「ッシャァ!!」
森の中にてレムとヘビアマゾンの戦いは続いていた。
普通ならヘビアマゾン程度、レムが苦戦する相手ではない。しかし、初撃にて麻痺毒を打たれてしまい身体が上手く動かないのだ。直ぐに回復しようにも、ヘビアマゾンがそれをさせてくれない。
傷ついた腕を抑えながら勝機を伺うもレムは、ネオとの戦いの消耗で足がおぼつかず苦戦する。
「こ、のぉ……!!」
怒りと恐怖の2つの感情に揺れ動きながら、レムはヘビアマゾンを退ける事に必死になっている。
「っ!」
力み続けていた身体が緩くなる。鉄球を振るい、伸びきった腕にヘビアマゾンが噛み付いたのだ。
牙が肉に食い込み、一瞬だけ痛みが走る。ヘビアマゾンの麻痺毒がとうとう痛みまで痺れさせたのだ。
(腕が……足が……声が……)
膝から崩れ落ちるレム。腕で支えることがやっとで、まともに立つことが出来ない。
せめて『鬼化』できれば……と後悔するも、目の前にヘビアマゾンがレムを丸呑みにしようと口を開けていた。
レムはこの瞬間までラムやこれまでの事を走馬灯のように頭の中で想像するも、迫り来る死の恐怖に頭が空っぽになる。
そして、レムの顔にヘビアマゾンの牙が突き立てられようとしたーーーその時、
-
ァ マ゛ ゾ ォ ン
背後からの爆風に吹き飛ばされた。
突然の爆発に、レムの目前まで迫っていたヘビアマゾンは爆発の余波と熱気に吹っ飛ばされる。
爆発の余波による煙が薄れ、そこに立って居たのは、変身したネオの姿。レムとの戦いのダメージはあるが、その身に帯びているオーラは常軌を逸し、ロズワールから受けた魔法も消えていた。
更には装甲がヒビ割れあちこちに破片が散らばっている。
「ガ………ク……ゥ………!」
砕けたバイザーから覗く赤い目がレムに見をつけた。
抵抗しようとするレムだが、麻痺毒により動けずネオに首を掴まれてしまう。
ネオはもがき苦しむレムを血のように光る赤い目で見つめ、
「自分で殺したものを食べて………何が悪い…!」
ーーーそうだ、食べてしまえばいいんだ。
ーーー俺は……俺が……食べて生きる!!!
そう呟きながら、レムの頭蓋を砕こうと手を伸ばす。
殺した後にゆっくり食べる。そうして、自分は生きる……俺は、喰ってでも生きたいんだ!
『千翼』
その時だった。
鉛のように重かった身体が軽くなる。震えていた身体も収まり、頭がスッキリする。
すると今度は背後から声が聞こえる。懐かしく、安心できる
『大丈夫……大丈夫だから…………』
懐かしき母の声。
背後から抱き締められる感覚が千翼を覆う。
「か……あ……………さん…」
「え?」
ネオの腕から解放されたレムは呆然とする。今まで自分に殺意を剥き出しにして殺そうとしたアマゾンが、今では母にすがる子供のように弱々しくなって涙を流している。
いつの間にかドライバーにより装甲は修復され、元のネオに戻っている。
座り込んでいる自分に顔を向けるネオに、再び抵抗しようとモーニングスターの持ち手を掴もうとするレムだが、
「…………逃げろ」
放たれたのは攻撃ではなく、逃避の言葉。
その言葉は先程、怨念めいた声色でなく、あまりにも弱々しいものだった。
「…………逃げろ!早く!殺されたいか!!」
「ッ!」
バイザーの奥で光る赤い目に圧倒され、レムは痺れる身体に魔法をかけてジリジリと邸の方へ逃げ出す。
一体何故、どうして自分を逃すのか、あの一瞬で起こった彼の心境の変化に戸惑う。レムは体は邸に向けていたが、眼だけはネオをしっかり捉えていた。
不思議な、今まであった事もないアマゾン。
何より、自分自身と戦い、苦しみ、迷っているような、今のレムの目にはそんなかわいそうな子供に見えていた。
▼▼▼
ーーーバカだ、何をやっているんだ自分は…
