fate/some meaning   作:にがトマト

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すまない、投稿日を間違えてしまって、すまない。


7.日常にも悪魔は巣食っている

 氷室家の武家屋敷のとある一室。

 そこの雰囲気は、最悪だった。

 部屋には二人の人間と一騎のサーヴァントがいるのだが、内一人が物凄い不機嫌なオーラを醸し出しているからだ。

 

 

 今回の聖杯戦争で召喚されしサーヴァントが一騎、キャスターだ。

 

 

 彼女はこれでもか、とばかりに険悪な雰囲気を醸し出している。

 それに造路と雄優は呑まれ、沈黙していた。

 いたのだが、もうそうしてかれこれ三十分が経過している。

 それを打ち破るため、造路は意を決して口を開いた。

 

「なぁ、そろそろ機嫌直せよ、キャスター。逃がしちまったものは、仕方ないだろ? それにほら、問題なく撃退できたんだから、ひとまず安心ってことで?」

「…………………………はぁ」

 

 造路の言葉にキャスターはため息をついてから、彼らに向き直った。

 

「いや、すまない。自分の失態に嫌気がさしてな。全く、今回はこちらの負けだな、これは」

「負け……?」

 

 彼女の言っていることが、よくわからなかった。

 確かに、ランサーとバーサーカーに逃げられはしたものの、彼女は始終二人を圧倒していた。

 造路としては、キャスターの強さを確認できて安心なのだが。

 

「違うぞ、ツクロ。局所的には確かに勝利かもしれないが、長期的に見ればこれは敗北だ。忘れたか、これはバトルロワイヤルなんだぞ」

「あ……」

 

 そうだ、敵はランサーとバーサーカーだけではない。

 他にも、四騎ものサーヴァントがいる。

 

「今回の戦闘、間違いなく、他陣営も見ていただろう。今は感じないが、戦闘中は視線を感じたしな」

「え、マジで? そういう、対策とか、してなかったの?」

「できるぞ? 失念していたが」

「このポンコツサーヴァントが!」

 

 このサーヴァント、確かに強いし戦略は立てられるが、所々抜けている。

 

「まぁ、落ち着け。さっき、外からでは決まった風にしか見えないように、惑わしのルーンを張った。これでこの武家屋敷で戦闘をしても、情報を外部から持っていかれることはない」

「と、言ってもなぁ」

「それに先の戦闘で、私の戦闘能力の一端を知ったのだ。なんの対策もせず、乗り込んでくる陣営はないはずだ」

「しばらくは平穏、ってことか?」

 

 それにキャスターは頷いた。

 造路は安堵したように息を吐く。

 しかしおれに待ったをかけたのは、雄優だった。

 

「造路君、君はこの聖杯戦争が終わるまで、この屋敷から出ないことをお勧めする」

「え、なんでですか」

「なに、理由は単純明快さ。君の顔は、全陣営に割れている」

「…………はい?」

 

 待ってほしい、待ってほしい。

 確かに、いくつかの顔はもう割れているだろう。

 だがそれでも、全てではないはずだ、と思った所で。

 

「さっきキャスターが言ってた、視線のことですか?」

「左様。キャスターは確かに強い。三騎士が一角に、最強のクラスとされているサーヴァントをまとめて相手取って優勢に立ったのだから」

 

 言葉を一度区切り、彼はキャスターに向き直る。

 そして、一つの問いを投げかけた。

 

「だが君は、この『神殿』の外でも、同じ戦果を出せるかね?」

「……無理だ。どちらか一方だけならまだしも、同時に来られては勝ち目は皆無といっていい」

「わかったかね、造路君、以上が理由だ」

 

 雄優はそう締めくくり、キャスターは心底悔しそうな顔をする。

 成程、よくわかった。

 キャスターがいくら強いとはいえ、万全のフィールドでなければサーヴァント複数相手はできないということは。

 

「だが断る」

「「はァ!?」」

 

 キャスターと雄優が素っ頓狂な声をあげる。

 しかし知ったこっちゃねぇ、とばかりに造路は続ける。

 

「いいか!? 俺は学生! 健全で、どこにでもいる普通の高校生なんだ! 本分は学業だから、学校には行かないといけないのよ!?」

「ははは、神父、こいつふん縛ってしまっても、構わんのだろう?」

「あ、キャスターさん、緊縛プレイは勘弁です」

「その軽口、いつまで続く?」

 

 その夜、氷室家に一人の男の絶叫が響いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 夢を見た。

 

 花が咲き乱れ、樹木が生い茂り、大小問わず動物たちが気ままに暮らす世界。

 陳皮な言い方をすれば、楽園。

 その中心で独り、銀の髪を靡かせながら腰を下ろし据わっている女が。

 

「……まだ、こないな」

 

 と、ぽつりと呟く。

 彼女に頭を擦り付ける動物も、鼻孔をくすぐる花のにおいも、女は無視する。

 世界を無視して、彼女は待ち人を待ち続ける。

 けれど、待ち人は未だこない。

 

「どれだけ、待ったかな」

 

