すまない、色々と、忙しいのだ……
造路は、甲冑に身を纏った剣士に袈裟斬りを見舞われた。
「ガハァッッ!?」
造路は吹き飛ばされて、フェンスに叩きつけられて
それ即ち、彼はその一刀を受けて未だ生存している証左。
それに鶯華と剣士は、ほうと感嘆の息を漏らす。
「凄いわね、彼のサーヴァント」
「うむ。彼奴はずぶの素人ではあるが、それを考慮しての、
造路は、無傷だ。
彼がなにかしたという訳ではないし、服の中に鎖帷子を着こんでいる訳でもない。
備えをしていたのは、
「まさ、か」
造路はポケットの中に入れていた、御守りを取り出す。
今朝、彼女から手渡されたそれは、破損していた。
「ふむ、それは身代わりの護符か。我が一撃を完全に肩代わりできたのだから、かなりのものだぞ?」
剣士の賞賛は、造路の耳には入っていなかった。
というより、彼の賞賛は造路にではなくキャスターに向けられたものなのだから、そこはいい。
問題なのは。
「天童、お前も、聖杯戦争の……ッ!」
「そう。私もあなたと同じ、聖杯戦争における、七人のマスターの一人よ」
それを聞いて、造路は躊躇うことはなくなった。
故に彼は、右手に在る令呪を使おうとして。
「私はね、あなたに同盟の申し入れをしにきたの」
それをやめた。
彼女の発言に、思考が止まったと言ってもいい。
「どういう、ことだ」
その状態から復帰し、口をついた台詞は、そんな月並みの台詞だった。
しかしそんなこと百も承知だったであろう鶯華は、説明を続ける。
「氷室君。私はね、戦況的に少しばかり不利に立たされているの」
「不利?」
「えぇ。あなたのサーヴァントが先日撃退した二騎のサーヴァント。あそこが同盟を組んだ理由は、このセイバーなの」
天童に代わり、セイバーが説明を引き継ぐ。
「某は以前に、あの二騎とは交戦してな。始終圧倒してしまったのだ。今思えば、あれは悪手と言わざるを得なんだ。なにせ、あやつらの同盟をさせる形になってしまったのだからな。某も、流石に二対一となると、厳しいものがあるのでな」
キャスターの、最悪と言ったケースが当たってしまった。
眼前にいる、セイバーのサーヴァントは、あのランサーとバーサーカーをして手が付けられない程の存在なのだ。
「だから私たちも、一時的な同盟相手を探す必要があるって訳。それが、現在フリーでなおかつ、与するに値するだけの相手が、あなたのキャスターなのよ」
詰まり、彼女たちが欲しいのは、キャスターの戦力。
造路は勘定に入っていないらしい。
「てゆうか、あなたには勿体なすぎるサーヴァントね。単純戦力はサーヴァント二騎以上で、マスターに対する配慮も思慮もある。私が引き当ててたら、優勝間違いなしよ」
「む。それは、某に不満があるということか?」
「ありありよ! 戦力としてはそりゃ凄いけど、あんた忠誠心ないじゃない!」
「当然。某が使える王は、生前に決めてしまったのでな」
「きぃいいいい!」
どうやら、これが鶯華の素らしい。
学校生活で見せているのは、仮面なのだろう。
「それで、造路君。同盟に対する、答えを聞かせてくれる?」
「…………悪い。後日ってことでいいか? キャスターとも相談したい」
「ほう」
「へぇ」
鶯華とセイバーが、感心したように呟いた。
「な、なんだよ」
「いえ、ちょっと見直しただけ」
「うむ。ここで即答しないのは、善きことだ。マスターよ、こやつは磨けばそこそこかもしれぬぞ?」
「だとしても、聖杯戦争中には無理でしょ」
「違いない」
造路は彼らに別れを告げて、教室に戻った。
その後授業を受けて、帰路につくのだが、彼の頭には授業の内容など全く入っていなかった。
―――――――――――――――――――――――
「UNOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
「貴様ァァァあああああああああああああ!!!!!!」
「なにしてんだテメェら」
家に帰ったら、キャスターと監督である雄優がUNOをしていた。
それに造路は頬を引きつらせる。
こちとら、危うく死にかけたというのに。
「ん。帰ったか、ツクロ」
「お帰り、造路君」
「ただいま。てゆか、なんで雄優さんがいるんですか?」
彼はこの聖杯戦争における、監督役、いわゆる中立だ。
一陣営の拠点にきていいのだろうか。
「そのことなのだがね、造路君。私個人は、君の味方をさせてもらうことにした」
「はい?」
それは、問題なのではないだろうか。
しかし雄優は、その懸念を柔和な笑みで解消する。
「安心したまえ。肩入れするのは私個人であって、聖堂協会ではない。故に、監督役としての職務を全うする際は、中立に戻るよ」
「どうして、そこまで面倒なことを……」
「ふはは、ただの償いだよ。君には参戦の意思があったのに、私は勝手に君を連れ去ろうとし、拠点を他陣営に暴露した。その埋め合わせを、私はしたいんだよ」
「神父……」
彼のいっていることは、魅力的であった。
造路の戦闘力は、皆無だ。
ある戦力は、キャスターのみという、彼女ありきの陣営なのだ、こちらは。
戦力が増えるというのは、歓迎すべきことなのだ。
しかも、それも強力なものときた。
キャスター曰く、神父は下手な英雄よりも強いそうなのだから。
「こちらから、お願いします。一緒に戦ってください」
「ああ、微力を尽くさせてもらおう」
二人は握手をかわし、頷いた。
共闘関係がなり、そこでキャスターが会話に割り込む。