自分から遠ざかっているレムを横目で見ながら、ネオは自分に悲観する。
ーーー折角、捕まえたのに
体の奥にいる獣が何度も吠える。一瞬、聞こえた母の声に釣られてしまってこの無様さだ。
折角の獲物を取り逃がし呆然と立ち尽くすネオの周りには、エサでもないヘビアマゾンが一体。
ヘビアマゾンは怒りと共に、目の前のネオを殺す為に麻痺毒が染み込んだ牙を向ける。普通なら頭蓋骨すら砕く強靭な顎。だがネオはそれを掴み、カウンターのパンチを浴びせる。
「ゴガアァァァ!!?」
ヘビアマゾンは蹌踉めきながら、腕を振るう。
ネオは細胞から来る空腹感を抑えながら、爪でそれを捌き、逆に爪で何度もヘビアマゾンの身体を何度も引き裂く。まるで八つ当たりのように。
引き裂かれる度に、ヘビアマゾンの身体からアマゾン特有のドス黒い鮮血が散る。
「ガアァァア!!!」
ネオは満身創痍のヘビアマゾンの頭を掴んで蹴り飛ばし、すかさずレジスターを押し込む。
-
右腕の前腕部の爪『アームカッター』が一層鋭くなり、ネオは立ち上がり掛けたヘビアマゾンのがら空きの頭部に目掛けーーー一閃。
一瞬の静寂の後、ヘビアマゾンは悲鳴を上げること無く黒い鮮血を飛ばして首から上を真っ二つに切断され、その肉体はカピカピと変色した。
その場に残されたのはヘビアマゾンの死体と………虚しさだけが残る千翼の姿だった。
▼▼▼
その後、邸へ帰ったレムは皆に質問責めを受けた。
ラムからは自分の傷と、それの原因。
エミリアからは千翼の居場所。
ロズワールからは状況の説明。
『傷はアマゾンに襲われたから。原因は自分の不注意』
これは、全員がレムがアマゾンに対する恨みを認知していた為、理解された。
『千翼は森の奥深くに消えていった』
最近の千翼の状態と、アマゾンに対する千翼の行動をエミリアは知っていた為、その所為だからだと皆納得された。
『アマゾンに襲われた自分を千翼が守ってくれた』
これは少し怪しまれた。
説明した事の殆どが嘘だ。本当は逃げ出した千翼を自分が私情で殺そうとし、襲われたアマゾンから救ってもらったのだが、この時のレムは千翼の異常性を説明しなかった。
取り敢えずこの件は保留となり、レムもロズワールとラムにキツくお灸を据えられて終わった。
千翼の処遇は食人のアマゾンな為、ロズワールは即、殺害を提案したが、提案にエミリアが口を挟んだ為、メインは捕獲。しかし度を期したならば殺害という形となった。
「……………」
翌日となり、庭の掃除をしていたレムの表情はおぼつかなかった。何故あの時、彼は自分を逃したのか、彼を庇うような説明をしたのか。
「………あの目…レムと同じだった」
自分と同じ、己の種族に悩まされた者の目を思い出し、感傷に浸っていると…
「よう、青頭」
おそらく自分に対しての呼びかけだろうと、振り向くと、そこには新入りの士が立っていた。
「何の用ですか?」
蔑むような目を向けるレムに対し、士は平然と近づきながら答える。
「緊急事態だ。村でアマゾンが出たらしい。そいつが、村の住民を食い荒らしてるってな」
「ッ!?それは違います!」
思わず否定の声が出る。ハッとなったレムは急いで口を閉じて両手で塞ぐ。しかし、ちゃんと耳にした士には無駄だった。
「そのアマゾンは千翼じゃない……か?」
「……………」
黙り込むレム。何故、千翼を庇うような事を言ってしまったのか疑問を感じる。
「まぁ、今はそんな事はどうでもいい。今はロズワールが出かけて、邸の仕事は減ってる。そんな中に迷い込んだこの案件、俺とラムが解決するからーーーーーーは?」
突然、風が吹き荒れたと思ったらレムの姿が何処にもなかった。
自分とラムが帰るまで仕事を頼むと言いに来たのだが、意外な行動に出たレムに、士は呆気にとられるのであった。
「桃頭にどう説明すればいいんだよ……」