも心配しています」

「……」

 

「“兄は自分の出来ない事でも無理にやろうとして失敗する”と聞いてます。貴方には待っている人が居るのですから、絶対に死なないでください」

 

 少年はそう言ってキバオウを見る

 その瞳はどこか悲しそうにキバオウには思えた。

 

「……分かったわ、無理はせえへん。せやけど、ゲームをクリアする為に無茶はするわ」

「ほどほどにして下さいね? リリィちゃんも心配しますから」

 

 

ーーー☆ーーー☆ーーー☆ーーー

 

 

「それがスターはんとの出会いやな。あの後、色々とスターはんの技術を見せてもらったんや」

「へぇ~(あん)ちゃんが早く見に来てくれたんはそう言う事やったんやな……」

 

 始まりの街のベンチ、そこに腰を掛けて兄妹は居ない少年の事を話す

 第3階層のボス戦が終わった後、久しぶりに長く話す兄妹の会話だ

 少年と別れた後、パーティーに無理を言って始まりの街に行ったが、その時は直ぐにボス会議があったので最前線に戻ってしまった。

 

「あの時はホンマ失礼な事をしてもうた……スターはんにはホンマ足を向けて寝れんわ」

 

 妹が教会の手伝いをしているのは少年の提案だとキバオウは妹から聞いた

 その教会の援助も少年が行っており、妹が無理せず生活できているのは少年のおかげと言える。

 

「そう言えば、星君は今どうしてるんや?」

「知らん。スターはんの居場所を把握してるんはアルゴはんだけやろ」

 

「も~、兄ちゃんの役立たず~。ウチも星君にお礼言いたいんよ?」

「せやかて、ワイにはどうしようもないやろ?」

 

 兄妹のじゃれあいが始まりの街の広場に響く

 その様子を見ていた者達は兄妹の仲に笑みを浮かべながら通り過ぎていく。

 

「……」

 

 そしてその様子を見ていた少年も笑みを浮かべてその場を立ち去った

 

「あ、アルゴさん? 次の確認はここにしようと思うんですけど、情報は入っていますか?」

 

 星は輝き続ける

 見上げるほど高い(やみ)の中の(みちしるべ)となるために……




オリキャラ紹介

【name】
 Kurueru

【sex】
 男

【detail】
キバオウのパーティーの一応リーダー。
だがリーダーシップを取っているのはキバオウなので自分は参謀役だと思っている
本名は来瀬(くるせ)佐助(さすけ)
キャラネームは苗字のクルと名前の佐助の左のLeftで頭をとってクルエル
少しキャラネームを捻りすぎではないか?

ネラーとは幼馴染

【name】
 Nera-

【sex】
 男

【detail】
キバオウのパーティーのムードメーカー担当。
ネットで覚えたネタを使いながら皆を楽しませる事を重視している
本名は海道(かいどう)進(すすむ)
キャラネームは2chの常連ならでは

ヤミの厨二病ロールを理解できる少ない理解者

【name】
 Yami

【sex】
 男

【detail】
キバオウパーティーの厨二担当
最初に遊んでロールしていたら引っ込みがつかなくなってしまったある意味可哀想な人
現実では普通である
本名は宮野(みやの)永遠(とわ)
キャラネームは永遠の闇からヤミ

エミナとは幼馴染

【name】
 Emina

【sex】
 男

【detail】
キバオウパーティーの苦労人担当
ヤミの厨二を発症させた張本人
その所為で今の自分が苦労しているので、ある意味自業自得である
元々女キャラでこのゲームに参加していたので心の傷が深い
本名は宮本(みやもと)剛士(たけし)
キャラネームはアニメ好きなのでアニメを反対にしただけ

顔が厳ついので女子が寄ってこないのが悩み


【name】
 Lily

【sex】
 女

【detail】
キバオウの妹、現在14歳
始まりの街の教会で子供達の相手をしている。

本来の本編だったならキバオウが最前線で戦っている間にエネミーにやられて消滅する予定だった子
意気消沈で最前線から帰ってきたキバオウは始まりの街に着いて妹が死んでいた事を知る
そして何も考えられないまま時間が進み、軍にて横領を働く……というのが最初の予定

元々キバオウを悪役として仕立てる為に作者が考えていた可哀想なキャラだが、スターを主人公にするにあたってキバオウの良い奴化の為に助けられる
関西弁キャラは可愛いと作者は思っているので本編に再度出る確率が高い
本名はユリ
キャラネームはユリ→百合→リリィ




スターのキャラ紹介は1巻終わり次第に書く予定
あまりにオリキャラが多くなったらそれ専用のページを作ろうと考えています
誤字、脱字を見つけたら報告お願いします
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