 その問いに答えてくれる者は、いない。

 その独白に、意味はない。

 年月日など、彼女にとって意味はなさない。

 ただ、願いさえ叶えばそれでいい。

 あの子さえ、助かるのならば。

 

「……ああ、待つさ。いつまでも」

 

 そのためなら、悠久の時を彷徨おう。

 そのためなら、無意味に身を投じよう。

 そのために、彼女は人を辞めたのだから(・・・・・・・・・)

 今は無意味なこの時も、望みが叶えば意味は見いだせる。

 

 

 その瞬間こそ、彼女が報われるその時だ。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 造路は朝日の誘いに従うままに、目を覚ました。

 亀甲縛りのまま。

 

「清々しいまでの緊縛プレイッ!!」

 

 そんな叫びをあげた彼に、見張りをしていたらしいキャスターが声をかける。

 

「起きたか。神父ならばもう帰ったぞ。監督役としての職務があるそうだからな」

「あぁ、そっか。それじゃ、これ解いてくれ」

「ダーメ♪」

「口調だけ優しい!」

 

 キャスターは腰を下ろし、その場に座った。

 あのぉ、そうやって勢いよく座るのは控えてもらえませんかねぇ。

 露になってる胸が揺れて、視線がそちらにいっちゃうので。

 

「いいか、ツクロ。お前は、聖杯戦争に参加しているマスターの一人だ。殺し合いの真っ最中だってのに、なぁに呑気に日常を謳歌しようとしてる」

「いや、待て、待ってくれ。俺も別に、考えなしという訳じゃない」

「ほう……?」

 

 ここでようやく、キャスターが耳を傾けてくれた。

 それに造路は内心ガッツポーズして、口を開く。

 

「なぁ、これは魔術師同士の、ひいては神秘のぶつかり合いなんだよな?」

「その通りだ」

「そして、その神秘は秘匿して然るべきもの、だろ?」

「そうだが、おい、まさか」

 

 キャスターは頬を引きつらせる。

 それに造路は、堂々とこう言い切った。

 

「今は昼! そして学校は人が集まるから俺は安全!」

「阿呆かぁ!」

 

 造路の言葉を、キャスターは一喝が吹き飛ばした。

 彼女は頭を抱える。

 このマスターは、こと戦略では素人ながらも素養は悪くないと思っている。

 なにせ最低限重要なことは、彼もその重要さを認識しているからだ。

 だが、こいつは抜けている所がある。

 楽観的、と言ってもいい。

 

「ツクロ。お前は少しばかり、魔術師を舐めている。確かに、神秘は秘匿するものだ。それの意味する所は、広まりさえしなけ(・・・・・・・・)ればいい(・・・・)、ということだ」

「どういう、こと?」

「極端な話だが、目撃者を全員殺してしまえばいいんだ。白昼堂々学校とやらの中でお前を殺し、学校にいる全員も殺す。そうすれば、神秘の秘匿として観点だけで言えば、なんら問題ない」

 

 キャスターの言葉に、造路は静かに冷や汗を流した。

 そして同時に、魔術師と言う生き物に恐怖する。

 普通の人間たちとの価値観が、余りに乖離しすぎている、そのことに。

 

「そう言う訳で、ツクロ。お前はこの家から出ない方が良い、ていうか出るな」

「け、けど、なぁ」

「あぁ? まだあるのか?」

 

 キャスターが苛立つのも、仕方あるまい。

 これだけ言葉を重ねても、造路はなにかに拘っている。

 命よりも大事なことが、あるとでも。

 

「いや、三日後から夏休みなんだ。それまでは、なんとか、学校に行きたいんだよ」

「…………………………はぁ」

 

 キャスターはため息を吐いて、天上を仰いだ。

 そして、虚空から黄金の槍を出現させ、その手に握る。

 

「え!? なに、なに!?」

「動くなよ」

 

 白刃一閃。

 とは、語弊があるかもしれない。

 なにせ造路の目では、その太刀筋を追うことすら叶わなかったのだから。

 その槍の穂先は、造路の肌に一切傷をつけること泣く、彼を縛っていた縄だけを斬り裂いた。

 

「いいだろう、わかった。ただし、明後日までだぞ? それと、今日は昨晩の戦闘で破壊された塀の修復があるからできないが、学校とやらに私も行かせてもらう」

「いやぁ、最後は困る」

 

 只でさえ、キャスターの容姿は目立つ。

 陽光に照らされ輝く美しく白銀の髪に、染み一つないきめ細やかな肌に、女性として完成されたプロポーション。

 そしてそれらを惜し気もなく晒す、服装。

 これでは目立たない方が難しい。

 

「……わかった。なら、送迎だ。これ以上は譲歩しない」

「了解。それで十分だ」

「後、危ないと判断したら、令呪を使って私を呼ぶこと。わかったか?」

「イエス、マム」

 

 そこで、キャスターは思い出したようにポケットに手を突っ込む。

 そして、紐に吊るされた巾着のようなものを取り出した。

 

「それと御守り作ったんだ。これ持ってけ」

「お、オカン」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 造路はそんなやり取りをした後、普通に登校した。

 道中、一度も危険に見舞われることもなく。

 そして、この何気ない平和な日常の尊さを実感する。

 