「それで、ツクロ。死にかけた、というのはどういうことだ?」
彼女は、怒っていた。
それにツクロは、その怒りの炎に油を注がないためにも、正直に打ち明ける。
「学校で、マスターとサーヴァントに遭遇した」
「な!?」
「…………はぁ」
雄優は驚愕に声をあげ、キャスターはため息をついた。
それから、キャスターは眦をあげる。
「というより、ツクロ。どうして、私を呼ばなかった。死んだら、どうする」
「ごめん。けど、必要ないかと思って」
「ああ?」
「同盟の申し入れをされたんだ」
それに、キャスターは隻眼を少しだけ見開く。
雄優なんて、絶句すらしていた。
「相手は、話し合いにきたんだよ。だから、令呪を使う必要がないと思ったんだ」
「そうか。なら、│これはなんだ《・・・・・・》?」
キャスターの手には、彼女から今朝渡されたお守りがあった。
確認のために、ポケットに突っこみ、│お守りを取り出す《・・・・・・・・》。
「…………あれ?」
「これはただの虚像だ。本物は、今お前が持ってるそれ。カマをかけたんだよ、私はな」
刹那、キャスターの怒気が部屋を支配した。
「ツクロ。お前、まんまとしてやられたな」
「え」
「そいつらは、試したんだ。恐らく、そいつは一撃見舞っただけだろう。生き残れば、同盟を申込み、死ねば競争相手がいなくなって万々歳」
「ぁ……」
確かに、してやられた。
完膚なきまでに、負けたのだ。
造路が落ち込んでいると、キャスターは立ち上がった。
「ツクロ。そいつらに、もう同盟に対する答えはもうしたのか?」
「い、いや。お前とも相談したかったから、今夜返答するってことにした」
「そうか。そこだけは、正解だよ」
キャスターは、造路が先日あてがった部屋へと歩き、その障子をあける。
一度立ち止まり、こちらを一瞥した。
「今から作業に入らせてもらう。今夜のその、同盟への答える場面、私も立ち合わせろ」
――――――――――――――――――――――
月明かりに照らされる校舎の屋上にて、一組の男女がただずんでいた。
女は、まごうことなき美少女で、それ以外は問題はない。
しかし、男には問題があった。
全身を甲冑に身を纏い、造路と会った時とは違い、兜を脱いでいる。
月下に晒されているのは、茶髪。
茶髪をオールバックにまとめ、鳶色の双眸が虚空を見上げている。
人ならざる雰囲気を纏いながら、彼は待ち人の姿を認め、呟く。
「きたか」
彼のマスターである、天童鶯華も氷室造路とキャスターの来訪に頬を綻ばせる。
「きたわね。それじゃ、答えは出たかしら?」
「ああ。同盟は了承するよ」
造路の答えに、鶯華とセイバーは満足したように頷いた。
キャスターが、ただしと付け加える。
「そちらが勝手にツクロを試したように、こちらも試させてもらう」
だが、そこでセイバー主従は顔を固くする。
そして、その真意を問うためにセイバーが口を開く。
「試す、とはどういうことかね、キャスター?」
「言葉の通りだ。そちらは、こちらの陣営と組んでもいいと判断しているかもしれないが、対するこちらは判断材料が一つとしてないんだからな。これでは、不公平だろう」
ぐうの音も出ない正論だった。
ここで、腹芸の一つ披露しただけ、あるいは戦争なのだから駆け引きをしたまで、などと詰まらぬ返答をしようものなら、キャスターは即座にこちらを見限るだろう。
いつか決裂するのが同盟と言えど、一定以上の信用なくして結ぶのは得策ではない。
策士と謳いしまでの知恵があるのならば、信用ゼロでも同盟を結んでも問題のだが、彼女のマスターはドがつく程の素人。
「だから言っただろう、マスター。正面から、同盟締結を申し出るべきだとな」
「し、仕方ないでしょ! いくらサーヴァントが強くても、マスターが余りに酷かった場合、足を引っ張られかねないんだし」
「やれやれ」
セイバーのマスターである、鶯華は知恵者と呼ばれだけの知恵はない。
なにせ彼女は、魔術師。
魔術師の本分は、学者だ。
学者が戦術も戦略を練られるはずもない。
だから、同盟相手を選ぶのは慎重にというのが、彼女の意見であった。
セイバーは、数百年を生きた歴戦の戦士だ。
だから、そこは自分がカバーすると言ったのだが、彼女は聞く耳を持たなかった。
(この娘は、絆を結ぶことを嫌う質がある)
セイバーは、この人との絆というやつで散々な目に遭ってきた英雄だ。
救国の英雄だのなんだのと呼ばれてはいるが、彼からすれば悔いしか残らぬ生であった。
しかし、人生のやり直しなどは望んではいない。
彼の抱く願いとは……
「それで、キャスターさん、要するに、あなたは私たちのことが信用できないって訳ね?」
「その通りだ」
(おっと、感傷に耽っている場合ではないか)
セイバーは己が迂闊を自責し、会話に意識を傾ける。
彼は内心、彼らにどう謝罪したものかと頭を巡らせる。
同盟を結ぶことは、彼らにとっては絶対に必要だ。
しかし、それには彼女から信用を勝ち取る必要がある。
「一つ問いたい、キャスター。貴公は、同盟に必要性を感じているか?」
「同盟自体は、私も賛成だ」
セイバーの問いに、キャスターは即座に頷きを返すことで、答えを是とした。
だが、と彼女は付け加える。
「私はこいつを護るためにこの戦いに参加するってのに、それを奪われかけたんだ。こう見えて、私はかなり怒ってるぞ?」
キャスターは黄金の槍を実体化させ、静かに構えた。
「それで手元が狂ってうっかり殺してしまうかもしれないが、恨むなよ、セイバー」