fate/some meaning   作:にがトマト

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5.教訓だ、慢心は何人の敵なのだよ

 突然鳴り響いたチャイムの音を聞いて、造路とキャスターは互いを見合う。

 

「ツクロ、今日は来客の予定があるのか?」

「い、いや。そんなはずないんだが……」

 

 今日は来客の予定などないし、昼時とはいえ出前を取った覚えもない。

 そんな気が利くような人格であれば、キャスターはまた彼の評価を改めることになるだろう。

 

「……まさか、サーヴァントか?」

 

 造路のその言葉に、キャスターは頭を振る。

 

「いや、それはほぼないだろう。なにせ神秘は、秘匿して然るべきものだからな。それを漏洩するようなことはしない。そもそも、敵意があるのなら、異界に閉じ込められて私の使い魔やらに襲われるんだ、チャイムを押す暇などないだろう」

「それじゃあ、チャイムを鳴らしたのは誰なんだ?」

「…………………………」

 

 もっともな問いに、キャスターは黙り込んでしまった。

 それに造路は、ため息を吐くしかない。

 

「それじゃあ、俺が行くよ。一応、家主だし」

「そうか。用心はしろよ?」

「おう」

 

 造路はそう返事をして、立ち上がる。

 そして、玄関へと向かった。

 それをキャスターは、心配そうに見ていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 造路は玄関に立っていた。

 キャスターは扉の向こうにいる来客に敵意はないと言っていたが、それでも一応警戒しておく。

 

「は~い」

 

 扉を開けた先には、初老の男性がいた。

 カソックを身に纏い、十字架をかけている。

 白髪の短髪に、穏やかな黒眼。

 十中八九聖職者であろう男は、柔和な笑みを浮かべてこう言った。

 

「初めまして。私は、|神園雄優(かみぞのおゆう)。近場にある教会の、神父を務めている者だ」

「こ、これはご丁寧に。氷室造路です。それで、教会の神父さんが、俺になんの用です?」

「なに、そう警戒しなくていいよ。私は何も、宗教の勧誘に来た訳じゃない。これでも誇り高き、十字教徒だからね」

「では……」

 

 なにをしに、と口にする前に神園雄優はこう言った。

 

 

「単刀直入に言おう。私はね、君を|保護にしにきた(・・・・・・・)んだよ、氷室君」

 

 

 そう言って彼は鋭く踏み込み、肉薄してきた。

 造路は咄嗟に、腕を交差して防御するしかなかった。

 神父のそれは確かに速かったが、昨晩の戦闘、キャスターとランサーのそれ程ではない。

 

「想定が甘いッッッ!!」

 

 刹那、脳を揺さぶるような衝撃に襲われる。

 

「ぐぁ!?」

 

 後方に吹き飛ばされ、壁に強かに打ちつけられる。

 床に倒れる造路に、雄優は呆れたように言う。

 

「確かに、私の戦闘力は君が昨夜見た二騎のサーヴァントには及ばないさ。けどね、だからと言って君に勝てる道理がどこにある?」

 

 正論だ。

 雄優の動きは明らかに、修練を積んだ者のそれであった。

 であれば、造路が勝てないのは当然の帰結。

 

「さて、君に意識を残したのは、わざとだ。なにせ私は君を運ぶ道すがら、謝罪及び説明をせねばならないのでね」

 

 雄優は勝ちを確信している。

 いや、彼には勝利の感慨などないのだろう。

 なにせ勝ち負けとは、勝負事だからこそ発生するのだ。

 しかし、造路と雄優とでは、実力が隔絶している。

 彼からすれば、これはルーチンワーク。

 なのにまだ造路は死亡はおろか、気絶すらしていない。

 詰まる所、彼には敵意も殺意もないのだ。

 だから。

 

「ころ、すな……|キャスター(・・・・・)」

「やれやれ、甘いマスターだ」

「ッッッ!?」

 

 通路より、キャスターが歩いてくる。

 雄優は驚愕に顔を強張らせながらも、ゆったりと歩いてくるキャスターに向き直る。

 が。

 

「遅いな」

「ガァッッッ!?」

 

 視界に捉えることすら許さない速度で雄優へと肉薄したキャスターが、手に持った黄金の槍で彼を薙ぎ払った。

 手応えに満足がいかなかったのか、キャスターは顔を曇らせる。

 

「チッ、体幹をずらされたな。殺り損ねた」

「殺すなって、言ったよね?」

「アホめ。敵対行動を取られたら、殺すのは基本だ」

「物騒な!!」

 

