fate/some meaning   作:にがトマト

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すまない、色々と、忙しいのだ……


8.その場の最善は、後の悪手たりうる

 造路は、甲冑に身を纏った剣士に袈裟斬りを見舞われた。

 

「ガハァッッ!?」

 

 造路は吹き飛ばされて、フェンスに叩きつけられて肺の酸素を吐き出した(・・・・・・・・・・)

 それ即ち、彼はその一刀を受けて未だ生存している証左。

 それに鶯華と剣士は、ほうと感嘆の息を漏らす。

 

「凄いわね、彼のサーヴァント」

「うむ。彼奴はずぶの素人ではあるが、それを考慮しての、アレ(・・)なのだろう」

 

 造路は、無傷だ。

 彼がなにかしたという訳ではないし、服の中に鎖帷子を着こんでいる訳でもない。

 備えをしていたのは、キャスター(・・・・・)だ。

 

「まさ、か」

 

 造路はポケットの中に入れていた、御守りを取り出す。

 今朝、彼女から手渡されたそれは、破損していた。

 

「ふむ、それは身代わりの護符か。我が一撃を完全に肩代わりできたのだから、かなりのものだぞ?」

 

 剣士の賞賛は、造路の耳には入っていなかった。

 というより、彼の賞賛は造路にではなくキャスターに向けられたものなのだから、そこはいい。

 問題なのは。

 

「天童、お前も、聖杯戦争の……ッ!」

「そう。私もあなたと同じ、聖杯戦争における、七人のマスターの一人よ」

 

 それを聞いて、造路は躊躇うことはなくなった。

 故に彼は、右手に在る令呪を使おうとして。

 

 

「私はね、あなたに同盟の申し入れをしにきたの」

 

 

 それをやめた。

 彼女の発言に、思考が止まったと言ってもいい。

 

「どういう、ことだ」

 

 その状態から復帰し、口をついた台詞は、そんな月並みの台詞だった。

 しかしそんなこと百も承知だったであろう鶯華は、説明を続ける。

 

「氷室君。私はね、戦況的に少しばかり不利に立たされているの」

「不利?」

「えぇ。あなたのサーヴァントが先日撃退した二騎のサーヴァント。あそこが同盟を組んだ理由は、このセイバーなの」

 

 天童に代わり、セイバーが説明を引き継ぐ。

 

「某は以前に、あの二騎とは交戦してな。始終圧倒してしまったのだ。今思えば、あれは悪手と言わざるを得なんだ。なにせ、あやつらの同盟をさせる形になってしまったのだからな。某も、流石に二対一となると、厳しいものがあるのでな」

 

 キャスターの、最悪と言ったケースが当たってしまった。

 眼前にいる、セイバーのサーヴァントは、あのランサーとバーサーカーをして手が付けられない程の存在なのだ。

 

「だから私たちも、一時的な同盟相手を探す必要があるって訳。それが、現在フリーでなおかつ、与するに値するだけの相手が、あなたのキャスターなのよ」

 

 詰まり、彼女たちが欲しいのは、キャスターの戦力。

 造路は勘定に入っていないらしい。

 

「てゆうか、あなたには勿体なすぎるサーヴァントね。単純戦力はサーヴァント二騎以上で、マスターに対する配慮も思慮もある。私が引き当ててたら、優勝間違いなしよ」

「む。それは、某に不満があるということか?」

「ありありよ! 戦力としてはそりゃ凄いけど、あんた忠誠心ないじゃない!」

「当然。某が使える王は、生前に決めてしまったのでな」

「きぃいいいい!」

 

 どうやら、これが鶯華の素らしい。

 学校生活で見せているのは、仮面なのだろう。

 

「それで、造路君。同盟に対する、答えを聞かせてくれる?」

「…………悪い。後日ってことでいいか? キャスターとも相談したい」

「ほう」

「へぇ」

 

 鶯華とセイバーが、感心したように呟いた。

 

「な、なんだよ」

「いえ、ちょっと見直しただけ」

「うむ。ここで即答しないのは、善きことだ。マスターよ、こやつは磨けばそこそこかもしれぬぞ?」

「だとしても、聖杯戦争中には無理でしょ」

「違いない」

 

