Re:ゼロから始める千翼の苦難 【完結】   作:寝坊助

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9話 鬼とアマゾン

千翼と自分がこの屋敷に来て数日が経った。士は幾度か千翼とコネクションを取ろうとしたが、本人は閉じこもり何も答えない。唯一、変化があったのはレムと買い出しに出かけた事。この時はラムに捕まり、レムがいない分の仕事をやらされてしまった。

このままではいつまで経っても成果がない。

多くの世界を旅して来たが、ここまでこの世界のライダーと触れ合うのが難しいのは初めてだ。

 

「さて、どうしたもんか……と」

 

「失礼するわ、モヤシ」

 

「士だっつってんだろ、モモ頭」

 

椅子の背もたれに体重を預け、ギシギシ軋ませていたところへ外からの声。こちらの返事より先に戸を開いてラムが姿を見せる。

彼女は手にお茶の載った盆を持ち、机に向かう士を見ると眉を寄せ、

 

「あら、本当にお勉強しているのね」

 

「ああ、もう童話を読んだりもできる。意外と簡単なもんだ」

 

この世界に来て、言葉は通じるがまさかの文字が日本とは違うものと来た。このままでは文字の読み書きも出来ない為、渋々と勉強して時にラムにバカにされながらも、流石というべきか、短期間で殆どこの世界の文字をマスターした。

 

「その上から目線、ホントにやめてくれない?不快すぎるわ」

 

悪びれもしない様子で部屋に押し入り、ラムは机の上にお盆を置くと、「どうぞ」と湯気の立つお茶を差し出してくる。

 

「………おいおいどうした?珍しい事もあるもんだな」

 

普段ならいがみ合っている士に、紅茶の差し入れなど絶対にしないであろうラムに苦笑いを浮かべる。

「ようやく俺の凄さを理解したか?」と考えながら出されたお茶を口に運んでゆっくり味わい、

 

「……やっぱ、マズイな」

 

「お屋敷で出される最高級の茶葉を、罰が当たりそうな感想ね」

 

「苦いもんは苦い。ダメだ、葉っぱとしか思ない。一緒に飲む相手がお前じゃ見栄張る気にもならないし、植物の味がする」

 

「ずいぶんと言ってくれるわね、クソモヤシ。つい最近まで読み書きも出来なかった癖に」

 

等々、レムの士に対するあだ名が罵倒と化す。

 

「お前みたいなメイド見たことねぇ……メイド喫茶のメイドでも、もっと愛想使うぞ。それに一々、過去の話を持ちかけるな。俺は既にこの世か……国の文字をマスターしてる」

 

士は見せびらかすように童話を手に取り、その一ページ目を開いた。

童話、というだけあって物語の起承転結は非常に明快で簡潔。それだけに想像の余地が多く残されているところなど、元の世界の数々の童話と変わらない。

 

「微妙に子どもへの教訓めいた展開とかがあるのも一緒だな。地味に異文化交流してる気分だ。俺もおとぎ話を幾つか輸入してみようか?『泣いた赤鬼』とか」

 

「………泣いた赤鬼?」

 

士の何気ない一言に反応するラム。

 

「何なら聞かせてやろうか?」

 

ラムの反応を見て、面白いおもちゃを見つけたようなイラつく笑みを浮かべる士。それに対して不快そうな表情を浮かべるも、ラムは否定しはかった。

 

士は『泣いた赤鬼』の話しをラムに聞かせる。その話が終わるとラムは酷評する。

 

「悲しいお話で、登場人物にバカしかいないのかしら。赤鬼も青鬼も、村人達も」

 

「まぁ、確かにな。青鬼の自己犠牲は人から見ればカッコいいと思われるかもしれないが、報われなくてバカだ。頑張った分だけ報われなきゃいけないのにな」

 

「ラムは赤鬼の方が救い難いとおもうわ。赤鬼は、ツノでも折って人里へ降りればよかったのよ。結局、その所為で青鬼は消えてしまったもの」

 

