皆さんは、誰を御迎えできましたか?
私は剣式さんです(狂喜乱舞)
造路はなんとか、我が家に生きて帰ることに成功していた。
そんな彼は、大きなため息を吐く。
「どうした? ため息を吐くと幸せが逃げるそうだぞ?」
ため息の元凶こと、キャスターと名乗る女はそう言ってきた。
造路は彼女に命を助けられている手前、余り強気には出られない。
お前が原因だよ、という言葉を呑み込んで彼は自分にとっても彼女にとっても、本題に当たることについて話を始める。
「ランサー、だっけ? あいつと闘う前に言ったよな、状況の整理は敵の排除の後にしようって」
「ああ、言った」
キャスターの雰囲気が、少しだけ変わる。
造路が|それに気がついている(・・・・・・・・・・)ことに、彼女は気がついた。
「ふぅむ、お前が一体どういう人間か、全く分からないなぁ。ずぶの素人にして一般人なのかと思ったが、あの状況において冷静な態度を取ることができたり、私の気配の変化に気が付けたり」
「いやいや、俺は一般人だっての。人生を平凡に浪費してるだけのな」
「どうだか」
キャスターは呆れたようにそう言った。
それに造路は、またため息を吐く。
「それより早く、状況の整理をしようぜ。夜が明けちまう」
「それもそうだな」
キャスターは頷いた。
それに造路は提案をする。
「状況の整理、といっても、理解度がまるで違うから、互いに質問をぶつけ合うってのはどうだ? 自分が納得できなければ、意味がないだろ?」
「ふむ、道理だな。良いだろう。先はマスターに譲るよ」
「あ? いいのか?」
「こういうのは、序列が高い方からやるべきだからな」
キャスターはそう言って肩をすくめた。
それに造路は、遠慮なく質問をぶつけることにする。
「まず、マスターってのはなんだ?」
「……まずそこからか。質問に質問で返すようだが、マスターは、聖杯戦争という単語を知っているのか?」
「いや、知らない」
キャスターは少し気落ちしたような雰囲気を纏ったが、造路は無視した。
どうせ突っ込んでも、碌なことにならないからとわかっているからである。
「聖杯戦争とは搔い摘んで言うなれば、万能の願望機、聖杯を巡って、七人の魔術師と七騎のサーヴァントで行われる闘争のことだ。マスターとは魔術師のことを指し、使い魔はサーヴァントだな」
「聖杯って、アーサー王伝説や聖書のあれか?」
「ああ、違う違う。本物の聖杯なんて、大仰なものではない。所詮、魔術によって造られた、贋作だ」
それに造路は、首を傾げる。
「てことは、願いは叶えられないのか?」
「いいや、願いはちゃんと叶えられるだろうさ。なにせ格落ちしてるとはいえ、英霊の魂を|七つ(・・)もくべて、英霊の座に戻る力を利用するんだ。全魔術師共通の目的、『根源』へと至る穴くらい穿てるだろうさ」
「へぇ……ん? 七つ?」
造路は違和感を抱き、そのまま口にした。
「サーヴァントって、七騎しかいないんだろ? それって、まさか」
造路の問いに、キャスターは頷いた。
それこそ、なんでもないという風に。
「そうだ。『根源』に至りたいのなら、自分のサーヴァントを勝ち抜いた後で殺す必要がある」
「…………」
造路は絶句して、何も言えなくなった。
それをキャスターは差して気にすることなく、説明を続ける。
「といっても、魔術師ではサーヴァントには勝てないぞ? なにせ格落ちしているとはいえ、体一つで伝説を作った英雄だ。そこで、お前の左手に浮き出てる模様、令呪の出番という訳だ」
「? うわ、なんだこれ!?」
造路はようやくここに至って、自分の左手によくわからない模様が浮き出ていることに気づいた。
擦ってみるが、全く落ちない。
「それは令呪といってな、サーヴァントに対する絶対命令権とでも思え。三回しかないから、注意しろ。それとだな」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て!!」
「ん? なんだ?」
言葉が途中で遮られたことを不快に思ったのか、整った顔を険しくした。
しかし造路はお構いなしに、キャスターへと問う。
「お前、なんで自分の殺し方なんて解説してるんだよ!? それに、死ぬのがわかってる闘いに、お前たちはどうして挑むんだ!」
「やれやれ」
キャスターは肩をすくめる。
造路はそれに叫びそうになるが、彼女はそれを手で制した。
「言っておくが、恐らく自分も死なねばならないことに気づいているのは、私だけだ。なにせ願いを叶えるために闘うはずなのに、死ななければならないだなんて知れば、どの英霊も絶対に召喚に応じないだろうからな」
「じゃあ、お前はどうして、応じたんだ」
「ん? お前を助けるためだが?」
「は?」
キャスターの言っていることがわからない。
なにせ彼女は、生前に逸話あるいは伝説を築き上げた、英雄なのだ。
そんな存在が、どうして自分を助けるためだけに闘ってくれるのか、わからない。
「お前、ランサーに殺されかけた時、助けを求めただろ? 私はそれに応じて、お前を助けたに過ぎないんだよ」
「なんで、わざわざ……」
造路は、信じられないとばかりに呟いた。
自分は、常人のはずなのだ。
普通の人間の嘆願を、この英雄は聞いたというのか?