 造路は彼らに別れを告げて、教室に戻った。

 その後授業を受けて、帰路につくのだが、彼の頭には授業の内容など全く入っていなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

「UNOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」

「貴様ァァァあああああああああああああ!!!!!!」

「なにしてんだテメェら」

 

 家に帰ったら、キャスターと監督である雄優がUNOをしていた。

 それに造路は頬を引きつらせる。

 こちとら、危うく死にかけたというのに。

 

「ん。帰ったか、ツクロ」

「お帰り、造路君」

「ただいま。てゆか、なんで雄優さんがいるんですか?」

 

 彼はこの聖杯戦争における、監督役、いわゆる中立だ。

 一陣営の拠点にきていいのだろうか。

 

「そのことなのだがね、造路君。私個人は、君の味方をさせてもらうことにした」

「はい?」

 

 それは、問題なのではないだろうか。

 しかし雄優は、その懸念を柔和な笑みで解消する。

 

「安心したまえ。肩入れするのは私個人であって、聖堂協会ではない。故に、監督役としての職務を全うする際は、中立に戻るよ」

「どうして、そこまで面倒なことを……」

「ふはは、ただの償いだよ。君には参戦の意思があったのに、私は勝手に君を連れ去ろうとし、拠点を他陣営に暴露した。その埋め合わせを、私はしたいんだよ」

「神父……」

 

 彼のいっていることは、魅力的であった。

 造路の戦闘力は、皆無だ。

 ある戦力は、キャスターのみという、彼女ありきの陣営なのだ、こちらは。

 戦力が増えるというのは、歓迎すべきことなのだ。

 しかも、それも強力なものときた。

 キャスター曰く、神父は下手な英雄よりも強いそうなのだから。

 

「こちらから、お願いします。一緒に戦ってください」

「ああ、微力を尽くさせてもらおう」

 

 二人は握手をかわし、頷いた。

 共闘関係がなり、そこでキャスターが会話に割り込む。

 

「それで、ツクロ。死にかけた、というのはどういうことだ?」

 

 彼女は、怒っていた。

 それにツクロは、その怒りの炎に油を注がないためにも、正直に打ち明ける。

 

「学校で、マスターとサーヴァントに遭遇した」

「な!?」

「…………はぁ」

 

 雄優は驚愕に声をあげ、キャスターはため息をついた。

 それから、キャスターは眦をあげる。

 

「というより、ツクロ。どうして、私を呼ばなかった。死んだら、どうする」

「ごめん。けど、必要ないかと思って」

「ああ?」

「同盟の申し入れをされたんだ」

 

 それに、キャスターは隻眼を少しだけ見開く。

 雄優なんて、絶句すらしていた。

 

「相手は、話し合いにきたんだよ。だから、令呪を使う必要がないと思ったんだ」

「そうか。なら、│これはなんだ《・・・・・・》?」

 

 キャスターの手には、彼女から今朝渡されたお守りがあった。

 確認のために、ポケットに突っこみ、│お守りを取り出す《・・・・・・・・》。

 

「…………あれ?」

「これはただの虚像だ。本物は、今お前が持ってるそれ。カマをかけたんだよ、私はな」

 

 

 刹那、キャスターの怒気が部屋を支配した。

 

 

「ツクロ。お前、まんまとしてやられたな」

「え」

「そいつらは、試したんだ。恐らく、そいつは一撃見舞っただけだろう。生き残れば、同盟を申込み、死ねば競争相手がいなくなって万々歳」

「ぁ……」

 

 確かに、してやられた。

 完膚なきまでに、負けたのだ。

 造路が落ち込んでいると、キャスターは立ち上がった。

 

「ツクロ。そいつらに、もう同盟に対する答えはもうしたのか?」

「い、いや。お前とも相談したかったから、今夜返答するってことにした」

「そうか。そこだけは、正解だよ」

 

 キャスターは、造路が先日あてがった部屋へと歩き、その障子をあける。

 一度立ち止まり、こちらを一瞥した。

 