 とりあえずキャスターに治療してもらってから、神父様を縛りあげ、リビングへと運び込んだ。

 ごろん、と適当に転がす。

 

「……もう少し丁寧に運んでくれても良かったんじゃないかな?」

 

 突然の雄優の声に、造路は驚愕故に肩を震わせ、キャスターは感嘆の息を漏らす。

 

「ほう、先の体幹のずらしといい、意識がまだあることといい、お前、そこいらの英雄より余程強いな」

「過ぎた評価だよ。事実、私は何もできずに拘束されている」

「なに、相手が悪かっただけの話だ。気に病む必要はないさ」

 

 そしてキャスターの気配が、一変する。

 表情は、真剣そのもの。

 

「さて、周りくどいのは嫌いなんでな、率直に訊こう。お前、何者だ?」

「ふぅ……」

 

 キャスターの問いに、雄優は諦めたように息を吐いた。

 

 

「私は聖堂教会より派遣された、この聖杯戦争における監督役だよ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「やれやれ、ようやく七騎全てのサーヴァントが揃ったか。これで、聖杯戦争が始められるというもの」

「そうね。けど、強敵揃いで嫌になっちゃうわ」

 

 とある建物にて、そんな会話がなされていた。

 片や三十代と思われる男、もう片や十代前半と思しき少女である。

 少女の言の葉に、男は嗤う。

 

「くつくつ、アインツベルンの乙女よ、そのための同盟であろう?」

「そうね。だけど正直、状況は芳しくないわ。なにせセイバーだけだけでもいっぱいいっぱいなのに、アーチャーがどこかの陣営と組んでいる上、ランサーと白兵戦で渡り合うようなキャスターが現れたんだから」

「そうだな。だが勝利するのは、我らだ。互いの弱点を補い合っている我らが、負ける道理などない」

「貴方、ずいぶんと強気ね。それは、人外故の自信なのかしら?」

 

 少女の挑発染みた言に、男はただ嗤う。

 

「人外はお互い様だろう。さて、言葉遊びもこの辺りまでにして、方針の調整をしよう」

「そうね。そろそろ、生産的な話をしましょうか」

 

 二人の顔には貼り付けられている表情は、作り笑顔も甚だしい笑顔。

 しかしながら、それを咎める者はいない。

 

「私たちの目下の敵は、セイバーね。あれをどうにかしない限り、勝利は覚束ないわ」

「同感だ。あれは少しばかり、反則が過ぎる。可能なら、取り換えをしてほしいものだ」

「あら? できるの?」

「できるなら苦労はしていない」

「ふふふふふふふふ」

「はははははははは」

 

 この場に常人がいたのなら、ストレスマッハで胃が大変なことになっていただろう。

 そして当人たちからすれば、これはお遊びなのだからなおのこと胃がピンチだ。

 

「こういう時は、マスターを叩くのが定石なのだけれど……」

「無理だな。なんとも末恐ろしいことに、我ら二人掛かりでも殺すことはできん」

「負けはしないけど、逃げられるでしょうね」

 

 少女と男は、揃ってため息を吐く。

 

「もう一陣営、同盟に加えるというのはどう? 例えば、キャスターとか」

「厳しいだろうなぁ。なにせランサーが、マスターを殺しかけてるのだから」

「ままならないものね」

「全くだ」

 

 会話とは裏腹に、二人は然程残念そうな顔をしていない。

 彼らにしてみれば、これはただの確認作業なのだから。

 

「しかし、だ。延々とこうして言葉遊びに興じている訳にもいくまい? このままでは我らは、ただの無能だ」

「そうねぇ。なら、反則すれすれの|あれ(・・)をしましょうか」

「ほう、もうするのか? まだ、サーヴァントの戦力差は見切れていないこの情勢で?」

 

 男の問いに、少女は肩をすくめた。

 わざわざ言わせるな、とばかりに。

 

「確かめる必要なんてないでしょう。セイバーが最大の強敵であり、キャスターが最大の難敵ってね。あれ以上の英霊が、そうそういては堪らないわ」

「然り。なれば、対象は?」

 

 男は、そう短く問うた。

 それに少女は、即答する。

 

 

「|今拠点がわかった(・・・・・・・・)、キャスター」

「承知した」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「監督役、ということは、審判みたいなものですか?」

「いや、どちらかというのなら、ブレーキ役かな」

「と、言いますと?」

 

 造路の問いに、雄優は一瞬の逡巡もなく答える。

 

