「もう一つ、もう一つは?」
「じゅず子さんも物好きね……」
いつの間にか私を中心に始まった、「南みれぃの怪談」
何人かの興味深く聞いてくれているが、そのほとんどが既に青ざめた表情をしている。精神衛生面で危なくないかしら。その中の一人が問いかける
「そう言えばみれぃちゃん、何でそんなに怖い話を淡々と喋れるん?それがいっちゃん怖いわ」
「……怖いからよ。自分の身に起こったことを丁寧に説明しなきゃって思うのもあるけど、それ以上に思い出すだけで怖いから、落ち着いて話さないとって思っちゃう感じ」
「なるほど」
さて、何やらオーディエンスが増えてきたようね
「先程のものより記憶が新しいし、当時の感情をたっぷり込めて話すわね。そのほうが雰囲気があっていいでしょう?」
――――――
風のない、真夏の熱帯夜だった。クーラーが不調で動かなくてお風呂に入ったのに汗ばんでしまうほど寝苦しい、そんな夜よ
寝れないついでにとあるネット生配信を見ていたら、少し前にガァルマゲドンのあろまから教えて貰った心霊コミュニティがトップテン入りしていたの。折角だからそのコミュニティの生放送、見に行ったの
心霊スポットに訪れてカメラを回して、後日それの検証をする。そういうコミュニティ。誤魔化しが効かないなか、何度か幽霊が映ったり、謎の声が入ったり――実績も多々あるの
「えー、今日は『聖子ちゃん』という心霊写真をお見せします。いわゆるガチモンです。霊障の報告も割と多いんですよ」
そう言って映し出されたのは同窓会か何か、飲み会の写真。数人の男女がお酒を片手に肩を組んで笑ってる写真よ
そのうち左から二人目と三人目の顔の間に、一昔前流行した聖子ちゃんカットの女性らしき顔が映り込んでいたの
「その聖子ちゃんカットの女性をディスったら、何らかの霊障が起きるらしいです。コレの影響か分からないけど、持ってるだけにも関わらず、なんか白い足がトイレで見えたんですよね」
信じられなかった。だって、合成に見えなくもない画像に、ディスる――つまり罵るだけで呪われるような、そんな能力があるなんて到底思えないもの
だからこそ、試そうと思った。今思えばそしてそれが間違いだった
思いつく限り侮蔑的な言葉を、液晶越しに『聖子ちゃん』にぶつける。似合ってない、不細工、キモい……自分でも驚愕するほど汚い言葉をありったけ投げかけた。
――私の部屋は二階にあるの。それを踏まえた上で聞いて
コンコン、と窓を叩く音がした。
最初は風でも吹いているのかと思ったわ。でもおかしいの
私の部屋、風が吹くとまるでコミックやアニメの効果音よろしく『ビュオーッ』って音がするの。でもその音は聞こえずに、コンコンって音と配信者の声だけが聞こえてる状態。それだけでもおかしいのに――
コンコン、コンコン、コンコンコンコン!
トントントントン
ドンドンッ!ドンドンッ!ドンドンドンドンッ!
嘘じゃないのよ。そんな風に音が大きくなって、窓がビリビリと揺れるような感じがするほど窓が叩かれた
――間違いなく、『聖子ちゃん』の仕業だと直感した
何故って、それほど大きな音がするなら階下や隣室にいる家族が心配して私の部屋へ来るでしょう?
全然来ないの。その時間は皆起きてるはずなのに
背筋が凍るって、こういうことを言うのだと実感した
情けないし恥ずかしいけど構ってる暇はなかった。ベッドに入って掛け布団でくるまった。それなのに
ドンドンッ!ドンドンッ!
窓を叩く音が耳元でする。嫌だ、怖いよ
「皆さんどうですか?何かありました?」
そうだ、『聖子ちゃん』が来たのはこの生配信を見たからだ!
コメントを見ると、このようなことが書いてあったわ
犬が誰もいない方向にずっと吠えてる
チャイムが鳴ってるけど誰もいない
何か女の人の声が聞こえた
それ以外にも色々あったわ。そして、私もそれに続く
『二階の自室の窓をずっと叩かれてる』と
そのコメント全てを読んだであろう配信者は、声のトーンをかなり落としてこう続けた。霊障が起きたらとにかく『聖子ちゃん』に謝り続けることで、それらは収まる筈だと
私だけじゃない安心感と、私以外に霊障被害に遭った人がいる事実が、冷静さを忘れさせた
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
ごめんなさい
まるであの騒動が嘘のように静かになった。『聖子ちゃん』は私を許してくれたのだと確信し、ようやく窓へ。やっぱり風なんてこれっぽっちも吹いてなかったし、窓に何かがぶつかった形跡もない
そう、本当に『聖子ちゃん』は私の元へやってきたの
皆はくれぐれも、『本物の心霊写真』を見つけても、決して幽霊を貶してはいけないわよ
――――――
「といったところで私の心霊体験は終わり。ご清聴ありがとうございました」
おおよそ計算通り。皆グロッキー状態になっていた
「じゅず子ちゃん、どうだったかしら?」
「――ねぇ、みれぃちゃん」
「?」
「今日、じゅず子ちゃん風邪ひいて休みやで?」