「ふぅ、何事もないっていいなぁ」

「なぁにがだよ」

 

 昼休み、自分の席でそんなことを呟いた彼に、友人の一人が後ろから手を肩に回してきた。

 それに造路は苦笑し、友人の名を呼ぶ。

 

「いやぁ、何事も平和が一番ってことだよ、和彦(かずひこ)」

「老人くさいなぁ、なんか」

 

 造路の言葉に、須藤和彦は苦笑して見せた。

 失礼な気もしないが、自身もそう思うのだから、咎められる道理はない。

 

「かもな。だけど、心の底から思ったことだし」

「なんだそりゃ」

 

 ああ、この他愛のない会話がとてつもなく愛しく感じられる。

 聖杯戦争なんて、嘘でーすとなってくれれば、どれだけ良いか。

 

「ふむ……」

 

 和彦はそんな造路の表情を見て。

 

「お前、なんかあったか?」

 

 などと、真っ直ぐにしてドストライクな質問をされた。

 正直、ここで全てを話してしまいたい。

 この聖杯戦争は、キャスターへの義理立てという側面がある。

 重荷なのだ、一般人に過ぎない造路には。

 だが。

 

「いやぁ、ちょいとゲームのし過ぎでな。眠くて、眠くて」

「……無理すんなよ?」

 

 和彦のその言葉は、造路にとって救いになった。

 

「おうよ、節度は守るさ」

「ならいいや」

 

 そんな時、教室が少しだけ騒がしくなった。

 なんだ、と彼らは教室のドアを見る。

 そこには、一人の女生徒がいた。

 艶のある黒髪をサイドテールに結った、曇りのない黒の瞳。

 顔立ちは整っていて、気品もある。

 その女生徒は、この学校にいれば知らぬ者はいない、有名人。

 

「ありゃ、|天童鶯華(てんどうおうか)じゃん。うちのクラスに、あいつの知り合いなんていないだろ?」

「だなぁ」

 

 我関せずの二人である。

 まぁ、これが当然の反応だ。

 なにせ彼らが見ているのは、学校のマドンナ。

 一介の生徒に過ぎない彼らからすれば、高嶺の花だ。

 そう思っていたのだが。

 

「……なぁ、彼女、こっちきてね?」

「だな」

 

 なぜか視線をこちらにロックオンして、彼らの下に歩いてきている。

 周りを見回してみるが、近くにいるのは和彦のみ。

 これは勘違いではないだろう。

 彼女は、彼らのどちらか、あるいは両方に用があるらしい。

 

「そこのあなた。えぇと、失礼。名前を訊いても?」

(……ジーザス)

 

 そして用があるのは、どうやら造路に対してらしい。

 造路は内心ため息をついて、神に文句を垂れてから質問に答える。

 

「氷室造路だ」

「語呂悪いわねぇ」

「うるさい」

 

 初対面の人間にいきなり名前をディスられた。

 それに仏頂面をしていると、鶯華は手を顔の前にやってはにかんだ。

 

「ごめんごめん。気を悪くしないで。氷室君。私ね、あなたに話があるの」

「どんな?」

「ちょっと、ここじゃ話せないこと。屋上に来てくれる?」

 

 それだけ言って、彼女は教室を出て行ってしまった。

 それを見送ってから、造路は助けを求めるように和彦を見る、が。

 

「お前、なにしたんだ? これ、告白イベントじゃねぇの!?」

 

 なんて、興奮したような声音で叫ぶ始末。

 殴ってやりたい。

 しかし。

 

「いやぁ、ありえないだろ」

 

 造路はそれを否定した。

 なにせ造路は彼女と会話するのは、今ので初めてであった。

 それに、告白しにきたというのならば、こちらの名前を知らないのはおかしい。

 

「ふむ、言われてみれば、そうだな…………お前、なにした?」

「……わかれば苦労しないよ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 造路は独りで屋上に訪れた。

 和彦がついてこようとしていたが、殴ってその場に放置。

 屋上では、本当に鶯華が独りで待っていた。

 彼女は造路の姿を認めると、ただ一言。

 

 

迂闊(・・)

 

 

 鶯華はため息を一つ。

 そして、滔々と語り出す。

 

今は聖杯戦争中だ(・・・・・・・・)というのに、(・・・・・・)サーヴァントを連れず(・・・・・・・・・・)にのこのこ学校に来る(・・・・・・・・・・)だなんて。こんなのが(・・・・・・・・・・)、今聖杯戦争における(・・・・・・・・・・)最大の難敵たるサーヴ(・・・・・・・・・・)ァントのマスターだな(・・・・・・・・・・)んてね(・・・)

 

 造路の本能が、警鐘を鳴らした。

 日常の中にあって緩み切っていた精神が、状況打破のためにフル稼働する。

 

 

 まぁ、無駄だったが(・・・・・・・・・)

 

 

やっちゃって(・・・・・・)、セイバー(・・・・)

|御意(・・)

 

 

 突然現れた、甲冑を身に纏った大男が、造路の体に袈裟斬りを見舞った。






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水着がやってくる……くるぞ人類悪諸君!
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