「此度の聖杯戦争における戦争はね、冬木市で起きた聖杯戦争のコピーなんだ。で、その第三回目が、それはもうひどくてね。周囲への被害が大きすぎたんだ。だから、聖堂教会は、この闘争を取り締まる監督役を遣わせることにしたんだ。魔術師のトラブルは魔術師協会で解決すべきなんだが、派閥がある。だから公平をきすために、聖堂教会が監督をするのだよ」

「な、成程……」

「そして神秘の秘匿、それすらしないやからには、相応のペナルティも与えるのが、私の仕事だ」

「ということは、神園さんは中立の立場なんですよね? どうして、俺の家にきたんですか?」

 

 造路の問いに、雄優は首を傾げた。

 

「それは、最初に言っただろう? 私はね、一般人である君を保護しにきたんだ」

「いえ、結構です」

「なに……?」

 

 即座の拒絶に、雄優は訝しげな顔をする。

 

「君は、巻き込まれた一般人なのだろう? 魔術は勿論のこと、殺し合いや死とは縁遠い人間のはずだ。昨晩の戦闘と、玄関での一件を鑑みればわかる。君は、この闘争に身を置くべきではないんだ」

「あぁ……」

 

 雄優の言葉に、造路は苦笑した。

 やはりこの人は、善い人なのだ。

 監督役と言う立場をして、中立の立場にあるまじき行為をしようとする程に。

 キャスターを一瞥すると、彼女は肩をすくめるに留めた。

 どうやら、会話に参加するつもりはないらしい。

 

「神園さん。俺は、キャスターに助けてもらいました。そして彼女は、この闘争に参加する。恩人が命懸けの闘争に身を投じるのに、自分だけ安全な所でいつも通り過ごすなんて、できません」

「……死ぬかもしれない」

「そんなことにはなりませんよ。な、キャスター?」

「当然だ。私は最強のサーヴァント。マスターを死なせるものか」

 

 二人のその会話に、雄優は息を吐く。

 その吐息には、諦観の念が込められていた。

 

「やれやれ、どうやら、私では戦意を折ることは叶わないらしい」

「すみません。わざわざ、きてくれたのに」

「構わんさ。キャスターのサーヴァント故に、暗示をかけられている可能性を考慮したんだが、それがなく、自分の意思でこの闘争に参加していることがわかったんだからね」

「…………お前、命知らずだな」

「え?」

 

 突然のキャスターの言葉に、造路はそんなつぶやきを漏らした。

 それに彼女は肩をすくめる。

 

「聖杯戦争において、サーヴァントにとってマスターの存在は必要不可欠なんだ。サーヴァントは現界するのに、憑代が必要だからな。それを失えば、現界は覚束ない。マスターを連れ出そうとする、それはサーヴァントとの戦闘は避けられないことを意味するんだ」

「……本当に、すみません」

「はっはっは、構わんさ。私が好きでやったことなのだからね」

 

 敵対する意思はないと判断したキャスターが、槍を一振り。

 すると、雄優を縛っていた縄が切れた。

 自由になった彼は、手首を数度擦る。

 

「やれやれ、中立の立場を捨ててきたというのに、結果は振るわずか」

 

 雄優の発言を聞いて、造路はあることに気づいた。

 キャスター曰く、マスターを攫われることはサーヴァントにとっては死活問題。

 憑代を失ったサーヴァントは、脱落してしまう可能性が高い。

 それを行うというのは、中立にあるまじきことである。

 

「神園さん、一つの陣営を脱落させて、中立の立場はどうなるんですか?」

「ああ、そこは安心したまえ。|話は通してある(・・・・・・・)。私がここにきて、君を保護するというのは、全てのマスターに通達済みだ」

「「…………………………………………」」

 

 えぇと、つまり、なにか?

 

「あんたのせいで俺たちの拠点バレたってことかァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「あ、ごめ」

「ツクロ、こいつを今から血祭りに上げるが、邪魔してくれるなよ?」

「落ち着くんだ、キャスター。話し合えばわかる。なにせ私たちは、言葉が通じるのだし、主の前ではみな等しく平等なのだから」

「ストップだ! これ以上事態をややこしくしないでくれ、頼むから!」

 

 

 刹那。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「「令呪を以て命ずる」」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「昨日ぶりだなァ、キャスター!!」

「なに!?」

 

 一陣の颶風が、キャスターを襲った。

 身の丈を優に超える長槍を操る、ランサーが。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッッッ!!!!」

 

 否、颶風は一陣のみにあらず。

 万物を蹂躙せし進撃をなす、バーサーカーが。

 

 

 再び造路たちを襲う。

 





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