「お前は、純粋に生きることを望んだ。普通なら、生きたいと思っても、どこか人間は諦観する。けど、お前は違った。ただ、生きたい。死にたくない。純粋なその気持ちに、私は応えたに過ぎないんだ」
「あ……」
言われて初めて、改めて、自分は死にかけたのだと、実感した。
そして同時に。
自分は生きているのだと、実感した。
目の前の英雄に、助けてもらったのだ。
自分の祈りに、応えてくれた。
それらの想いが絡まり、膝が震え、尻餅をつく。
疲れが出たのか、瞼が重い。
凄く眠い。
「さて、休ませてやりたいが、一つ問わねばならないことがある」
「なん、だ?」
キャスターは質問をするために、言の葉を紡ぐ。
「わかったと思うが、この聖杯戦争は遊びじゃない。命懸けの闘いだ。そこでお前には、二つの選択肢がある」
彼女は、淡々と言う。
勤めて事務的に、言の葉を紡ぐ。
「令呪を放棄し、聖杯戦争を降りるか。棄権すれば、恐らく、どこかで保護を受けることはできるはずだ。もちろん、それまでの間は私がお前を護ろう」
「もう、一つは?」
「このまま、私と共に戦うかだ」
そんな問いは、無意味だ。
なにせ答えなんて、彼女の話を聞いた時から、出ていたのだから。
「戦うよ、俺は。君と一緒に」
見栄を張っても、所詮造路は一般人だ。
魔術のマの字も知らない。
決意も脆いものだし、覚悟も足りないかもしれない。
それでもこの気持ちは、この感謝という想いの強さは、誰にも負けないつもりだ。
「そうか。ならば、よろしく頼む、マスター」
キャスターは、そう言ってほほ笑んだ。
なんともまぁ、美しい微笑だ。
どうしようもない眠気に襲われているというのに、そのあたりの審美眼は衰えていないらしい。
嗚呼、そうだ。
今の内に言っておこう。
すぐに言わないだなんて、失礼だし。
「助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして、だ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
夢を見た。
ベッドに横になっている、少女がいた。
今にも散ってしまいそうな花を思わせるような、そんな儚い少女。
彼女の傍らには、また一人の少女がいた。
『泣かないで、泣かないでよ、■■■』
『だって、だって……』
『もう……』
横になっている少女は、傍らで泣く少女の頭を優しい手つきで撫でている。
しかしそれで、少女の涙が止まることはなかった。
それに横になっている少女は、困ったように笑う。
『お医者様が言ってたでしょ? 私の病気は、今の医療では治せないって。だったらせめて、後の人生は楽しく生きたいな』
『……どうして、そんなこと言う』
泣きながらも顔を上げ、鼻の少女を真っ直ぐとと彼女は見詰めた。
『毎日、毎日、夜になったら泣いてるんだろう? 私がいなくなった後、独りで泣いてるんだろう? それだったら、ちゃんと言えよ。怖いって、助かりたいって』
『だって……』
花の少女は、困った笑顔のままだった。
その表情のまま、口を開く。
その言葉に、少女は美しく整った顔を歪めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
造路は目を覚まし、上体を起こした。
そして、今しがた見た夢を思い返す。
「なんだったんだ?」
無論、夢なんて数えきれない程見たことある。
しかしながら今の夢は、些か以上にリアルだった。
普段見る夢は大抵、どこか現実離れしたもののはずなのに。
……いや、昨夜非現実的な体験をしたばかりか。
「それより、も」
造路は一度伸びをして、時計を見て。
「ブホッ!?」
盛大に噴き出した。
現在の時刻は、午前八時。
健全な高校生である彼は、当然学校に行かなければならない。
いつもなら彼は、この時間には既に席についている。
「やあべぇ!!」
キャスターは庭の土に、幾何学的な模様を描いていた。
彼女は今、魔術師にとって必要不可欠である、工房の作成に尽力しているのだ。
彼女の陣地作成スキルのランクは、A+。
これは『工房』を上回る、『神殿』を形成できるランクだ。
この家を回って気づいたのだが、なんとこの家、霊脈の上に建っているのだ。
霊地、という程ではないが、それでも霊脈の上に建っていることは変わりない。
霊脈からマナを拝借し、自身の現界分に回すことなど朝飯前。
正直、持ち前の貯蔵魔力だけでは現界が厳しくなってきた所だったので、渡りに船だった。
「霊地の上に『神殿』を形成できるのが理想なのだが、贅沢は言うまい」
宝具の連発は流石に魔力の消費と供給を考えると厳しいが、時間を少しおいてからであれば、何発でも放てるだろう。
魔術の方も、いくらでも使っても問題あるまい。