「今から作業に入らせてもらう。今夜のその、同盟への答える場面、私も立ち合わせろ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 月明かりに照らされる校舎の屋上にて、一組の男女がただずんでいた。

 女は、まごうことなき美少女で、それ以外は問題はない。

 しかし、男には問題があった。

 全身を甲冑に身を纏い、造路と会った時とは違い、兜を脱いでいる。

 月下に晒されているのは、茶髪。

 茶髪をオールバックにまとめ、鳶色の双眸が虚空を見上げている。

 人ならざる雰囲気を纏いながら、彼は待ち人の姿を認め、呟く。

 

「きたか」

 

 彼のマスターである、天童鶯華も氷室造路とキャスターの来訪に頬を綻ばせる。

 

「きたわね。それじゃ、答えは出たかしら?」

「ああ。同盟は了承するよ」

 

 造路の答えに、鶯華とセイバーは満足したように頷いた。

 キャスターが、ただしと付け加える。

 

 

「そちらが勝手にツクロを試したように、こちらも試させてもらう」

 

 

 だが、そこでセイバー主従は顔を固くする。

 そして、その真意を問うためにセイバーが口を開く。

 

「試す、とはどういうことかね、キャスター?」

「言葉の通りだ。そちらは、こちらの陣営と組んでもいいと判断しているかもしれないが、対するこちらは判断材料が一つとしてないんだからな。これでは、不公平だろう」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 ここで、腹芸の一つ披露しただけ、あるいは戦争なのだから駆け引きをしたまで、などと詰まらぬ返答をしようものなら、キャスターは即座にこちらを見限るだろう。

 いつか決裂するのが同盟と言えど、一定以上の信用なくして結ぶのは得策ではない。

 策士と謳いしまでの知恵があるのならば、信用ゼロでも同盟を結んでも問題のだが、彼女のマスターはドがつく程の素人。

 

「だから言っただろう、マスター。正面から、同盟締結を申し出るべきだとな」

「し、仕方ないでしょ! いくらサーヴァントが強くても、マスターが余りに酷かった場合、足を引っ張られかねないんだし」

「やれやれ」

 

 セイバーのマスターである、鶯華は知恵者と呼ばれだけの知恵はない。

 なにせ彼女は、魔術師。

 魔術師の本分は、学者だ。

 学者が戦術も戦略を練られるはずもない。

 だから、同盟相手を選ぶのは慎重にというのが、彼女の意見であった。

 セイバーは、数百年を生きた歴戦の戦士だ。

 だから、そこは自分がカバーすると言ったのだが、彼女は聞く耳を持たなかった。

 

(この娘は、絆を結ぶことを嫌う質がある)

 

 セイバーは、この人との絆というやつで散々な目に遭ってきた英雄だ。

 救国の英雄だのなんだのと呼ばれてはいるが、彼からすれば悔いしか残らぬ生であった。

 しかし、人生のやり直しなどは望んではいない。

 彼の抱く願いとは……

 

「それで、キャスターさん、要するに、あなたは私たちのことが信用できないって訳ね?」

「その通りだ」

(おっと、感傷に耽っている場合ではないか)

 

 セイバーは己が迂闊を自責し、会話に意識を傾ける。

 彼は内心、彼らにどう謝罪したものかと頭を巡らせる。

 同盟を結ぶことは、彼らにとっては絶対に必要だ。

 しかし、それには彼女から信用を勝ち取る必要がある。

 

「一つ問いたい、キャスター。貴公は、同盟に必要性を感じているか?」

「同盟自体は、私も賛成だ」

 

 セイバーの問いに、キャスターは即座に頷きを返すことで、答えを是とした。

 だが、と彼女は付け加える。

 

「私はこいつを護るためにこの戦いに参加するってのに、それを奪われかけたんだ。こう見えて、私はかなり怒ってるぞ?」

 

 キャスターは黄金の槍を実体化させ、静かに構えた。

 

 

「それで手元が狂ってうっかり殺してしまうかもしれないが、恨むなよ、セイバー」

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