随分と極端だが、まさにその通りと士も内心、ラムに同意する。

 

「モヤシは、鬼2人とどちらと仲良くしたいと思うの?願うばかりで尻拭いの赤鬼と、自己犠牲に浸るバカな青鬼と……」

 

ラムは士の前に立ち、左右の手の指を士に向ける。数秒のその指を見つめる士は、頭を掻き立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちから願い下げだ。どっちも選ぶか。バカらしい」

 

 

「………そう。でも、それが正しいと思うわ」

 

 

それ以上、2人は会話をしなかった。しかし2人の胸の中に気に入らないつっかえが出来ているのが、お互いに理解していた。

 

 

 

  ーー何故なら、それが本心ではないから。

 

 

   ▼▼▼

 

 

「はぁ………はぁ……」

 

士とレムが会話していた同時刻。千翼はドライバーを手に、窓から邸の外へ飛び出していく。

周囲の様子をうかがい、人の気配がないのを確認すると森の中へ。草木を掻きわけながら千翼の体は森の奥へ向かう。いくつかの斜面を上り、時折飛び出している枝などで引っかき傷を作りながらもペースは落ちず進んでいく。

 

(もう………限界だ)

 

邸に来てからこの数日。千翼はストレスで胃に穴が開きそうだった。

橘に似たロズワールの目、士という謎の男、そして常に突き刺さるレムの殺意。エミリアには悪いが、あの邸に住むのは我慢の限界だった。

すでに時間は六時間が経過し、昼前だった世界には夕焼け空が鮮やかな橙色を注ぎ込んでいる。

 

「ぐっ!」

 

不意に腹を抑える。腹部にはロズワールにやられた自分の力を押さえつける魔法の紋様が怪しく光っている。

 

「はぁ……くそっ」

 

かなり歩いたが、幾ら距離を取ってもこの魔法は解けないらしい。邸を出る時に神経と集中力、そして体力を使った所為で足が疲労でガタガタと震えている。

 

   ーーー少し休むか。

 

不幸にも、ソレは千翼が腰を下ろした、その瞬間だった。

 

「ーーーーッ!?」

 

かすかに捕えた違和感、それを感じ取った瞬間、千翼の重たい体は辛うじて横へと飛んでいた。

直後、モーニングスターが樹木を半ばからへし折られた。薙ぎ倒される木々が周りを巻き込み、葉が枝が、折れ散る音が乱舞する。

 

   ーーー来た!あいつ(・・・)だ!!

 

千翼の行動は速かった。直ぐに伸びきったモーニングスターの鎖を掴み、襲撃者がいる方向へ目を向ける。

 

「……………レム、だろ?」

 

「ーーーやはり、分かってましたか」

 

草を踏み、枝を越え、闇からゆっくりと彼女の姿が現れる。小柄な体躯には決して見合わぬ鉄球と繋がる鎖の柄を握り、

 

「何も気付かれないまま、終わっていただけるのが一番でしたのに」

 

青い髪を揺らし、見慣れた無表情で小首を傾けて。

 

-NEO(ネ・オ)-

 

「アマゾン!!!」

 

予想通りの相手。寧ろレム以外だったら逆に驚いていた処だ。兎も角、千翼はドライバーを腰に巻きつけレジスターを押し込む。

 

「死ね!アマゾンがああああああああ!!!」

 

「ヴゥオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

モーニングスターとネオの拳がぶつかり合い、辺りの木々が悲鳴を上げ、空気が震える。

 

「やっと、本性を見せましたね!?」

 

「俺の、セリフだ……!」

 

レムと千翼、この2人は既に理解していた。

 

レムは、自分の殺意が千翼に気づかれているのを。

 

千翼は、レムが自分に殺意を向けているのを。

 

 

「ずっと、貴方が気に入らなかった!!!!」

 

 

「ずっと、お前が気持ち悪かった!!!」

 

 

赤い月を背に鬼とアマゾンが、胸に溜まった悪感情を吐き出すかの如く、吠え、猛り狂う。

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