「ふぅむ、万全の態勢を整えるのは、無理そうだな。マナが圧倒的に足りない」
つくづく、ここが霊地でないことが悔やまれる。
キャスターの満足いく霊地に根を張ることができ、全ての仕込みを終えた状態であれば、例え六騎が相手でも勝てる自信があるというのに。
(……いや、無理か)
自分と互角に打ち合ったランサーに、その彼を凌駕して余りあるバーサーカー。
恐らく彼らは、超級サーヴァントだ。
いや、超級サーヴァントを屠ることなど造作もないのだが、流石に同時となると骨が折れる。
「それに、あいつらが
その理由によっては、少しばかり拙い。
敗北など万に一つもあり得ないが、もしものこともある。
「情報が、不足しているな……」
ドタバタ、と。
誰かが家を走る音が耳に届いた。
キャスターはサーヴァントであるため睡眠は必要としないため、一晩中見張りをしていた。
だからこの家には、自分と造路だけ。
となると、この慌ただしさは造路によるものだ。
彼は、制服に身を包んだ状態で、庭先に顔を出した。
「おはよう、マスター。昨晩は
「悪い、遅刻しそうだから挨拶なし! 学校行ってくる!!」
「はぁ!?」
マスターの開口一番の問題発言に、キャスターは今までのクールな態度を投げ捨て、そんな素っ頓狂な声をあげてしまった。
しかし造路は余程急いでいるのか、風のように玄関へと走っていく。
それにキャスターは慌てた。
「待て待て待て待て! お前、馬鹿なのか!? お前は今、聖杯戦争に参加してるマスターなんだぞ!? そんなお前が外に出るとか、殺してくださいと言ってるようなもんだ!」
「知ったこっちゃねェ! ジャパニーズストゥーデント舐めんな! サーヴァントよりも先公の方が怖いんだよ!」
「うわ、馬鹿だ! ここに馬鹿がいる!」
「なんとでも言いやがれ! それじゃ、行ってきます!」
造路はそう叫んで、本当に学校へ行ってしまった。
それにキャスターは、呆然とする。
「くっ、どうする……」
キャスターの戦術は基本、穴熊だ。
工房に引き籠り、決して自分は外に出ない。
自分のフィールドが一番力を発揮できるのだから、それを自分で捨てるなど愚策、なのだが。
「ああ、もう! 待て、マスター!」
今回の場合は別だ。
マスターがいなくなってしまっては、話にならない。
そもそも彼女は、造路を助けるためにこの戦いに挑むのだ。
彼だけは、死なせる訳にはいかない。
一方、造路は無事も学校に辿りついた。
そして彼は現在、とてつもない後悔に襲われていた。
ああ、どうして、キャスターの忠告を聞かなかったのだろう。
自分はあそこで、留まるべきだった。
そして、冷静になるべきだったのだ。
造路は絶望のあまり膝をつき、万感の思いを込めて叫んだ。
「今日日曜日じゃねぇかァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
そう、今日は日曜日。
学校なんてないのだ。
授業はお休み、来るとすれば部活に打ち込んでいる生徒のみ。
造路? 彼は当然、部員数最大を誇る帰宅部だ。
「グゾー、そう言えば俺、ゲーム買うためにわざわざ電車乗って出かけたじゃねェかよォ……」
落ち着け、落ち着くんだ、マイソウル。
これは、孔明の罠だ。
彼の思惑に乗ってはいけない。
八つ当たりってのは分かっているが、やらずにはいられないのだ。
「さて、帰るか」
「ああ、そうだな、帰るぞ」
ぽん、と。
優しく誰かが肩に手を置いた。
それに造路は、本能的な恐怖を覚える。
ゆっくり、ゆっくり、と振り返るとそこには。
素晴らしい笑顔を湛えた、キャスターがいるではないか。
「まだ深い、ふか~い、理解度の差があったようだな。一度家に帰って、話をしようじゃないか。ああ、安心しろ。今日は、休みなんだろう? 話す時間は、ゆっくりある」
うん、やはりキャスターは絶世の美女だ。
その笑顔はひどく美しく、異性だけでなく同性すら惹きつける魅力がある。
造路は彼女にほほ笑み、こう言った。
「おのれ、こぉぉおおおおうめぇぇええええええええええええい!!」
何故だがこの時彼の脳裏には、黒の長髪にくわえタバコの色男の姿が過った。
今です? やかましい。
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こうして、俺の戦いは始まった。
最弱のマスターと最強を自称するサーヴァントの凸凹コンビ。
情報は全くそろっておらず、戦況も、戦力差もわかっていない。
出遅れも良い所だ。
しかしそれでも、歩いて行こう。
何にもできないけど、彼女の隣であることはできる。
彼女と一緒なら、俺は最後まで歩いていける。
この最高の、
さて、次回は説明回。
巻き巻きだぜぃ